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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
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私に足りないモノ2





 次はシーラに会いに来ていた。

 パスカル同様、彼女も魔道科所属だがまた少し違った意味で彼女も授業に出ていない。

 それはただの必要な特別待遇では有るのだが、こう羅列すると問題児集団みたいに聞こえるから不思議だった。


 やって来たのは学園の端の方にあるプール、に併設された巨大なトレーニングルーム。

 入り口の受付担当の教官に話を通し、中に入れば目的の人物は案外簡単に見つかった。


 様々な機材が並んでいる幾つもの部屋の中比較的奥まった方にあるひとつの部屋。

 そこから走り回るような音が聞こえてきた。

 入り口の予定表を見る限り他は使用していない為、音を頼りに私はそこへと足を進めた。


「邪魔するわよ」

「……っ! ……あれ、ライラ? 何でここに居るの?」


 扉を開けると予想通りシーラがいた。

 彼女は一瞬驚いたがすぐ平静に戻り、大量の汗をかいた額を拭いながらこちらへと近づいてくる。

 色々とやらないといけない事が多いネメシスと違って、あれから彼女はひたむきに修行を続けていた。

 だから居るならここか運動場のどちらかだと思って来てみればやはりというか、結構わかり易かった。

 良く一緒にいるアテルは今は居ないようだった。

 勝手に一緒にいるものだと思っていたが案外そうでもないらしい。


「何しに来たの?」

「別に?なんでもないけど」

「……ふーん」


 何でもは無いだろうと言いたげな顔だった。

 しかしバカ正直に経緯を答えるのは流石に気恥しい。

 誤魔化しながら部屋に入って中を見渡すと記憶通りここは機材のないただの開けた空間だった。


 これでは尋常じゃない量の汗をかいているシーラがどんな修行をしていたのか推測も出来なかった。

 ついでだからその辺も見ていきたいと思った。

 この友達作りの一番根底にあるものは私の「他者への理解」を強める事だと思ったから。


「続けていいわよ」

「そりゃ続けるけど……見に来たの?」

「悪い?」

「や、別にいいけど……」


 どこか納得の言っていない顔ながらもシーラはすごすごと離れて部屋の中央へと戻っていく。

 私はそれを横目に見ながら端に置いてあったベンチに座った。

 同じく終始チラチラと視線を感じたが、観念したのかそれも次第に集中へと変わっていく。


 彼女の使う気という概念は正直私も理解していない。

 ネメシスとシーラしか使用者が居ないこともあって何か特別な条件が必要なんだとは思う。

 私が知る中で最も器用で覚える時間もあったユーロが会得していない時点でそのあたりはお察しだった。


「───」


 そして、瞬きの瞬間目の前からシーラは消えた。


 目を凝らしても視認できなくて、ただ壁や天井、地面を蹴り叩く様な音だけが断続的に聞こえてくる。

 これは気ではなく恐らく固有能力によるもので、そうでないと人間という種族の概念が根底から崩れ去ってしまう。


 彼女はノノア同様この世界で新たな武器を手に入れていた。

 こればかりは素直に羨ましいと思う。


 記憶の中の彼女とは第二の悪魔の時にスプレンドーレと合同でクリスマスパーティーを行った程度のもの。

 第四の悪魔では各所に精鋭を配置して、その時も会議で少し顔を合わせたくらいだった。

 あの戦いの後彼女の姿は見なかった。だから当時はあのままシーラも第四の悪魔に負けたんだと思う。


 そんな彼女が別の世界で彼と付き合っていたとか、今こうして最前線を走っているとか、正直今でも信じ難い。

 でもこれが現実で、間違いなく私よりは先を行っていた。

 私だけがどんどん周りから取り残されて行っている。

 それでも、


「……すごい」


 一番に口をついて出たのは感嘆の声だった。

 ダダダダンッという音と共に次々と壁が足跡の形に凹んでいく。

 さりげに施設の破壊行為ではあるがここは魔法の世界。そんなものは日常茶飯事で破壊も修正も朝飯前ではある。


 その勢いに触発され軽く魔力を練ってみると、そのあまりのちっぽけさに笑いすらこぼれそうな程だった。

 今まで無いなりに努力はしてきたつもりではある。

 その結果魔法の圧縮や湾曲など、使い勝手のいい創意工夫は産み出してきた。

 それが彼の役に立ったこと自体は悦ばしいが、それでも私が本当に欲しいものは終ぞ手に入らなかった。


 私も都合よく固有能力に目覚められたら、なんてそんな甘い話があるのなら如何せん楽である。

 それでもそんなものは計画には入れられない。

 やっぱり、私が皆の隣に立つ為には会長になって圧倒的な魔力を手に入れる必要があった。


「…………」

「───はぁ、はぁ…………ライラ」

「……え? どうしたの?」


 気が付くと目の前に息を荒げた彼女がいた。

 いくら考え事をしていたと言っても流石にそこまで時間は経っていないと思う。

 だから随分早めに切り上げたなと一瞬思ったが、多分そうじゃないんだろうとは少し考えて思った。

 音の発生と重なり、部屋の大きさからある程度の速度は割り出せる。

 たぶん私が一年かけて移動するような距離を今目の前で彼女は走り終えたんだろう。


 そんな彼女はしばらく深呼吸して息を整えるとなんでも無かった様に私の隣に座った。

 手にはいつの間にか水筒を持っている。

 彼女が飲んでいる間私は静かに待って、こんな大きな施設で二人とも黙っていると先程の騒音も相まって相当静かに感じた。


「そう言えば、ライラに聞きたいことがあったの思い出して」

「……なによ?」


 珍しいと言うか、そう言う彼女の顔は悩んでいる風なものだった。

 先程とは打って変わってどこか暗い雰囲気を纏い始める。

 今更私に聞きたいことがあると言われても、勿論かまわないが正直期待に応える様な自信は無い。


 勉強や魔法理論に、作戦を練ったりは得意だが如何せんそれらがシーラの求める物に関係が有りそうには思えない。

 とは言え聞く前から無碍にできる筈も無く、彼女が語り出すのを待っているとその内容を聞いて納得した。


「記憶があるって、どんな感じなんだろって」

「………」

「あ、ごめん! 気にしてたら、申し訳ないんだけど……!」


「……その、ほら。アタシだけ記憶が無いからさ。何かいまいち仲間になりきれてないような気がして、って言うか……」


 シーラは終始不安そうな顔でそう言った。

 そんな事は無いと言ってしまえば話は終わるが、しかし同時に彼女の中ではその悩みは永遠に終わらないだろう。

 皆それぞれ違った悩みを抱えている。それは当たり前の事で、きっと本当の意味で理解できるのは本人しかいない。


 例外があるとしたら何度も人生をやり直す中で、その人に適した寄り添い方が出来る特別な境遇の男とか。

 だから私は、試しに彼ならなんと答えるか考えてみた。

 でも私は彼ほどシーラに詳しく無い。

 だから、


「私達は仲間じゃないわよ」

「え……?」


 こんな言葉しか思いつかなかった。

 残念ながらこれが今の私にとって事実である事には変わらない。

 けれど横目に見えた顔は明らかに傷付いていて、そんな彼女を、自分で言ってて何だが正面から見れなかった。


 悪魔を倒す、そして彼を取り戻すという共通認識において私たちが仲間であることにはきっと変わらない。

 ただそれは殆ど成り行きによる物だった。

 心が通っているかと言われればどうしても私は首を傾げざるを得ない。


 それに散々彼以外の存在に目を向けてこなかった私が、このまま何となくで受け入れられるのも自分で納得がいかなかった。

 今まで誰に対しても上から物を言ってきた。

 きっとこのままでも誰も文句は言わないだろうけど。


「でも」

「……?」

「仲間になりたいとは思ってる。アンタらは、こんな私にも手を差し伸べてくれたから……」


 言ってて顔が熱くなって来た。

 似合わない事はわかっているがこれをしないと私はきっと前に進めない。

 シーラにネメシス、ノノアにパスカル。最初は私にとっては彼を誑かす敵という認識でしか無かったけど。

 そのくせ今更こちらから歩み寄るなんていうのは格好悪いが、だからこそプライドを捨てることがまず第一歩の様な気がした。


 そんなシーラは最初理解ができないと言った風にキョトンとしていたが、しだいに吹き出した様に笑いだす。

 そんなにおかしいことを言ったか、なんて、たぶん自分でも逆の立場なら同じ様に笑うと思った。


「あはは……! ね、急にどうしたの!?」

「どいつもこいつも失礼ね……」

「ごめんごめん! 何か、思ってたのと角度が違くって……!」


 くつくつと遠慮無く笑う彼女にこれ見よがしにため息をついてみせる。

 すると笑いながらも彼女はなだめる様に謝ってきた。

 頬が熱いのはどうにもならないが、この光景を知らない人が見たらただの仲のいい友達同士に見えるだろう。


 友達というのは背中が痒くなるのだと今初めて知った。

 思い返すと前回を含めてさえそういった関係性は思い当たらなかった。

 そこに本来あるべき寂しさは彼が一人で埋めていて、だからこそ私はここまで執着せざるを得なかったのかもしれない。


 そう考えると全部私の視野の狭さが原因だった。

 今更気がついたのは少し遅すぎる気もしたけれど。


「それに、記憶の有る無しがどう関係するのよ。少なくとも私は今のアンタにも救われたんだから」

「理屈っぽいのは変わらないのね。……でもありがと。ライラのそう言うところ、アタシは好きだから」


 素直で明るい彼女をうらやましいと思ったことは一度や二度じゃ収まらない。

 彼が最後に選んだのが彼女だと聞いた時、言葉にできない嫉妬と納得を覚えたのも確かである。

 それにもしシーラに記憶があったなら多分この世界で彼は私を選んではくれなかった。


 でもそれらの過程も全部ひっくるめて。

 今の私は彼女と良い仲でありたいと思っている。


「ならさ。いい加減アンタとかやめてよ」

「は……?」

「はじゃないでしょ。ちゃんとシーラって呼んで」


 汗が滲む手のひらを目の前に出される。

 その意味を理解できないほど鈍感では無いが、こう形にされると慣れないことも相まって抵抗が強かった。

 取るかどうか迷ってる間にシーラは勝手に私の手をとって満足そうに笑う。

 その純粋な発想と行動力は確実に私にはないものだった。


 今までは完璧な“個”ばかりに目がいっていたがその必要が無いことは今の私にはわかる。

 悪魔に勝つために必要な総合力は、こうして手をつないで補い合っていけばいいのだと。





 

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