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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
44/83

転校






 第二の悪魔が倒された。

 それは知る者にとっては大きな衝撃と共に歓喜と高揚を齎した。


 予想外に次ぐ予想外の事態。

 それでも確かに人類は勝利したのだ。


 しかしその光の影には当然のように数多の犠牲も転がって居る。

 それから目を背けるのは許されない。

 それは背けられる程小さくもない。



「…………駄目だな」




 スプレンドーレ最高峰の魔道学園。

 シュトラール魔道学園は一夜にして跡形もなく消え去った。

 跡地はまるでスプーンで抉られたような綺麗な弧を描き虚無を表現している。


 ある種ひとつの誰かの居場所が、小さな世界が消えた証明でもあった。

 亡き彼らが痛みすら感じる間もなかった事は救いと言っても果たして許されるのだろうか。


「…………」


 開けた視界のその向こう、反対側の建物すらここから見渡せた。

 シュトラールは寮生活であり多くの生徒が巻き添えになった筈である。

 空はとても明るく希望に溢れているのに、重たい空気が場を包んでいた。


 マモンが残した爪痕はあまりに大きく深く、取り返しのつかないものが多すぎた。



「………ごめんなさい」


 俺は胸の前で手を合わせ許しを願う。

 仮に考える。もしこれがルフレだったらと。

 そう思うだけで胸が張り裂けそうで、けどその思いは確かに誰かが抱えているものだ。


 そしてそれを防げなかったのは他でもない、何度も機会と選択を不意にした俺の責任である。

 しかしもう二度と救えない魂達に、俺が出来ることは許しを乞うこと以外何も無かった。



「──────おーい!!」

「…………?」


 聞き覚えのある声がどこかから聞こえて、俺は手を下ろして当たりを見回した。

 振り返ると後ろからフーコが駆けてきて、何となく事態に進展があったのかと考える。


 みんなが皆やるべき事に今注力していた。

 俺だって本当は立ち止まっている暇は無い。


 それでもこうして許しを請わないと、正直今にも気が狂ってしまいそうだった。


「はぁ、はぁ……ゆ、ユーロさん!」

「どうしたんですか?」


 マモンを倒して早一日。

 ノノアは未だに目覚めていなかった。

 まだ会長以外の皆もスプレンドーレに居るが、皆忙しくてそれぞれ顔すら合わせていない。


「ノ、ノノアちゃんが起きて……」

「本当ですか!?」


 しかし最も待ち侘びた朗報に、流石にこれで事態がまたひとつ進展すると喜んだ。

 俺は早速病院へ足を運ぼうと歩き出し、フーコも隣を自然に着いてくる。


「…………す、凄い跡ですね……」

「……ですね」


 そんな中、フーコは消えた広い土地を見た。

 しかしそんな軽い感想しか俺達は言えずにいる。

 この光景は何故か視線を釘付けにし、離れようとすると後ろ髪が引かれる気がした。


 亡者の影がすぐ足元に迫っていて、それがフーコにも感じられているのかは分からない。

 しかしそもそもこの学園だけじゃなく、死んだ人間は国中そこらに大勢いる。


 スプレンドーレはこれから大きく変わる。

 この変化を俺は一度も経験していない。


「……ノノア、元気そうでした?」


 俺は空気を変えようと無理やり話を変えた。

 俺はマモンを倒しきった後、残った魔力をほぼ使って回復魔法を展開した。

 それはマモンによる被害だけに収まらず、この件に関係の無い怪我や病気もまとめて治した。


 結果死人が山程いるのに対し、怪我人が一人もいないという事態に今なっている。

 それ故病院は今ノノアの貸切で、英雄という事もあって手厚い看護を受けていた。

 

「あ、うんと……その……」


 並んで道を歩く中、質問を投げかけられたフーコの顔はしかしあまり宜しくない。

 歯切れも悪いし汗もかきはじめる。何となく良くない状態なのは伝わった。


 そもそもノノアは正常じゃない。

 心の傷は魔法では欠片も治せないからだ。


 かく言う俺も笑顔を張りつけてはいるが、内心ぐちゃぐちゃで今にも死にたい衝動に駆られていた。


 さっきの祈りもその為だ。

 余裕が無いというのは本当に嘆かわしい。



「ま、まぁ……早く会ってあげた方が良いかなー……って」

「……まぁ、そうだよな。……じゃあ、ごめん、俺先に行きます」


 俺はフライを使って背中に翼を生やし、空で振り返りながらフーコに謝った。

 フーコは頷きながら小さく手を振って、俺は一人病院への最短ルートを駆け抜ける。

 


 これから先、俺たちはどうなっていくんだろう。

 もう今の時点で大分綱渡りをしている気がしてきた。


 魔王を抜いてもこんなのが後五回続いて……




 いや、四回か。


 俺はもう自分の心が分からない。

























 そして、一週間が立った。





──────────────────────────

─────────────────────













 事の顛末をざっくりと纏める。


 まずスプレンドーレはエタンセルと協力関係を結ぶことになった。

 しかしその実圧倒的にエタンセル有利の協定である。

 エタンセルはスプレンドーレに対して復興が終わるまで無償の援助をする。

 対し、スプレンドーレはエタンセルに対し“永続的”に友好を結ぶ。


 その友好の中に何が含まれるかは圧倒的な政治の話なので大半は任せている。

 俺としてはその辺は別にどうでもいいので、ともかく悪魔に対し手を取り合えれば十分だ。


 今後この二国が、そしてその影響で他国がどうなっていくのかは分からない。

 しかし少なくとも前には進むだろう。

 そうでなければどの道どこかで死ぬだけだ。


 それにあれ程の事があったとしても、生きてさえいれば人はまたやり直せるのだから。


 そんな誰にでもある当たり前の権利は、しかし俺にはとってはとても輝いて見えた。






「ようこそ、ルフレへ」

「…………おおぅ……」



 俺は目の前の彼女達にそう声をかける。

 放心しているシーラとキョロキョロしているアテルの二名であった。

 試しに握手を差し出してみれば、彼女は心ここにあらずなまま手をとった。

 その見上げた視線の先には校舎があって、しかしそこまで驚く事もないと思うのだが。

 なんならシュトラールの方が最新で綺麗だし、まあ確かにルフレの方が無駄に大きいかもしれない。


 ともかく俺は彼女を案内しようと、挨拶もそこそこに寮への道を促した。


「シーラ、ちゃんと挨拶は考えましたか」

「え? いや、普通に……ありのままと言うか……」

「……失敗しないと良いですね」

「えっ、何!? やめてよ不穏な事言うの!」


「………………」


 彼女達はシュトラール魔道学園唯一にして、たった二名の最後の生き残りである。

 そんな彼女達はスプレンドーレの学園ではなくここエタンセルのルフレに転校する事になった。


 なったと言っても別に受動的なことではなく、これはライラの交渉により得た結果である。

 今後の事を考えると二人には傍に居て欲しかった。

 そして二人も国王も快く受け入れてくれた、らしい。



「あ、ユーロ。寮って何人部屋?」

「あー、一応二人一緒がいいかなって……正直こっちも結構飽きが有るし、頼めば一人にも変えられるけど」

「いや!……ま、まぁそのままでも」

「分けてください」

「」


 二人の距離はそれは近いものである。

 俺はシーラとネメシスの親友っぷりを見ていたので正直違和感は否めない。

 しかしどうやらネメシスも同じ感情のようで、この間しょぼくれているのを偶然見かけた。

 何かあったのかと聞いてみたら、取られたとか言っていたからこの事だったのか。

 フーコと言いアテルと言い、今まで目立たなかった人達が存在感を出してくる。


「な、なんで!?」

「一緒だとまた甘えるじゃ無いですか」

「あ、甘えない! 大丈夫だから! 何なら洗濯とか手伝うわよ!」

「そもそも手伝うという認識の時点で駄目ですね」


 それでも他人の俺からすれば、二人の掛け合いを見ていると昔を思い出す。

 もう俺が知るシーラはこの世界には存在しない。

 それがいい事なのか悪いことなのかは、まだ分からないけど。


 それでも今のシーラが笑っているならそれで良いと思うのは駄目な事だろうか。

 本当に、なんでこうなったんだろう。

 本当に、こんなんで良いのだろうか。



「……そういえば、ユーロさん」

「呼び捨てで良いですよ」

「……では、ユーロ君」


 あまり呼び慣れない呼び方に少しばかりむず痒さを感じた。

 アテルの所作はいかにも付き人とかメイドといった丁寧な感じである。

 あまり周りにいないタイプだし、正直彼女の妹とも似ても似つかない。

 俺は目的地にゆっくり歩きながら、するとアテルは俺の横に並んで歩きはじめた。


「……以前の事、まだ謝っていなかったなと」

「あー……あれですか。公園の」


 そうです、と静かに言うアテルは、どこか申し訳なさそうな顔をしていた。

 シーラも俺たちの少し後ろを歩きながら落ち着かない様子で変な歩き方をしている。


「気にしてないですよ。むしろ立場を考えれば当たり前です」

「……そう言っていただけると。……まぁ、やっぱりあまちゃんですが」

「あ、アテル……」


 そう言って静かに目を細めて笑うアテルには妖艶という言葉が酷く似合った。

 そして確かに俺は今世紀最大のあまちゃんである。

 今は笑って流せないのがただ残念だった。


 普通に事実で傷付いたから。


「あ、そうそうユーロ、アタシ聞かないと行けないこと忘れてた!」

「え、なに」


 シーラが俺とアテルの間に割って入る。

 知ってか知らずかこちらの胸中を雑にかき消した。

 聞かないといけない事と言われれば、俺も彼女に聞きたいことは山程あった。


 例えば何で固有能力に覚醒出来たとか、どうしてあの後また立ち上がろうと思ったのかとか。

 彼女の強さを俺はよく知っていると同時に、彼女の弱さも俺は良く知っていたから。


「何で揺りかごの事知ってたの?」


 しかしその言葉を聞いて俺は足を止めた。

 必然的に二人も立ち止まる。


 シーラは既に記憶の存在を知っていて、ある程度の簡単な説明は済ませてあった。



「……なんだ、それ?」


 けど、今回のそれは少し違くて、俺はシーラが何を言っているのかまるで分からなかった。

 言葉の意味も会話の意図も分からない。

 ただ異質な感情が心を支配した。


 揺り籠。ユリカゴ。ゆりかご。百合加護。

 思考を探っても何一つシーラと結びつくものが存在しない。

 しかしまるでシーラのその口ぶりは、俺がそれを知っていると確信しているようなものだった。


「何って……ユーロが忠告してくれたんでしょ? 頼むから揺りかごには触れるなって……」







 俺は寒気がした。

 全くもって俺はそんなこと言っていない。



「………………」

「え、な、何…………」


 揺りかごなんて俺は見たことも聞いたこともないし、何時のことを言っているのかすら分からない。

 それは、一般的なそういったものがある事は知っているが、今はそんな話じゃ無いだろう。

 無言でシーラを見ていると彼女は分かりやすく不安を募らせた。

 何と言うべきか正直迷う。アテルは黙って成り行きを見守っていた。



「いや…………言ってないけど」

「えっ、と…………」


 本当に、この最後の最後で新しい事が増えるのは実に困る。

 ものによってはノノアやシーラの固有能力とか、いい面もあるがプラマイだとマイナスよりだろう。


 今までシーラと過ごして来た中で、揺りかご要素なんてどこかにあっただろうか。

 俺は酷使され情報で詰め込まれた脳を一度まるまる洗いたい気分で痒くなった。


 とにかく、その辺は調べる必要が有るだろう。


 何でかシーラは段々泣きそうな顔になっていった。


「たっ、多重人格……?」

「無い。……知らないうちに変わってたらそれは知らないけど」



 そもそもシーラは長い間気絶していた。

 夢を見ていたなんてオチも普通に考えられるだろう。








「──はい、ここ。だけど、こっから先は男子禁制だから」

「……ふーん」

「代わりに案内役が居るんだけど……あ、居た」


 そしてようやく寮にたどり着いた。

 寮は正門からは一番離れているのでそこそこ長かった。

 道中軽い施設案内も兼ねたが、まあ詳しくはまた教員や生徒会あたりがやってくれるだろう。


 そして辺りを見回すと、植木の影にネメシスが居て何故かじっとこちらを覗いていた。

 あの分だとずっとつけていたのだろう。

 シャイと言うよりは思考回路が変わっているだけだ。


 因みにここまでの案内を俺が買ってでたのは半分俺が話したかっただけである。


「……久しぶり」

「あ、ネメシス! …………ここであったが百年目!」


 そして突如荷物を放ってネメシスに襲いかかるシーラ。

 ネメシスは若干泣きそうな顔をしながらその拳をおでこで弾き返す。

 シーラはそれだけで簡単に弾かれて、地面に転がり俺は気遣い目を逸らした。


 別にシーラはネメシスを嫌っている訳では無いのだが。

 単に彼女の武術魂を刺激する存在として落ち着いたようだった。


 俺には凄く分かる。ネメシスの今の複雑な気持ち。

 全ての積み重ねが振り出しに戻るのだ。

 あんなに頑張ったのに本当に不憫なことである。


 俺は自分を慰める気持ちでネメシスの肩に手を置いた。


「シーラ……その、毎回襲ってくるのは……」

「いっ痛ぅぅ……か、勝つまではぁ……っ!」

「ぐすん」

「ネメシス……俺は味方だ……」


 アテルはずっと一連の流れを白い目で見ている。

 しかし当事者じゃないと分からないのだから仕方がなかった。

 ともかく後はネメシスに任せるとして、俺は取り敢えずこの場を離れようとした。



「──ねぇちゃーー────!」

「ん?」




 そこに新たな来訪者が現れる。

 と言うか、まあ当然と言えば当然か。

 残されたたった二人だけの家族なのだから、そしてそこからの光景はとても美しいものだった。

 





 そしてその光景を見てふと頭を過ぎる。

 俺の本当の家族は今どこで何をしているのだろうかと。


 しかしその顔も生きているのかすらも思い出せない。


 思い浮かぶ“家族”はもうアスモデウス達だけだった。




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