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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
38/83

希望の光








 事態は収束を見せている様に見えて、その実悪化の一途を辿っている。

 思えば何か一つ解決した所ですぐに新たな惨劇が幕を開けた。


 こちらの手札は時間を追う事に減っていくのに対し全てを振り出しに戻すピースはまだ残されている。

 そしてそれはこの世で最も邪悪で、この世界の理不尽を煮詰めた様などす黒い絶望だった。



「………………ネメ、シス……?」



 俺が最も信頼する希望の象徴は、あえなく打ち砕かれ俺の目の前に横たわっていた。






「……………」

「うそ………」


 変わり果てた姿で動かないネメシス。

 右手は無く、所々がえぐれ、乾いた血で赤く染まっていた。

 俺は縋る様に彼女の元へと近付いてその脈を測ろうと彼女に手を伸ばす。

 力の入らない身体を無理矢理引き摺って、けどいざ触れる直前で俺の手は止まってしまう。

 この汚れた手で触れていいのか躊躇して、身体が震えて言うことを聞いてくれなかった。






『オイラは無傷だよ!』

「………………………」


『オマエらはもう魔法も使えまセン!』

「………………………」


『魔獣も追加で呼んじゃおっかなァ! 他に何か聞きたい事って有ル!?』



 悪魔は心を理解できない訳では無く、理解した上で的確かつ執拗に抉って来る。

 俺はそれをよく知っていた筈なのに、なのにここに来て酷く良い様にされていた。


 頭にモヤでも掛かったみたいで、身体も石になったみたいに動かない。

 ライラの失望とネメシスの死亡が重なって、俺の心は既に砕け散っていた。






「もう…………やめて、くれ」


『えーー、何!? 聞こえなーーい!!』




 俺はどう足掻いてもコイツには勝てない。

 今のシーラ一人で太刀打ちできるとも思えなかった。

 そもそも彼女がまた立ち上がれる保証も無くて、今それに縋るには些か楽観的過ぎた。


 それでも今はせめて時間を稼ぐべきで、けど俺は蹲りながら許しを乞う事しか出来ずに居る。

 そんな事をしてどうにかなるはずも無いのに。

 本当に無様で滑稽で救いようが無かった。



『考えたんだけどさぁ! これってオイラ、もう勝ち確定だよねぇ!』

「………………」

『負ける要素無くない!? てかなんで赤鬼はむしろ負けたのさァ!?』



 ネメシスによる最初の分断。

 広域魔法による魔獣の殲滅。

 俺たちは終始計画を上手く運んで、その上で今真っ向から叩き潰されていた。

 圧倒的なまでの力の差を感じてもう無理なのではという思考が頭を過ぎる。

 やり直しがなければ結局人類なんてこの程度で終わる代物なのだろう。



『どうしようか! 余裕が有るならやっぱ遊びたいよね!』


『どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう!』



 フワフワと左右に揺れるマモンは心底楽しそうに遊びを考えていた。

 俺は脳裏に嫌な記憶が蘇って、吐き気を堪えながら手で口を覆う。


 嫌な予感が全身を強く叩いて、しかしそれを回避する術も力もない。





『試しにオマエら二人で殺し合うのってどうよ』





 悪魔は人の心を弄ぶ。

 その才能は最早賞賛に値した。




『ルール説明!』


『女は勇者を殺す。出来れば三ヶ月人間を攻撃しないであげる』

『勇者は女を殺す。出来れば他の悪魔の今の情報をあげる』


「」


『相打ちだったら三ヶ月手を引いて、情報はオマエらの仲間に教えてやる』

『戦わなかったり十分で決着が付かなかったら、その時点でオイラがオマエらを殺す』



『あ! 後自決は無しな!』



 カラン、と目の前に何かが落とされた。

 マモンが作った闇で出来た剣だった。

 それは俺が作った物よりも遥かに強そうで、そんな小さな事でも俺の心は激しく揺れる。


 そしてそのどうしようも無く最悪な提案は、しかし目が眩むほど俺たちの足元を見てきていた。

 今のこちらの状況を良く理解している。

 喉から手が出るくらいどちらも必要なものだった。



『特別に貸してやるよ! ホラ始めろ!』



 それでも俺はその剣を拾えなかった。

 それはマモンの言葉を信用出来なかったからという訳では無い。

 ライラを攻撃する事なんてそもそもできる筈が無くて、それが出来るなら俺はロイゼ達を既に殺している。


 しかしどちらかがすぐに動かなければどの道俺もライラも無駄に死ぬ事になる。

 なんて、結局それは軽い杞憂で終わる事になった。

 ライラの足音が俺の耳に微かに聞こえた。




「………………」







 ライラは静かにその剣を拾い上げて、冷たい視線を俺へと突き刺した。










「…………………馬鹿ばっかり」


 俺は迷う。迷って、けどすぐにそれを受け入れる。

 何時もなら抗ったのかもしれないが、俺にはそれを跳ね除ける気力はもうなかった。


 何よりもライラにはその資格があって、俺にはそれを受ける義理と意思がある。

 世界を天秤に掛けた痴情のもつれ。

 ライラの言う通り本当に馬鹿ばっかりだった。



「………遺言を聞いてあげる」



 ライラは俺に歩みよった。

 首に剣を突きつけながら静かにそう告げる。

 全て俺の行動が悪いのだが、その切り替えの速さには少しばかり泣けてしまう。


 けど、俺に文句を言う資格は無いしこの関係を終わらせたのは他でもない俺だった。

 俺は自ら彼女を裏切って、その癖勝手に傷付いている大馬鹿者である。


 それに魔法の使えない俺とライラじゃ、例え本気で戦っても結果は見えていた。





「…………ごめん」

「………抵抗、しない訳」




 冷たい感触が首筋を撫でる。

 先も言ったように彼女にはその資格があった。

 それが世界の終焉に繋がるとしても、それは本来俺以外にとって知ったことでは無いだろう。


 世界や未来の為に自分の人生を、割り切れる人はそう多くない。

 むしろ彼女はよく着いてきてくれた方だ。

 それを裏切り続けていたのは他でもない俺である。



「……黙ってて、ごめん」



 俺はアスモデウスの事を皆に話していなかった。

 こんな事になるなら話すべきだったと今更思う。

 それでも、例え話していたとして、それが上手くいっていたとは今でも思えなかった。


 何て、本当はただ怖かっただけである。

 話したその先にある皆の失望が怖かった。

 そして、その目は結局今俺に向けられている。

 因果報応で俺に相応しい罰だった。



「………何で」

「……………」


「…………………言い訳とか、説明とか………もっと、しなさいよ……」



 震えた剣が首を少し切り裂いて、一滴の血が伝って赤い筋を作る。

 たったそれだけで大した痛みもないのに、俺はそこから魂が抜けた気がした。


 言い訳何て出来るはずもない。

 理由なんてライラを納得させる程のものは無い。

 全ては俺の意思の弱さから始まって、そして当然の帰結を迎えようとしていた。


 だから、




「殺してくれ」

「……………」



 マモンが約束を守る前提の話ではあるが、それでもこれで人類に三ヶ月の猶予ができる。

 俺の命で今を繋ぐことが出来るなら、俺はこの死に意味を見出すことが出来た。



「それで、いいの……?」

「……………………ああ」













「────巫山戯んじゃ無いわよッ!!」





 慟哭が俺を貫いた。

 剣は未だに突きつけられている。

 彼女は俺を殺す為に剣を取ったのに、何故か従順な俺に向かって叫んでいた。


 彼女の顔は怒りに染められていて、今にも剣を振り上げてもおかしくない。

 なのに、まるで表面張力の様にその感情はギリギリで保たれていた。



「アンタが死ねば皆死ぬでしょ!? 何そんなに簡単に諦めてんのよ………ッ!」

「…………」

「何を迷ってんのよ! 何を傷付いてんのよッ! 迷うくらいなら傍から裏切るんじゃ無いわよ!!」



「自分の行動くらい自分で責任持ちなさいよ!!」



 彼女は俺にどうして欲しいのだろうか。

 俺の行動に理由が欲しいのだろうか。

 それとも、俺に殺して欲しいのだろうか。

 ライラは、泣きがながら叫んでいた。



「戦え!! 裏切ったなら、せめて敵として降るまえ!!」


「簡単に死ねると思うな……ッ、被害者みたいな面してんじゃ無いわよ!!」



 彼女の言葉は俺に深く刺さった。

 けどその目の理由が俺には分からない。

 それでも、言葉は酷く拒絶するものだが鼓舞されている事は何となく分かった。


 本気で俺を殺したいようにも見えるし、どこか時間を稼いでいる様にも少し見える。

 失望は確かにその目に感じて、それでも切り捨てられない愛も同時に感じた。




『んー、まぁこれも面白いんだけどー、なーんかちょっと違うかなぁ』


『もっと赤いの見せてよー』



 マモンが痺れを切らし始めた。

 しかし俺はそれに同意も否定も出来なかった。

 俺はただ罰を受ける側で、この状況を左右する立場にないからだ。

 何て、そんなふうに受動的だから俺は何にも上手くいかないのかも知れない。

 ライラは強く歯を食いしばって、その言葉に、震えながらその剣を振り上げた。



 どんな理由や思惑があったとしても、この凄惨な状況でライラだけが動けていた。

 生きてるのに死んだ様な俺とは大違い。



 ライラは最後、強く目を閉じた。












 そして、結局、振り下ろした。






















 ──エンジンの音が微かに聞こえた。






「──────ッ、来た!!」




 ライラが叫んだ。

 僅かな振動が床を伝ってくる。

 伝播するように俺の心臓を跳ねさせた。


 一瞬で全身の血管が湧き上がって、脳は理解が追いつかなくても心は理解を始める。


 首筋後数ミリの所で剣が止まって、そのままライラは剣を投げ捨てた。

 焦った顔で僅かに口角を上げて、俺の手を強く引き上げる。



「──立て馬鹿!!」


「なっ……」



 エンジンの音がどんどん大きくなっていく。

 その音には俺にも心当たりがあった。


 けどこんな早くに到着する訳が無くて、しかしそれはこの部屋に新たな穴を穿って飛び込んできた。














「────はっはっはーーーーッ!! 間に合ったッ!!!」




 轟音と共に瓦礫が吹き飛んだ。

 もうこの建物も限界が近いだろう。

 壁や支柱が激しく揺れて、パラパラと天井から破片が降り始める。



「──ぶっ、ブレーキ! ブレーキ踏んでくださいぃい!!」

「マモン……ッ!」




「───ユーロ……っ、来たよっ!!」




 しかしそんな事は知ったことでは無いと、それは俺たちとマモンの間に割り込んだ。

 酷く見覚えのある重厚な装甲車が火花を上げながら旋回してやがて停車する。



 パスカル、フーコ、会長が居て、そこにはノノアまでが乗っていた。

 その面子はハッキリ言って予想外で事態は俺の知らない方へ動き始める。



「何で──」

「遅いわよ馬鹿共ッ!!」



 ライラが皆に厳しい言葉を掛けながら俺の手を引いて中心から距離を取る。

 計画を立てたのはライラだったが、パスコールで会長に頼み事をしたのは他でもない俺だった。


 でもそれは事態の情報共有と、終わったあとの救助要員の手配である。

 なのにライラだけはこの状況に的確に動けていて、本当に適わないと心から思った。









 そして、ライラは本気で怒っていた筈なのに、今俺と彼女の手は確かに繋がれていた。

 それがどうしようもなく暖かくて、俺はダメだとわかっているのに強く握ってしまう。




「言っとくけど、許したわけじゃないから」

「……ごめん」














『なーんだオマエらぁ〜………』







「──ぱ、パスカルさん!!」


 フーコは既に涙を貯めていた。

 それでも必死で声を荒らげさせる。


「任せろ任せろ任せろっ!!」


 パスカルは終始笑顔で自信に溢れ、機械の操作を高速で行って行く。


「早くしろッ!!」


 装甲車の上には重厚な機械が取り付けられ、それの前に会長が待機していた。



「準備は良いかい!?」

「当たり前だッ!!」



 俺だけが状況について行けていない。

 ただ頼もしい仲間がいることだけはわかった。

 

 ただ手を引かれて走る俺の前に、一筋の大きな光が目に映った。





「消し炭でも残るといいねぇ」

『調子乗んなよ』





 音が消えた。

 次に大気が揺れる。離れているのに身体が熱を感じはじめた。

 まるで蜃気楼みたいに世界が大きく揺れて、そして轟音が耳を貫いた。



 ──収束・蓄積は既に終わっていた。

 後それはもう放つだけの状態である。



「ADS・O.passcall・MASER(アクティブ・ディナイアル・システム・オーバー・パスコール・メーザー)」





 そしてそれはまるで流星の様に、視界に映る全てを消し去った。







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