表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編です

小鳥の先生

掲載日:2025/01/29

 青山すみれは四月から高校生になった。

 自宅から電車で二駅のところにある高校で、近くには小さな公園がある。

 近道なので、よくこの公園を通るのだが、毎日ベンチにお爺さんが座っている。

 すみれは、朝も夕もそこに居るお爺さんが何となく気になった。

 八十歳くらいで身なりは小綺麗だから、ホームレスではない。

 もしかしてボケちゃったのかな?

 それとも家族と喧嘩して家に居づらいのかな?

 ちょっと心配だ。いったい毎日何をしているのであろうか?


 すみれの祖父は二年前に亡くなっている。優しいお祖父ちゃんだった。

 いつも穏やかに笑っていて、怒ったことのない人だった。

 会社の専務で七十五歳まで働いていた。

 仕事がら外食が多かったので高コレステロールになり、心臓の手術をした。

 病床でも、一切愚痴をこぼさない強い人でもあった。

 一緒に遊んでもらった時間と祖父の笑顔は、すてきな思い出になっている。


 しばらくして、すみれは公園のお爺さんと挨拶を交わすようになった。

 と言っても短く「おはよう」や「お帰り」などだ。

 でも、毎日公園で何をしているのかという、疑問は深まった。


 ある朝、急に雨が降って来たので、すみれは小走りで高校へ急いだ。

 公園のベンチにはいつものお爺さんが居た。

 雨なのに傘を差して、何をしているのだろう?

「おはようございます。雨、降ってきちゃいましたね」

「おはよう。もし良かったら、この傘を持って行きなさい」

 そんな風にして、お爺さんが傘をくれた。

「でも、学校まで2、3分ですから」

 遠慮して、やんわり断ったら、

「なに、ワシの家はすぐそこだから」

 と笑顔であった。雨は強くなってきた。

「じゃあ、お借りします。ありがとうございます」

「ああ、行ってらっしゃい」

 手を振ってお爺さんは家に帰って行った。

 すみれは、少し温かい気持ちで高校に急いだ。

 お爺さんはボケていなかった。そして穏やかな人であった。


 下校時にすみれは、お爺さんに借りた傘を返した。

「傘ありがとうございました。晴れましたね。私これからバイトです」

「ワシもアルバイトしているよ」

「えっ、何をですか?」

 すみれは少し驚いた。だって毎日公園で座っているのに。

 お爺さんは静かに事情を説明してくれた。


 お爺さんは黒田菊男さん八十歳。元大学教授で鳥類学者だった。六十五歳で引退し、公園で鳥の声を聴いて過ごしている。

 今は母校の先生たちと「街の小鳥」という共同研究をしていて、これが僅かだがアルバイト代になっているという。

「小鳥の声もそうだが、若者の声を聴いていると元気が出るんだ」

 そう言ってお爺さんは、先生の顔をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ