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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
49/83

EPISODEライラー3





 ユーロが勇者になった。

 そのニュースは世界を大きく揺るがして、けど私とユーロの関係はびっくりするくらい以前から何も変わらなかった。


「ライラ、これ」

「……………ん」


 

 ユーロから書類を受け取ってそれに目を通し、ハンコを押してからまた彼へと突き返す。

 それを彼も特に何も言わず受け取って、また次の書類があれば私に寄越してくる。


 生徒会の書記と会計。それ以上でも以下でもない、ただの事務的な冷えきった関係。

 べつにそれが居心地が良いとかいう訳でも無いし、特別な間柄でもなんでもない。


 ユーロは勇者、私は王女、それぞれ特別な癖にやってる事は酷く地味だった。

 私は手元の書類に目を通し、サインを書こうとしてしかしその途中で指が止まる。


「………………」

「どうした?」

「……………………いや、別に」


 ふと考え出したら冷静になってくる。

 そもそも前提から大きく違えている気がして来た。

 私の当初の目的は何だったか。なぜ私は今どうでもいい書類を手に持っているのかと。


 勇者の癖にコイツは仕事大好きだし、最近は私もそれに付き合って書類ばかり相手にしていた。

 こんな事がしたかったのかと仮に聞かれれば、断じて否だと自信を持って言い切れる。


「ただいま〜」

「ただいま! 」

「おかえりなさい」


 そんな折、外出していたリグとネムが帰ってきてユーロがそれを暖かく迎え入れた。

 そしてユーロは手掛けていた仕事を中断して、二人のコーヒーを入れに立ち上がる。


 因みに私が外から帰ってきた時なんかはただ一瞥して溜まった書類を突き出すだけだった。

 べつに嫌がらせとかそう言う訳では無い筈だが、とんでもない差があるのもまた確かである。


 私が悪い事は一応理解しているが、流石にもう少し何かあるのではないかと今更考え出す。

 これでも一応今は苦楽を共にする仲間だ。

 何なら最近は私が一番仕事をしている気がしないでもない。


 いつまで経っても私に対するユーロからの印象は悪い方から拭えない。

 悪化まではしていないと思うのだが、先も言ったように進展も後退もしていなかった。


「ごめんね、ちょっと手間取っちゃって」

「大丈夫ですよ。………フール先輩は?」

「あ、先に帰って良いって言ってくれたんだ」


 しかも最近私は凄いことに気づき始めていた。

 リグのユーロを見る目がどこか変なのだ。

 仕事中何気なく顔を上げてリグを見た時ユーロを見ている確率がやけに高い気がしている。


 今もコーヒーを入れるユーロにそっと寄り添って、まるで恋人みたいな雰囲気を勝手に醸し出していた。

 その肩と肩の距離もやけに近くて、ユーロも特に拒否せずに並び立っている。


 私は気付いたら手の中のペンを叩き折っていた。


「…………? なんの音?」

「知らないわ」


 目を逸らして言えばそれ以上触れてこなかった。

 ともかく、うかうかしている暇はあまり残されていないと思われる。

 はっきり言って愛嬌で言えば圧倒的に負けていた。

 ネムはまだそこまで心配はして居ないが、そもそもコイツはボディタッチが些か多すぎる。


 フールは男だがサボり癖が酷いし基本群れたがらないので実質生徒会は男一人だ。

 なんなら敵は生徒会だけでもない。

 今恋人が居ないだけでもほぼ奇跡だった。


 やっぱり、もう少し急がないと気づいた時には全てが手遅れになっているだろう。

 多分数いる彼を気にしている人の中で私だけまだスタートラインにらすら立てていない。

 

「ユーロ」

「……? 何」


 私は思い切って彼の背中に声をかけた。

 まるで憩いのひと時を邪魔するなみたいな目を向けられる。

 それだけで私は表情が引きつったまま固まって、言おうとしていたことが全部遠くに吹き飛んだ。


 コイツは未だに私の気持ちに気づかないし、鈍感と言うよりは今まで育て上げた固定観念か。

 ならば、やはりまずはそこから崩すべきで、というか私に残された道はそれしか無いと思った。



「……私と勝負しなさい」

「……は?」


 ……言ってて自分でも随分懐かしく感じた。

 ユーロは隠すことなくはっきりと嫌そうな顔を浮かべる。

 しかし私に苦手意識を造る原因はきっとこれなので、だからこそ敢えてそれを直接ぶつけるしかない。


「えぇ……もういいだろそういうの……」

「……これで最後よ」


 最後と言う言葉に彼は反応して、少し眉を吊り上げて考える素振りを見せた。

 そう、目に見えた区切りをつける事で、もうこれ以上は無いと安心させるつもりである。


 完全に用途と目的がズレた気がするが、もうここに来て背に腹は変えられなかった。


「えっと……」

「いやー、懐かしいねぇ」


「はぁ…………それで気が済むのか?」

「気っ……、ま、まぁそうよ……」


 完全に舐められている。

 まるで子供でもあやす様な目には流石にイラついた。

 しかしここで怒れば意味が無いし、これは私が変わった事を伝える為の決闘だ。


 それに何ならここで勝つ事が出来れば私としては全てが報われかつ前に進める。

 考えれば完璧なアイデアだった。勝っても負けても私には凄く意味がある。


 だから、


「最後よ…………これが」

「…………………………」


 そしてこのいびつな関係に今日、自ら終止符を打つのだ。











──────────────────────────

──────────────────────







「準備は良いかしら」

「ああ」


 運動場に来ていた。

 ここはユーロが大勢の前で勇者になった場所。

 今や聖地とまでされていて、というかルフレ魔術学園自体凄い人気だった。


 二度も襲撃を受けているのにルフレに来たがる学生は今の所後を絶たない。

 それは他でもなくユーロに一目会いたいとかで、でもそんな理由でも戦士が増えるなら国は歓迎だった。


「ほ、ホントにやるの……?」

「別に見に来ないで良いわよ」

「そういう訳にも……」


 リグが少し離れたところでオドオドと見守っているが、別に初めてでも無いので放っておけば良いのに。

 ネムはただ面白そうに眺めていて、ユーロは余裕そうに身体を解していた。


 ここ数日ユーロは事務仕事にかかり切りだったけど、それで訛ったりする様なやわい男じゃない。

 そして、泣いても笑ってもこれで最後。

 私は一度目を閉じて心を落ち着かせた。


「………合図を」

「あいあいー」


 私とユーロの間にネムが立つ。

 ユーロはさっさと終わらせて仕事に戻ろうという、そんな思考が透けて見えていた。

 どうやら勇者と持て囃されたせいで随分調子に乗っている様である。

 そんな奴に流石に負けたくないし、そしてその為の秘策も実は考えていた。


 前々から次のリベンジの為に用意していたもので、でもそれが最後になるとは予想していなかったけど。


「──よーいドン!」


「来いよ」


 予想通り。私に負けをちゃんと認識させるためにユーロは先手を譲ってきた。

 その舐めた態度にまた腹がたつが、しかしこれくらいは流石に甘えさせてもらう。


 まだ慣れてないせいで私が考えた秘策にはそれなりの準備が必要だったから。


 少ない魔力で威力を引き出す方法。

 私は魔力で出来た光を限界まで圧縮させる。


「なっ、何…?」

「凄い音……!?」


「………………」

「何呆けてんの!? 避けないと死ぬわよ────ライトッ!!」



 ドパン、ととても初級とは思えない音がして、一直線に光系統最弱のライトが迸る。

 しかし限界まで圧縮したこの強化版ライトは中級上位には劣らないと自負していた。


 けど、それでも言ってしまえばその程度で、超級を扱い慣れている彼からすればまだ赤子のようなものだろう。

 けれど私の魔力量をユーロが知っている以上、初見もあって私は当たると確信していた。


 故に私はその棒立ちの右肩を狙った。

 舐めた罰に軽く貫くくらいはしてやろうと思った。

 しかしその前提は結局大きく外れ、ユーロは右手をその圧縮ライトに軽く添える。


「なっ!?」


 そして、バチン、と音がして、私の最高傑作は泡みたいに消え去った。

 考えに考え抜いて編み出したその秘策は、彼の手の平に圧縮されたシールドに寄って阻まれた。


「…………、………」

「まだやるか?」


 届かなかった。

 それも面白いくらいに。

 ここまで差があるとは正直認識できていなかった。

 本当に私はただの道化である。

 自分で生み出したと思った圧縮技術すら、彼は既に身につけていてその動作すら私に悟らせなかった。


 まだ魔法は撃とう思えば撃てるけど、もうこれ以上は意味が無いと流石に確信出来た。

 私は両手を挙げて降参のポーズを取って、するとユーロは右手のシールドをかき消した。


「あーあ………………負けね」

「………満足か?」


 清々しい、とはまだ正直言えそうに無い。

 けどどう足掻いても勝てないくらいには彼のことを認めようと思えた。

 思えばもっとそれに早くに気づけていたらもう少し関係も変わったのかもしれない。


 けど、これもまた私だった。

 調子にのって大事な事に気づかないのが何時もの私。


「正直全然」

「はぁ……」


 でも、間違いを認識したのなら私だってそれを正そうという気概はある。

 それにそのための決闘だったから。

 だから、そんなに呆れた目をしないで欲しい。


 これでようやく私が前に進むための前座が終わったようなものなのだ。

 ここからが本番。そう意識した途端、戦う前より緊張して喉が干上がった。


「ねぇ……私の悪い所ってどこ?」

「は?」


 生きてきた中で多分一番勇気を出した。

 声がうわずら無かった自分を褒めてやりたい。

 いつも飄々とした態度のユーロすらもさすがに驚いたのか目を見開いていた。


「……そんなの言ったらまた怒るだろ」

「怒らない。………全部直すから、教えて」

「………?…………?」


 ユーロは本当に予想外と言ったようで、放心して暫く首を左右に捻っていた。

 そんなに意外かと私目線は思うけど、実際第三者からすればそうなのだろう。


 リグやネムも驚いた顔をしていて、二人がいる場でこの話をするのもある種の戒めだった。

 そして、覚悟を決めたもののどうしても俯く私にユーロは悩んだ末、結局その口を開いた。


「高圧的、話を聞かない、自分本位」

「……………」

「……人の事を考えない、周りを巻き込む、自分の立場をひけらかす」

「……………」


 そうして次から次へと羅列していく、途切れる様子すらまるで見せないユーロ。

 最初は戸惑っていた癖に話し始めたら一切の遠慮が無くむしろどこか楽しそうですらあった。


 しかしこれは悪口などでは無く聞いてる私から見てもただの事実の羅列だった。

 震え出す身体を必死に押えて私はその一つ一つを頭に叩き込む。


「ゆ、ユーロくん、その辺に……」

「いや、何か興が乗って来ました。こんな機会まぁ無いですし」


 しかしその数が二十を超え、三十を超え、四十を超えたあたりで段々泣きたくなって来る。

 彼にどう思われているかがよくわかった。

 既にこれは希望など無いのかもしれない。


「人の事を多分無意識に馬鹿にする癖がある。みんな居るのに自分の分だけコーヒー入れるのも感じ悪い」


「わっ……かった、わ。じ、じゃあ逆にいい所とか……」


 流石に耐えきれなくなって咄嗟にそう口走ってしまい、しかし逆に失敗したかと言ってから思う。

 もしこれでひとつもあがら無かったら、それは擁護などではなくただのトドメだった。


「顔はいいと思う」

「…………………」



 一応あるにはあったみたいだが、それは努力の関与しない生まれ持ったものだった。

 本質的な内面の部分はさっき言ったみたいに褒めるところなどひとつも無いのだろう。

 顔しか褒めるところがないなんて、もう喋るなとでも言われているようなものだった。


 ……けど、それすら嬉しいと思っている私は、頭お花畑の上に酷く惨めなのだろう。


「………そう」

「……………」


 そしてユーロは気まずそうに頭をかきながら、しかしそれ以上は何も言わなかった。


 もう、流石に今日で付きまとうのもやめにしよう。

 書記だって、悪いけどこれ以上は続けられない。









「あー……後……誰よりも賢いな」

「え………?」





「誰よりも一緒に仕事しやすいし、居るだけで大分楽になるし……」

「後所作が全体的に綺麗だな。さすがは王族って感じだけど」

「さっきの圧縮魔法だって正直驚いた。多分世界中探しても使えるのはまだ俺とライラだけだよ」


「………………」

「後は、まぁ………負けず嫌いな所とか……それと──」








「な、泣いてるのか……?」

「え?」


 私は気づかないうちに泣いていた。

 言われてから目元に触れて、その濡れた感触に自分でも驚きを隠せない。

 悪い所を言われても何とか涙は堪えたのに、今更何でか涙が溢れて止められなかった。


「……ユーロくん」

「いや、その……ど、どうしたら……!? これは初めてでッ」

「いいから謝ってっ!」


 リグに背中を押されながら私の前に突き出されるユーロ。

 焦った顔をしているけれど当然彼はなんにも悪くない。

 悪いのは全部私なのに、それなのに結局彼は私に頭を下げた。

 頭を下げさせたのはこれで初めてだけど当然何にも嬉しくなかった。


「ごめん」

「………」


 もう少しそばに居てもいいのかなんて、傍に居たいなんてそんなふうに今思い始めている。

 悪いところの方が圧倒的に多かったけど、でも、良いと思える所もちゃんと見てくれていた。


 ずっとただ嫌われていると思っていたから、心の底から嬉しかった。


 今更言葉にするのも大分恥ずかしいけど、やっぱり私はこの男の事が好きなんだ。



「全部直す」

「え……?」

「……ライラちゃん?」



「…………、全部、直すし……他にもあったら、いつでも言って」

「ど、どうしたんだ……ホントに……?」


 私は未だに呆けているユーロに近づいてみた。

 そしたら彼は珍しく気圧されて一歩後ずさる。

 その度に私は彼に近づいて、そしてもう拉致が上がらないからその手を無理やり握ってやった。


「ら、ライラ……?」

「約束するから」


 そしてそれを優しく握りしめるとその暖かさに私はすぐに酔ってしまう。

 こうしてまともに触れたのも何気に初めてだった。

 随分無駄な時間を長い間過ごしてきた気がする。


「私──優しい王女になるから」

「お、おう…………」


 そして、貴方の力になる。

 だからそれまで、どうか見捨てないで欲しい。




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