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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
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生徒会選挙3




 私とネメちゃんは小さい頃からずっと一緒だった。


『ふーこー』

『どうしたの? ねめちゃん』


 草と木しか無いような田舎に産まれた私たち。

 数少ないご近所さん、同じ歳に生まれたのは奇跡と言っていいほどの幸運だった。

 他に歳の近い子供も村には一人もいなくて何かする時は二人いつも一緒だった。

 それも同じ女の子。

 必然のように私たちは親友になった。

 家族ぐるみで普段から一緒に過ごして私にとってはそれこそもう一人の家族みたいな存在だった。


『かぶとみし見つけた』

『んぎゃあああ!?!?』


 ネメちゃんは昔から活発な子で、私に出来ないことも何でもやってのけた。

 虫取り、水泳、木登り、釣り。

 登山、山菜採り、雪かき、そして剣道。

 八歳を超えたあたりでたまに狩りにも連れて行って貰って、十歳もいかない内に大人でもついて行けなくなっていた。

 当然私はついて行く力も度胸も無い。

 ただ帰りを待つ事しかできなくて心配で泣た日もある。

 でも決まっていつも無傷で帰ってきて、すねた私にお土産と言って綺麗な花をプレゼントしてくれた。

 こんなの要らないから行かないで欲しいってお願いはいつも苦笑いだけで最後まで聞き入れてはくれなかった。


 最初の頃はまだ良かった。でも、歳を重ねるにつれてどんどんその差は広がっていくばかり。

 ネメちゃんが早熟なだけでいつかは追いつけると思っていた私は、日を追うごとに突き放されていく現実に私とネメちゃんは根本から違うことを遅まきながら思い知らされる。

 それが子供心に結構寂しくて、でも本当はあの頃の私も気づいてた。


 本当に寂しさを感じていたのは私なんかじゃなくてネメちゃんの方なんだって。


『…………』

『ねめちゃん……』


 ネメちゃんは考え事をするとき決まって家の屋根に上る。

 当然私はそんなところにまでついて行けない。

 近いのに絶対に手が届かない、ネメちゃんにとっての空の月が私にとってのネメちゃんだった。


 村に魔獣が攻めてきた時も。

 ネメちゃんに魔力がいつまでたっても現れなかった時も。

 ネメちゃんは一人になりたい時は決まってそこに行く。

 親友の私すら入れない聖域のような、言い方を替えれば超えられない心の壁だった。


 ネメちゃんは特別だった。


 それこそ、勇者なんじゃ無いかと言われるくらい。


 そのせいで家族にすら少し距離を置かれてしまうくらい。


 最初の頃は才能だなんだともて囃されたネメちゃん。そんな彼女が大型の魔獣を一人で仕留めきった時、村の皆のネメちゃんを見る目は変わってしまった。

 絶対的な強さが産んだ、でもまだ心が子供のネメちゃんには辛い運命。

 決して嫌われてた訳じゃ無いけど畏怖や尊敬が物理的な距離につながってしまう残酷な現実だった。

 そんな誰とも共感を得られない寂しさを一度だけ私に話してくれた時があった。


『ふーこ』

『……なに?』

『ふーこは……ずっと一緒に居てくれるよね』


 私はネメちゃんが泣いてるのを見た事がない。

 この時も結局泣かなかったし、何なら私に弱音を吐いたのもこれが最初で最後だった。

 そして、あれから二度目が無いって事は私は弱音を吐く相手として認められなかったってこと。

 私なんかではネメちゃんの何の役にも立てはしない。

 それこそ私は彼女に孤独を感じさせる弱い人間の代表だった。

 どうしてこんなにも違うのか。私も、ネメちゃんの友達としてふさわしくないんじゃ無いかとこの時思い始めていた。

 だからせめて、その贖罪としてネメちゃんが望んだ通り傍に居ようと誓った。

 どのみち私では隣には一生立てないだろうけど、そのずっと後ろでいいから着いていくことを私はこの時決めたんだ。


 それはネメちゃんが安心して隣を任せられる人が現れるまで。


 そうして私はネメちゃんの背中を追ってルフレの門を叩いたのでした。











─────────────────────────

─────────────────────





 






 風紀委員の看板が掛けられた一室。


 真ん中に置かれた丸テーブルの上に飲みかけのお茶が二人分。

 二十畳ほどある風紀委員会の執務室。執務机に応接用ソファ、大体は生徒会と似たつくりにできていた。

 整理整頓が隅々まで行き届いた風紀を体現したような綺麗な部屋。

 風紀の二文字が掲げられた掛け軸が冷房の風で静かに揺らめいている。

 学園への貢献度とは裏腹に至って普通といってしまえるこの部屋で、風紀委員会に所属している二人の少女がにらみ合うように対面していた。


「絶対に、嫌だぁっ!」

「はぁ……」


 深く腰かけたソファが倒れそうなくらい否定の意思を叫ぶ少女、風紀委員会所属のフーコ・フィクサー。

 その勢いは未だかつてないほどの全力だった。

 それはもしかすると対ベリアル戦で見せた必死さにも劣らないほどであり、確固たる意思を見る人にひしひしと感じさせた。

 対するネメシスは子供を相手するようにため息をついて見せ、しかし親友の全力の拒否にどこか納得もしていた。

 

 涙すら浮かべている小動物の様なフーコの様子に極僅かだか申し訳ない気持ちがネメシスに芽生え始める。

 その庇護欲を唆る際限のない弱者オーラに、昔からだがわざとやっているなら大したものだとネメシスは思った。


「お願い」

「何回言ってもだめ!」

「お願い」

「無理ったらむり!」

「邪魔するわよー」


 両者互いに譲らない押し問答。こんな先の無いやりとりを二人はおよそ十分ほど続けていた。

 そんな中空気を割って扉を開けて入ってきた人物が一名。しかしその間も二人は来客には一切目もくれずあーだこうだと言い合い続けていた。

 来客は両手に何やら荷物を持っているようで肘で器用にこじ開けながら中へと入ってくる。

 だからこそ少しくらい手伝ってくれてもいいだろうにと、入ってきた少女、シーラは呆れた顔を二人に向けるがそこにはあまりに見慣れた光景が広がっていた。


「むり!」

「お願い」

「むり!」

「まだやってんのそれ……?」


 実はこの問答は今日までにも幾度か行われていた。

 最も頻繁に目撃しているシーラとしてはいい加減にしろと言うほか無かった。

 じきに期日も迫りつつある新風紀委員長・副委員長の名簿登録。だというのに、未だ互いの意思を譲らない二人よって停滞の一途をたどっていた。


 しかし最終的にはどちらかが諦めなければいけない話である。

 ネメシスの言うとおりフーコが次期風紀委員長になるか。

 ネメシスがその目論見をスッパリ諦めて続投するか別の人物を探すかのおおよそ三択。


 本来なら仮にも風紀委員会という組織の中で現状トップのネメシスの意思は絶対である。

 しかしそれでも譲れない確固たる意思が珍しくフーコの中には存在していた。

 

「もういいでしょどっちでも」

「「良くない」!」

「あーはいはい。そんなとこだけ一致しなくていいから。……言っとくけど、七月末までに確定させないと新生徒会で勝手に決めるわよ」

「そ、そんなぁ!?」

「ふっ」


 現在、ネメシスによって追い詰められつつあるフーコはしかしよく知っていた。

 もしライラ達が会長になればきっとネメシスの意見がそのまま通るだろう事を。

 そしてもしリグが会長になった場合としては、それでもネメシスが勇者との両立は難しいと進言すれば彼女の意見はあっさりと通ってしまうだろう事を。


 いつの間にか外堀を埋められつつある危機的状況に、何故こんなことになってしまったのかと頭を抱えて塞ぎ込む。

 確かにネメシスを支えるためにフーコはこのエリート学園に来た。

 かと言って、どう考えても風紀委員長は流石に無理だった。


「ううう……!」

「そんなに重く捉えないでいい。私も委員会に籍は置くから」

「だったら絶対今のままがいいよぅ……」


 そもそもなぜこんな話になっているかというと、それはやはりネメシスが勇者となっていることに起因していた。

 今年の五月頃からネメシスは正直風紀委員の活動が殆ど出来ていない。

 このままの両立は不可能だと判断した上で、その上副委員長のバルトもこの八月で任期を終える事となる。


 少なくとも次の副委員長は確定で決めなければならない状況下で、どうせなら今の置物委員長も変えてしまった方がいいだろうとの新生徒会立候補メンバー+ネメシス達の総意だった。

 なお、その総意の中にフーコは含まれていない。

 現在鋭意説得中および全力の抵抗中だった。


「せめて……せめて副委員長……それも本当はやだけど……」

「フーコは委員長、私が副なら?」

「やだ」

「むぅ」

「変わんないわよどっちも……」


 しかしフーコからすればとてつもなく重要な事だった。

 荷が重い。役者不足。えこひいきで委員長になったと陰口を叩かれることほぼ待ったナシ。

 しかもこの場合前任のネメシスと比較されるという最悪の世代。

 正直ネメシスの次の世代は誰がなってもひんしゅくを買うだろうと、まだ先の話ではあるが人事の様に心配していた時期もあった。


 そしてそもそもなぜ自分なのかが分からない。

 自分と比べれば他にもっと優秀な人材は居るというのがフーコの正直な感想だった。

 そしてこればっかりは見る目がないとしか言いようが無く、実際ネメシスとは長い付き合いであるが審美眼に長けているイメージは全く無かった。


 だからフーコは思った。いかにしてもこの策謀を防がねばならないと。

 迫り来る勇者の手を振り払う為ならば、もはや悪魔にだって魂を売る覚悟ですらあった。

 なんて、それは流石に冗談としても質が悪いが。

 フーコだってできる事ならネメシスの力になりたい。ただ、なりたいからこそ確定で迷惑のかかる事はしたくなかった。

 ネメシスが今まで築き上げた風紀委員会の結束を新任初日でグダグダにする自信がフーコにはあった。

 ゆえに、


「……いいですかっ!? 私は、なんと言われても絶対に靡かな──」


「そう言えばライラ見なかった?」

「見てない」

「ったく……あ、荷物ここ置いといたから」

「ありがと」


「きーいーてーよーもーーーっ!!」


 泣きながら何となく自分の運命を感じ取る。

 結局最後には言いくるめられて望まぬ結果に落ち着いている自分の姿があまりに簡単に想像出来てしまった。

 こんな押しに弱い自分がとにかく嫌いで、だからこそ無理だと言っているのに、だからこそ委員長になりかけている矛盾にフーコは吐きそうですらあった。


 こう言うときはいつもネメシスが最後は助けてくれた。

 なのに肝心の頼りの人物が今回ばかりは敵という。


 実際フーコに人を導くような素養は無く、なんだかんだうまくいくなんて事もおそらくだが無いと思われる。

 風紀委員会はぶっちゃけ崩壊の危機に瀕していた。

 しかしそのことを本気で危惧し対立するのは、力の無いか弱い少女ただ一人なのであった。





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