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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
34/83

カゾク






 長い廊下を駆け抜ける。

 急ぎはするが焦りはしない。

 私には強い仲間が二人も居て、最後は勝つだろうと心から信じられるから。


 実際この唐突で理不尽な強襲にも、それでも抗う余地はちゃんと残されていた。

 第二の悪魔、第四の悪魔の魔獣の襲来。

 しかし勝つ為のピースは既に揃っている。



「………………あれは」


 窓から見える遠くの空で、眩い光が広がり始める。

 作戦の第二段階の遂行を確認して、私は無意識に口角を吊り上げた。

 ユーロが放った広域魔法。それはネメシスがマモンを抑えている証拠でもあった。

 しかし、それでもまだ油断は出来ない。

 盤上は何時でも簡単にひっくり返る。


「──ガルアアアアアア!!」

「………!」


 廊下の角を曲がった先から魔獣の雄叫びが聞こえて来る。

 ペースを落として壁に身を隠し、なるべく気配を消しながら様子を伺った。

 そこでは魔獣が死体を食んでいて、私は顔を顰めて一度息を吐く。

 本来の魔獣なら一体二体訳は無い。しかしその紋様が事態を難しくさせていた。


「……一匹」


 正面から戦えばまず負けるだろう。

 私は魔力の総量が他と比べて著しく少ないのだ。

 故にどうしても火力不足が目立ってしまい、耐久力のある敵と連戦にはめっぽう弱くなる。


 しかし今の私はいつもと違う。この国には宝の山がそこら中に転がりまくっていた。

 もれなく傍に死体もあったが、国を思うならむしろ彼らも本望だろう。


 私は、三秒数えて飛び出した。

 両手に持つのは二丁の魔銃である。

 手札の増えた今の私は、魔獣程度には負けはしない。



「──────あ」



 しかし、視界を光が埋めつくして目の前で魔獣が消え去った。

 ユーロの光がここまで届いたのだ。

 私は目を覆いながら足を慌てて止めた。


「…………張り切り過ぎ」


 別に何も問題は無いのだが、何処か消化不良感は否めない。

 私は構えた銃をスっ、と降ろして目的地へと再び足を進めた。



 因みに、ここはスプレンドーレの王城である。

 私は国王に会いにここまでやって来ていた。

 今から会うのは国の行く末の舵を切る、真っ黒な腹を持つ私と同類の人種。


 私は闘えばそれなりには強い。

 しかし役割と言えばやはり政治的なものが多かった。

 交渉や頭脳戦は嫌いでは無いし、それその事自体に大きな不満は無い。



 何て考えながら走っていると、目的の扉らしき場所にたどり着く。

 キィ──、と音を立て扉が開いて、その立て付けの悪さに顔を顰めた。


 魔獣は消えたが火の手は未だに消えない。

 熱膨張や地震で城もボロボロになっているのだろう。

 それでも豪勢な部屋に私は舌打ちをしながら、銃を構えつつ声を張り上げた。


「エタンセルの使者よ! 誰か居るなら面を見せなさい!」


 返事は無い。

 既に死んでいる可能性もある。

 魔獣が入り込んでいた時点で徒労に終わる結果は予想していた。


 しかしそれならそれで、死体だけでもせめて拝んで起きたかった。

 不敬かもしれないがそれは今後の為に必要な事である。


「…………?」


 しかし私はこの部屋に入ってから異質で不気味な違和感を覚えていた。

 怖気が走る様な、背筋が凍るような不快な感覚。

 この部屋には何かあると本能が警鐘を鳴らしていた。



「……三秒以内に出てきなさい。でないとここを火の海に変えるわよ」


 両手に持った魔銃を雑に構えながら、部屋を見渡し私はそう言った。

 私の足音だけが嫌に部屋に響いて、その静けさに逆に不安になる。


 因みに魔銃はトリガーを引く事で記憶された魔法が撃てるという代物だ。

 一番有名なのはロックバレットで、一週間前アテルが引き連れた兵士が使っていたものである。

 今持っている銃身にはそれぞれ、「フレアバード」と「ウィンドライフル」と書かれている。

 何発撃てるかは材料の質に寄るが、一般的なものなら中級は五発程度だろう。


 何なら他にもこの部屋には、魔道の武器が壁に掛けられていた。

 私はそれらを横目に見ながら、もしもの時の行動を事前に頭に入れておく。

 手札は多い方が当然良い。準備も早い方が後悔は無い。

 何て、完全に戦闘モードに入って居るが、そもそも勘が外れる可能性だって──




『あ、どうも』

「────!」



 棚の後ろに女が居た。

 そしてその後ろに探していた人が倒れている。


 私は私の勘が当たって、同時に最悪のケースを引き当てた。

 私は直ぐにソイツに銃を向けて、しかしそれより早く指が目の前に迫る。


 慌てて片方の銃を間に挟んで、少しの血飛沫を上げながら私は後ろに飛んだ。


「──ッ、アンタは!!」

『……え? 初対面っすよね?』


 青い髪をサイドに纏めた、一見ただの若い綺麗な女。

 しかしその服装が嫌に禍々しくて、とてもじゃないけど人類の趣味には見えなかった。

 一応この部屋にも例外なく、ユーロの光は隅まで届いた筈である。

 その上で、しかし確かにコイツならあの光くらいなら耐えるだろうと思えてしまった。


「サリア……ッ!」

『えぇ……何で知ってんすか……?』



 ──アスモデウスには四体の、言わば直属の眷属が存在する。

 それは人を素材にして造った禁忌の“魔人”。コイツはその中でも身体能力に秀でた性能だった筈。



『あ、もしかして──』



 私は言葉を遮って、銃を放ちながら遮蔽物の間を縫って下がった。

 身を隠しながら状況を整理して、分が悪いと見て直ぐに撤退に移る。


 今すぐ殺してやりたい程憎い相手だが、しかし感情で乗り越えられるほど甘くは無い。

 それにコイツがここに来ている以上、他の三体だって来てる可能性はむしろ高かった。


『ちょ、話を──』


 フレアバードを更に二発放って、しかしそれは当然の様に避けられる。

 その隙に右手の中に光を溜めて目眩しの為にそれをただ弾けさせた。

 サリアは何かを伝えようとしていたが、それらは全部無視して私は部屋を出る。

 国王は死んだと見た方がいいだろう。私は勝つ為の武器の調達に廊下を掛け出した。




『──もう、話し聞けっす』


「──な」



 目の前数センチに指が迫って、慣性のままそれが私の目を貫いた。




















─────────────────────────

─────────────────────











 ──国営魔道隊本部詰所。



 何処から光が広がって、絶望を容易く白へと塗り替えた。

 奇跡なんてものは信じて来なかったが、私は生まれて初めて神に感謝した。


「魔道具が使えるぞ!!」

「付近三キロ圏内の魔獣の消滅を確認!」


「そうか……そうか!」


 一度は絶望が浸水仕切ったここにも段々と活気が戻り始めていた。

 既に大勢の仲間が死に絶えて、しかしまだ全てが失われた訳ではない。


 魔獣は光で淘汰された。

 傷ついた仲間は光で回復している。

 これが神の御業で無くて、一体なんだと言うのだろうか。


 依然炎は国を包んでいたが、魔道具が使えるならそれくらい訳は無い。

 事態の収集が見え始め、本部長代理である私は兵士たちに指示を飛ばした。


 ここさえ最後乗り切る事が出来れば、明日からは代理ではなく私が本部長である。

 部下からの頼られる視線に高揚を覚え、私は明日の未来に軽く希望を抱いた。



「よし! では六部隊に別れそれぞれ避難み、んの、きゅう────?」



 ボトリ、と何かが床に落ちた。

 それは他でもない私の首だった。

 放心している部下達を見上げながら、私の意識は黒に染められた。





『──あーらら、まだこんなに残ってんの?』


「う、うわぁぁあああッ!!」

「総員撃て!! 撃て!!!」


 急に現れた長身の女に、しかし誰もが躊躇することなく武器を放つ。

 炎が、雷が、風が生み出され、しかし女はそれらに見向きすらしなかった。


 平然と魔法の間を縫って歩いて、手を叩くと一人の兵士の首が飛ぶ。

 一回、二回、三回とまた叩いた。

 三人死んで、女は更に手を叩く。




『多すぎ…………虫みたい』




 結局、スプレンドーレの英傑達は、何も出来ぬままこの世界から退場する事となった。

























──────────────────────────

───────────────────────











「レインスコール」




 水属性超級魔法。端的に言って雨を降らすだけのシンプルな魔法。

 ただ範囲が広い分魔力を多く食うだけで超級認定された攻撃性能の無い代物。


 それでもこれでしばらくすれば炎も勢いを消していく事だろう。

 俺は残された魔力を計算ながら、そして、ゆっくり背後へと振り返った。



「…………やっぱり、来てたか」


『んー? んー……』



 俺の背後にいつの間にか居たのは、寝起きのような目をした小さな女の子だった。

 服装さえ嫌に禍々しくなければ普通に人間の子供と間違えられる事だろう。

 しかしその無垢な顔に一見庇護欲を駆られるが、近づけば次の瞬間首を飛ばす事になる。

 こんなか弱いなりをしていても、この子も立派な魔人の一員だった。


「……まさか、アスモデウスは来てないよな?」

『んー? んー……』


 イマイチ容量を得ない返答に、その独特なペースに若干飲まれかける。

 しかし他の三人よりは血の気は少なく当たりと言えばまだ当たりかもしれなかった。


 ただこの分だとどうせ他も来てるだろうし、一人にさせたライラがどうしても心配になる。

 俺は無詠唱で魔法を練りながら、雨の中俺を見つめる小さな魔人に目を向けた。



『久しぶり……?』


「……記憶があるのか」


 

 しかし先程から何故か違和感が仕事をしていた。

 まるで敵意というものがこの子から感じられないのだ。

 しかしだからと言って油断出来る筈も無く、雨で濡れた彼女をそのまま凍らせた。


『わ』


 “ガル”はそれに驚いた顔を浮かべて、唯一動く首を不思議そうに傾ける。

 まるで、何で攻撃するの? ……なんて、本気でそう思っている様な目をしていた。


「もう一回聞くぞ……アスモデウスは」

『……来てないよ』


 存外素直に答えるガル。

 俺の記憶だとこの子は嘘をつけない。

 それに彼女が来るとは俺も思えなかったし、弱い彼女が戦場に出るメリットは基本無い。


 一先ずそれには納得して、次に俺はなるべく考える事を辞めた。

 こうして魔獣が人を殺している以上どんな記憶があってもガルは敵である。


「……悪いな」


 俺は彼女の頭に手を掲げた。

 出来るだけ苦しまない魔法を選択する。

 これは何度も繰り返してきた事だ。今更躊躇する事がむしろ冒涜である。

 なのに、


『……………!』


「…………ッ!」


 ガルはまさか撫でて貰えるとでも勘違いしたのか、目を細めて頭を前へと突き出した。

 その様子を見て俺はひとつの記憶が過ぎって、時間もそうないのに動きが止まってしまう。


『…………?』


 沈黙を雨音が包んで消した。

 再開には些か天気が悪すぎる。

 何て、降らしたのは他でもない俺だったし、降らさせたのは彼女の仲間だった。


 しかし何時までも固まって動かない俺に、ガルはいよいよ目を開けて不思議そうな顔をした。

 俺の脳裏に馬鹿な選択が一瞬過ぎって、頭を振ってその発想を無理やりに消す。



『……ママが、待ってる』



 結局、何もして貰えない事を理解したガルは、寂しそうな顔をしながらそう言った。

 ガルが言うママとは、アスモデウスの事である。

 待ってるという言葉で俺を寒気が襲った。


『着いて来て』

「……………」


 懇願するようなか弱い視線。

 アスモデウスの顔が脳裏に強く浮かんだ。

 ガルと、他の三人の顔も浮かんで、しかし今は他にやるべき事があった。




「……いいぞ」


 けど、俺は結局そう告げた。

 それは同意を伝える短い言葉である。

 するとガルはまるで人間みたいに、子供のように屈託のない笑顔を浮かべた。


『やった。じゃあ──』

「けど、今は駄目だ」


 その言葉にガルはしゅんとして、少し言葉の順番を間違ったかと反省する。

 しかしそうやって何処か気にかけだしている時点で、惑わされていると自覚して俺は頭を抱えた。



「……後で俺から会いに行く。だから今日は大人しく帰ってくれ」


 試しに氷を解いてみれば、本当に彼女は襲ってこなかった。


 いつでも打てるよう準備した魔法が、ただ魔力を消費しただけで徒労に終わる。


「……他は? 来てるのか」

『サリアとロイゼ。……ミリはおるすばん』


 ガルは俺の元に無警戒に近づこうとする。

 俺はその度に後ろへ距離をとった。

 するとガルはようやく異変に気づいた様で、悲しそうな顔でその歩みを止める。


 ……ミリがここに来ていないのなら、まだ多少戦況としてはマシだろう。

 ただ彼女達全員にも記憶があるのなら、戦う以上にややこしい事態になりそうだった。


「二人とも連れて帰ってくれ」

『ん……』


 ガルは難しそうな顔を浮かべる。

 確かにその二人はガルの言う事は聞きそうになかった。

 仕方がないが、まだガルが暴れないだけマシである。


 俺はそう割り切って、深く、深くため息をついた。



『じゃあ、またね──パパ』




 最後にそんな言葉を俺に残して、ガルは手を振って何処かに跳んで行った。

 彼女が、そしてアスモデウスが抱える記憶の片鱗。

 俺は計画が崩れる音を聞いて頭を抱えて蹲った。




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