EPISODEライラー2
「見たか!? 最新号!」
「すげぇよな! 首席の奴だろ!?」
「マジで命の恩人だよ……ッ! 俺、魔獣から助けてもらったんだ!!」
「………………」
……私は手に持った冊子に目を落とす。
『ルフレ通信250!vol.5
魔王襲来!? 勝利はルフレに有り! 二年最強と一年首席夢の共闘!!
ソルテラ紀1850年五月二日創刊
──皆さん! 生きてますか!!
昨日の地獄を生き残った歴史の目撃者達よ!
そんな運の良い皆さんにとっても素晴らしい朗報が幾つもあります!!
私も筆をとる手が止まらなくってもう目が血走って鼻血なんかも出てきちゃって!
え? さっさと話に入れ?
んもうしょうがないなー!ほら凄いぞ今日は五ページ増量だ!!
目次!
1・魔王じゃなくて、悪魔
2・一年首席はまさかの勇☆者!?
3・昨日、何が起こったのか? ~振り返り~
4・被害状況、現在死者数
5・勇者候補筆頭! ユーロ・リフレイン独占インタビュー!
…………。
……………………。
……………………………………。
』
「……………………」
私はそれを強く握りつぶした。
紙がクシャクシャになって消えない跡が残る。
必然的にそこに載っていた、あのいけ好かない男もしわくちゃになった。
私はそれを見て笑ってやろうと丸めた紙をもう一度広げ直す。
なのに逆に腹が立っただけだった。……そしてその怒りの対象は他でもない私である。
私は、昨日何も出来なかった。
そして私が浴びる喝采をアイツが受けていた。
「……………………」
いや、それも正直嘘である。
仮に私が万全の状態だったとして、だとしても私は魔力が少なくて、言っても魔獣三体くらいが限度だった。
しかもまだその上には悪魔もいて、というか悪魔って一体なんなんだ。
私の知らない、届かない存在がいる。
そしてソイツをユーロが倒したらしかった。
その間私は何をしていたかと言うと、すぐシェルターに逃げて隠れただけである。
「……………………」
「──凄いよね! 英雄だよ!」
「英雄どころか、だから勇者何だって!」
誰も彼もがアイツの話をしている。
非難する声なんてどこにもありはしない。
それも当然でこの新聞を見る限り、とても人一人の所業には思えなかった。
風紀委員長と共闘して悪魔を倒し、その後も魔獣を倒して人を助けて回ったらしい。
しかも空の魔獣を殲滅した破壊兵器も殆どアイツの設計らしかった。
「…………馬鹿げてる」
私は昨日何ひとつ出来なかった。
対しアイツは全てと言っていい戦果をあげていた。
厳密には一人では無いけれど、確実に全ての軸がアイツを中心に回ってる。
悔しいけど、この新聞を見て、勝てないと心から私は思ってしまった。
けれどその事実を受け入れられなくて、私はずっとこの場を意味もなく動けずにいる。
「──おい」
「…………ッ!」
私は思わず肩が跳ね上がる。
その声が誰のものかすぐに分かったから。
今最も注目を浴びている男、ユーロ・リフレインが私のすぐ後ろに立っていた。
それだけで周りの視線が集まって、その目には私も浴びたことの無い熱が籠っている。
私はその全員に笑われている気がして、今にも逃げ出したい気分で胸が苦しかった。
…………。
……にげる?
戦う、じゃなくて……?
………………。
「おい、聞いてるか?」
「……ッ! な、何よ!? 何の用!?」
気づけばユーロの手が目の前にあって、それを払い除けながら私は立ち上がる。
思えばコイツから私に会いに来たのは何気にこれが初めてかもしれなかった。
しかし今だけは会いたくなかったし、寄りにもよって、それこそ嫌がらせかと私は思う。
今は決闘なんて気分でも当然ない。
本当に何から何まで思い通りにいかない男だ。
「頼みがあるんだ」
「……………………………………はぁ?」
そしてそいつは今私に頼みといった。
一体どう言う風の吹き回しだと私は思う。
私たちはただ争うだけの関係で、世間話すらろくに交わした事は一度もない。
当然私に聞く気も道理もないし、ただ面の厚い事この上ない話だった。
だから今すぐ無視して離れたいのに、足が縫い付けられたみたいに何故か動かない。
「な、なによ……」
「お前の親父に会いたい」
「…………………………はっ!?」
一瞬脳みそが沸騰して、しかしそんなわけがないと流石に思い至る。
なんなんだコイツは、言葉も選べないのか。
これだから馬鹿の相手は疲れるし嫌なのだ。
しかしどうするか。勿論タダでは聞かないが、そもそも聞いてやらないというのもアリだった。
私の頭は如何に困らせるかというもので、
「そ、そうね……なら、私のどれ──」
「じゃあいい」
……だからなんにも、上手くいかないのかも。
「……っ、ち、ちょっと!」
しかしユーロは本当にここから去っていった。
声をかけるも虚しく一人取り残される。
しばらく放心した後席に座り直したが、結局アイツは本当に帰ってこなかった。
頼み事が有ると自分で言い出した癖に、あの諦めの速さは一体何なのか。
まるで一応聞いて置くかみたいな雑な感じの、傍から特に期待していなかったと言うような。
「……王女様と勇者……?」
「何だったんだ、今の……」
「…………っ」
周りの視線が私への嘲笑に見えて、結局私もそう間を置かずこの場を後にする。
神経が酷く過敏になっていた。
それは何も出来なかった自責の念から来るものだ。
故にこの感情とアイツは何も関係ないし、さっきの変な問答ももう忘れるべきだった。
向かう宛もなく私は早足で歩く。
何故か視線はどうしてもアイツを探していた。
「………………なによ」
全部が全部思い通りにならない。
そうなり始めたのはアイツと会った時からだ。
それまでは本当に全部が上手くいって、世界は私のものだと確信すらしていたのに。
最近はこのままでいいのか何て思い始めて、けど自分を変えるなんて発想がまず初めてだった。
どうすればいいのかも分からないしどうしたいのかも正直分からない。
ただ私はボーっと学園を歩いて、手にはアイツが載った新聞が握りしめられていた。
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七月。
「………………」
「…………何か、言いなさいよ」
「別に」
「あ、あの…………」
私は生徒会室に来ていた。
すぐ隣には他でもないユーロが座っている。
本来なら巫山戯た話だが、実は他でもなくこれは私が望んだ状況だった。
七月になって始まった新生徒会役員募集の一大イベント。
そこにユーロが応募すると耳に挟んだ私は、深く考えるまでも無く応募書類を出していた。
「あの……その、い、一応希望役職とか……」
「俺は会計でお願いします」
「私は会長よ」
「……えぇ!? い、いきなりライバル!?」
目の前の女は確かリグ書記だったか。
次の会長に立候補しているのは確かこの女だけだった。
別にこの女の事はどうでも良いのだが、単に私はユーロに負けたくなくてここに居る。
この前の得意の期末筆記試験ですら、私とユーロは満点同率一位だった。
負けではないけど当然勝ちでも無い。
私は未だに勝ち星を一度もあげていなかった。
「んまー、別に規則違反でも無いしいいんじゃない?」
「うぅ、せっかく会長に直接頼まれたのにぃ……」
「大丈夫ですよ。俺はリグ先輩を応援します」
「はぁ…………?」
私はふたつの意味でその発言にイラついた。
ひとつは私の事を蔑ろにしたものだったから。
そしてもうひとつはリグに向けるその顔が、私には見せたことの無い優しいものだったから。
そう言われたリグも満更でもなさそうで、照れながら普通に二人は談笑を始める。
私を蚊帳の外とは流石に恐れ入った。
私が会長になったら揃って退学にしてやろうか。
「いやー、賑やかになりそうだねぇ」
「ネム先輩、良かったら飴いります?」
「えー、なになに貰う〜」
賄賂を渡すユーロを見ながら思う。
私に足りないもの、そしてコイツが持っているもの。
私は全てを持ってこの世に生まれ落ちた。
なのに私の手には今何も握られていない。
気付けばずっとひとりの男にかまけてばかりで、それすら私は未だに手に入れていない。
……手に入れる? 何か目的が変わっていないか?
最近自分で自分が良く分からなくなっていた。
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『──さぁいよいよ決勝です!!!』
「アンタがルフレの英雄ね」
「そんな柄じゃ無いけど……まぁ、お手柔らかに頼む」
十月、魔術舞踏祭。
それがここルフレの運動場で開かれていた。
観客は他国からも来る為異常な数で、立って見ているどころか外にも大勢いる程だった。
それもその筈今年は例年と違い、とある別の思惑も協定の元兼ね備えていた。
何とこの大会で優勝したものが、大々的に勇者に認定されるという。
「うおぉぉお!! ユーローー!!」
「頑張ってーー! ウィルさーーん!!」
観客の熱もひとしおで応援だけで会場が揺れている。
ユーロもそして相手のシーラという女も、共にここまで危なげなく勝ち進んでいた。
そして遂にこの戦いで勝った方が、千年待ち侘びた勇者と認められるのだ。
どちらにせよ今日歴史が動く事になる。
この歓声も盛り上がりも納得のいくものだった。
「……………………」
「ユーロ・リフレインか……」
そんな中私は貴賓席で快適にその舞台を上から眺めていた。
因みに私は出場していない。
私の魔力で連戦は傍から無理だから。
私のすぐ横には国王である父もいて、この戦いの行く末を静かに見守っている。
きっと内心自国から勇者を出したい事だろう。
それだけで今後他国との関係も大いに変わるから。
『──皆さん長らくおまたせしました! ただいま全ての準備が整いました!』
『この決勝の勝者が! 本当に、いよいよ! この世界の運命を背負う勇者となるのです!!』
「うおおぉおぉぉおお──!!」
会場が更に激しく揺れる。
全ての人がこの空気に激しく酔いしれていた。
この二人以外相応しいものなど居ないと、既に誰もが信じて疑っていない。
『片やルフレの英雄! 勇者候補超筆頭! 全属性・無詠唱の究極の魔術師ユーロ・リフレイン!』
『対するはスプレンドーレの勇者候補! 魔術のルールに縛られない、流転無手気功術シーラ・ウィル!』
「アタシが勝つわよ」
「悪いけどそれは無い」
『カウントダウン始めます!! それでは皆さんご唱和くださいな!!!』
「………………遠い」
ユーロは私を置き去りにして、もう個人が行きつくところまで行き付き始めていた。
このレベルの大きな喝采は正直私でも浴びた事は今まで一度もない。
それなのに壇上の二人共、まるでなんでもない様に堂々と歓声の中振舞っている。
貴賓席と舞台の物理的な距離が、そのまま私と彼らの距離の様に感じた。
「…………はぁ」
最近ため息が酷く増えた気がする。
書記になって忙しい、というだけでは多分無い。
彼と近くに居ることが必然と増え、そしたら私は色々考えさせられる事になった。
私より早くに生徒会の仕事を覚え、私よりすぐに周りに馴染んだユーロ。
すごいのは腕っ節だけじゃ全然なかった。
私が勝っているものなど今の所ひとつも無い。
それに加えて言うのなら、あの生意気な態度は私にだけだった。
「…………嫌われてるのかしら」
何か、今更、そんな事がわけも分からず私は気になり始めている。
だとして一体何だと言うのだろうか。
何か不都合でも私にあるのだろうか。
別に、色恋なんて私の柄でもないし、あんな辛気臭い奴別に好みじゃない。
なのに最近冷たい目で見られると、そのまま胸が凍ったみたいに寒くなる。
もしかして何かの病気なのだろうか。
彼が遠くに行く度どうしても不安で苦しくなった。
「──どちらが勝つと思われますかな?」
「ふむ……シーラ・ウィルが間合いに入れるかどうかではありますが……」
「まぁ、ここで勝った方が勇者と認められる故、相当な激戦は間違いないでしょう」
「………………」
贅沢しか脳のない馬鹿共が近くで何かを言っている。
そもそも本質を知らない癖に勝ち負けが分かるはずもないだろう。
シーラは私から見ても確かに強いが、そんなのは正直微塵も関係なかった。
「アイツが負けるわけ無いじゃない……」
そう無意識に口を出た言葉は、スっと私の中にまた入り込んだ。
結局、勝敗は数秒で付いた。
今日は勇者が誕生した記念すべき日である。




