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32話 閑話 3人の冒険者 ヒューゴ

 -------(ヒューゴ視点)-------



 まずい。

 何でこんな事になったんだ。


 1匹のはぐれゴブリンを退治しにきたはずだった。

 なのに今、俺たちは4匹のゴブリンに囲まれていた。


 ゴブリンは俺たち3人にとって嫌な過去を思い出させる。

 それを乗り越えるためにも、まずは1匹のはぐれゴブリンを退治しようと依頼を受けたのだったのに。




 俺の剣、バルトロの盾、メリーの弓は、ランクEのときに街中の仕事を受けて貯めたお金でようやく手に入れた武器だった。

 まずは武器ということで、装備はまったくの普段着だ。


 だが今、俺たちは2メートル近くの距離で前後左右を4匹のゴブリンに囲まれていた。


 あまりに近すぎてメリーの弓は役に立たない。弓をつがえているうちに飛びかかられたら終わりだ。

 バルトロが盾で1匹を押さえても残り3匹、俺の剣の腕では1匹倒すのさえ時間がかかる。


 ここは撤退しかないか。


 3人が同時に三方向に走ればゴブリンもバラけるのではないだろうか?

 だが、3人のうちの誰かひとりに集中したら、メリーかバルトロが囲まれてしまったら、そう思うと逃走に踏み切れなかった。


 俺たちがゴブリンと睨み合っていたその時だった。



 ちょっと離れた草むらから突然獣の声がした。


ゲギャギャギャ

バウバウ

ワンワンワンワ

ギャギャギャギャア



 もう1匹いたのか、ゴブリンの声、それと複数の犬の声?


 何だ?と思っていたら、俺たちを囲んでいたゴブリンが4匹ともそちらに向かっていった。


 グギャギャ ゲギャ ギャギャギャ

 バウバウ ワンワン


「あー ちょっと こら まて ストップ」



 人の声だ!

 草むらの中で犬とゴブリンが激しく戦う鳴き声と男の慌てたような声が聞こえた。


 犬の声もゴブリンの声もしなくなると、背丈の高い草をかき分けて、申し訳なさそうな顔をした男がヒョッコリと出て来た。

 冒険者にしては装備が普通?の服だし、商人にしては荷物を背負っていない。


 何者だ?



「わるい! ごめん! すまん! わざとじゃないんだ。うっかり俺踏んじゃってうちの犬達がエキサイトして、止まらなくて。狩りの邪魔してスマン! 悪かった!」



 年下の俺らにペコペコ謝るその人を見て、ようやく俺たちは肩の力を抜いた。


 助かった。

 いや、助けられた。


 変わった服を着ているその人は、よく見ると肩に弓をかけていた。

冒険者か?

 だとしたら、また冒険者に助けられた。




 その人は冒険者にしては腰が低く、助けられたのはこっちなのに、まるで自分が悪いように言う。



「いや、気にしないでください。こっちも助かったし」


「4…5匹でしかも接近戦はうちらではやばかったし」


「それにしても強い犬ですね」



 メリーとバルトロもようやく立ち直ったようだ。



 俺たち3人には共通の恐怖体験がある。5歳の頃、俺たちの家族が死んだあの事件。

 たぶん、俺だけでなくメリーもバルトロも、あの日を思い出してしまって足がすくんだに違いない。



 俺たちを救ってくれた恩人を見る。

 弓を背負って犬を連れていると言うことは、テイマーだろうか?

 あれだけ強い犬を連れているのだから中、上級の冒険者か?

 その人が俺たちの事を聞いてきたので名乗ったら、彼も名乗ってきた。


 カオと。



 カオさんは自分より犬が強いと苦笑いしながら言っていた。

 やはりテイマーか。



 その後カオさんは倒したゴブリンを俺たちにくれると言い張った。 

 普通は逆だ。

 俺たちのような低ランクの冒険者は舐められて、狩場がかち合うと必ず獲物は持っていかれる。


 たとえこちらが倒しても、自分が倒したと言い張り持って行く冒険者が多い中、「貰ってくれ」と言い張る冒険者はこの人が初めてだ。




 押し問答の後、ありがたくいただく事にして、討伐の証である右耳を切り取った。

 さらに驚いたのは死体処理の穴掘りまで手伝ってくれたのだ。


 その後は別れる事となったが、カオさんは街に行くようなので、きっとまた会えるだろう。


 この不思議な人とまた会いたい、会っていろいろ話を聞きたい。俺だけでなく、メリーやバルトロもそう思っているみたいだ。

 カオさんを見る目が何か輝いていた。


 別れ際にカオさんは俺たち3人に向かって「シールド」と言って防御魔法らしいものをかけてくれた。

 大した魔法じゃないと謙遜していたが、テイマーの上に魔法まで使えるとは!




 カオさんと別れた後、俺たちは草原で狩りを続けた。


 商人が目撃したはぐれゴブリンが さっきの5匹のうちの1匹かどうかわからないので、もう少し捜す事にした。

 ついでに目についた薬草を摘んだりウサギを狩れたらいいなと思い、草原をぶらついた。



 メリーに周りを警戒してもらいつつ薬草を摘んでいると、遠方を見つめたメリーが抑えた声で言ってきた。



「前方300メートルくらい先にイノシシ1匹! どうする?」



 イノシシ1匹なら、以前にも狩った事があった。一応成功はしているが、それなりにきびしい経験だった。

 けどここでやめたら冒険者としてやっていけない気がした。



「よし! 1匹だし狩っていこうぜ」



 俺が言うと、メリーが弓に矢をつがえた。

 バルトロは地面に置いていた盾を持ち、イノシシに向かって構えた。

 俺も剣を握って構えた。



「いくよ!」



 メリーが矢を放った。

 矢はイノシシの背中に当たったが浅かったようで弾かれた。


 怒ったイノシシが猛烈な勢いでこちらに突進してきた。バルトロが正面に出て盾を構えて腰を据えた。

 だがあの勢いだとバルトロは弾き飛ばされると思い焦った。


ガツン!


 イノシシが盾にぶつかった瞬間、薄青い光がバルトロを包み、イノシシの方が弾き飛ばされた!


 なに?


 イノシシは体勢を立て直して2回3回とバルトロに突撃していくが、

その度にバルトロが薄青い光に包まれイノシシが弾かれていた。

 バルトロは痛手をほどんど受けていないようだった。


 バルトロ本人も含め3人ともポカンとしてしまったが、4回目の突撃で我に返り、俺はイノシシの足を狙って剣を振った。



プギャー!



 後ろ足から血を流しながらイノシシがさらに暴れ始めた。何とかトドメを刺そうと近寄った時にイノシシに弾き飛ばされた。

 が、イノシシが当たった時も、飛ばされ地面に激突した時も、俺は薄青い光に包まれて、痛みはほとんどなかったのだ。


 これ、カオさんの魔法?別れ際のシールド、あの魔法に違いない。

 3人とも同じ事を考えたのか、お互い目があってニヤっと笑い、俺は剣で、バルトロは盾で、メリーは拾った棒でイノシシをタコ殴りにした。


 飛ばされても飛ばされても痛くないのですぐ起き上がりイノシシに攻撃を加え続けた。

 やがてイノシシは動かなくなり絶命した。



 俺達くらいのレベルだと、イノシシ狩りはできる限り遠方から弓矢による攻撃で弱らせる。

 その後に盾で押さえて、剣で足を狙い動きを封じる。

 最後に首や心臓を狙い絶命させるのが基本だ。


 遠距離攻撃が弱かったり失敗すると、盾役は簡単に吹っ飛ばされるし、剣は近寄れない。


 それにより重症のケガを負ったり、こちらが絶命の危機におちいる。

対イノシシ戦は距離が大事だ。

 こんな接近戦でのタコ殴りで勝利は、ありえない。



「シールドすげえな」


「カオさん何者ですか! 高ランク冒険者? テイマーで魔法使い!」



 ぼそりと言った俺の言葉に被せるようにバルトロが興奮して叫んだ。



「弓背負ってたよね? テイマーで魔法使いで弓使いー? 後衛だよね? 絶対後衛だよね。話聞きたい! 街に行くって言ってたよね? 会えるかな? 会いたい!」



 メリーもものすごく興奮していた。


 その後、俺達はイノシシの血抜きをして3人で担いで街に戻った。

 街でカオさんに会えないかなとキョロキョロしながらギルドへ向かった。


 ギルドではゴブリンのはぐれではなく5匹分討伐部位を出して驚かれ、心配された。

 それから買取カウンターで薬草とイノシシを出した。



 今日はかなりの稼ぎになった。

 全てはカオさんのおかげだ。

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