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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
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三日後






「……ノノアちゃん……」

「…………」



 薄命の少女はその身をとして死の運命から多くを救い出した。

 限界を超え、自身への大きな代償も厭わずに。

 突如舞い降りた奇跡に素知らぬ人々は感謝し、暗い現実の中でも手を取り合って笑いあった。


 まるで神から授けられた無償の救いかの様に、しかしその先に待つ代償には目を向けない。

 未来を見通す神のような存在でもない限り、きっと彼女の結末を知るよしは無いだろう。


 それでも、確かな事はそれしか無かったと言う事だ。

 いずれにせよ誰かが誰かの生を望む限り彼女の意思に問わずこの結果は避けられなかった。


「…………」


 そして、役目を終えた少女は深い眠りに身を委ね、その傍で手を握る少女は何も語らなかった。









「──行くぞ」


「はい、会長!」

「が、頑張ります!」

「やるしかないねぇー」

「……ああ」


 ルフレの生徒会は復活した。

 誰一人欠けることなく、既に元通り忙しなく働いている。

 情報の収集から整理、実働の指示にいたるまでこの五人だからこそ出来ることに日夜奔走している。


 自身の死の記憶はそれぞれ鮮明に、しかしその程度で震え足踏みするわけにもいかなかった。

 一度は明確に失敗したからこそ次は無いようにただ前だけを向いて行く。


「…会長?」

「……何でもない」


 人は失わないと大事なものに気付けない節がある。

 逆を言えば、だからこそ彼らはもう大丈夫だった。

 これからは選び、守る決断をした上で最前の道を歩んで行けるだろう。











──────────────────────────

─────────────────────






「難儀なものだな……人というものは」

「…………」



 ノノア・エレノイトによって治された死人の数は総数の凡そ四割にも及んだらしかった。


 これは人によって解釈が分かれる割合だが、それでも総数が馬鹿にならないせいで途方もない数である。

 まだ完全に捜索は行き届いておらずその割合は日に減り続けはする事だろう。

 それでも元々ゼロだった事を考えれば手放しに喜んでも罰は当たらなかった。


「はは……そうだね……」


 当然今回の敗戦で生まれた益などひとつもない。

 ただ壊され殺され奪われて、ついでに言えばエタンセルの他国への影響力も弱まった。

 依然続いていたスプレンドーレへの復興支援も余力がなく止めるしかない状態。

 それに加えまだ無事な国々も怯え始め、支援も対面を保つ程度で自国の保守に入り始めている。


 ギリギリ自力で持ち直せるかどうかのライン。

 仮に今次が来たのなら為す術なく先日以上の蹂躙を目にするだろう。


「アテルと……サーシャは?」

「素直に答えれば教えてやると言ってるだろう」


 そして今、一人の天才が自由を奪われていた。

 腕に枷を嵌められて、目の前には手がつけられていない簡素な食事が置かれている。

 鍵を開け部屋に入ってきた男性は馴れたように近くの椅子を引いてそこに座った。


 そして二人の間に隔たれた机の上に、男性がポケットから取り出したあるものを置く。

 電源が入れられ開かれた履歴のページ欄には今回の騒動の鍵を握る者の名前が刻まれていた。


「何とか音声データを取れないものかね」

「…………」

「……そもそも、君が素直に全て話してくれれば済む話なんだが」


 男性はお手上げだとでもいうように分かりやすくジェスチャーをした。

 パスカルはここに閉じ込められてもう三日になる。

 環境の悪い埃まみれの木造平屋の中で風邪をひいていないだけでも幸運な方だった。


 劣悪な環境に身を置かせることは尋問において基礎の様なものである。

 誰から見てもパスカルの扱いは要人ではなく捉えた捕虜に近しいものだった。


「食べてないのか」

「……食欲がなくてね……」

「長丁場になる。栄養は取っておいた方がいい」


 男性はパスコールを再びポケットに仕舞い込み、腕を組んで見せ付けるように深くため息をついた。

 まるで聞き分けのない子供に手を焼く親の様に。

 その不遜な態度に迷いや罪悪感等はなく、パスカルはそれを視界に入れないように俯いた。


 根本悪いのはどちらでもない。

 言ってしまえば彼女の運がなかっただけだった。

 最後の伝言を受け取ってしまった少女と、それを見越して壁の薄い部屋に閉じ込めた大人達。

 

 パスカルは既に一部を除き内容は伝えている。そして彼女以外にその情報が嘘かどうか判断できる者はいない。

 故にこの尋問に似た何かは別の意味を孕んでいた。

 例えパスカルが全て正直に話していたとしても敵から受け取った情報はそもそも信用するに値しない。


 ただ、最後の伝言を伝える程仲のいい彼女を餌に、例の男をここに釣り上げる為だけに。

 パスカルが嘘をつこうが正直に話そうがそんな事は最早勝つ為にはどうでも良かった。


「いつまでこうしているつもりだ?」

「…………こっちの台詞だよ」

「はは、言っておくが助けは来ないぞ? この件は既にルフレの生徒会長にも話は通してある」


 パスカルは見えないよう顔を伏せながら唇を噛み締めた。

 こんな事をしている場合では無いのに自分だけが三日前の状況のまま取り残されているからだ。

 吐いた伝言が彼女たちに伝わっているならまだ良かった。

 けどきっとそんなことは無い。

 こんなことをしでかす姑息な連中が態々暗号かもしれない伝言を伝えるとも思えなかった。


 そして、これだけ時間が経てば彼も助けには来ないと分かった。

 第四の悪魔は常に遠くから見ている……だから彼も見ていると、その前提が傍から間違っていた。

 きっと彼はもう自分達を見ていない。

 見れば、また決意が揺らぐからだ。

 それを知らないし理解もしない大人達は、果たしていつになったら自分を解放する気になるのだろうかと。


 誰を恨めばいいのか分からなかった。

 この周回に生まれ落ちてから大半が不幸な記憶で埋め尽くされている。

 それでも手離したくない記憶も彼女にはあって、その殆どがある一人の男の笑顔だった。

 同じ部屋で同じものを作って、同じように汚れて一緒にライラやサーシャに叱られる。


 もう、二度とあの光景は自分には訪れないと、そう考える度に全てがどうでもよくなって───





 コンコンコンッ




「ん?」

「…………」



 二人、ほぼ同じタイミングで扉を見た。

 軽い木特有の高い音が部屋に響く。

 パスカルは外の状況を知らないが男が素っ頓狂な声をあげるのは彼女からすれば些か疑問だった。


 それは意図しない来客を意味するものだったからだ。

 男は数秒考えた後何かに気づいた様にはっと立ち上がる。

 この別荘は既に本来の使い方はされていない。

 しかしその大元の所持者には使用の許可は得ており、尚且つこの状況はごく一部の上澄みの数人しか知らなかった。

 その中には確かにルフレの会長も入っているが、副会長ですら何も聞かされていない最重要の機密事項。


 パスカルの事は訃報として既に回っている。

 だからそもそも彼女を探そうとする者が居るはずがなかった。

 だからこそこんな奥まった人目の付かない私有地に予定のない来客が来るはずが無く男は困惑した。


「誰だ?」

「…………」


「おいおい……釣れたか?」


 男は直ぐに内ポケットから小さな銃を取り出した。

 そして先程取りだしたパスコールとは別の、彼自身のものを取りだして緊急コールボタンに指をかける。

 扉の先にいる人物が男が待ちわびていた人物である可能性が浮上したからだ。

 そして、それが本当なら随分都合が悪いと男は苦笑いしながら銃のセーフを外した。


 男もそれなりに背負ってここにいた。

 本当にパスカルが内通者で奴がここに助けに来たのなら、まず間違いなく真っ先に男は殺されるからだ。

 いよいよその時が来たかと流れる汗を拭うこともせず、男は扉に拳銃を突きつけて何時でも撃つ覚悟と死ぬ覚悟を決めた。


 しかし、この場合誰にとっての幸か不幸か。

 扉の向こうにいる者以外誰もが予想を外すことになる。



「……パスカル?」

「……! その、声……!」








「──やっぱり生きてたッ!!」



 扉は結局開かれることは無かった。

 しかし不自然に数度光ったかと思えば、鋭利な刃物で切られたかのようにバラバラに崩れ落ちる。

 そのまま外にいた人物は息つく暇もなくスルりと空気と一体化したように中へと入ってきた。


 そして、反射で銃を撃った男の手から赤い炎の塊が飛び出した。

 しかし男の反射速度ではあまりに遅すぎた。

 その魔道具は本来相手に当たるはずもなく……しかし、何故か避けようとしない侵入者の胴体に直撃した。

 そして直撃した上でその少女は微動だにせず、魔法はその身で霧散し彼女は再び刀を翻した。


「ぐぅッ……!?」

「動くな。首が落ちるぞ」


「──パスカル! 無事!?」


 刀を持った一人の少女、ネメシス・ブレイブが男を一秒と掛からず拘束する。

 続いて中に入ってきたのはそちらも見知った顔で、焦った顔に少しの笑みを含ませるシーラの姿だった。


 久しぶりに見た仲間の顔に思わず安堵が浮かび張っていた緊張が次第に抜けていく。

 乾いた笑いすら喉から漏れ出そうな中で、ネメシスが男を引き摺って壁に叩きつけその首元に刀を突きつけた。


「ぐッ…! ゆ、勇者……!?」

「間に合ってよかった。お陰で人を切らなくて済む」


 言いながら、しかし彼女の目はひとつも笑っていない。

 むしろ切りたくてたまらないという顔のように男には見えた。

 いつも迷いのない彼女の刀は怒りのせいか少し小刻みに震えている。

 シーラが手刀でパスカルの手枷を外す中、パスカルは未だ状況を理解しきれていなかった。


 

 でも、これでもうなんの心配も要らないことだけはここに人類最強の二人がいる事実が教えてくれた。





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