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17話 (株)やまと商事 菊田弘②

 -------(菊田弘 視点)-------


 女性に呼び捨てにされていた男性の派遣社員、それが鹿野くんだった。



 鹿野くんは第六係の配属らしいが何故かうち第三係の仕事を押し付けられていた。


 文句ひとつ言わずに仕事を請けていった彼が気になり、喫茶室には行かずに様子を見ていた。

 10分後くらいに書類を持ってやってきた彼を見て、仕事を付き返しにきたのだろうと思った。



「はい、これ、終わりました」



 鹿野くんは土屋さんに渡して去って行った。

 土屋さんはフンっとそっぽを向いたままだった。



 仕事が速い?

 仕事が出来るヤツ?

 え?でも正社員じゃない。


 派遣?

 自分は正社員だが仕事ができない。

 人とのコミュも怖い。

 ウツになったのは周りのせい。


 アイツは、心が病まないのか?


 グルグルといろんな事が頭を駆け巡り、言いようのない複雑な気持ちになった。


 自分は正社員。

 アイツは所詮は派遣。

 自分は…。



 それから自分は毎日出社するようになった。

 周りのイジメが自分に向かなくなった事と、そのイジメの対象であるハケンの鹿野くんが気になったからだ。


 聞こえるように陰口を言われても、関係のない仕事を押し付けられても、無駄な作業を何度も繰り返しやらされても、全然へこたれていない派遣、鹿野くんを見る事が日課になった。


 毎日出社した事で産業医から「通常出勤業務可能」のお達しが出てしまった。

 その途端、土屋さんから書類を押し付けられた。



「これやっといて」



 見たこともない書類。

 説明もいっさいなし。

 聞こうと思ったが土屋さん達は席をはずしてそそくさとどこかに行ってしまった。


 何も教えてやらないという嫌がらせか。

 チーム内の他の人も離席しているようで、第三係は自分以外誰もいなくなっていた。


 隣の第四係の名前も知らないヤツに勇気を出して声をかけた。



「あの、これの、やり方、知ってますか?」


「やった事ないですね」



 そっけない返事が返り、会話は終了してしまった。


 挫折……。



「何だよこれ、どうすんだよ」



 書類を目の前に自暴自棄になりかかった時、背後から声がかかった。



「菊田さん、それ、10:45までの時限性のある処理ですよ」



 声は第六係の派遣、鹿野くんのものだった。


 時計を見ると10:28。

 マジかよ。くっそ。あと17分しかない。

 土屋さんらを探しに行く時間はない。



「これ、よかったら」



 鹿野くんが渡してきたのは『処理手順書』と書かれた数枚の紙だった。



「その通りにやれば5分くらいで終了するので。11時までは席にいるので何かあったら声かけてください」



 そう言って鹿野くんは自席へと去っていった。


 呆気にとらわれている間に行ってしまったのでお礼も言えなかった。

が、時間がないのですぐに手順書に目を通して処理を行なった。




 ほんとに5分で終わったが、これ、説明もマニュアルもなかったら1時間は悩むな。

 危なかった。

 10:45までとか!ワナかよ!お局!

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