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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
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託された二人




 三日ぶりに自由になった両腕には薄まった思考回路でも少しばかりの感動を覚えた。

 目の前で人が人に刀を突きつけて、しかしそれに対してはなんの感情も浮かばない。

 破壊された扉の向こうからは新鮮な外の空気が流れ込んで来る。

 三日前の死の匂いがする空気とは違う。

 少し大袈裟かもしれないが浦島太郎のような気分だった。


「2人とも……ありがとう」

「大丈夫よ。むしろこっちこそ……遅くなってごめん」


 シーラが抱き寄せるように肩を掴んで半ば無理やりではあるけど立たせてくれる。

 昨日食事に自白剤を仕込まれて慌てて吐き出してから何も口にしていなかったからか自分では力が入らなかった。

 はっきり言って大分死を覚悟していた。

 助けを待とうにも男が言うには私は死んだ事になっている筈だった。

 それでもこうして駆けつけてきてくれた二人の姿に、張っていた気が抜け始めるのをもう少しだけだと無理やり堪える。


「お前ら……こんなことしてタダで済むと思ってんのか……?」

「こっちのセリフ。それに私は勇者」

「第七王女だってついてるわよ!」


 ネメシスは壁にたたきつけた男の首元に何時でも振り抜ける様に依然刀を突きつけている。

 彼女が人を殺すとは思えないが、それでも気迫だけはそれを嘘とは思わせなかった。

 彼女と深く関わりのない男なら尚のことだろう。

 ましてや私達は全員、裏切り者と仲の良かった不安定な連中だ。

 それでもネメシスやシーラが言う通り、こっちだって力も後ろ盾もない何も出来ないただの子供じゃない。


「はん、第七?最近話を聞かねぇな……本当に生きてんのか?」

「黙れ」

「こっちには王と……そっちのトップだって付いてる。これは最早国の総意と捉えてもいい」


 しかし男の目にも引く意思は一切見えなかった。

 彼だってやりたくてやってる訳ではないだろうが、同時に背負うものがあることにも想像が着く。

 何せこの国は今追い詰められている。力のない子供一人をこうして閉じ込めている時点でお察しだ。

 だからと言って私自身こんなところで他人の為に命を落とすつもりは毛頭無い。

 みんなが不幸。責任転嫁をしている場合じゃない。

 敵を前にして味方同士で傷つけ合う事ほど滑稽で意味の無い事もそうそう無い。


「その話は後でつける。取り敢えずパスカルは返してもらう」

「クソ……覚えてろ、ガキ共」


 ネメシスは刀を一度振り上げて、峰で男の首を軽くうちつけた。

 速さの割に威力を落とした峰打ちはそれでも男の意識を簡単に狩りとった。

 ここで男を殺せば多分二人の反抗はバレはしない。

 殺すべきか、でもそれを容認すると私達は彼と同じ轍を踏む事になる。

 結局、ネメシスはぐったりとした男を横に寝かせて刀は腰の鞘に納刀した。


 この選択が後にどんな尾を引くかは今は分からない。

 それでも、彼女たちならこうするとわかっていたから、私は疑問も不安も抱かなかった。


「行こう、二人とも」

「ああ……わかった」

「よし。ちゃんと掴まってて」


 先導するネメシスの後に続きシーラに肩を貸されたまま外に出る。

 随分久しぶりの外の空気は嫌なことに釈放された犯罪者の気分を味あわせてくれた。

 細切れにされた扉はよく見れば等間隔に、見事の一言しか素人の私には浮かばない。

 ネメシスが足元の木片を蹴り退けながら、出来るだけ歩きやすいように地面を整えてくれた。


 にしても今日のネメシスは想像の三倍くらい喋っている気がした。

 しばらく会っていないせいでそう感じるだけかもしれないけど、私には少し違う気がした。

 彼女の背中に大きな何かが乗っている。

 それは責任とか役割とか託されたものとしての重圧のような気がした。


 それでも、ネメシスの勇者は既に板に着いている。

 彼女はもう前を向いているのだと実感した。

 シーラも、こうして肩を貸してくれるだけで安心をくれる。


 なら、私も。

 そう思うのはきっと悪い事じゃない。


「ルフレまで少し距離がある。少し度どこかで休もう」

「いや……その必要は無いさ……早く、みんなに伝えたいことがあるんだ」

「えぇ……? 随分やつれてるけど、大丈夫なの?」


 私は最後彼に託された。

 嫌だと言ったけど、それでも無理やり託されたんだ。

 好きな男に別の女の好きなところの伝言を任されるという、正直狂ってるとしか言いようの無い巫山戯た伝言。

 それでも、ライラの会長の件もある。

 けど今は使命感のそれだけじゃない。


 また彼に会えるかは分からないけど、次会った時正面切って怒れるように可能な限りの事はしておきたかった。

 そう考えると、やはりまだ眠る訳にも時間を浪費する訳にも行かない。

 私の時間はしばらく止まっていた分、早くみんなに追いつかないといけないから。


「……そういう事ならこっちも助かる」

「そうね。どうせまた、馬鹿が馬鹿なことしてるから」

「?」


 二人は揃って顔を見合せて、下手くそな苦笑いを浮かべた。

 事の次第は分からない。それでもやっぱり、他にも彼女達を悩ませている事はあるみたいだった。


「「はぁ……」」

「???」












─────────────────────────

─────────────────────




 例の別荘のある王城近辺からルフレまで魔動車で片道五時間はかかる。

 歩けば余裕で日を何度か跨ぐ。

 しかしエタンセルはスプレンドーレと比べて魔道車の普及率が極めて低い。

 代わりに人を乗せて走る代行車もあるにはあるが、それでも片道五時間乗せてくれる人もそう居ない。

 だから基本的にはエタンセルでの長距離移動には魔道列車が使われる。

 詰めれば一両に百人は乗せられる大型人用運搬車。

 最新式の設計には一口かませてもらっており、その最高速度は歴代最高、予定ではルフレ魔術学園・王城間を片道一時間で往来する。


 だからこそ、今はそれらに乗る必要は無いのだが。

 この世でもっとも早い移動手段が文字通り風のように私を運んでくれた。


「はは……ぅっ」

「だ、大丈夫?酔ってない?」


 シーラの背中に体を預けながらその背に揺られること早三十分。

 強力な風圧に押し止められながら、しかし魔力の流れる学生はこの程度で死にはしない。

 しかし一切息を切らしていないシーラとネメシスの様子には些か同じ人の血が流れているのか不安になる。

 渡された紙パックの栄養剤に結局口をつけられないまま、しかし今は何も出すものも無いので彼女の背中を汚す心配もなかった。


「はは、馬車馬は、慣れっこさ……ぅっ、昔、安物の……っ…………サスペンションを……………………………………」

「いや無理して話さなくて良いから……」


 学園の正門を前にして、丁度噴水があったのをいい事にシーラがゆっくりと下ろしてくれた。

 よろよろと覚束無い足取りで近付いて多少の衛生面は気にせず水に顔を浸す。

 この噴水の浄化装置や排水の経路は全て頭の中に入っている。

 つまり迷惑はかからないし、病気にもなりはしないだろう。

 冷えた水が火照った体から熱を奪う。

 高速移動による人体への負荷は魔道車の最難関と言ってもよくうんぬんかんぬん。


「──あっ……!皆さん!」

「む」


 丁度そのタイミングで誰かが駆け寄ってきた。

 声からして恐らく生徒会の書記、リグ・バレット。

 今何時かはざっとしか分からないが、それでも忙しいであろう生徒会がこんな場所にいる理由は分からなかった。

 というか、そもそも勇者やその次に強いシーラが自由に動ける道理も簡単には思いつかない。

 死んだ筈の人間を探しに行くだなんて、相当無茶をしたのではないだろうか。


「ただいま。上手くいったよ」

「上手く?」

「ほら、そこで吐いてる」

「ぶはっ!吐いては無いよ!……はぁ、ひさしぶりだね、書記君」


「パパっ、パパパパスカルさんーー!?」


 リグはそのまま尻もちを着いてスカートが捲れるのも気にせず後ずさった。

 化け物でも見たみたいな反応には流石に誰だって傷付く自信がある。


「なんッ……本当に……!? ゆゆ幽霊!?」

「失礼な……こうしてちゃんと生きてるよ」


 本当に、自分でもまだ少し不安になるが。

 三日間の隔離もそうだったけど、今は更に浮遊感で魂が抜けたような気分だった。

 それを言うときっとシーラは気にするだろうから、それに早く帰りたいと言ったのは他でもない自分自身。


「おっ…と」

「良かった……!良かったよう……!」


 何て物思いに耽っているとリグが抜かした腰を無理やり立たせて抱きついて来た。

 その目には少なくない涙が浮かんでいる。

 私はどちらかと言うと研究室にこもってばかりで、他人との接点を持ってこなかったと自覚していた。


「はは……あんまり交流も無かったのに、泣いてくれるのかい?」

「そんなの関係ありません!うぅ、生きててよかったですぅ……!」


 やはり人の温もりというのは何にも変え難い温かさがある。

 こればっかりはいくら魔道具好きでも、エンジンの排熱とは比べ物にならない。

 比べる時点で失礼なのかもしれないがそこは職業病という事で許して欲しい。


 同じ学年、同じ歳でこういう形は少し不自然かもしれないが私はリグの頭を出来るだけ優しく撫でた。

 彼女もきっと今回の騒動で誰かを失っただろう。

 リグとクラスは違うけど、教室から一人居なくなるだけでも空気感が変わる事は誰もが知っている。

 それが大事な人なら、尚更だ。

 私なんかにもこうして泣いてくれる優しい子なら抱えるものはきっと多いだろう。


「リグ、会長に伝えて欲しい事が有る」

「………はい。パスカルさんがこうして生きていたのなら……そう、なりますよね」


 そしてネメシスから発せられた不穏な空気にリグの顔が一気に曇り始めた。

 どうやら、というかやはりリグもある程度の事情を知っている様だった。

 しかしリグがこちら側に居るということは、おそらく会長と敵対する立場にあるという事。

 取り巻いている複雑な状況はすぐには分からないが、それでも今が多少の山場であることは理解した。

 こんな事に巻き込むのは忍びないが私一人ではどうしようもないので誰かには頼らざるを得ない。


「本当に、会長が……」

「ああ、話をしないといけない」


 ネメシスは話と言いながら軽くではあるが刀に手を添えた。

 その行動の意味を理解したリグは震えつつ感情と正義の間に揺れ動いている。

 迷ってる。けどそれはきっと悪いことじゃない。

 少なくとも、私たちが責められる様な事では無い。

 会長の行動も間違いなく正義によるものだ。この状況で疑心暗鬼になる気持ちもよく分かる。


「リグがどっちに着くかは自分で決めていい。取り敢えず伝言だけは頼みたい」

「……はい」

「今夜、会いに行く……首を洗って待っていろと」

「……わかりました」




「じゃあ、行こう」


 今、何がどこに向かっているのか。

 きっと、分からないのは私だけじゃないと思う。





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