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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
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ハナバタケ




蘇生優先リスト降順


ルシャール・エタンセル

ミグリア・エタンセル

ウィンストン・エタンセル

リック・カトラ

エナーストロ・マグハント

ハウンド・フィクサー

リアロ・エタンセル

イデンス・アウト

ライラ・エタンセル


……

…………

………………

……………………


ミュタ・ロイゼス

リグ・バレット

ネム・ベイト

ヨール・フール

コタ・アニュー

カミル・スコッチ


……

…………

………………

……………………


アテル・ハイト

サーシャ・ハイト


……

…………

………………

……………………






「なに、これ」



 白い指が文字の羅列をなぞる。

 左から右へ、段落を下げてまた右へ。

 白と黒だけで構成された数十枚の紙の束には、一枚に凡そ百の項目が小さく、しかし見やすく並んでいた。


 目を通せば通すほど余計に文字が形を崩して羅列の意味が分からなくなっていく。

 魔法の文字みたいな構造の集合体の中には私が知っていそうな回復魔法は入ってい無かった。


 けど、何処か引っかかる言葉も有る様な無い様な、それが何なのかまでは分からなかったけど。

 こんなことをしても何にも始まらないと、私は、ノノア・エレノイトは会長から渡された紙から顔を上げた。


「上から治せ。居ない奴は飛ばしていい」

「…………」


 言われて、ようやくこれが人の名前なのだと理解した。

 直せと言うのならきっと怪我人のリストなのだろう。

 一枚目、その一番上に書かれた文字だけが不自然なまでにぼやけてよく読めなかった。


 医療の世界には緊急性による優先順位は有るし、事の次第は薄ぼんやりとだが把握した。

 しかしこの羅列一つ一つが怪我人の名前ならどう見たって数が多すぎて手に終えそうになかった。


「三枚目までは死ぬ気で治せ。良いな」

「……これ、私一人でじゃ無いですよね?」


「…………何?」


 私は目が覚めて、その時初めて気を失っていた事に気が付いて、そしたら世界が大変な事になっていた。

 そこかしこが燃えたり異臭が凄かったり、多分戦いがあったんだろうな位にしか分からなかったけど。

 真っ白な頭で意味もわからず駆け出そうとした私をその時確か誰かが捕まえた。

 あまりに慌てていて記憶も曖昧で、分かるのはそれがメイちゃんでもユーロでも無かったって事。


「メイちゃんは……? メイちゃん……さっきまで、一緒にいたの……」

「…………」


 ここにもメイちゃんは居なかった。

 知らないおばさんが一人、何でかずっと何かを話しかけてくる。

 気が狂いそうになって、訳が分からなくて、そしたらやっと知ってる顔が神妙な表情で部屋に入ってきた。

 そうして会長から渡されたこの紙にどれ程の意味や意思が込められているのかは分からない。

 というかそんな事は至極どうでも良かった。


 波が、激しくて、世界が今にも酔いそうだった。


「……知らん。良いからさっさとやれ」


 会長は私の質問には答えない。

 ただ私を一瞥して、さっさとしろと扉を開け放つ。

 おばさん……多分だけどここの常駐のお医者さんもいつの間にかどこかへと消えていた。

 こんな陰気なところには居たくないから、まだ考えも纏まらない中私は椅子から立ち上がる。


 そして恐る恐る外に出ようとして、でもその前に嗅覚が異変を察知した。

 開けられた扉の向こうから嗅いだことの無い異臭が──



 ──いや、この匂いには覚えがある。


 それは“一つ前”の記憶の、雪が赤く染った最後の日と同じものだった。









「見つかり次第運ばれてくる。お前は何も考えなくていい」


 そう言って、彼は私の背中を押し出した。

 それはぎゅうぎゅうで、まるで赤いお花畑かと思いました。














─────────────────────────

──────────────────────










 酷な事は分かっている。

 人道的でない事も重々承知である。

 何なら彼女には刺激が強すぎた。


 それでもこうしなければならない理由がある以上、俺は鬼にでも……それこそ悪魔にでもなる覚悟があった。


 そういう思考になる時点で本来あの男を責める資格は俺には無い。

 だがそんなことは関係なかった。


 運がなかった。タイミングが悪かった。

 たったそれらの小さな差で人生が大きく変わるくらいにはこの世界が無慈悲で残酷なだけである。


 そして、俺はこちらの立場に立っている。

 理由はそれだけで良くて、だから向こうの事などどうでも良かった。


「……………………………………」

「おい」


 目の前の光景は俺から見ても酷いものだった。

 言葉で具体的に表すのも躊躇うくらいに、この世の罪を煮詰めたような凄惨さである。

 酷い匂いは最早マスク等も意味をなさない。

 空気すらも赤く見えそうな世界の中で、奴らは今この光景も見ているのだろうかとふと思った。


 そして、それを見て固まったままエレノイトは動かない。

 しかし既にあの会議からまた二時間、しめて五時間強の時間が経っている。

 悠長にしている暇はどこにも無い。

 目隠しでもさせればよかったかと後悔しはじめ、肩をゆさぶろうと近づくと俺はある異変に気がついた。


「………・…………・・……・…・……・・・……」


 ブツブツと何かを小さく呟いている。

 しかし小さ過ぎて殆ど何も聞き取れない。

 目は据わって瞬きひとつせず、時間が止まったみたいに口以外ぴくりとも動かなかった。


 直感的にこのままではいけないのだろうなと、一瞬たりとも休めていない頭に痛みが走る。

 しかし替えがきかない上に時間もない。

 散々休ませた挙句また休ませるなど、許容しがたいがとは言えひとまずそれ以外に手はなさそうだった。


「クソが」


 揺さぶろうと思って肩に置いていた手に、気絶する程度の電流を流そうと考える。

 一度頭を白紙に戻して回復魔法を掛けてから、今度は頭に箱でもかぶせて無理やりやらせてみようかと。


 しかし人は呼吸が必要な以上どうしたってこの赤い空気が思考の邪魔をしてくる筈である。

 コイツが何処まで冷静に求める結果を出せるのかは分からない。

 だとしてもこの惨劇から逃げる事だけは許さない。

 回復系統の癖に人を直す意思も無いのなら、そのまま発狂してアイツの前で死んでしまえと俺は思った。


「一回寝ろ」

「……・…・…………・・……・……」


 ボルト。

 俺はそう唱えようとした途端、死体を運び込む為の扉とは別の扉が静かに開け放たれた。

 本来そんな程度の差位に気付く様な状況ではない。

 それでも俺がそれに気づいたのは、エレノイトがそちらの方を向いたからだ。


 ようやく見せたまだ人間らしいされど緩慢な動きに、何が彼女の興味を引いたのか気になって俺は魔力を止めた。



「…………いた」



 そこにはミラから話を聞いていた、役目を放り出して私情に走ったルイ・ピックが立っていた。



 エレノイトとも先輩後輩の垣根を越えて、その妹共々懇意にしていたらしい。

 そしてその登場は今の俺にとっては朗報だった。

 俺は彼女に説得を任せようと考えて、彼女の元へエレノイトを放って近寄った。


 しかし、エレノイトが反応を見せたのは親しい間柄の登場にでは無かった。


 さらなる絶望への嗅覚が限界まで研ぎ澄まされていただけだった。



「…………ノノア………………ちゃん………」




 ルイは、彼女と同じくらいの大きさの何かを背中に抱えていた。




 そして壊れた玩具のようにゆっくりと伏せていた目を上げる。

 その目は虚ろで涙の跡だけが残っていて、一歩、また一歩とブリキの様にエレノイトの元に近づいて来た。


 俺は直感的に彼女にそれを見せてはいけないと、その前に立ち塞がる様に視界を覆い隠す。

 “それ”が怪我人だったならエレノイトに頼む必要は無い。彼女が自分で直せば良いはずだ。

 ならばそれは確実にそういう事で、それが引き起こす結果に良い想像が俺には出来なかった。



「……助けて……■■を、……たす、けて……」



「駄目だ、待て!」



 俺はどうするべきかと思考をめぐらせる。

 しかし何も思いつかず、統率の取れない馬鹿共にただ苛立つ。

 思えば、あの男の周りにいたヤツばかりが何時も勝手な行動を悪びれもなく取ろうとする。

 昔のノノア・エレノイトは確かこうでは無かった筈で、だから全てはあの男の影響と言って良いのだろう。


 何て、今は関係の無い事を考えていると。

 俺の背後からその細い手が伸びてきて、俺の右手を掴んで押しのけた。

 それは人とは思えない程の膂力でもって、ただ掴まれただけなのに骨に鋭い痛みが走る。



「……たす……けて」

「……………………」



 そして、彼女の目の前でルイはとうとう力尽きた。

 崩れ落ちるように座り込んで、その背中に背負っていた者を出来るだけ丁寧に床に降ろす。

 ここまでずっと担いできたであろう胆力は、しかしほぼ精神力だけで補っていたのだろう。


 過呼吸になりかけの嗚咽の交じった声で、しかし確かに聞き取れる声でその願いを口にする。

 俺はそれを彼女に聞かせてはならないと、しかし全てがどうしようもなく遅かった。



「たすけて…………メイを……、助けでぇ゛……っ!!」




「────メイ、ちゃん……?」





 それは、どうしようもないくらい安らかな顔で眠っていた。

 腹に大きな穴が空いていなければただ眠っているとしか思わなかっただろう。

 彼女もまた残酷なこの事件の被害者で、なんの罪もない未来を期待された若者の一人である。


 ただ、それは皆同じことだ。

 勝手な事は許されないし、許されるなら誰もが俺も私もと手を挙げる。


 先も言ったがこうしている間にも時間はどんどん過ぎていく。

 そして死体も次々運ばれて来る。


「…………メイ、ちゃん……?」

「待て!」


 エレノイトは震える手をその身体へゆっくり伸ばした。

 しかし俺は寸前のところでそれを掴んでとめる。

 エレノイトは一瞬だけこちらを不思議そうな顔で見て、しかしそれもただの一瞬ですぐに前へと戻った。


「後にしろ、順番がある。……ソイツの名前はリストにも載っていない」


 俺の言葉を聞いてルイの顔は絶望した。

 対照的にエレノイトは聞いているのか聞いていないのかもよく分からなかった。

 放心状態のように見えてしかしどこか違う、まるで別の世界でも見ているかのような不自然な挙動。


 明らかに心の許容量を超えているのだと分かった。

 発狂するのとどちらが悪いかは分からないが、とにかく今は頼むから言うことを聞けと──


 そんな意思を込めて、いい加減にしろと。

 そう叫ぼうとした俺の喉を、エレノイトの華奢な腕が下から掴みあげた。



「がっ」

「……さっきから……あなた、うるさい」



 そしてここで俺の意識は途絶える事になる。

 その軽快な音を脊髄で聴きながら、この壊れた女への恨みも抱けなかった。
















✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿








 ──私の名前はノノア・エレノイトです。

 回復系統が得意で、誰かを助けたあとの感謝と笑顔が大好きです。


 後、エビフライとミラ先輩とルイ先輩も好きです。

 メイちゃんとユーロは大大大好きです。


 今、私はお花畑に来ています。

 ここに来た経緯は正直いうと覚えていません。

 真っ赤なお花畑はとても綺麗で、まるで海みたいに何処までも広がっています。


 けど、どこを見ても赤色しか有りません。

 きっと、ここにお花を植えた人はとても赤色が好きな人なのでしょう。

 私は色んな色がまばらに咲いている方が好きだけど、それでもこの景色もとても良いものだと思いました。


 こんな場所を彼とふたりで歩けたらなと思うけど、流石にそう贅沢は言いません。

 だって、私の隣には大好きな親友が居てくれるから。

 彼女はずっと私のそばに居てくれると約束してくれて、恥ずかしいけどあの時は泣いちゃうくらいに嬉しかったです。



「──駄目───やめ──!!── ノノアちゃ──!」



 そして今も、こうして隣にいてくれてます。

 まるでじゃれ合うみたいに私の手を掴んできました。

 彼女はとてもスキンシップが大好きで、でも正直いうと私も嫌いじゃありません。

 私は彼女の手を掴み返して、この綺麗なお花畑の間を歩いていきました。



 二人で散歩はとても気持ちがいいです。

 ここに連れてきてくれた人には感謝しかありません。

 でも、よく見るとそのお花たちは所々が枯れていて、私はそれを見て可哀想だななんて思いました。

 だから、ちょっと勿体ないかもしれないけど少しだけ時間を戻してあげるんです。


 そしたら、ほら、あっという間に元気になりました。

 これでもう大丈夫、何も心配は要りません。



「──お願──もう──れ以上──!死んじゃ───ッ! !!」

 


 隣で大きな声で何かを叫ぶメイちゃんに、私は大丈夫だよって笑ってあげました。

 彼女はここぞと言う時頼りになるけれど、普段は小心者な普通の可愛い女の子です。


 だから同い年で、親友だけど、それでも私は少しだけ偶にお姉ちゃんぶります。

 本当の彼女のお姉ちゃんにはまだまだ遠く及ばないけど。

 何ていう風に考えていると、そのルイお姉ちゃんも私達の近くにいました。



 これで三人です。

 大好きな人達に囲まれてる。

 少し贅沢を言うならここにあと、ミラ先輩と……



 …………彼も、いてくれたらなあって。



 でもそれは、やっぱり少し贅沢なのかも知れないね。






 ………………?






 …………………。







 そう言えばなんで、私の隣に彼が居ないんだろう。

 ずっと一緒に、大事にしてくれるって言ったのに。







 …………………………?







 ……………………………。








 ああ、そっか。









 全部思い出した。









「─────ノノアちゃん!!」









 ならきっと、これで一緒に死ねるね。ユーロ。







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