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31話 閑話 3人の冒険者 バルトロ

 -------(バルトロ視点)-------


 僕の名前はバルトロ。

 冒険者だ。


 “竜の慟哭"というパーティで盾役をやっている。


 なんかすごく立派な名前のパーティだが、実は全員がDランクというまだ低ランクのパーティだ。

 Dランクは下から2番目、冒険者のパーティランクは上からS、A、B、C、D、Eの6ランク。


 メンバーの冒険者ランクの平均がパーティランクになる。

 ちょっと前までは最低ランクのEだったので、受けられる依頼も街の中の雑用がほとんどだった。



 僕らパーティはメンバーが3名。

 前衛で剣を振るうリーダーのヒューゴ、後衛で弓が得意なメリー、そして僕バルトロは盾。



 ヒューゴとメリーはこの夏に15になった。

 僕も冬が来る前に15になる。



 ぼくらは3人とも親が早くに死んでしまったので街の教会で育った。

 とはいえ、最初からこの街に住んでいたわけでなかった。


 ぼくらが住んでいた村はこの街から歩いて10日ほどの場所にある辺鄙な開拓村だった。

 村民は全部で150人もいない小さな村だ。


 僕ら3人は同じ村で生まれた。

 僕らが5歳になるかならないかの時に災害に見舞われた。

 災害とは辺鄙な村にありがちな、魔物や盗賊に襲われるというやつだ。


 僕らの村はあの日の夕刻、オークの群れに襲われたのだった。



 日が暮れかかりどの家でも夕飯の準備に取り掛かっていた頃、村の中に悲鳴が響き渡った。


 オークの咆哮が聞こえ、あちこちで悲鳴があがった。



「来い!バルトロ!」



 近くにいた父が僕を左手で抱え上げて家の裏へ走り出した。

 父の右手には生まれて半年の妹のアンが抱かれていた。


 あの時の僕はまだ何が起こっているのかわからなかったが、とにかく怖い何かが起こったのだと本能的に理解した。

 そして僕らを抱えて走る父にただしがみついていた。




 村からだいぶ離れた林の中の大岩のところで、僕は父から地面に降ろされた。


 近くにメリーをおぶったメリーの兄のサッチが息を切らして座り込んだ。

 すぐ後ろからヒューゴを抱えたヒューゴの父親と、ヒューゴの姉ふたりの手を左右に繋ぎ走ってきた彼の母親が座り込んだ。


 ヒューゴの母親や姉達を見て、僕は母さんと兄さんと姉さんが来ないかと、ずっとそっちを見ていたが、3人は来なかった。

 アンを抱いた父が僕を後ろからギュっと抱きしめた。


 父が震えていたのが怖かった。

 3人がどうして来ないのか聞いてはいけない気がした。

 僕も震えながら父さんに抱きついた。



 村からだいぶ離れた林の中、大岩の窪みでその日は夜を過ごし、そして朝をむかえた。


 僕たちはとにかく一番近い隣村へ向けて出発した。

 誰も口を開かず、ただハァハァという息遣いだけがして、僕らはひたすら隣村へと進んでいた。


 隣の村はこの林を抜けて半日も歩くとつくのだが、林を抜けたところで僕らはゴブリンと遭遇した。


 何の武器も持たない僕ら10人(大人3人、子供7人)に対して7匹のゴブリン。


 絶望的だった。



「みんな! 走れ! 村へ向かって走れ!」



 ヒューゴの父さんが叫んだ。

 そして落ちていた木の枝を振り回してゴブリンに向かっていった。



「逃げて! ヒューゴをお願い!」



 ヒューゴの母さんが娘ふたりの手を離し、背中を押した。

 サッチも足元の棒を拾ったがメリーの手を引いて走り出した。


 父さんはアンを左手に抱え直し 、右手に棒を拾った。



「バルトロ! 絶対に生き残れ! 俺たちの分も生きろ!」



 そう言い、僕の背中をドンっと押した。



 だけど、僕は行きたくなかった。

 ひとりで行きたくなかった。

 父さんとアンと一緒にいたい。

 母さん達のとこに戻りたい。



 走れずにいた時、誰かが僕の右手を掴んで走り出した。

 僕の右手を握ったのはヒューゴだった。

 姉さん達と走り出したはずのヒューゴは僕のところに戻ってきて僕の手を掴んで走り始めた。


 父さん達の叫び声やら悲鳴やらゴブリンの雄叫びやらが後ろから聞こえた。

 戻りたいと思った瞬間、今度は左手をメリーが掴んだ。


 左右の手をヒューゴとメリーに繋がれ、僕ら3人は走った。


 しかし、あっという間にゴブリンが追いついてくるのがわかった。


 サッチが手に持った棒を振りかざし、ヒューゴの姉さん達が僕ら3人を逃がすためにゴブリンに掴みかかっていった。

 3人でひたすら走ったが、後ろからゲギャギャと声がしてゴブリンとの距離が縮まっているのがわかった。


 父さん達の声も聞こえなくなった。

 息も苦しいし、もうダメなんだと思った。


 足元の石に躓き僕が転んだのに引っ張られてヒューゴとメリーも一緒に転んだ。



 もうダメ。

 怖くて起きれない。

 痛くて。

 辛くて。

 父さん!母さん!


 地べたにうつ伏せたまま目から涙がボタボタ落ちた。


 メリーが僕の背中に覆いかぶさった。



「だいじょうぶ! 私が守ってあげる」



 ヒューゴが僕らふたりの上から覆いかぶさった。



「だいじょうぶだ! おれが守る!」



 父さん!母さん!メリー!ヒューゴ!誰か!

 神さま助けて!



 祈ったけど聞こえたのはゲギャギャというゴブリンの雄叫びだけだった。


 このまま3人とも殺される。

 ゴブリンに食べられちゃうんだと思った。

 3人が重なったままジッとしていたが、ゴブリンは襲ってこなかった。



「大丈夫か?」



 知らない声に顔をあげたら、すぐ横に矢が刺さったゴブリンが倒れていた。




 僕らを助けてくれたのは冒険者さんたちだった。



 僕らは冒険者に助けられ、最終的には街の教会まで連れていってもらったのだが、そのあたりの記憶は曖昧だ。


 僕らを逃がすために武器もないのにゴブリンに向かっていった父さんと赤ん坊のアン、メリーの兄ちゃんのサッチ、ヒューゴの父さん母さん姉さん達は、冒険者が着いたときにはもう事切れていたそうだ。


 そして僕らの村も、オークにより全滅していたのだそうだ。


 父さんとアンの血まみれの死体を見た僕は倒れ高熱を出し、その後の記憶が曖昧になったのだ。


 教会で目を覚ますとヒューゴとメリーがすぐ横にいて、ふたりが無事で良かったとワンワン大泣きして(また熱が上がったけど)、それから自分はもっと強くなりたいと思った。


 みんなに守ってもらうばかりでなく、今度は守れるようになりたいって。



 教会には同じように親を亡くした子供達がたくさんいた。

 ぼくらは15才で成人となる。それまでは教会で1日1回の食事と寝床を与えてもらえる。

 成人すると教会を出なくてはならない。


 たいていは8才くらいから街中での手伝いで小銭を稼ぎ、10才になると冒険者ギルドに登録して依頼でお金を稼ぐ。

 教会を出る日が来てもやっていけるようにだ。


 とはいえ、ランクD、Eあたりはまだまだ収入が少なく、教会を出たらスラム街に住みながら冒険者をやる者が多い。


 スラム街には奴隷や娼婦が赤ん坊や子供を捨てていくので、教会のシスターが定期的にスラム街を回り、5才未満の子供を見つけては教会へ連れ帰る。

 だから教会の孤児院はいつも満員状態だ。


 みな、冒険者になり少しでも稼げるようになると、他の幼い子供のためになるべく早くに教会を出ていくようにしている。

 ぼくら3人も冒険者ランクがDへ上がったときに教会を出て、スラムの一角に住み着いた。



 ランクEの時は街中の仕事がほとんどで安全だったが、Dになると街の外の仕事が増える。

 薬草採取や畑を荒らすイノシシやオオカミ退治、ゴブリンのような魔物討伐といった危険を伴う仕事もある。


 もらえるお金も増えるが、そのための武器や装備も必要になる。

冒険者の最初の壁だ。


 お金を稼ぐには武器や防具が必要で、武器や防具を入手するにはお金が必要。


 この壁をクリア出来ないと一生スラムでくすぶることになる。

 けれど、ぼくらは絶対冒険者になる。

 ぼくらを助けてくれたあの冒険者のように!


 そして僕を守ってくれたメリーとヒューゴを今度は僕が守るんだ、この盾で。



 そう決心したある日。

 僕らは初めてゴブリン討伐の依頼を受けた。


 ランクDになって薬草採取やイノシシ退治は何度かこなした。

 街からそれほど遠くない街道付近の草原でゴブリンを1匹見たという商人がいて、ギルドがゴブリン討伐依頼を載せた。


 はぐれゴブリン1匹なら、ぼくらのゴブリン初討伐にぴったりだという事で受けたのだ。


 だがそれは僕らを窮地に陥れた。



 ゴブリンは1匹ではなかったのだ。

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