表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
74/83

始まるか、終わるか





 目の前でベッドに横たわる少女は──



「…………」

「ノノアちゃん……皆が来てくれたよ」


 扉を開けた先は一人用の病室。

 中に居たのは死んだ様に眠る少女と、それに寄り添うもう一人の小柄な少女だけ。

 やせ細った身体に白い髪。

 空気に溶けてしまいそうな程病的に白い肌。

 状況と場所もあいまってどこか老人の様にも見えてしまった。


 その手を握る少女は優しく語りかけ、しかし誰もその言葉に返事を返さない。

 件の少女は黙って僅かに胸を上下させている。

 かろうじて生きている以外の情報が何もない、でもきっと救いはないんだろうなと私は思った。


「あれから、ずっと。……こうなった原因は分かっても、こうなり続けている原因は分からないらしい」

「…………そう」


 今ここに集まっているのは全部で六人。ネメシス、シーラ、ライラ、ノノア、メイと、そして私。

 メイ以外は彼と深い関係があった者。

 だからこそ、ライラの時もそうだったが勝手に皆は無事なものだと思い込んでいた。


 ガルという少女を戦場で前にして、殺された二人を他所に不自然に私は生かされた。

 そこに意志の介入があったのはまず間違いない。

 だから何処かでは皆生きて、無事で、また話せると勝手に思い込んでいた。


「彼女のお陰で多くの命が助かった。ノノアは間違いなくこの国の英雄」

「……こうなった原因っていうのは、例の力を使ったから?」

「ああ。多分限界を超えた代償だろうってミラ委員長が。……いつ目覚めるのか、そもそも目覚めるのかすら分からないって」


 ネメシスが現状を淡々と紡ぐ中、メイはずっと俯いてノノアの手を握っている。

 メイ自身も酷くやつれており、ずっと休養を取っていなことが目に見えて分かった。


 ノノアの力は人の理を軽く超えている。

 そして彼女の性格上、これはいつかは起こる必然の事なのかもしれなかった。

 自分と他人の命を天秤にかけた時、迷わず自分を捨てるような優しい心の持ち主だったから。


 だけどそれらはほんの序の口でしかない。

 奇跡の代償は想像以上に重かった。


「寿命が」

「え?」

「……例え起きたとしても。あと一年もたないって」

「…………」


 何が、彼女をそうまでさせたのか。

 私は眠ったまま動かない少女に目をやった。

 それはつまり、これからどう足掻いても彼女にハッピーエンドは訪れないということだ。

 例え魔王を倒しても、彼が私たちのところに帰ってきたとしても。

 そこに彼女の存在は無い。

 あと一年で出来ることなんて殆ど限られている。


 それでも、彼女のおかげで助かった者が居る以上、そして私の大切な人も助けて貰った以上。

 彼女の無茶を責める資格は無い。

 ただ無償の救いを一方的に与えられただけ。


「……ごめん」


 口から出た謝罪の言葉すらもどこか薄っぺらいものの様に感じた。

 こんなことしか出来ない自分が恨めしい。

 私は結局何の役にも立てていない。


「はっ……今更感傷に浸ってなんになるのよ」

「……何よアンタは」


 そんな陰鬱な空気を悪い意味で切り裂いたのは、既に一人で立っているライラだった。

 彼女は不貞腐れたように部屋の隅で腕を組んでいる。

 周りからの扱いはただの問題児だが、私達を見るライラの目は明らかに敵を見るものだった。


 全てが心底どうでもいいという様に自壊に走るその姿はノノアと同じくらいに痛ましい。

 彼とより関係の深いもの程傷を負っている。

 死を厭わない程にこの世界に他の執着が何も無い。


「いずれ人は死ぬ。遅いか早いだけでしょ」

「……そんな、言い方……!」

「何?文句でもある訳? 良いわよ別に、今なら殺させてあげるから」

「やめて、二人とも」


 怒りで肩をふるわせ突っかかるメイと、感情もなく無意に煽るライラ。

 しかし間にネメシスが割って入る。

 ネメシスの導こうとする態度は既に板に付いていて、喧嘩の仲裁も初めてのようにはとても見えなかった。


 メイはそもそもそれ以上の気力はなかったのか、肩を落としてまたノノアに寄り添い始める。

 そして、ライラは結局誰にも目線は合わせずそのまま一人部屋を去ろうと踵を返した。

 止めようと思った。しかし私には本来止める権利は無い。

 それでも、伝言だけは伝えなくてはならなかった。


「待ってくれ……ここに連れてきたのは、話が──」

「いいわよ、もう全部どうでも」

「彼からの伝言なんだ。聞いてくれ」

「…………、……これ以上、何に縋って生きろって言うのよ……」


 聞く耳を持たないだろうことは最初からわかっていた。

 それでも言わなければと思って、だけど深淵のようなその目を見れば一度は決意した覚悟もまた揺らいでしまう。

 ライラは二度も目の前で大切な人を失った。

 しかも、今回は本人の意思で捨てられたのだ。

 

 その上で一方的に何かを伝えようだなんて、酷い我儘が作り出した巫山戯た話だと心底思う。

 だから、本人に聞く意思が無いのなら、むしろ無駄な枷を背負わせる必要も無いのかもしれなかった。

 これはある種の呪いの様なものだから。

 現に私は今無理やり使命感に動かされている。

 私だって本当は逃げてしまいたくて、だから去るライラにそれ以上の言葉は掛けられなかった。



「──けど、ライラはまだ諦めてない」

「はぁ……?」


 そんなライラを止めたのもまたネメシスだった。

 しかしその内容は到底理解の及ばないもの。

 何度も自死しようとしている仮定がある上で、流石にそれは無いだろうと他人事のように思った。


 実際、今回だってもう少し駆けつけるのが遅かったら彼女は本当に死んでいた事だろう。

 それを、既に何度も繰り返していて、言ってしまえば毎回ただ運が良かっただけでしかない。

 だけど、


「これは本当は言わないでおこうと思ったけど」

「…………なに」

「自覚があるかはわからないけど、ライラのそれはただの悲しいアピール」


 煽っている以外の目的が私には思いつかなかった。

 しかし焚き付けるにしても時と場合と言葉を酷く間違えている。

 案の定、ライラは一瞬固まったように瞬きすら忘れ、次に動いた時は扉のノブをミシリと鳴らした。


 一触即発の空気が流れだし、当人達以外の全員に緊張が走る。

 戦えば当然ライラに勝ち目は無い。

 ただ、現状敗北はライラにとっては勝ちに等しかった。


「殺すわよ」

「本当に死ぬ気なら邪魔される可能性のある首吊りはしない。ライラはそれが分からない様な馬鹿じゃない」

「………、それはっ!」


「……え、どういう事?」

「かまって欲しい……って事ですか?」

「いや、そうじゃない。……例えば、彼が見ている事を期待しているとか」

「……ッ」


 それは私も一度は至った仮定の希望の話。

 確かに、私が思いついた事がライラに分からない筈がない。

 ライラはまた、しかし今度は驚いたように固まって、それはこれ以上ないくらいの図星の表情に見えた。

 ようやくライラの行動の本質とネメシスの言葉の意味を理解した。

 皆やる事考える事は同じことなのだろう。

 ただ、違うのはそれぞれの覚悟の大きさだけ。


 第四の悪魔は操った魔獣を媒介に遠くから何時でも監視することが出来る。

 つまり、その力で彼がまだ見ているかもしれないと。

 自殺を止めに帰って来てくれる事を期待して首を吊る。


 似たような事を考えていた私は特にライラの事を笑うことなど出来はしない。

 けれど、そのことに対する結論はこの三日で既に個人的に出尽くしていた。


「ユーロはもう私達見ていない。見た上で放置なら、それはそれでもう何も期待できない」

「…………」

「気持ちは分かる。けど面倒だからやめて。私たちにそんな余裕はもうどこにも無い」


 ネメシスの容赦ない言葉選びは、それでも殆どがただの事実で、しかし前に進むためのものだった。

 それにそもそも悪魔がバカ正直にユーロに現状を話すのかという最大の問題もある。


 ただそこには一部可能性がある事も確かだった。

 実際、シーラ達や私も戦闘にはなっている訳で、なら生きている証明を求めるのも自然の流れと思えたから。


 それでも、ノノアがこうして倒れた以上その推察も結局泡となって消えた。

 彼はちゃんと私たちを捨てたのだ。

 少なくとも目的を果たすまではもう振り返らないだろう。


「…………」

「静かになった。じゃあ、パスカル話して」

「……なんか、本当に変わったね……」

「……いや。変わらないよ、私は」


 そう言って薄く笑うネメシスの表情には、初めてだが少しだけ陰りが見えた気がした。

 彼女もきっと無理しているんだろう。

 それでも立てる強さがあるからこそ彼もネメシスにこうして託したのだ。



「分かった。短いけど……よく聞いて欲しい」



 だから、私も最後の役目を果たす。

 これを伝えれば私の生きる意味はきっと無くなってしまうだろう。

 その先に待つものが何なのかは分からないけど、ひとつの節目である事もまた確実だった。


 みんながどんな反応をするかは分からない。

 私と同じように諦めて慟哭するのだろうか。

 それでも私は結局口を開いた。


 少しだけ、そんなことにはならないだろうと直感を抱きながら。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ