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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
36/83

狂人






 身体に纏わりついた瓦礫を手で雑に払った。


 私は大きな溜息を付いてから重たい腰を上げる。


 右目が潰れて前が見え無くなって、私は残された目に冷たい感情を浮かべた。



 視野が狭まったせいでどうしても感覚が狂ってしまう。

 私はフラフラと揺れながらその誤差を脳内で調整した。

 痛みよりも死角、そして武器の損失が問題である。

 サリアは私を見ながら余裕そうに腕を組んで佇んでいた。

 

『……話し、聞く気になったっすか?』

「………………」


 なってない。別に隙あらばすぐに殺す。

 しかし作戦も無く抗って現状どうにかなるとも思えなかった。

 サリアは上から目線で私に言葉を投げかけて来ている。

 無言で先を促せば、彼女は組んでいた腕を解いた。


『ユーロ・リフレインって知ってるっすか?』

「知らないわ……誰よそれ」


 私は秒で嘘をついた。

 その質問の意味は私には憶測でしか分からない。

 目の前の女は考える素振りを見せて、こう言った手合いには慣れてない事が見て取れた。


 逆に何で正直に話してやらないといけないのかまるで理解が出来なかった。

 もしかすると目の前の女は既に勝った気で居るのかも知れない。


 それは些か早計が過ぎるだろう。脳筋に多い短絡的な思考だと思えた。


『あー、じゃあ別に用は無いっすね』

「けど……殺さない方が良いわよ」

『はぁ? 何すかアンタ』


 怪訝な目を向ける青い髪の化け物。

 身体能力だけで言えば四月のネメシス位は有るのだろうか。

 私の魔力があと今の五倍あれば、軽く捻ってすり潰してやるというのに。

 何て、出来ない事を話していても何の生産性もありはしない。

 私は勝つ為の策を練って、やっぱりこういうやり方があっていると思った。


「……人狼って知ってるかしら」

『人狼?』


 話しながら現状確認。

 右目の欠損。全身打撲。そして全身擦り傷。

 残存魔力六十程度。初級魔法五、六発撃てれば御の字だろう。


 武器は無いし手の届く位置にもない。

 それでも私の目には多分怪しい光が宿っていた。

 それに気づける目利きがサリアにあるとは私はとてもじゃないけど思えなかった。


「市民の中に狼が紛れてる。市民は狼を追放し、狼は人を食う思考ゲーム」

『それが何すか』


 世界は弱肉強食に溢れていて、対等で始まらない戦いなんてザラに存在する。

 それでも勝敗は最後まで分からない。

 腕っ節が強い方が勝つなんてただのまやかしだ。



「──手を貸すわよ。私はユーロとやらを知らないけど、知ってるだろう人は何人か知ってる」

『……へぇ』


 私は条件さえ整えば、神だってその喉笛を噛みちぎってやる気概はあった。

 なんて、噛みちぎるなんて表現ではまるで私が狼みたいだったが。


 サリアの鋭い目が私を真っ直ぐ射抜く。

 私はそれに負けないくらい鋭い目で返した。

 


「教える代わりに私を殺さないで。何人か居るから、取り上えず一人目のところに案内してあげる」

『んー、いや、案内はいいっす。今口で教えるっすよ』


 当然だ。むしろ乗られたら困る。

 誘導出来ない程の馬鹿でなくて少し安心した。

 私はサリアの大体の思考回路を予測して、まだやりやすい手合いだと当たりを付ける。


「嫌よ。教えたら殺すでしょ」

『んー、別に生かすメリットも無いっすねぇ……普通に、楽に死なせてやるからさっさと吐けっすよ』


 サリアはそう言って腕を構えた。

 私はそれに眉を寄せる演技を見せる。


「……分かった。けど殺さない方が良いわよ。だって知ってるかもだから、別に保証は無い」

『それも別に良いっすよ、元々期待なんてしてないんだから。……それよりこれ以上ペラ回すなら覚悟するっすよ』


 そう言ってサリアが私に歩いてくる。

 私は次の段階に移行した。


「ノノア・エレノイト、フーコ・フィクサー、ネイル・アクスター」

『あー、場所と特徴も一緒に──』


「リグ・バレット、ネム・ベイト、ロイゼ……っ、と、ネメシス・ブレイブ」

『…………?』


 少しサリアの眉が寄せられた。

 その歩みを止めて、私をじっと見てくる。

 釣れた。

 けどまだ浅い。

 針をちゃんと飲み込むようにしばらく泳がせる。


『ロイゼ? ロイゼ何すか』

「……ロイゼ・ウンタラよ」

『…………』


 私は苦々しい顔を隠す様な顔をして、そして目を逸らしながら一度唾を飲み込んだ。

 そして数センチだけ足を後ろに下げる。

 手持ち無沙汰に親指で人差し指の爪を撫でた。


「……何よ、何が気になる訳」

『いやぁ……それなりの事情があるんすよねぇ……』


 知ってる。

 ロイゼとサリアはそこまで相性が良くない。

 戦場で仲違いしてる様子を見た様な記憶がある。

 当然そこまで彼女達の事情に詳しくはないが、それでも多少の鍵は私も握っていた。


『まぁ偶然だと思うっすけど……なーんか勘が臭うんすよねぇ』

「…………」


 因みにその勘を鳴らしているのは私だった。

 それに気づけない内はどんどんドツボにハマっていく事だろう。


 サリアは無警戒に私の目の前まで近づいてきて、覗き込むように私を図ろうとしてきた。

 ここら辺でもう次に行って良いだろうか。

 作戦の第三段階に私は移った。





『……はぁ、分かった。ロイゼとユーロの情報を渡す』

『な』


『彼女達は今一緒にいるわよ』


 私は両手を上げて、降参のポーズをとってそう言った。

 目を見開いて驚くサリアは目に見えて混乱している。

 私は思わず笑いそうになって、必死で込み上げるものを無理やりこらえた。


『な……なんすか、それ』


『何で私がすぐここに来たか分かる? ──ロイゼから頼まれてアンタを消しに来たのよ』

『は、はぁ!?』


 追い打ちをかけるように私はそう嘯いた。

 証拠も無いがそれは否定する側も然りである。

 彼女の様な単純な思考なら、信じたい方に勝手に傾いてくれるだろう。


『だったらアンタを消すだけっす!』

『いいの? 今しかチャンスは無いのに』

『……え?』


 私は強行に走られる前にそう告げた。

 実際一番の山場はここだと思った。

 サリアは私の思い通り固まって、針がちゃんとかかったのを確認して私は一気に引き上げる。


『直接殺せばアスモデウスの顔に泥を塗る。だからこそロイゼは私を雇った』


『そして私を殺してもロイゼはまたアンタを狙う』


『だから私と手を組まない? 生かしてくれたら私がロイゼを殺してあげる』


 汗を流して動かないサリアの様子に、私は勝利を確信して薄く笑って見せた。

 狼同士が殺し合う異常な村。

 市民が狂人の振りまでしていてもう滅茶苦茶だった。



『少し手を貸してくれるだけでいい。アイツは私を仲間と思っているから上手くやれば簡単に騙せる』

『………………』

『それに私も脅されてて色々好都合なの。私を殺さないと約束してくれるだけでいい』


 行き当たりばったりの見切り発車だったが、何とか落ち着きそうで私は安心した。

 私から言うべきことは大体伝えた。

 後は簡単な質疑応答でもして適当にはぐらかせばいい。


『……記憶があるから、そんな、嘘つけるだけで……』

『……記憶? 何それ。私はロイゼからアンタの事を聞いてただけよ』


 迷ってる。

 私ならこんなの絶対に信じない。

 そもそも信じる要素が何もない。


 なのに、


『……嘘を、ついているようには見えないっす』


 そうやって感情でものをいう輩に、私はむしろ拍手を送ってやりたかった。

 思い通りに動く駒は敵でも味方でも大好きである。


『けど、条件があるっす』

『何かしら』


 サリアはそう言いながら歩き出した。

 私は笑顔でそれを見送って、


 そしてその方向に嫌な予感がした。



『お前がこいつを殺すっす』

『…………』


 国王だった。

 それは二重の意味で私に衝撃をもたらした。

 まだ生きていた事と、そして状況的に殺さないと話が進まない事である。


『こっち側に付くなら、それくらい出来る筈っすよね?』

『……まだ、生きてたのね』


 内心、今度こそ苦い顔をしそうになった。

 飼い犬に噛まれた気がして、私は調子に乗っていたと反省する。

 私は表情を貼り付けながら頭を回した。

 回して、しかし直ぐに詰みだと気付く。


『殺れば信じるっす』

『……踏み絵なんて前時代的でつまらないわね』


 トロッコ問題というものがある。

 そのレバーが私の手の中にあった。

 引けば恐らくサリアはこの後殺せる。

 しかしそのレールの上にはこの国の国王もいた。


 ユーロならこんな時どうするか考える。

 ネメシスの場合も考えて、彼らはレバーは絶対に引かないと思った。

 けど、私はその二人と根底から違う。

 彼らは強くて、トロッコを壊せる側の人間だから。


 だから。










『…………行きましょう』

『……うん、取り敢えず信じるっすよ』


 私は狂人。

 目的の為に全てを喰らう。

 人も、狼も。

 ただ信じるのは自分と仲間だけだ。



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