EPISODEライラー1
私は全てを持ってこの世に生まれた。
今に思えば産声を上げた瞬間から異彩を放っていた様に思う。
だって、世界は私を中心に回っていて、私より優れている人なんて一人もいなかったから。
初めて神の存在を知った時、私はその生まれ変わりである事を自覚した。
それを否定するものは須らくこの手でねじ伏せ叩き潰してやった。
──私は一ヶ月で言葉を話した。
因みに歩いたのは二ヶ月と少しだ。
教育だの習い事だの親は煩かったが、だいたい一度見れば直ぐに講師より上手く出来た。
本当に、唯一惜しかったのは、適齢期を迎えても魔力が増えなかった事だけである。
それでも天下のルフレですら、筆記満点で実技も少ない魔力で高得点を叩き出した。
簡単だ。そこらの凡人達とは頭の出来が違いすぎる。
兄や姉は国王の座を狙っているが、私がその気になれば彼らの努力など無に返す。
けど、今のところ興味もわかないし、使えない奴らを導くのも面倒なだけである。
ここでも会長をやれとか言われるだろうが、そんなの面倒だし当然やる訳ない。
「はぁ………………つまらない」
並び立つものが一人もいないのは、全能ではあるがすぐに飽きが来る。
私は今まで目標を持ったことがない。
持つ前に全部達成出来たからだ。
試練という試練が未だに現れないのは、それこそ私が与える側である証明である。
しかし未だに私の記憶に残るような、私の試練を超える者も現れない。
『──続いて、新入生代表お願いします』
「…………はぁ?」
ほんの一瞬だけ耳を疑った。
私は代表挨拶何て頼まれていなかったから。
今いるのは新入生の最前列で、そういうのは普通控えにいるものだろう。
この時点で生徒会が無能である事が見え透いた。
私は苛立ちと共に立ち上がる。
ぶっつけ本番でもやれないことは無い。
完璧に挨拶をこなした後、揃って地面に額をつけさせてやろう。
『新入生代表、ユーロ・リフレインです』
─────は?
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「待ちなさい」
「……………」
目の前の細身の男が振り返る。
そのボケっとした動作にまずイラついた。
大抵の奴なら私の声を聞いただけで、震え上がってつむじを見せるのに。
しかしそいつはまるで鬱陶しそうに、頭をかきながら私の目を見てくる。
……今気づいたが、死人みたいな目をしていた。
壇上を遠目で見た時には分からなかった。
「……ふぅん…………アンタが首席ね」
「…………決闘とかなら本当にいらない。お前の方が偉い。凄い。だから帰ってくれ」
「は? ……なに、アンタ」
まくし立てるようにそう言って、帰れと言ったのに自ら帰ろうとする男。
内容は褒めるものだったがコイツは殺す。
こんな生意気な態度をとる奴は初めてだったから。
私はまだ誰にも何も言っていないけど、取り巻きが気を利かせて男の道を阻む。
戦いは純粋な力だけではない。周りを動かす才能も大いに重要なものだ。
「私を無視できる訳無いでしょ?」
「…………毎度毎度……」
男が何かを呟いて、しかし小さ過ぎてあまり聞こえなかった。
何から何まで陰気臭い男だ。本当なら正直近づきたくもない。
こんな男にたとえ入試で負けても、それ以外が一つでも負けているとは思えなかった。
とりあえずこの寝ぼけた男をぶちのめして、やはり私が一番という事をここに証明する。
「───あれ……………」
「…………もう充分か?」
私は床に転がっていた。
地面に体が付いたのは初めてだった。
頭が思う様に働かなくて、今何が起きているのかすらよく分からなくなる。
頭が真っ白になる経験を私は今生まれて初めて味わっていた。
数秒、数分、下手したら数時間……。
体感それくらい長く放心していた。
「…………っ……」
まず初撃を軽い動作で避けられた。
その時点で終わると思っていたから驚いた。
次の瞬間、左側に衝撃を受けて、バランスを崩したら目の前に男がいた。
私は咄嗟に残りの魔力を使って、避けようの無い範囲光魔法を唱えた。
しかしそれすらまるで予期したようにシールドに阻まれ届かなかった。
そして、後は…………。
武力で押し負けたのもこれが初めてだった。
「──ッ……ふッ、ざけ………ッ」
ただの人間に負けるなんて事あり得ない。
何故なら今まで一度も負けた事がなかったから。
こんなぽっと出の訳の分からない男に、私が劣るなんてまず有り得ない。
固有能力──そうだ、考えられるなら後はもうそれしか無かった。
それなら次は絶対に負けはしない。
その種を明かして手足くらいは引きちぎってやる。
「──もう一回よッ!!」
「…………あ、あの」
「……………………………………は?」
目の前に居たのは取り巻きの女だった。
別に許可なんてしてないけどいつの間にか増えていくただのモブ。
名前も覚えてない気弱そうな女が居て、しかしあの男はどこにもいなかった。
まさかと思うが脳がそれを否定して、私は覚束無い足で立ち上がる。
取り巻き全員が気まずそうな、見たことも無いような目で私の事を見ていた。
「か、帰ったみたいです……」
「………………………………」
「ふ、ふふ、ふふふ…………」
ここまでコケにされたのは初めてだった。
体が勝手に震えるのが逆に面白くさえ感じる。
まあ良いだろう。その喧嘩大いに買った。
それこそ幾らでも言い値で払ってやる。
考えれば丁度魔力も空だったし、仕切り直す必要があるのもまた確かだった。
しかし王女に舐めた態度をとって、ただで済む道理など有りはしない。
「ユーロ……、ユーロ・リフレイン………!」
アンタは私がこの手で殺す。
私は人生で初めて目標が出来た。
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入学から丁度ひと月が経った頃。
私は結局、なんにも上手くいっていなかった。
「ああああ!! ────もう! 何なのよ!!!」
人生初めてのヒスが響く。
数名がびくついて部屋を出ていった。
けど私はそれすら気にならなくて、最近癖になった貧乏ゆすりを手で抑える。
何でこんなに荒れているかなんて、そんなのもうあの男しかいなかった。
都度五度目の敗北を先程経て、私は無様に保健室に足を運んでいる。
「ほら、じっとして」
「さっさと治しなさいよ!」
ボブカットの女が私にヒールを掛けて、治ったのを見届けて直ぐに立ち上がる。
魔力は全然回復して無いが、どの道こんなのあってないようなものだった。
けど間違いない。今回で確信が付いて、アイツの能力はまず未来予知である。
種が分かれば後はどうとでも出来る。次はどうしてやろうかと出口の扉を勢いよく開けた。
「わぁっ!?」
「…………ッ」
すると丁度向こうに白い女が居て、驚いて持っていた荷物を落とした様だった。
しかしそんなものに手を貸すはずもなく、すぐ退けなさそうなので横を通りぬける。
モブに構っている暇など微塵もない。今私の目にはアイツしか映っていなかった。
その事実が余計に癪に触って、さっさと乗り越えようと私は足を進める。
「もう、感じ悪いわね……」
「いたた……」
「大丈夫? ノノアちゃん」
「……うん、私は大丈夫だよ!」
「………………」
人間は常に群れる生き物だ。
けど私は神の生まれ変わりだから群れは必要ない。
誰かと居たってそいつは足を引っ張るだけ。
私は一人で既に完成されている。
背中に刺さる彼女らの視線に、しかし何故か苛立って足を早めた。
最近はあの男に付きまとってるせいか、いつの間にか取り巻きも一人もいなかった。
「あぁ……! ムカつく…………ッ!」
私はもっと褒め称えられるべきである。
全ての中心に立つのは私であるべきだ。
何故ならその能力が私にはあるから。
なのに、あの男を起点に歯車が回っていく。
魔力がなくても問題は無い。
力は男より弱くても武術がある。
なのに……その全部があいつには届かない。
惜しいと思える戦闘すらまだ出来てなかった。
「────何なのよーーー!!」
私は再度ヒスが抑えられなくて、近場の窓を開けて思いっきり叫んだ。
少しもスッキリしなかったし、なんならただ恥ずかしいだけである。
こんな思いをしてるのも何もかも全部、あのいけ好かない男のせいだった。
あんなに強い上固有能力まである癖に、この世の不幸みたいな面で練り歩いている男。
「はぁ………………………………馬鹿みたい」
それでもいつかは勝てる。
そう思って私は挑んでた。
けど、段々何をやってるのか、何をしたいのか、自分でも分からなくなってきて……
──アイツなら、私と対等で居られるんじゃないかって。
「…………ッ!」
そんな思考が一瞬頭をよぎって、わたしは背筋を正して頭を振る。
そんな馬鹿な。私は何を考えているんだ。
次についたため息はそれはもう長かった。
「はぁ…………………………、…………なに…………?」
そんな折だった。
私は窓の外の空を一人で見上げる。
まるで夜みたいに魔獣が群がっていた。
私の知らない何かが動き始める。
私は当たり前に神なんかじゃなくて、ただの人間だったとこの日思い知らされた。
井の中の蛙大海を知らず。
私は井戸を造る側だと勘違いしていた。
五月一日の事だった。
私は何も、出来なかった。




