EPISODEライラーBADEND
魔獣はやはり他の場所にも現れていた。
だから全員でオンブルに来る策は取れなかった。✕
サリアを殺せた。けど直ぐにガルに殺された。✕
ミリとロイゼを殺した。
ガルとサリアは逃げた。
でもその後魔力が殆ど残っていなくて、強化された魔獣に食い殺されて死んだ。✕
ライラが死んだ。✕
魔力が圧倒的に足り無い。魔人を退けてもその後の魔獣に続かない。✕
ロイゼがオンブルに来た時点でシーラが殺されている事が分かった。✕
シーラの居るスプレンドーレに兵力を割いた。
そしたら案の定他が脆くなった。✕
どの道全部壊滅した。
策というよりもリソースがあまりに足りない。✕
魔獣が現れる水平線の先に一人で向かった。しかしそこには何も無かった。
またシーラが死んで、ライラも死んだ。
俺が気付いていないだけで他の皆もきっと死んでいる。✕
配置を変えた。敵の配置も変わるだけだった。✕
内通者が居るとは思えなかった。恐らく何らかの方法で奴らに見られている。
今回は心を鬼にして様子見に徹した。✕
ライラは待機、これは確定。役に立たない訳では無く、俺の心に余裕が出来なかった。
しかしそんなものはただの言い訳で、気持ちの善し悪しで変わる戦況でも無かった。✕
思い出したくもない。✕
ロイゼは音を斬撃にする。
ミリはシーラ並の動きをする二刀の剣士。
サリアは火力特化の武闘家。
ガルは身体を際限なく硬く出来る。
魔人は四体。これ以上は恐らく居ない。
親玉は本人の話からすると弱いらしかった。
でも当然彼女は強い魔獣に守られている。
魔獣や魔人を好き勝手移動させているのも、魔獣を通して見ているのもコイツだ。✕
やっぱり駄目だった。✕
ネメシスはまだ一度も死んでいなかった。
試しにネメシスをオンブルに連れてきた。
すると初めて魔人を全部殺しきって、でも結局その後魔獣に殺された。
エタンセルは当然の様に滅んだ。
この時今まで一度も死ななかったネメシスまで死んだ。✕
逆に周回の中でシーラは毎回死んでいた。
かと言ってどうすれば良いのかも分からない。
この世界に安全な場所等どこにも無いし、それに彼女には戦ってもらわないとまず勝てなかった。
とは言え戦ってもらっても勝てないのだが。✕
また駄目だった。✕✕
一度整理が必要だった。ハマると段々頭がおかしくなってくる。✕
ノノアは駄目。ライラも駄目。パスカルの魔道具も、今回は質より数が必要だった。
そうだ、スプレンドーレにもっと武器を作らせよう。
具体的には勇者になった一年の十月からでもすぐに。✕
どうすれば良い。✕✕✕
もっと早く勇者に認められる方法は。✕
時間経過以外に魔力を増やす方法は。✕
武器、又は兵士を増やす方法は。✕
何か裏道のようなものは何処かに残されていないか。✕
これで今何回目だ?✕✕✕✕
何が先に進んで、何で止まってる?✕✕
ライラは……✕✕✕
俺は…………✕✕✕✕✕
✕✕✕✕✕…
✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕……
✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕…………
根本的に何かを違えている。✕
俺は死んだ目で理解し、そして決意した。✕
一番最初、そして途中何度か生まれた可能性。
その先にあるものを、俺はまだ確かめていなかった。✕
しかしこれはきっと、大きな裏切りになるだろう。
幾らリセットされると言っても一生消えない心の枷となる。
──でもこれは、全部また別の話だ。
あの世界は、俺の知らない所でまだもう少しだけ続いていた。
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──あれから、凡そ半年が経った。
「………………」
目の前で炎が揺らめいた。
赤と橙が明滅して酷く視界に悪い。
それでも形の無い灯火は嫌に綺麗で、その刹那的な輝きは私の心を縫いつけた。
目を閉じても瞼の裏まで焼くような、この宵闇を照らす希望のメタファー。
その燃料は、昨日まで生きていた人達だった。
それは或いは、明日の私かもしれなかった。
「うぁぁぁぁあああ゛あ゛!! おがぁざぁぁあんん!!」
「神よ…………どうか……慈悲を……」
「………………」
白骨化した触れれば崩れる朽ちた死体。
それはかつて誰かの大切な人だった。
それが目の前に山のように重ねられて、体に悪い煙を出しながら空へと立ち登る。
呆気ないとか、何で寄りにもよってとか、ここに居る人達は皆そう思っている事だろう。
なのに、私はこんな風に輝けるのなら、存外悪くない最後だとさえ思ってしまった。
「……………………きっと、天国はいい所よ」
生きる事を心から望んで、自ら死ぬことを選んだ人たちをそうして見送った。
大丈夫、そこはこれ以上傷つかなくて済むから。
ただそれだけが、私も少し羨ましかった。
「パパ、何で皆泣いてるの?」
「…………………」
「ママは? ……パパも泣いてるの?」
「…………ごめん、ごめんな……弱いパパで……」
「……………………」
──昔、死ねば星になると聞いた事があった。
確か当時はただの幻想だと軽く吐き捨てたと思う。
今ならそんな幻に縋りたい気持ちも、ついその願いが口をついて出るのも何となく理解が出来た。
だって星になれば痛みも苦しみも無く、何もしなくても今より輝けるのだから。
死の恐怖も無く、失う悲しみも一切無く、感情も無くただ人が生きる地上を毎日照らすだけ。
……なんて。多分なったらなったで、星なりの苦労も何かしら有るのだろう。
そう、物事は何でも捉えように寄っては良い面と悪い面があった。
だから、今この状況も見方によっては良い面も有るのだろう。
──例えば、少なくて日に十数人は死ぬ。
──例えば、疫病は一日あればほぼ全員に感染する。
──例えば、回復系統の魔術師はとうに絶滅していた。
──例えば、この世界の生物は残らず魔獣になっている。
あの戦いを生き延びてここに逃げ込んだ人達も、もう随分前に大台の千人を割った。
そもそも最初から三千人しか居なかったが、増えると思われた人口は減る一方だった。
ここはスプレンドーレ山脈のとある峡谷。
人類最後の砦がある、敗走した負け犬共の小さな隠れ家。
しかしそんな状況を作り出した最悪の元凶。
この世界の王は、きっと今も私達を見ている。
「──ライラ」
「……………」
私は振り返らなかった。
その声は酷く聞き覚えのあるものだったから。
私はその男の要件が簡単に予想出来て、話すだけ無駄だと経験から確信できた。
リグもネムもフールもシーラも、委員会の奴らも王城の関係者も兄弟もあの日皆死んだ。
私がこんな世界になる前から知っていた奴は、たった二人だけを残して他は皆死んだ。
そして今後ろにいるのはその内の一人だった。
元エタンセル国の王様。私の父である。
「話がある」
「私は無い」
即座に切って吐き捨てた。
関係性は既にほぼ絶たれていると言っても良かった。
ただそれはあくまでこちら側の目線の話で、向こうは未だにしつこく付き纏って来る。
それがある意味血筋という物で、切っても切れない業の様なものなのだとは理解した。
しかし感情だけで言うなら殺してやりたかった。
でもそれをすれば、私はもう悪魔と同じだった。
「ライラ」
「………チッ」
一丁前に凄んで言うことを聞かせようとする父。
抱いた感情はやはり殺意以外に何も無かった。
コイツは一応この最後の砦の最初の王だが、とは言えそれはただ他に適任者がいなかっただけの話。
それに王と言っても出来る事など何も無く、その証明として日に少しずつ民は死んでいく。
だからこそこの男に残された選択肢はこうして娘に対して強く出る事だけだった。
無様で惨めで何も出来なくて、
……別にそんな所まで似なくても良かったのに。
「何」
「……まだあの男を諦めていないらしいな」
「………………」
その予想通りすぎる内容には、ため息も出なくて私はまた空を見上げた。
──あの日、ユーロは悪魔に連れ去られた。
そしてオンブルが海に沈んで、私は一人海の上に浮かんでいた。
その間にスプレンドーレが壊滅して、小国もまばらに滅び最後にエタンセルが地図から消えた。
それは今考えれば当然と思える程に赤子が見ても分かるくらい圧倒的な戦力差だった。
むしろ今こうして八百人程が生き残っているという事実が、私の知る戦況と結びつかなくて理解がしづらかった。
そして世界が何かを失えば失う程に、悪魔という存在の異端さが浮き彫りになっていく。
かつてそれを三度も退けてきた事が今になって信じられない程に絶望的だった。
だからこそ、希望が残されていると言うのならそれはユーロが連れ去られたという事実だった。
心臓を貫かれて気を失えば普通死んだと思うが、なら何の為に魔人共は彼を連れ去ったのか。
彼はまだきっと何処かで生きている。
そして第四の悪魔に掴まっている筈だった。
だからずっと、ずっと探してる。
誰に何と言われようと、どんな代償を支払おうとも。
なのに、
「次の王はお前だ。……いい加減自覚を持て」
「…………」
自覚を持って、果たして私に何をしろというのか。
先のない泥舟の舵を握らされ、その責任のすべてを一身に背負わされる。
コイツの重圧や考えは一応理解できるが、わかった所で優先順位は上がらなかった。
むしろ諦めているのはコイツこそだと思ったから。
彼が居ないからこそ世界は今こうなっているのだと。
だから私を王にしたいのは最善だからでは無く、ただその重圧から逃げたいだけだと私は思った。
「彼が居なきゃ勝てない」
「勇者なら居る」
「…………」
ネメシス・ブレイブ。
彼女は今第二の勇者何て持て囃されていた。
あの日から常に最前線を張って尚生き延びているこの世界最後の希望。
彼女自身は全く嫌いでは無いが、その称号をつけた奴には反吐が出た。
彼の代わりなんて誰になれる筈も無いのに。
それに私は日に日に弱っていくネメシスを知っていた。
「……それが、一番腹が立つのよ…………」
彼女は今も尚どこかで一人魔獣と戦っている。
そこに並び立てる人はもう誰も居ない。
勝てないと分かっていても、託された希望に泣きながら立ち向かっている。
そこに共に立てない事も悔しくて、でも今は出来る事を私なりにするしか無かった。
それが本当の勇者を探す事。
どの道ユーロが居ないと絶対に勝てないと確信できたから。
皆だって、本当は心の中では思ってる。
だからこうして自死を選び薪になっていた。
今目の前で空へと登る炎の薪達は、殺されたのではなく皆自ら死んだ人達だった。
魔獣に殺された人達は、みんな腹の中で帰ってすら来ないから。
「帰って」
「ならん」
……しつこい道化に私は拳をにぎりしめる。
腐っても私はまだ魔術師だった。
たった二百強しか無い史上最低の魔力量。
でもこの男を残酷に殺す事くらい簡単に出来た。
その明確な意志を込めて目の前の男を睨みつけると、父は数秒黙った後ため息をついて目を伏せた。
それは今までに一度も無かった反応だった。
私は無意識に溜めていた魔力を静かに霧散させる。
そして、簡単に殺す選択肢が産まれていた事に、悲しみは感じても驚きはなかった。
「……最後だ」
「あ?」
「今回断られれば、諦めるつもりで来た」
私は怪訝な顔をソイツに向ける。
最初は寄生型の魔獣にでも脳を殺られたのかと思った。
仮にも責任のある立場で発言を百八十度変えるのは感情を抜きにしても簡単な事では無い。
それでも、その内容だけ聞くのなら私に利しか無いもので断る理由はどこにも無かった。
けど、良く考えてみればそんな余裕や上手い話がこの世界にある訳も無く。
「変わりに、お前には結婚してもらう」
「…………は?」
彼のお陰で迎えていた幸せのピーク。
私の人生は、あれから下がる一方だった。
「お前に意思が無ければ国の統率は取れん。……しかし世継ぎは産める」
「はぁ……!? お前ッ、何巫山戯たこと……!」
私は無表情の屑に詰め寄った。
その案は全てにおいて許容出来るはずもなかった。
先ず彼以外に体を許すなんて有り得ない。
そこまで血に固執する必要も理解できないし、何ならこんな負け犬の血なんて絶やすべきとすら思った。
それに子供だって意思がなければ産めないし、コイツは母親の事を人形か何かと勘違いしているのだろうか。
私は初めてこの男の本質を垣間見た気がした。
思えば、そう数える程もろくに話した事も無いのかもしれない。
「相手はスプレンドーレ王家の遠縁だ。そいつしかマシなのは残っていなかったが、まあ馬鹿では無い」
「どの口が……!」
「今夜自室で待機していろ。子さえ産めばもうおまえの自由にしていい」
「待っ──」
そして、ソイツは去っていった。
言いたい事だけ最後まで好き勝手いい放って。
私がアイツを父とも思っていなかった様に、アイツも私を娘とも思っていなかった。
そして私の前には今二つの選択肢が掲げられている。
しかしそれは最早選択肢とすら思えなかった。
私はこの後私がしそうな事を直ぐに思いついて、
「何よ…………」
いつしか、手が勝手に震えていた。
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空の月がぼやけて見えた。
それでも尚月は綺麗だった。
炎や、月や、自然だって、この世界には綺麗なものが沢山溢れている。
なのに、それを覆ってあまりある程にこの世界は汚くて残酷だった。
それは、悪魔のせいなのだろうか。
それとも、もしかすると人のせいなのだろうか。
「何で…………」
何で、こんな事になったんだろう。
いつから私は間違えていたのだろうか。
「──ユーロ」
彼は誰よりも強かった。
強くて、賢くて、一度だって間違えなかった。
死んだ様な悲しい目をした癖に、何事にも自分から関わって解決して行く本物の英雄。
日に日に大きくなる彼の存在に、いつしか目で追って直ぐに恋だと気付いた。
気付いた時にはもう大分手遅れで、私の心は全部もっていかれてた。
一緒に遅くまで事務作業をして、彼の入れてくれたコーヒーを並んで飲む。
あの時はまだ無愛想な彼が時折見せる優しい顔に良くくらくらしていた。
文化祭とかの行事は本当に大変だった。
三徹したのも今ではいい思い出だった。
あの時はまだ付き合ってもなかったのに、気にする余裕も無くて同じ部屋で寝たりもしていた。
それでも内心ちょっと意識していて、けど彼は私にブランケットを掛けるだけだった。
嬉しいと寂しいが混ざりあった感覚。
恋は楽しくもあって同時にもどかしかった。
彼の笑った顔がとにかく好きだった。
彼の辛い時に傍に居れるのが嬉しかった。
彼に頼ってもらえると心から頑張ろうと思えた。
彼と手が触れるだけで胸が一杯になった。
そして私の笑った顔が好きだと言ってくれて、辛い時に傍に居てくれるのが嬉しかった。
同じ気持ちだと心から感じられて、余計に嬉しくなって私は、
私は…………
「…………ユーロ」
ずっと傍に居たかった。
本当は一秒だって離れたくなかった。
でも、泣きたいのをぐっと堪えて、それは彼が帰ってきた時に彼に誇りたかったから。
貴方がいなくても私は頑張ったよって。
あなたがいない間本当に寂しかったって。
そして彼に抱きしめてもらって、たくさん泣いた後また一緒に笑うのだ。
そんな幸せが、まだあると思っていたから。
だから私は今日まで頑張れた。
──そして、ノックの音が部屋に響く。
「ごめん……ユーロ」
私の手には殺意が握られていた。
人を自らの意思で殺そうとする感覚。
私はとうとう魂まで悪魔に成り果てそうになって、それを止められるのは他でもない私しか居なかった。
だから私は右手を自分の頭に添えて、空の月より輝く光の魔法を唱える。
ただ運命に流されるくらいなら、迷ったけど、結局こうする事を選んだ。
悲しくないわけが無かった。
納得が行く訳が無かった。
それでも……それでも私は。
…………。
……もし、少しだけ願っても良いのなら。
「ライト」
さようなら。何よりも大切な愛しい人。
最後まで貴方を待つことができなくてごめんなさい。
出来る事なら、少しだけ願っても良いのなら、
もう一度だけ貴方に会いたかった。
願いは巡り、やがて奇跡は果たされる。




