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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
51/83

EPISODEライラー5










「─────来た」



 先ず、水平線の向こう側から幾つかの黒い点が現れた。

 そしてポツポツとその黒が数を増して行き、次第にその一つ一つが形を成していく。


 八月一日、現在時刻は正午。

 予定通りにソイツらは人類を滅ぼしにやってきた。

 今から始まるのは四度目の悪魔との戦争である。

 そしてその始まりは思っていたよりも静かなものだった。


「やっぱり、今回は群れで合ってたみたいね」

「……ああ」


 まだ未知数な部分が多い第四の悪魔の能力。

 しかし多方面への襲撃から相当な数が予想されていた。

 それに範囲が広すぎる為ルフレだけでは庇いきれず、こちらがとった対応は人類総出の集団戦である。


 エタンセルにはネメシスを筆頭にして、ルフレや他学園の生徒達が各地に散らばっていた。

 スプレンドーレはシーラを筆頭にして、一つの都市に人々を避難させてそこを守っている。

 その他小国にはエタンセルとスプレンドーレから生徒と武器を幾つか貸し出していた。


 そして、オンブルに今私たちが来ている。

 その前線を押し上げる為、こうして船の上で待ち構えていた。


「…………絶対勝つ。……今回も、魔王も」


 ユーロは自分に言い聞かせるようにそう決意を言語化した。

 けど、なんだかんだ言って私達はもう三回もこの地獄に勝利している。

 内ひとつは甚大な被害を抑えられなかったけど、それでも前に進んでいる事もまた確かだった。


 悪魔は何時だって絶望的な状況を携えて来て、それでも人類は今もこうして生きながらえている。


 そしてその鍵となった人物が今私の隣にいて、だから、今日も二人で生きて帰れるとどこかでは思っていた。












「─────なに、この数……」











 ────黒。


 見える限りの空が全て黒く染まって見えた。

 それはまるで、夜がそのまま形になって攻めてきたみたいに。

 それはどう見ても千や万じゃ絶対に効かない数で、この世の全ての生物が魔獣に変えられたとすら私は思えた。


 悪魔は未知数でいつも想像を超えてくると、それを理解した上でも予想外と言ってしまえた異様な光景。

 そして、さっきまで普通に飛んでいたカモメ達が、急に進路を変えて私達の周りをグルグルと回り始めた。


「何よ……これ…………」

「………………………ッ」



 私の心から漏れた情けない言葉に、しかしユーロも何も答えてはくれなかった。

 人間はどうしたって魔力に限界がある訳で、つまり倒せる数にもどうしたって限界があった。


「ライラ」

「っ、な、なに……!?」


 勇者なら、彼ならば或いはと思うけど、それでも数十万の魔力で足りる数とも流石に思えなかった。

 あの手紙はブラフで全ての戦力がここに来たのか。

 それともまさかこの群れが各地にも攻めているのか。


 何にせよ、盤面はいきなり悪魔有利に塗り替えられて───






「もし今日駄目でも……いつかは───」


「………………え?」















「──きゃあ!?」


 急に船が音を立てて激しく揺れた。

 私は振り落とされないよう目の前の手摺を掴む。

 しかしそれと同時に何かが床から突き出してきて、頑丈な船が軋みそして二つに割れた。


 まるで滝みたいな量の水しぶきがそこから上がって、その中に潜むモノを見て私はすくみ上がった。

 しかし当然そんな時間的余裕が有る筈も無く、結局私は船ごと容易く吹き飛ばされた。


「マズッ──」



 

 オンブルの海岸には今二万程の兵士が待機している。

 しかしそれはあくまで保険としての役割でしかなかった。

 殆ど戦った事も無い素人ばかりの集まりで、当然彼らも私達が砦である事は理解している。


 ここからその海岸までは約五キロ程離れていて、しかし彼等には一連の流れが見えていたことだろう。

 船の下から現れた巨大なタコの足の様なモノに、勇者が乗っている船が数秒で潰される様を。


「………ッ、ライラ!!」

「ユー───」


 空の魔獣はこちらの注意を引くただの餌。

 目算でも到着にはまだ数時間はかかるだろう。

 しかし見えない足元から既に尖兵として海洋型の魔獣が間合いまで入って来ていた。


 更に追い討ちをかけるように似た足が幾つも生え、やり過ぎなくらいに私達の足場を穿つ。

 確実に私達では無く船を狙っていた。

 それは敵に知恵がある事の証明でもあった。



「──アイスフロストッ!!」



 しかしユーロが船ごと魔獣を凍らせる。

 目算半径一キロほどが氷の大地と一瞬で化した。

 私は氷の地面に受身を取りながら着地して、ほぼ反射で魔力を練りながら周りに目を配らせる。


 足元で凍っている海洋型の魔獣達にはあの便箋と同じ紋様が描かれていた。

 しかしソイツらは見れば氷の中でまだ動いている。


「……………………ッ」


 私はその内一体の化け物と目が合って、言葉に出来ない様な怖気が全身に襲いかかった。



「ライラ、怪我は!?」

「大丈夫!……けど、何……、コイツ──」












『ギョオオオオオオオオオオオオオオォォォォ───』




「…………」

「な………」


 ユーロが張った氷が容易く割られた。

 そして空いた穴から無数の化け物達が顔を出す。

 それはタコとかイカとか魚をとにかく巨体にして、且つ禍々しくしたような異質な魔獣達。


 それら全ての何処かに紋様が描かれていて、その目はぎょろぎょろと動いてそして私達を見て止まった。


 そして、その口が大きく開かれる。

 私は餌になった感覚で肝が冷えきった。


 でも、







「──インフェクト・ギア・ボルト!!」


 それでもユーロはやっぱり止まらなかった。

 ユーロの超級魔法が周囲の魔獣全てを焼き付くす。

 私はそれを見てようやく我に返って、ここに来た意味を全うする為手と足を動かした。


 船に搭載した魔道兵器は全て藻屑となったが、それでも彼の超級ならこの硬い魔獣にも充分通用する。

 そして私も少しでも彼の役に立てるよう、少ない魔力でも戦える方法を試行錯誤してきた。


 私は圧縮魔法に更に回転も加える。

 反発で手のひらが焼けそうだったが、そんな事気にしていたら私はここで何も出来ない。


「ユーロ! 一度サーチ──」

「後ろだ!!!」


「え──?」



 そして、私はスローになった世界でそれを見た。



『初めまして』



 魔獣の中に紛れた多分人間。

 見た目は人にしか見えないけど、その身体には魔獣と同じ紋様が刻まれていた。

 赤い髪を後ろに纏めて剣を二振り持った、静かな雰囲気の何処か蜃気楼みたいな女。


 その女と私は一瞬目が合って、すると私はほぼ反射でソイツに魔法を打っていた。

 本当に人間なら今争っている場合では無い。

 でも、本能がコイツを敵だと訴えかけていた。



 結果、私の判断は間違ってはいなかった。

 ただ実力が足らなくて、私の魔法は容易く切り払われる。






『────さようなら』





 そして、軽い動作で女は私に迫って、その剣で私の胸を一突きにし──










『──させるかァ!!」

『……………………!』


「……………ッ、ユーロ……!!」


 ユーロが私と女の間に割って入った。

 その剣を弾いた手には氷と雷が覆われている。

 するとすぐ距離を取ろうとしたその赤い女に、ユーロはそのまま手の複合魔法を撃って追撃した。


 女は下がりながらもそれを剣で捌こうとして、でもそれは私の時みたいに完璧にとはいかなかった。

 捌ききれなかった余波が女の肩や脇腹に当たって、その肉を焼きながら患部を薄く凍らせる。



「ライラ!!」

「ライトバレット!!」


 見たところ一体一でもユーロに分が有りそうだった。

 そこに私も交えれば恐らく速攻で決められる。

 それでも先程の動きはほぼシーラ並で、魔獣の事は抜きにしても直ぐ倒さなければ不味いと思った。


 空の魔獣の到着はまだ無いにしても、この下に後どれだけ魔獣が居るのかも分からない。

 全てを一度に相手するのは幾ら勇者でも無謀だった。


 けど、この状況はまだまだ生易しい方だった。





『おー! ミリが苦戦するなんて中々ッスねーー!!』

「……ッ!? まだいた──」




『─────ヨイショォォォォ!!!』




 青い髪の女が空から降ってきて、既に穴だらけの凍った大地をその拳だけで叩き割った。



「ふざ───ッがぼっ…………!?」



 魔獣に与する二人の人間。

 仮にどっちかが悪魔としても、それならもう一人は何なのか。

 まさか想定したきた中でも最悪のケース──悪魔が複数体同時に攻めてくる可能性を引いたのか。


 だとして二体もここに来たという事は、ほぼ間違いなく向こうの狙いは勇者であるユーロだろう。

 そして仮に他の皆の所に来ていないとしても、ここへの距離的に仲間の増援は見込めない。

 


「ぷはッ…………! ……くそ……ッ!」


『………さて! お手並み拝見ッスね』

『合わせます、自由に動いてください』



 私は落ちた海から何とか這い上がって漂流する氷の破片にのりあげた。

 冷えた海の水が頭を冷やしてくれて、私は少し冷静になった頭で改めて考える。


 私がやるべき事はどちらかの女を抑える事で、出来る出来ないに関わらずその時は多分直ぐに来る。

 流石に勝てるとまでは自惚れられないが、時間を稼ぐ位なら私でもまだ出来ると思えた。


 

 だから、私はもう一度魔力を練り直し──



「ごめん」



 けど、それを止めたのは他でもない、ユーロだった。






「ユニ・ディエス・シールド」



「なん──」


 幾重にも重なったシールドが私を包んだ。

 しかしそんな事をしては私が攻撃をできない。

 魔法の遠隔起動は一応出来るが、余計に魔力を食うため私とはとことん相性が悪かった。


 そしてシールドに包まれた私を風が包んで、ユーロの後方へとそのまま彼に流される。

 それは他でもない足でまといという烙印だった。

 まだ戦える──


 その言葉は結局彼の背中には届かなかった。



「リア・ロスト・フルム───!」


『遅い』

『ッス!』


「──フラクタル!!」



 ユーロは詠唱と無詠唱を同時に展開し、二人の推定悪魔達と一人で張り合い始める。

 実際彼が今やっている芸当は頭で考えながら別の言葉を発している様なものだった。


 それを左右から押し寄せる攻撃を全て避け、又は守りそこに偶にフェイントすら織り交ぜる。

 だから私からすれば可笑しいのは女達の方で、なのに段々ユーロは二人に押されていった。



 そして、その時は割とすぐに来た。



「…………ッ」

『通った』


 赤い女の剣がユーロの薄皮を切り裂いた。

 しかしその一瞬から致命的な綻びが生まれ始める。

 ユーロはすぐ途切れかけた詠唱を繋ぎ直し、しかしそれより赤い女の方が少し早かった。


 赤い女は致命傷以外は全て無視しながら、炎と雷の間を抜けて彼の心臓をその剣で突き刺した。


「ユーロ…………ッ!!」


 そしてその女の後ろから青い女が飛び出して来て、彼は側頭部を蹴られ海に叩きつけられた。






「そん、な………」


 私はシールドを内側から手で強く叩いた。

 しかし当然そんなもので彼の魔法が壊せる筈もない。

 でもこれがまだここに残されていると言うことは、それは彼が死んでいない事の証明でもあった。


 即死でなければ彼は致命傷だって直せるし、しかしそうなると同時に私は依然このままである。


「バグ・ライト!!」


 私はもうなりふり構わずシールドに魔法を撃って、しかし結局一枚割ってそこで止まった。




『……こんなものですか……? 随分と、警戒していたのですが』

『んー、普通に雑魚じゃねっスか? 何で他の悪魔は負けたんすかぁ?』



 ユーロが消えた海を見下ろす二体の悪魔。

 それぞれが今までの悪魔ほど強いとは流石に思えない。

 それでもそれを容易く覆す“数”が、その驚異を今までの悪魔以上に押し上げていた。


『ギョオオオオオオオオォォォォォォォォオオオオオ』


 そして海から追加の魔獣が現れ出して、まるで残された私を取り合う様に囲み始める。

 私が理不尽の中に立たされるのはこれで三度目だった。

 それでも未だに一人は震えるくらいに心細かった。




『……………あれは』

『? なんすか、ミリ』



「……………、まさか」


 見あげれば空に二つ目の太陽が昇っていた。

 それは流石に比喩だけどある意味では比喩でもない。

 ジリジリと燃える様なその魔法の熱で今は砕けて散らばった氷が溶け始める。


 やがて全てのそれらの氷が溶けきると、しかしそれで留まらず海まで蒸発していった。

 足場が無くなった二人は魔獣の上に移動して、私は漂流するみたいに海の上に浮かんでいた。

 




「────バインド!!」


『…………!』

『は!? なんスか!?』


 翼の生えたユーロが海から飛び出して来て、それと同時に二人に拘束魔法をかける。

 それぞれの手と足を光の輪が縛り上げ、それは中級魔法だがすぐ解かれるという事は無かった。


 後は空に浮かぶ魔法を敵の中心に叩き落とせば、少なくともこの場にいる敵は殲滅できるだろう。

 そしてシールドに守られた役立たずな私と、空を飛ぶユーロだけがこの場に生き残る。


 

『行きなさい』



 しかしその命令で魔獣の一体が飛び跳ねて、二つ目の太陽にその身一つで突貫した。

 捨て身の魔獣と共に太陽の魔法がかき消える。


 そしてその光と轟音に死神が紛れていた。

 







「………………まだ、……いた、のか」


「ユーロ…………ッ!!」


 ユーロの胸から手が生えていた。

 それは魔法ではなく、ただの物理的な話である。

 光に紛れて現れていた三人目の刺客が、ユーロの胸を背中側から貫いていた。

 

『……………? いたい?』

「………ぐ………ぁッ!?」


『ガル、油断しちゃ駄目よ』


 更に駄目押しとばかりにもう一人この場にやってきて、ただそれだけなのにユーロの両手が切断された。

 そして私の目の前にそれが落ちてきて、海を一瞬赤く染めてから底へと沈んで行った。




「あ……………………」




 彼の喉が潰される。

 刀の鞘で頭を強く強打された。

 まるで死人みたいに脱力したユーロをその胸を貫いていた小さな女が抱き抱える。


 私はその一連を視界に収めている筈なのに、その映像が脳に届いても理解が出来なかった。

 現実を受け入れる事を脳が勝手に拒否している。

 だとして、その抵抗に何の意味も有りはしなかった。


 心が壊れない様に守ったところで、どの道今から私は彼女らに殺されるだろうから。



『──なんスかロイゼ! 遅れて来て手足もいだ位で人に油断だなんだ偉そッスね!』

『煩いわね……そこそこ手強かったのよ。後足はもいで無い』

『むきー! そういう事言ってんじゃねっス!!』


『そこまでです、二人とも。…………ガル、持ちますよ』

『ううん、私がもつ。……何か美味しそうな匂いがするから』



 止めなきゃ行けない。彼を助けなきゃ行けない。

 何故なら他でもないここにいるのはもう私だけだから。

 それでも私に何が出来るかなんて、そんなの考えれば考えるほど何も無かった。


 でも、どうせここで彼と死に別れる位なら、私はそれなら彼と一緒にこのまま死にたかった。

 なのに、彼の意識はもう途絶えているのに、未だに私を彼のシールドが包んでいた。



『おい』

「…………っ」


『これ勇者の魔法ッスよね? 何でまだ解けてないんすか?』


 目の前で青い髪の女がシールドを叩いて、その硬い感触に眉をひそめて居た。


「………………ッ!」


 私は震える指を血が出るくらい握りしめて、なけなしの魔力を全部その手に注ぎ込む。


 本当は自決用に一発分残しておきたかったが、至近距離で女を見て冷静で無くなっていった。

 殺す。せめて一人でも殺してから最後を迎える。

 私は慣れない遠隔操作に意識を切りかえて、


『悪いけど勇者は貰ってくっすよ』

「…………、もら…………?」


『じゃ、さよならッス!!』



 そして青い女は大きく右手を振りかぶった。

 シールド越しでも余裕の笑みを浮かべている。

 凡そ一秒溜めて放たれたその拳は、死に際でスローに見えた世界ですらまだブレて見えた。


 そして爆発みたいな音と衝撃と共にその拳が打ち付けられ私は容易く吹き飛ばされる。

 シールドを浸透して届いた衝撃が、そのまま私の意識をあっさりと刈り取った。


 


『───ホーームラーーーン!!』





 こうして私の世界は、人類の敗北という形で幕を閉ざされた。












『………?』

『どうかしましたか、サリア』



『イマイチ手応え悪かったッスね』

『………そうですか』




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