こういうの書いてます。
普段こういう一人称小説を書いてます。
長編恋愛小説の一部です。
20時を過ぎた。そろそろ彼が来る頃だ。すっかり熱にうなされて朝寝坊をしてしまったから、今日はまだ彼とちゃんと話していない。それもこれも全部、土曜に行ったお祭りのせいだ。別に、雨に濡れたから発熱したとかいうわけじゃない。疲れたとかいうわけでもない。ただ初恋の人に告白された……それだけだ。ううん、されてしまった、かな? されちゃった? ふふっ、されちまったのだっ……
「おい」
「ひぃえっ!?」
ふいに声を掛けられて、自分の口から聞いたことも無いような声を出してしまった。昨日からボーっとしっ放しなせいで、今日はこういうことが多い。あーもう、ちゃんとしないと。彼が笑いながら先に歩いて行ったのを見て、私も小走りで背中を追いかけた。
空はとっくに真っ暗で、街灯がちらほら灯っている。田舎だからか車通りも殆どなくて、下校する生徒も遠くに数人見える程度。この時間まで残っているのは全国進出を決めた吹部くらいだから、私のほうがイレギュラーだ。
「部活どうだった? 全国まで、あとひと月くらいでしょ?」
「まだ完璧とは言えないな。特に、俺含めた二年が。だから足を引っ張らないように必死に練習してる」
「そっか、頑張れ〜! で、次期部長としてはどうなのかなあ?」
「それは、まあ……」
河瀬の声がくぐもった。やっぱり不安なのかな。でもそれは当然だよね。だって、毎年必ず全国に出ているような学校なんだもん。自信満々なほうがおかしい。
「正直、かなり不安はある。俺なんかには無理だという気持ちも消えてない。でもさ、やりたいっていう気持ちがどんどん湧いてきてるんだよ。部長さんにも俺にやらせてください、ってちゃんと言った」
「おっ、マジっ? 凄いじゃん」
「咲良のおかげだよ。その……ありがとな」
私にしか見せてくれない表情がある。いつだって余裕を携えている彼。それが彼のモテる理由でもある。けれど私の前では、強いところも、弱いところも、可愛いところも、カッコいいところも、ほとんど全部を曝け出してくれるのだ。
「いって……おい」
「あはは、キモっ」
自分の顔が紅くなってきたこと気付いて、誤魔化すために頭を殴ってやった。仕返しなのか、今度は私の肩を小突いてきた。ああ、幸せ……。やりとり自体は普段とそんなに変わりないのに、気持ちを確認し合ったというだけでこんなに変わるもんなんだなあ。
「お前はどうなんだよ」
「あっ、勉強? うーん、そこそこ」
「……そうか」
「どしたの?」
彼が表情を曇らせていた。でも何となく、考えていることは想像できる。というよりかは、そう考えていて欲しい、という願望なのかもしれないけど。
「志望大学、変えてないんだよな」
「まあね、受かるか分かんないけど」
「これだけ勉強していれば受かる、大丈夫。頑張れよ」
私の進路先は、ここから遠く離れている。電車やバスでは、行こうとも思えないくらいには遠い。地元の大学を目指している彼は寂しいと思っているだろうし、私も同じことを思っている。けれど、そのことを口に出してしまうのは些か無粋に思えた。お互いに分かっているんだから、態々言わなくても良いと思った。
「寂しい」
「えっ……」
まさか彼がそんなことを言うとは思っていなかったから、動揺してしまった。また顔が紅くなってしまう。どうしよう……嬉しい、嬉しい。だって河瀬、いつもそういうことだけは言ってくれないんだもん……。前言撤回。やっぱり気持ちはお互いに確かめ合うべきなんだな、と思い直した。
「私も寂しい」
「な」
夏の暑さはまだ残っていて、夜の風は涼しいけれど肌には汗が滲んでいる。コンビニの明かりが煌々としていて、夏の虫が飛び交っている。もうちょっとで駅に着いてしまうのが嫌で、私は少しだけ歩調を落とした。電車、乗り遅れたいな……。隣を見ると彼が微笑んでいて、同じことを思っているんじゃないかと、私は勝手に嬉しくなってしまった。