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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
39/83

仲間の元へ






 ───五月初旬




 夜間のルフレ魔術学園生徒会室。

 一日の大まかな業務も終わり今や静かなこの空間。

 そこに二つ分の人影が怪しく立ち並び、机を隔てて向かい合っていた。


 一人は他でもないこの学園の生徒会長、ネイル・アクスターその人である。

 しかし彼は何故か険しい顔を浮かべ、そのもう一人を軽く睨みつけていた。


「……何の用だ」


 そこに居たのはネイルの後輩。

 しかし自分より態度の大きい生意気な女。

 この国の王女、ライラ・エタンセルが机に腰掛けつつ腕を組みながら不遜に佇んでいた。


 そして先程ネイルがライラに言った通り、この密会を作り出したのはライラである。

 ネイルは断る理由も特に無かったので、一応受け入れたが理由はまだ聞いていなかった。


「もしもの為の話し合いよ」

「……続けろ」


 時刻は八時。他の生徒会メンバーすらここにいない。

 ユーロに関しては今は風紀委員会にいる事だろう。

 だからこそ今度は何を企んでいるだと、ネイルは味方であれど最大限の警戒をしていた。


 そして告げられたその内容は、しかしそれこそ勇者の記憶が必要な筈である。

 だが次に告げられたライラの言葉を聞いて、ネイルは驚きとともにそれに納得した。


「…………もし、ユーロが敵に回ったら」

「何だと?」


 ライラはハッキリ言って天才である。

 既に国を回す父親の域を軽く超えていた。

 人が着いてくるかはまた別として、少なくとも近代で並ぶものは居ない程である。


 そんな彼女が杞憂していることは、ハッキリ言って口にも出したくない事だった。

 それでも、彼女の心が否定していても、彼女の勘が何かを強く訴えかけて来た。


「アンタ、第二で死んだのよね」

「………ああ」


 ネイルの記憶は第二の悪魔、今年の十二月でキッパリ途絶えている。

 だからこそ彼は目前の驚異に第四まで行ったライラ以上に怯えていた。


 それと同時にどうしても二人が持つ情報には、半年分くらいの差が生まれている。

 その上ライラの方が後の周回なので、更に中身の密度も変わっていた。


「なら知らないと思うけど……ユーロが使ってた闇魔法、あれは、本来悪魔にしか使えない代物よ」

「…………教えた輩が居ると?」

「端的に言ってそう。私が知る限り前はあんなの使って無かったし……脅して聞き出したとかも考えられるけど……」


 でもそれなら、別に話してくれても良かった。


 いつか言っていた後二人くらいは恋人が居るという話。

 私と、白髪と、魔道馬鹿と、異国の武術家と、それと後もう一人。


 こればっかりはただの勘なので、まだあまり公にはしたくない話である。

 それに、あくまで可能性の話であって自分で言っててとても信じられなかった。


「だとして、俺に何をしろと」

「……簡単よ」


 もし仮に本当にそうなったとして。

 自分がどうなってしまうのかは正直分からない。

 それでも今決め打ちするには早すぎるし、だからと言って放置するのも危険である。


 ライラは組んでいた腕を解いて、めいっぱい怪しい笑顔をその身に携えた。

 会長はそれに少し眉を寄せ、しかしそんなことは知らないとライラは手を差し出す。


「私の駒になりなさい───最大限役立ててあげるわ」


 これは果たして彼への裏切りになるのだろうか。

 百パーセント信用出来ていないことには間違いない。

 それでも、私は、ライラ・エタンセルは。


 彼との世界を守る為なら躊躇も妥協も一切しない。


 











──────────────────────────

────────────────────────






 ──スプレンドーレ到着一時間前



「──いやぁ、何でこんな事に?」

「あ、あわわ……」



 先程、ユーロからパスコールに連絡が来た。

 それはスプレンドーレへのマモン襲来の知らせである。

 故にパスカルはすぐに彼の要望通り、会長への情報を伝える役目を果たした。


 とはいえそれは現状の報告と、準備出来次第医療班をよこして欲しいという話である。

 なのに何故か今パスカルとサーシャの前に、大量の風系統の魔術師達が集まっていた。


「会長! 全員集め終わりました!」

「ご苦労ミュタ、下がっていろ」

「はい!」


 場所はルフレの運動場。

 ミュタが整列をとり会長に報告する。

 既にここには二百人程の生徒が集まっていて、その全員が風系統となると流石に圧巻だった。


「いやー、結構いるもんだね」

「わ、私達は何故ここに……?」


 しかしパスカルは炎系統で、サーシャに関しては土系統の魔術師である。

 しかも普段は魔道にばかりかまけているので、いつ魔法を使ったかも覚えていない程だった。


 しかしパスカルは会長に情報を伝えた後、ここで待機する様直接言い渡されたのだ。

 その時一緒にいたサーシャ共々待つ最中、ルドウィンだけが彼らに連行されて行った。



「──それは責任を取ってもらうためですっ!」

「ひょえっ!!??」



 しかし他人事のようにその光景を眺めていると、背後から不穏な声をかけられる。

 サーシャはそれに驚いて声を荒らげさせ、振り返るとそこには会計のリグがいた。


 頬を膨らませて腰に手を当ててはいるが、可愛らしいだけで特に迫力は無い。

 これでも彼女はネイルの後を継ぐ、次代の生徒会長である事をパスカルは知っていた。


「責任?」

「心当たりはないか?」


 会長もパスカル達の元へと近づいて来る。

 心当たりは流石にあり過ぎた。

 しかしこの状況とは流石に紐付か無くて、けれど責任という言葉には怖気が走る。


 怯えながら色々考えていると、運動場の入口からエンジンの音が聞こえてきた。

 それはあまりに想定外の代物でパスカルは流石に何事かと焦り始める。


「来たか」

「はっ? ……ちょ、ちょちょ!」


 先日完成したばかりの物理装甲車(兵器)が目の前に静かに停止した。

 しかしそれはまだお披露目していなく、知っているのはユーロとパスカルチームの三人だけである。


 そして中から運転していたルドウィンが出てきて、何してんだとパスカルは一人憤慨した。

 しかし出てきたルドウィンの表情を見て、流石に様子がおかしいことにパスカルはふと気がつく。


「……ルド?」

「すまねぇ……」


「良し、乗れ」


 会長は説明もなく雑に乗り込んだ。

 これには流石にパスカルも怒りをぶり返す。

 自分の力作に我が物顔で乗られ、状況の説明もないとくればそれは憤死ものだった。


「何だよ! 説明しろやい!」

「ならその前に生徒会の臨時予算が減っている事を説明してもらおうか」


「……へへ」


 しかしパスカルは分が悪いことをすぐに察知し、上げた手を笑いながらスっと降ろした。

 ダラダラと汗を流す尊敬する先輩を見て、サーシャは少しばかり冷静になって白い目を向ける。


 パスカルは世界に名を轟かす天才で、だからこそ彼女を追いかけ移住までサーシャは選んで来た。

 けれどいざ蓋を開け会ってみれば、魔道以外はからっきしの大分やばい人であった。


「いいから乗れ、運転出来れば誰でもいい。詳しい事は道中説明する」

「誰でもって……」

「今言えることは、マモンと戦いに行くという事だけだ」

「は?」


 会長はなんでもない様にそれだけ伝えて、さっさとしろと目を細め三人を睨み付けた。

 パスカルはその言葉に驚くと同時に、会長が暴走を始めたと認識する。


 自分が伝えた情報の中にそんな指示は含まれていなかった筈だ。

 彼らは戦いは自分達で何とかするつもりで、それに関してパスカルは信じる事にしている。


「何でそんな事に」

「もしもの為だ」


 しかし会長の顔は酷く真剣なもので、もしもとは言え強い覚悟を感じた。

 決して名声が欲しいとか戦闘狂とか、そういったものには流石に見えはしない。


「………ふむ」


 しかし断れるものなら断りたいが、会長には今手網を握られていた。

 それにそもそもこの日の為にこの物理装甲車を作っていたも同然である。


 そしてルドウィンとサーシャを一瞥して、覚悟を決めて自ら装甲車へと乗り込んだ。

 完全に事態を把握した訳では無いが、少なくともこの三人の中なら自分が適任だろう。


「せ、先輩!?」

「なに、問題ない。それに久々にユーロの顔も見たいし」




「──かーいちょー! 連れてきたよぉ〜!」


 そこに変な走り方をしたネムが手を振りながら、要人を引き連れ車に寄ってきた。

 その後ろには保健委員長のミラと、メイと、そしてオドオドした顔のノノアが着いてきている。


「ささ、乗った乗った!」

「……本当に大丈夫なのかしら」


 ネムはノノアの背を押して、緊張した顔のノノアをそのまま押し込んだ。

 一応ここまでの道中で軽い説明は受けている。

 だからこそ不安でノノアの顔色はすごく悪かった。


「保証は無い。しかし奴らが負ければどの道ここに居る全員死ぬ」


 マモン相手に魔法は使えない。そして向こうにはネメシスとシーラがいる。

 その二人及び勇者が負ける事になれば、もうマモンに対抗する術はこの世から消えると言っていい。

 そんな状況でただ事態を待つなんて事、ライラの事がなくてもネイルは我慢ならなかった。

 言って何が出来るとも限らないが、少なくともこの装甲車やノノアは切り札になる。


 装甲車についてはライラから情報は聞いていた。

 聞いた時は流石に退学にしてやろうかと思ったが。


「わ、私も行くからっ」


 そしてメイはノノアの後に続いて、自分も装甲車の中へと乗り込もうとする。

 しかし会長はそれを直ぐに止めた。

 メイも流石にビビってその動きを止める。


「駄目だ、降りろ」

「え、なっ、何で!?」


 ハッキリそう否定を告げられて、メイは思わず声を荒らげて反論した。

 その後慌てて手で口を覆ったが、そもそもネイルはライラのせいでタメ口に慣れきっていた。


「定員オーバーだ」

「そ、そんな……っ」


「ん? 会長さん、この子は四人まで乗れるよ」


 パスカルはハンドルをコンコンと叩きながら、本当に我が子のように車をこの子と呼んだ。

 しかしメイ含めて丁度四人である。パスカルとノノアとネイルとメイで四人。

 それなら特に問題は無いはずだったが、けれど会長は結局首を横に振った。

 そして既に決まっていたもう一人の乗組員へとネイルはようやく声をかけた。


「後一人はもう決まっている」

「おっと、そうなのかい」


「フーコ・フィクサー。乗れ」










 ………。






 …………?







「私ですかっ!?!?」




 フーコは風系統の生徒の中に紛れていた。

 まさか自分が呼ばれるとは思わなくて顔面蒼白である。



「なっ、なな、、なななななんなわななっ!?」

「落ち着け」

「何で私ですかっ!? わ、私よりもっと強い人がっ……!?」


 実際フーコはそこまで強くない。

 最近ようやく上級が使え始めた程度だった。

 今で彼女は二年生だが、そもそも三年生にはもっと強い人も大勢いる。


 しかし会長はあの戦いのど真ん中で最後まで生き抜いた事を高く評価していた。

 それに彼女は最強と普段から仲が良く、自然と価値観や限界値が人より高くなっている。



「早くしろ。誰よりもお前が適任だ」

「……あ、あわわ…………」


「急げ。ネメシスが死んでも知らんぞ」

「…………っ!」


 フーコとネメシスは同い年で、同じクラスで、同じ風紀委員の友達である。

 彼女が負ける姿は誰より想像できない。

 それでも、同時に悪魔の恐ろしさも知っていた。


「い、行きます!」

「いいから乗れ」


 結果ネメシスの事が頭をよぎって、フーコも装甲車へとたどたどしく乗り込んだ。

 パスカル、フーコ、ノノアと役者が揃ってネイルはようやくかと小さく頷いた。


 メイは心配そうな顔でノノアを見つめて、ノノアはそんな彼女に一度笑って見せる。

 自分の力がユーロの役に立てるなら、他でもない自分の意志でも行きたかったから。



「会長!」

「助かる」


 会長はミュタからマイクを受け取って、全体に響き渡る声で言葉を紡ぐ。

 この場にいる全員の視線が集まって、そしてこれだけ集めた理由の説明が成された。



『今からお前らに、この車をスプレンドーレまで飛ばしてもらう』



 瞬間、この広い運動場を、真空状態の様な静けさが包み込んだ。









「──まてまてまてまて」


 パスカルは頭を抱えて静止をかける。

 流石にそれは聞き捨てならないものだった。

 この装甲車は理想を詰め込んだものだが、空を飛ぶようには流石に設計されていない。


「そんな事したら流石に壊れるって!」

「その為のフーコ・フィクサーだ。着地時のクッションを風で作ってもらう」

「ひぃぃ!? その為ですかっ……!?」


 しかし中には精密機器だってあるし、それに早く言ってくれれば翼くらいは付けたのに。

 そうゴタゴタとごねる我儘共に、しかし会長はいよいよキレ始める。

 時間が無い。だからこそこのショートカットだ。

 こんなところで暇を潰していては全く意味が無い。


「覚悟を決めろ! さっき行くと言っただろう!!」

「うぅ……っ」

「ちぇっ」


 会長の恐喝でフーコは涙した。

 しかし同時に覚悟もちゃんと決める。

 確かに、ネメシスのピンチなら是非駆けつけたい。

 苦手な戦い以外で役に立てるならむしろ好都合だった。


 パスカルもどこかまだ納得のいかないものの、一先ず会長の計画には了承する。

 そもそも予算前借りの話があるのでネイルの機嫌は何よりも優先度が高かった。


「し、しかし流石に距離が……」

『構わん、どの道近づきすぎると魔法が使えなくなる。できる限り飛ばしてくれればそれでいい』


 会長は最後にそう言って、手に持っていたマイクをミュタへと預けた。

 ミュタも本当は着いて行きたかったが、他でもない会長が決めたことに口は挟まない。


「いつでも行ける、合図は任せた」

「はい」


 そして全員が位置に着く。

 この事を勇者は何も知らない。

 これはあくまで王女の保険であり、それでも何となくこの行動は必要な気がした。



『合図で一斉に非殺傷最大の風魔法を唱えろ!』



 そしてネイルは再び決意を固めた。

 パスカルは空の旅に少しの期待を抱く。

 フーコは未来に恐怖して涙を流した。

 ノノアは彼の元へ向かう覚悟を決める。



『──飛ばせッ!!』



「フライ・アサイン!」

「エアロ・コート!!」


「「「ウィンド・バースト!!!」」」


 ルフレ数百人の風系統の力が集まって、本来地を走る装甲車がついに空を舞う。


 それは本来明日までかかる距離を、圧倒的な速度で短縮した。



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