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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
王女に捧げる薄弱生離
59/83

助けに来たわよ




 その手はライラの頭に添えられている。

 その目にはハッタリでは生み出せない覚悟が宿っていた。

 騒がしい筈の歓声が何処か遠く聞こえる中、ライラの表情がそう判断までの時間が無いことを悟らせる。

 彼女の頭に突きつけられているその銃口は同時に俺の存在意義も消し去ろうとしていた。


 しかし、止めてはいけなかった。

 だけど止めなければいけなかった。


 もう、迷わないと誓ったばかりなのに。


「ま………待て」


 かつての世界でライラが迎えた最後の瞬間。

 それは孤独と後悔、懺悔と自殺に濡れた最悪のバッドエンドの記憶。

 それは他でもない本人から既に聞いていた事だった。

 俺が居なくなった先がまだ続いていた事もその時知って、そしてもう二度とそんな思いはさせないとも誓った。


 なのに、ライラに取らせている今のこの状況。

 その意味、その気持ち、どんな覚悟だなんて想像も及ばなかった。

 なりふり構ってられないのは、俺も彼女も同じ事だと分からされる。

 そうまでして守る価値なんて今更俺には残されて居ないのに。

 

「待て? ……それは、考えを改めるって事?」


 俺はどうしてもやらなきゃいけないからここを離れようと考えた。

 つまりライラが何と言おうと今更選択を変えることは出来ない。

 ここでライラの言葉に頷く事ができるなら俺はきっと最初からその選択を取っていた。

 でも、それならそれであの時ロイゼ達を殺している。

 だからこそここでライラを見捨てる選択もまた有り得ない。


 選べるはずもない究極の二択をまた迫られて、今度は保留も考える時間も作れなかった。

 どちらをとってもどちらかが今明確にこぼれ落ちる。

 今まで散々考えてきた結論が簡単に塗り替えられていく。


「敵に生かされるくらいなら私は死を選ぶ」

「そんな…………」

「死ぬから何? 世界が滅ぶからなんだって言うのよ」


「そんなのもう、一度経験してる」


 その言葉は呪いのように俺の心に絡みついた。

 俺は一度、彼女を不幸で終わらせている。

 そしてこの場では自殺を止めることは出来たとしても、俺が彼女の傍を離れればまた同じ事だった。


 自殺もある種の選択だと俺は思う。

 俺だってこの長い間で経験がない訳は当然無かった。

 でもそれは勿論周回ありきの話で、この世界でその選択をとる余地があるとは想像もしていなかった。


「正直失望してるわよ。まさかそっちを選ぶとは思ってなかったから」

「…………」

「けどね、それでもまだ離れたくないの…………記憶って、本当に厄介ね」


 この数日の間にどれ程の数、どれ程の人を失望させただろうか。

 それでもライラが俺に縋ろうとするのは最早依存の領域に足を踏み入れていると思えた。

 ノノアが目立って苦しんで見えるが、ちゃんと見ればライラもそれに引けを取らないのかもしれない。



 そうだ。俺はライラを苦しめている。

 ライラだけじゃない。苦しめて縛り付けて……皆の選択肢を奪っているのは俺の方だった。

 俺との記憶が彼女達から自由を奪っている。

 それさえなければ世界を亘ってまで俺なんかに執着しないで済んだのに。


「はは……」


 そして、その事に俺は今更気がついた。

 シーラがいい例だった。彼女は新しい力も、新しい友達も、新しい環境も、今は何もかもが新鮮と可能性で満ち溢れている。

 俺という束縛を離れた彼女だけが傷つかず、病まず、諦めなくて済んでいる。


 対してノノアにライラ、そしてアスモデウスは皆俺のせいで本来の自分を失いかけていた。

 パスカルだけはいつも通りのように見えたけど、先日彼女の本音も少し垣間見えた。



「……分かった」



 だから、結論。

 冷静に考えればこの最後のぶっつけ本番で魔王に勝てるわけも無いのだ。

 それは目を瞑っていた悲観的な考えで、しかしこうなってくると嫌でも目に付いてしまう。

 長すぎる繰り返しと研鑽でアドリブ力を失った俺にこの世界はあまりに厳しすぎた。


 だから、人として生きて、最後はちゃんと人として死ぬ。

 この最後の世界を傷ついた彼女達への贖罪として使う。



「ここに残る」

「………そう」



 俺はライラにそう伝えた。

 俺の中ではこれは諦める選択肢とそう変わりない。

 けど、ここで彼女を切り捨てられない覚悟もない勇者にそもそも世界が救えるとも思えなかった。



 ハッピーエンドって一体何なのだろうか。

 それは誰にとっての幸せで、どれほどの人にとっての不幸になるのだろうか。


 俺にはもう何も分からなかった。

 世界から目を背けるように俺は目を、瞑った。



「良かった」
























『助けに来たわよ』




「え?」

「は?」



 それは酷く聞き覚えのある声だった。


 今俺たちはベランダに二人で居て、そしてその声は何故か室内から聞こえてきた。

 当然鍵をかけ忘れたなんてことも無いしそもそも王女の部屋に無断で入る不届き者はそう居ない。

 だから、それが異常な事であるとはすぐに分かった。


 少し低めの暗い女性の声。

 それと同時に常時張り続けていた探知魔法がそこにいる人物が誰なのかを指し示す。

 けどそれではあまりにも全てが遅すぎた。


 禍々しい服装をした、スタイルの良い長身の女性。


 ロイゼがそこに居た。


『ハイ、ユーロ』


「ロイゼ……!?」

「魔人ッ──!!」



 彼女はまるで世間話でもするかのように、友達に挨拶でもするかのように何処か楽しげな顔をしていた。

 久しぶりに見た顔は記憶と何ら変わりないもの。

 しかしだからこそ、今この世界で俺に向けるその表情とこの状況のミスマッチさが異様さを際立たせた。

 

 そして探知魔法が目の前の存在だけでなく、近辺に散り散りに四箇所指し示す。

 察するにロイゼ達魔人全員がここに来ている。

 その目的、タイミング、全てに嫌な予感がして俺は一瞬固まった。


「ライトショット!!」

「待っ──!」


 けど、ライラは違ってこんな時でも自分の目的に一途だった。

 ロイゼを、憎い相手を殺す為に。その意思を貫き通してきた彼女はただの一瞬でさえ迷わなかった。

 ほぼノータイムでロイゼに魔法を打つ。丁度自分に向けて溜めていたものがそのまま使えたからだ。


 言ってしまえば初級魔法。それでも、世界最高峰の初級魔法がロイゼへと突き進む。


 けど、奇襲した側のロイゼに当たるとも俺は思えなかった。

 それで言うと何故攻撃せずただ姿を現したのかも分からない。

 けどその違和感は他でもない彼女が直ぐに教えてくれた。


 ロイゼは魔法を避けようともしなかった。


「え」


 頭蓋を狙った殺す為の一撃。

 それはロイゼの左目に直撃した。

 血が飛び散ってライラの部屋を赤く汚す。

 貫通まではしなかったようだが焼け焦げた跡のように軽く片目を失明させた。


『いったい…………ッ!』


 本来その声も、その身動ぎですら人くらい容易く断ち切る不可視の攻撃となる。

 なのにその兆しすら未だに一切見せようとしない。

 そんな中ライラは既に先程より強い魔力を練り始め、ロイゼが怯んでいる隙に駆け出した。

 

「ライラ、待て!!」

「黙って!!」


『はぁ……じゃじゃ馬ね……!』


 ライラは当然止まらない。

 そんな事は分かっていてもそう叫ばずには居られなかった。

 ロイゼはどう見たって戦う意思を見せていない。

 俺を巻き込むとかも関係なく、幾ら範囲攻撃と言えどライラだけを狙うことも彼女は出来るからだ。

 なのにそれをしない理由。


 先程ロイゼは、俺に助けに来たと言った。


「ライトソウ!!」

「……!」


 恐らく、ライラが使える魔法の中で最も火力の高い光のチェーンソーが現れる。

 しかし前みたいな奇襲ならいざ知らず、ライラの機動力で本来ロイゼに当たるはずも無いのだ。


 なのに、やはりロイゼはそこを動かない。

 焼けた左目を手で押えながら、そんなロイゼの右目と俺は目が合った。

 その間もその首に真っ直ぐ白い軌跡が突き進んで、それは幾ら魔人でも死に至る一撃だった。


 訳が分からなかった。

 助けに来たというより、まるで殺されに来たみたいに。

 けどそんな事をする理由はどこにも無かった。

 幾らアスモデウスでも死んだ魔人をまた生き返らせることなんて出来はしない。


 それにノノアがロイゼを治してくれる保証も無い。

 今ここで何の説明も聞かず見殺しにする選択肢は俺には取れなかった。


 だから、俺の張った無系統魔法のシールドがあの時のサリアみたいにまたライラからロイゼを守る。


「……ッ!」

『ふふ──信じてたわよ』


 そしてロイゼは笑った。想定内とでも言うように。


「ライラ待て! 敵意を感じな──」

「馬鹿、言ってんじゃ無いわよ!!!」


 しかしライラも今度は前みたいには止まらなかった。

 光がより高速回転して火花が迸る。

 遠距離魔法と違って近接系の魔法は一度の魔力で持続するから魔力の少ないライラとは相性が良い。

 たった百幾らかしかない魔力で出来た光の魔法に、数百注ぎ込んだ中級魔法が切られ始める。


 しかし俺はそのままシールドを断ち切られる前に、押し広げる事で無理やり二人に距離を作らせた。


「……ッ」


 そして、俺も言ってから違うとわかった。

 ロイゼに敵意がないからと言って、ライラに手を引く理由はどこにもないからだ。


 それでも俺は二人の間に陣取った。

 殺すために迷わないライラ、戦うことを捨てたロイゼ。

 今俺に必要なのは殺させない為に迷わない事だった。

 ライラも今は自殺の考えが頭から抜けている。

 憎い相手が現れて冷静さを欠いた事が今は助かっていた。

 こうして、よく分からないうちに強制的に話し合いの場が設けられる。



『はぁ…………ねぇユーロ。これ治して』

「黙れ!! お前は……オマエらだけは……!!」

「落ち着けライラ! 絶対……、悪いようにはしないから!」



 ライラは今の時点で既に泣きそうな顔をしていた。

 対してロイゼはまた先程の様に笑ってる。

 俺はこのおかしな状況を無理やり肯定して、ライラを覆う様にシールドを貼ってからロイゼへと向き直った。


 ミリとガル、そしてサリアの気配はまだ動いていない。

 ただ、ガルとサリアはともかくミリの気配がネメシスのいる場所にやけに近いのが気になった。

 二人とも恐らく相手の顔は覚えている。

 見かければまず間違いなくすぐ戦闘になってしまう。


「何しに、来たんだ……」

『…………はぁ、さっき言ったじゃない』


 俺はロイゼの目を治すのは今ばかりは保留した。

 治したいのは山々だが、それはライラの神経をまた逆撫でて話が進まなくなる。

 代わりにロイゼの不機嫌さが増したが、彼女はそれで目的を見失ったりするような子じゃない。


 そして、さっき言ったと言う言葉。

 やはり『助けに来た』というワードがこの状況の鍵だった。

 助けるも何も、その言葉に俺は心当たりがなくてロイゼに言葉の先を黙って促した。


『ずっと見てたわよ』

「え…?」

『生き辛いわね……辛そうな顔してたわ』


 正直心当たりのありすぎる話だった。

 苦い顔をしている俺を他所に、ロイゼは右手を虚空に掲げる。

 それは恐らくなにかの合図でロイゼの背後に黒い渦のような穴が広がった。

 アスモデウスが眷属を自由に行き来させる為の転移魔法だ。

 そこから飛び出すように現れた白い影は何処か見覚えのある生き物だった。


「鳥……?」


 それは先程までベランダに止まっていたのと同じ鳥。

 同じ色、同じ大きさ、ただ違うのは羽に大きな第四の紋章が刻まれていた。

 その鳥はロイゼの頭上を一周してから彼女の肩へと静かに止まる。


 そして、その鳥は嘴にマイクを咥えていた。

 それは先程ネメシスが声を行き届かせたのと同じものだ。


「何を……」

『見てて』


 ロイゼは白い魔獣の羽を撫でながら、俺に聞こえない声でなにかを囁いた。

 アスモデウスは全ての魔獣と意識を共有できる。

 だからその先にいるのが彼女だと俺にはわかった。


 そして、


「あ──」


 後方で、一際大きな花火が打ち上がった。

 あまりの光の強さに濃い影が出来て、思わず無意識にそちらへと目を向ける。

 けどそれは、花火と言うにはあまりに光の位置が低すぎて。


 それは最早爆発だった。

 歓声が、悲鳴へと変わり始める瞬間だった。




『『第四の悪魔の使徒より告げる』』



 マイクを通してロイゼの声が響き渡る。

 先程までの歓声より大きな悲鳴をかき消して、この幸せな日を絶望へと塗り替え始めた。


 けど、それは当たり前だが許されることでは無い。

 彼女たちはどう足掻いたって悪魔なのだと、甘かった考えに鼓動が嫌なくらいに鳴り始める。



『『戦争を始めましょう……人間と、悪魔の』』



 俺は彼女達なら分かってくれるとどこかで信じていた。

 もう二度と人を殺させないと、そしてそうすれば人間ともいつかは分かり合える日が来るのかもしれないと。

 その為にも彼女たちと協力して魔王を倒して、その実績があればきっと皆は認めてくれると。


 けどそのハッピーエンドはたった今閉ざされた。

 他でも無い第四の意志によって人間と悪魔の戦争が否応なくここに開幕した。


 こうなってしまえば俺はアスモデウス達の味方になる事は出来ない。

 これでいったい何を持って助けに来たというのか疑問でしか無かった。



『『……けど、条件を呑むならすぐにでも手を引いてあげる』』



 それは全ての国民が聞いている。

 国民も、国王も、ネメシス達も、どこかにいるシーラ達も皆が聞いている筈だった。

 ただ初手の爆煙に飲まれた人達だけが、交渉の余地もなく既に息絶えた。


 何人死んだかは分からない。

 ノノアの手に終える数ならまだ幾らか希望はある。

 けど、その条件次第ではこれから先もっと被害は増えるだろう。


 はっきりいってアスモデウス達と戦える準備はまだ整っていない。

 それを正しく理解している人がどれほどいるのかは俺には分からなかった。


 この道の果ては、きっと俺以外全員が倒れている。

 俺目線その条件は今は呑むしかなく、そして次の言葉で俺は全てを理解した。



『『ユーロ・リフレインの身柄を渡しなさい』』


「な…………」



 それを最後にロイゼはマイクを握りつぶした。

 俺を引き入れるため、人類を人質にとった強引な手段だった。

 ライラと同じように命を天秤に掛け、しかしそれは悪魔らしく他人の命を掛けるものだった。


 そして先程の爆煙と同じくらいの影が覆い尽くして、空を見上げると黒い大きな穴が空いていた。


 そこから魔獣が無数に飛び出してくる。

 本気だった。


 またどこかで爆発が起きて、既に取り返しがつかない領域を軽く超えていた。


「な、んで……ッ」

『だから、助けに来たのよ』


 ロイゼはまたそう嘯いた。

 こんな光景が俺の助けになるわけがない。

 けど、これはあくまで彼女達の手段であって、彼女達は今日人間を滅ぼすつもりは無いと理解した。


「だから言ったじゃない……ッ!!」

「…………ッ」

『ふふ』


 ライラは自分を覆っているシールドを思いきり殴りつけた。

 その衝撃で手から血が出て透明な盾を赤く塗る。

 それを他人事のように眺める俺の目は、俺の心は既にロイゼ達に奪われようとしていた。




『理由をあげる。こっちに来る理由』




 ロイゼは俺を助けに来た。

 それはやり過ぎなだけで、俺を思っていることには間違いない。

 しがらみに囲まれ自由に動けない俺に、来るしかない理由を無理やり与えに来たのだ。


 国民全員に与えられた恐怖と条件は、すぐにでも俺を追い出す民意に成り代わる。

 この世界の勇者は既に俺じゃない。



 そして、油断した俺たちにロイゼの刃が降り注いだ。







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