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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
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生徒会選挙1





 全員が正しさを追い求めることが出来たならどれ程世界は素晴らしくなるだろうか。

 全員が他人や世界の事を一番に考えて動けたなら、どれ程世界は輝かしくなる事だろうか。


 感情と正しさはしかし基本的に両立しない。

 それが正しいと分かってもその通り動ける人は極小数に限られる。

 それは根本が人は正しい生き物などではなく、感情を元にした生物だから仕方の無いことだった。


 勝つために正しさを追い求める。それは一見当たり前に見えて案外難しい。

 現実はそう簡単に出来てはいなくて、いつだって不条理な選択を人間は追い続ける。


 もし本当にこの世界に神様なんかが居るのなら今も滑稽な私達を見てため息をついているだろう。

 それでも、だからこそ私達は人だった。

 その先にどうしようもない破滅が待っているとしても、理想を追い求めるのが不完全な人である証だった。






─────────────────────────

────────────────────







 七月二十四日。







 学園はあれから平和な日々を送っていた。


 悪魔による被害はルフレに限らずこの二ヶ月何処からも聞こえて来なかった。

 四月からの激動の三ヶ月がまるで嘘かのように、偽りとは言え人々は平穏な日々を過ごしていた。

 各地に刻まれた深い傷跡も見た目だけは元通りになり、スプレンドーレ及びエタンセルの復興もほぼ完了した。

 死亡者の確認と葬儀もこの間に一段落を終え、それでも問題はまだまだ山積みだった。


 次襲ってくる悪魔の手がかり及び、第四の悪魔に関する目撃情報は一切上がって来ていない。

 味方側のいざこざも何も解決していなかった。

 とある眠る少女も未だに目を覚まさない。


 進捗も後退も見えない停滞の最中それでも学園は次のステップへと進もうとしていた。

 一寸先の見えない奈落を繋ぐ橋の様な環境で、それでも時間は平等で少しも止まってはくれないから。


「あれ知ってる?」

「放課後さ──」

「次の生徒会……」

「もうそんな季節かぁ」


 七月二十四日、それは生徒会選挙が始まる日。

 本日、立候補者の名前が正式に公表され、今から一週間の中で選挙活動を行い、七月三十一日で結果発表、八月一日をもって次代の生徒会へと切り替わる。

 この一年を支えたネイルの後退が惜しまれる中、それでも次の世代にも彼にひけをとらない輝かしい存在が数名居た。


 その筆頭と言われるのが正統後継のリグ・バレット。

 彼女は他と比べて特筆する程優秀ではないものの、生徒会経験者という点で誰から見ても彼女の当選が自然な形だった。


 そして、もし立候補すれば確定だろうと言われるのが勇者ネメシス。ただ、今や生徒会以上に忙しい彼女にそんな余裕はなく、もっと言うと風紀委員長という役割もある。


 そしてもう一人、その二人の名に劣らない人物が一年生にいた。

 一時期男との悪い噂は流れていたものの、彼女が立候補すれば今ある予想は簡単に覆るだろうと。


 正式に立候補者が発表されるのは本日の午前八時。ただし、情報に精通している新聞部が事前情報をすでに裏で公表していた。

 まだどうなるか結果は誰にも、神にもわからない。

 それでも、今年の選挙は荒れるだろうと内情を知らなくても誰もが予想した。






───────────────


 新生徒会・立候補者一覧


 新会長─ライラ・エタンセル

 新会長─リグ・バレット

 新副会長─

 新会計─ネム・ベイト

 新会計─パスカル・ドライブ

 新書記─メイ・ピック

 新書記─ヨール・フール

 新庶務─シーラ・ウィル


───────────────











「いやー、辞退しよっかなァ〜……」



 最大限だらけながら書類をうちわ代わりにして扇ぐ。

 暑い部屋、止まらない汗に嫌な顔を隠さないでいると、隣に座るリグからジト目と共に追加の種類が送られて来た。

 ネムはそれを右から左へさっと受け流すと、なぜか倍になって左から書類が帰って来る。

 自分の目線の高さにすら届きそうな紙の束に、これ以上の抵抗は余計に自分を苦しめるだけだとネムは白旗を上げて諦めた。


 時は暑い夏真っ盛りの海日より。

 空は希望に溢れたみたいに過剰な程に地上を照らしていた。

 生徒会室の窓は書類が風で飛ぶからという理由で締め切られ、肝心要の冷房設備もとある理由で壊れていた。


「ネムちゃん……」

「んぁー?」


 天下のルフレ学園生徒会は質の悪い熱気に持続ダメージを与えられていた。

 暑さで脳が溶けそうになる程で、仕事なんてしている場合ではないのにネム以外はみんな黙々と手を動かしている。


 ネムは思った。

 順当に行けばこんな生活をあと一年。

 なんだかんだやり甲斐はあるものの搾取されているような気がしないでもない。

 だから冷静になる程に先程の自分の呟きが良いものの様に思えて仕方がなかった。


「またそんな事言って……」

「……いやー、だって私の競合パッちゃんだしー? 正味私よりよっぽど適任じゃない?」

「それはそ……んな事は無いけど」

「ちょっとー、否定するならちゃんとしてよー」


 ほんの数日前まで、恐らく誰もがリグが会長になると予想していた。

 ネムも何となくこのままの雰囲気で続くものだと思っていた。

 基本的には例年二年生しか立候補しない上、しかも同年台にリグ以上にふさわしい者をネメシス以外に知らなかったからだ。

 それに、学園の生徒なら生徒会の忙しさは誰もが知っていて、色々と特権やメリットはあるもののそれを差し引いた所で生徒会の忙しさには目も当てられない。


 しかし、結果を見れば副会長以外全役職に新顔が立候補するという。

 しかもその殆どが聞いたことのある有名な名前。

 最近良くつるんでいるところを見かけられる、今は居ない男を中心に集まっていた複数の女子生徒達。

 多少なり今を取り巻く状況を理解している人なら、明らかに何かを企んでいるとしか思えなかった。


「はー、暑い。暑いしだるいし眠い」

「もう……勝つ気あるの?」

「なーい」

「もう!」


 目の前に置かれた書類を退けてネムは気だるげに机に突っ伏した。

 このまま寝て起きたら書類が半分に減っている事を願って、しかしそれは一人の男の咳払いに阻まれる。

 さすがにバツが悪くなったのか嫌そうな顔をしながらも渋々顔を上げ、その声の主におっかなびっくり視線を向けた。


 基本的に結果さえ出せばとやかく言われないのがこの生徒会のいい所。

 何だかんだ最後にはやる気を出すタイプのネムは、普段からサボり気味ではあるがあまり注意された経験は無い。


 ただ、ここ数ヶ月において生徒会の様子は少し変わっていた。

 何も問題は無いはずなのだが、少しばかりの居心地の悪さをネムは感じていた。

 いつもと何も変わらない筈なのに、余裕が無いような、どこか緊張感が常にある様な。

 それもそのはず、


「お前達には次の生徒会を担ってもらわないと困る」

「えー……」

「…………」

「……オイコラ、さりげなくまた書類寄越すんじゃねェよネム」


 書類が今度もまた少し多めに帰ってきながら、会長に何と返すべきかリグとネムは同時に悩む。

 しかし、その悩みの内容は二人で完全に別々だった。

 ネムはシンプルに辞めれるなら辞めたいという考えと、リグに関しては考える事が多すぎて正直頭がパンクしそうだった。


 副会長もヨールも特に会長の言葉には言及しない。

 それもその筈、会長とパスカルを取り巻いた例の件を知っているのはこの中で実はリグだけである。

 そして、リグが知っている事を会長は知らない。

 親友であるネムにすら怖くて何も話せていない。

 それが一番良くない選択なのだと分かっていても、行動に移す勇気はどうしても持てなかった。


 会長の鋭い視線の奥に、言葉以上の複雑な意味があることをリグだけが悟ってしまう。

 リグ自信会長の事は誰よりも尊敬していたし、だからこそ色々と信じたくなくて、しかし信じるしか無くて今のような状況に落ち着いた。


 こんな優柔不断で意思の弱い自分なんかに次の会長が務まるのかと不安になる。

 それでも、自分がならなければネイルの立場が悪くなってしまう。

 それが人として正しいことなのだとしても、どうしてもどちら側にも振り切れなかった。

 なぜならきっと、彼の意思を理解出来る人が会長にならないと、ネイル会長は権限を失ったそのタイミングで──




 ───ガチャ。


「んあ?」


 そんな時、生徒会室の扉が開かれた。

 ネムが素っ頓狂な声を上げる中、全員の視線が同時に扉へと吸い寄せられる。

 しかしホワイトボードに来客の予定は書かれておらず、急な来訪である事は全員の共通認識だった。

 ただそれでもリグとネイルだけが神妙な顔付きをしていた。

 まるで来訪者が誰だか簡単に予想が着いたかのように。

 この場に置いてもノックをしない豪胆な不届き者に一人しか心当たりがなかった。


「──失礼する」


 入室の許可も待たず中に入ってきたのは、ほぼ予想通りの人物だった。

 ただ少し予想外な事はその予想が完璧では無かったこと。

 ネイルは眉間に皺を寄せながら、手に持っていたペンを机の上にわざと音を立てて置いた。


「何の用だ」

「なんの用? なんの用って、そんなの……」


 入ってきたのは全部で四人。


 シーラ。

 パスカル。

 メイ。

 そして……



「……ネメちゃん?」

「今日から選挙が始まるから」


 だからこそ、ここに来た人物たちの面子に現生徒会は納得がいかなかった。

 ここに最もいるべき人物が姿を見せず、立候補者達の先頭に立つのは今回の選挙とは関係の無い筈のネメシスの姿。

 しかし彼女含め全員が真面目な顔で一瞬の内に室内に緊張が走る。

 どう転ぼうが仲間であることには変わらない筈なのに、まるで一触即発のような雰囲気に事情を知らない数名は頭に疑問を浮かべた。


「宣戦布告。それ以外にない」


 この時を待っていたと言わんばかりのネメシスは、ネイルを睨みながらその手は刀に触れていた。




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