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18話 (株)やまと商事 菊田弘③

 -------(菊田弘 視点)-------


 鹿野くんのおかげでお局土屋のワナを回避できた俺は、手順書を返しに鹿野くんの席を訪れた。



「あの、これ…」


「あ、時間大丈夫だったみたいですね。よかったです」


「ありがと…ございました」



ボソボソとお礼を言いつつ手順書を差し出した。



「それコピーだから差し上げます。不要だったら破棄してください

あと…」



 と言いつつ鹿野くんは引き出しをゴソゴソと探り、いくつかの紙を抜き出した。



「三係さんの業務だと、これとこれと、このあたりもやらされるかも」



 そう言って仕事の作業手順が書かれた数枚の用紙を差し出してきた。



「自分で作った手順書なんで正式なマニュアルじゃないんですが、もしよかったらどうぞ」



 そして鹿野くんは台車に大量の箱を積んで去っていった。

 机の上や足元も箱や資料が山積みだった。

 忙しいのに俺の仕事の完了を待ってくれてたのかな?とほんの少し嬉しく思った。



 その日から鹿野くんに対する俺の評価は急上昇した。

 派遣がすごいのか、鹿野くんだからすごいのか。



 鹿野くんの予想通り、その後も土屋から突然押し付けられる仕事は、

鹿野くんから貰ったマニュアルで問題なくこなす事ができた。


 俺が問題なくこなすと土屋は面白くなかったのか、その仕事を俺に回して来なくなった。

 おそらくまた鹿野くんに押し付けているんだろうな。

 チームが違うのに。


 それからは俺も休まず出勤できるようになった。

 仕事はほとんどない状態なので、いつもネットをこっそり見ている。

 上司も気がついているようだが何か言ってウツが再発したらまずいので黙認してくれている。

 お局の土屋達は相変わらず派遣の鹿野くんイジメに精を出している。




 そんなある日。

 始業1時間くらいした頃か、突然眠りに落ちた。


 目が覚めたら何かとんでもない状態になっていた。


 寝ていたのは自分だけではなかったようで、周り中が一斉に眠りに落ちたようだった。

 鹿野くんの叫び声に顔を窓に向けると、窓の外はジャングルだった。


 22階なのに?

 鹿野くんの声でどんどん周りが目覚めていき、みな一様に窓に張り付いた。


 人間驚くと叫び声よりまず息が止まる。


 窓の外をガン見したまま固まっていた。

 それから思い出したように家族の安否を問い合わせようとスマホをみたが圏外だった。

 机上の電話も通じなかった。

 皆も釣られたようにスマホを操作しているが誰もが圏外のようだった。


 スマホが圏外という事は、異常事態はこの職場近辺だけの事ではないのかも知れない。

 もしかすると日本全体?


 いや、ちょっと落ち着こう。

 地震や火山噴火でビルや都市部が壊滅したにしても、窓の外が瞬時にジャングルのように木が生えるなんてありえないだろう。


 それに、職場の人間全員が一斉に眠りに落ちるなんて、現実でありえるだろうか?


 パラレルワールドとか異次元とか、SFみたいな事が頭に浮かんだ。

 乗ってた飛行機が時間を飛び越え30年後に現れたとか、船の乗客が全員消えたとか…。




 その時、女性の甲高い叫び声がした。



「ステータスって言ったら目の前に何か出たあああ」



 周りがざわつき始めた。



「ステータス!なにこれ!」

「え?なに?ステータス?」

「はあああ?」



え?何だ?



「ステータス…?」



 思わず唱えたら目の前に半透明の画面みたいなものが出現した。


 ああ、これ、異世界転移だ。


 ストンと腑に落ちた。

 最近ハマって読んでいたネット小説の異世界転移モノ。

 SFというよりファンタジー小説だ、これ。



 俺ら、職場ごと、異世界に転移した?

 なら、窓の外のジャングルもステータス画面も納得だ。


 そして皆が騒ぐなか、異世界人?がこのフロアへ突入してきた。

 彼らに急き立てられて職場を後にし、森?の中へ。



 そう。そして俺は森を走る事となったのだった。

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