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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
33/83

二人の勇者





 一時間前、スプレンドーレ・エタンセル大使館







「つまらないわ」


 女王様の定義とは。

 俺はそれを一言で説明する自信があった。

 足を組み不遜に座る彼女に俺はジト目とため息で抗議した。


 世界代表みたいな態度のライラだが、この場で彼女の権威は通用しない。

 他国でも意地を崩さない彼女に、俺は落ち着けと紅茶を差し出した。

 


「際どい発言は慎んでくれ」

「はぁ……だってつまらないものはつまらないもの」

「ユーロ見て、剣がある」


「待てネメシス! それは記念品だ取り出すな!」


 ここまで至るに紆余曲折。

 途方も無いほどの労力を強いられた。

 しかしそのお陰か今いるスプレンドーレにて、まだ幾らか平穏な時を過ごせていた。


 あの事件でスプレンドーレを怒らせて、責任を取りたくない自国と三つ巴になりかけて。

 そして三人でいざそこに乗り込んで、……まぁ、結果的には全部ライラのお陰と言ってしまえた。


「肩揉んで」

「はぁ……はいはい」


 傍若無人なお姫様は、しかしトップクラスで優秀でもあった。

 彼女の口八丁で今猶予が与えられて、こうして弁明する機会を与えられている。


 当然失敗した時のリスクは計り知れないが、一応今の立場は客人である。

 そのせいかどこかライラの様子もいつもの三割増くらいは調子づいていた。


「──失礼します」

「あ、はい。どうぞ」


「はぁ? この国にはノックの概念──」

「しーっ、ライラ静かに!」


 そこに大使館の職員が入ってきて、しかし邂逅直ぐにライラが喧嘩を売り出した。

 しかし当然俺たちはまだ許されきった訳では無い。

 俺は慌ててライラの口を塞ぎにかかる。


 俺は内心ヒヤヒヤしながら職員をみると、その人は貼り付けた様な笑顔を浮かべていた。

 多分、三十前後の若い女性。その身振り手振りから只者ではないと察せられた。


「この度はお時間を作って頂きありがとうございます」

「いえいえ、何か誤解があった様で……まぁ、詳しい話はこの後の会談の中で」


 俺は軽く手を差し伸べて、しかしそれは笑顔のまま拒否される。

 やはり歓迎はされていないようで、俺も表情は変えずサッと手を戻した。

 ネメシスはこういうのにはめっぽう疎くて、ボケっとその場に突っ立っている。

 ライラは値踏みするような目を向けていて、未だ座ったまま不遜に足を組んでいた。




 時刻は六時。段々と日は暮れ始め、しかし約束の時間まではまだ一時間ほどあった。

 俺は予定が早まったのかと確認をとって、しかし挨拶に来ただけだと職員は言う。


 恐らくこちらがちゃんと揃っているかの確認をしに来ただけだろう。

 結局良い印象を与えることも無く、職員は静かに部屋を去っていった。


「…………あー、疲れる」


 張り詰めた空気を雑に払って、俺もライラの隣に座って紅茶を飲む。

 そもそも自分で茶を入れた時点で歓迎されてない事は薄々理解していた。


 それでもこの会談は必要な事で、今後の動向にも大きく関わってくる。

 色々複雑にはなってしまったが、背に腹はかえられないとはまさにこの事だろう。


「ユーロ」

「何?」


 ネメシスが窓の外を見ていて、俺は軽い口調で彼女に返事をした。

 ライラも去ることながらネメシスも子供みたいで実に危なっかしいものである。

 魔王討伐隊では、俺とシーラでツッコミ……基、調整役を担っていた。

 この世界には奔放な女性が強いという何か法則でもあるのだろうか。



「……………………あれ……」

「どうした?」



 しかし、俺はそこでネメシスに、何処か違った空気を感じ取った。

 けれど彼女は基本マイペースなので、この後やっぱ何でもないは平気で有り得る。


 それでも現状この場所は、敵国の腹の中で油断はできない。

 いつ裏切られ騙されるか分からないし、俺は様子のおかしいネメシスに──




「───伏せてッ!!!」









 轟音と衝撃が、この時スプレンドーレを包み込んだ。

 それはいつしか切り捨てた、遥かに低い可能性の到来を意味していた。


















──────────────────────────

───────────────────────







『うざいうざいうざい!』

「……………………ッ!」



 空中戦は得意では無い。

 と言うか当たり前だ。私は鳥じゃないし魔法も使えない。

 それでも今はそれをする必要があって、ならば私はやり遂げる。


 期待に応えるのが心地いい。それが信頼する相棒なら尚の事。

 私は足に力と気を込めて、まるで空を飛ぶように屋上や屋根を跳び跳ねた。



『……ウっ!?』


 

 そして飛んでくる魔法の合間を縫って、一瞬でマモンの前に躍り出る。

 醜悪な見た目をするそれはどちらかと言うと怯えた顔をしていた。

 私に一度は負けた記憶が、マモンの動きを強ばらせている。

 私は再び首根っこを掴んで同じ方角にまた投げ飛ばした。



「─────三ッ!!」

『ぎぃえええぇぇぇぇぇ────…………』



 これにて三度目の投擲である。

 目的地は国の端に位置する無人の山脈。

 しかし別にそこまで行かなくとも、マモンの結界を遠ざけて且つ人が居なければいい。


 私はまた追いかけるようにビルの屋上を疾く駆け抜けた。

 風を切りながら距離を概算する。

 今のところは順調と言えた。


「みっけ」


 しかしマモンはワープができる。

 それをされればいよいよこちらに勝ち目は無い。

 ただ私が距離を離されただけで、だからコイツを釘付けにする必要があった。


「私の事、覚えてる?」

『───────!!』


 飛んでるマモンに追いついて、併走しながら呑気に話しかける。

 マモンの周りに数百の魔法が現れて、私は踊るようにそれらを全て避けた。



『オマエェ……』



 ある程度の被弾はやむを得ないが、ノノアは居ないので無茶は出来ない。

 代わりにコイツに付け入る隙は、ユーロからたっぷりと聞いていた。


 マモンは私の言葉に反応して、動きに更にノイズが入り始める。

 どれだけ思考を掻き乱せるかがこの勝負を決める鍵となる。


『覚えてるよッ!』


 飛んでいたマモンが急に静止し、両手を突き出して魔法を形作る。

 その顔は怒りとも笑顔とも取れて、実際何とも言えない感情なんだろう。


『オマエのムカつく顔も! オマエらに負けた屈辱も!!』


『全部、全部覚えてる!! だからオマエらからゼンブ奪うって決めたんだ!!』


 弾幕が軽く三倍程度に増えて、しかも全周囲から私に飛んできた。

 避けようが無いと直ぐに判断して、収めていた刀を鞘から抜く。

 こういう手数が必要な時は二本目の刀が欲しくなる。

 それこそユーロが傍に居たなら、直ぐに魔法で何かしら作ってくれるのに。



「スゥ──」


 息を吸って、肺に溜める。

 神経を研ぎ澄ませて、気を巡らせる。

 魔法の特殊効果は私には効かない。

 だから飛んでくる魔法は、ただの硬い石と思えばいい。


『デッド・ディア・ルフレ!!』


 雨のように魔法が降り注ぎ、早く、重く、時折フェイントも混ぜられる。

 時間が経つにつれ魔法の勢いは増し、釣られるように私もペースをあげる。

 まだ、もっと、もう少し上がる。

 互いにペースが加速度的に上がっていく。


「く……ッ」

『本気で勝てると思ってんのォ!?』


 しかし流石に押し負け出して、段々と切り傷が目立ち始めた。

 更に追い打ちをかける様に、上空に巨大な魔法が現れる。


 ここ一体、丸々飲み込むサイズに流石に冷や汗をかいて頭を回した。

 もはや防ぐ防がないの次元じゃなくて、しかしこの間も魔法は動きを阻む。


「……ぐッ!」

『なっ!?』


 故に私は床を叩き切って、一度下に、建物内へと逃げ込んだ。

 そして窓を目指してガラスを突き破り、ビルからビルへと移りながら距離をとる。


「……ッ、やば──ッ!」


 間一髪、範囲をぬけた瞬間、先程まで居た土地が消滅した。

 見た感じ中に人は居なかった。避難したと言うよりは、ここ一体は廃墟だった。


「…………なら、良いかな」


 多少マモンが本気になって、これ以上投げ飛ばすのにもリスクがあった。

 それに必要な距離は多分稼げたと思う。

 後は、向こうは任せて私は集中すれば良い。



「ヨシ」



 どの道増援は望めないので、マモン自体は私一人で倒さなければいけない。

 シーラの戦線復帰は望み薄だし、ユニは入学してないし何処にいるのかも分からない。


 私は刀を鞘に収めて、ビルの窓から身体を投げ出した。

 そして大通りに無防備に降りたって、少し遠くにいるマモンに身を晒す。


『……何考えてんの?』


 マモンは私の余裕な様子に、今までで一番の警戒を見せる。

 残念。油断は誘えなかった。

 私は気軽な感じで話しかけた。


「ねぇ、……えっと、まんもーだっけ?」

『……喧嘩売ってる??』


 私は普段、左の腰に一本の刀を提げている。

 その刀に軽く左手を添えて、ほんの少しだけ気持ち腰を落とした。

 目を瞑った方が集中できるけど、それは流石に命取りすぎるので辞めといた。


 私は鋭く息を吸って吐いて、次の瞬間にはマモンの後ろに居た。



『な───』



 大抵の事は何でもそうだけど、人間死ぬ気でやれば何でも出来る。

 例えば一足でビルより高く飛ぶとか、一時的に音より早く動くとか。



 だから、私はただ出来ることをしただけで、けどそれが決まり手になると信じていた。

 けれど、それその判断自体が間違いだったと、マモンの醜悪な顔を見てからやっと気づいた。



『──んちゃって』


「え? …………ッ゛……!」



 右の肘から先が無くなっていた。

 痛みに顔を顰めながら地面へと落下を始める。


 確かにこの技はマモンにとって初見では無い。

 透明な刃が血に濡れて姿を現した。



『デス・ノア』



 マモンが放った超級魔法が、宙で身動きの取れない私に降り注ぐ。

 記憶を元に強くなったのはお互い様。

 私は最初から遊ばれていただけだった。





















──────────────────────────

───────────────────────








 数回繰り返される単調な音。

 少しノイズが気になって俺は思わず顔を顰めた。

 十秒、十五秒、二十秒と待って、実験では上手くいったのになと内心悪態を着く。


『───ザザ──』

「あ」


 しかしこの距離でも無事繋がった事に安堵して、俺はその板を耳へと押し当てた。

 繋がるという事は実験の成功と、そしてネメシスが上手くいってる事も意味していた。


『あー、こちらパスカル』

「感度良好。こちらユーロ。……良かった、パスカル。出てくれてありがとう」

 

 超遠距離通信魔道具。パスカルの名をとって「パスコール」と名付けた。

 未だこの世界に二機しか用意できていないが、この場を乗り切れば直ぐにでも量産に入れる。


 ともかくパスカルが出てくれてよかった。

 彼女は作業に集中すれば着信に気づかない事はざらにある。

 俺は右手を振り回し作業をしながら、エタンセルにいるパスカルに話しかけた。


『緊急事態?』

「ああ、実はそうだ。今から言うことを会長に伝えて欲しい」



 まさか、マモンがスプレンドーレに来るなんて、正直予想出来て居なかった。

 しかし今考えれば普通に有り得そうなもので、実際奇跡が重ならなければシーラは死んでいた。

 俺は後ろで眠るシーラを見て、その安らかな顔に強く後悔する。

 それにシーラと手を繋いで倒れるアテルは、どうしようもないくらいにもう手遅れだった。


「──頼めるか?」

『……了解。ついに来たんだね』


「ああ。……俺たちが終わらせなきゃいけない」



 俺たちはまだまだこの最後の世界に順応しきれていなかった。

 もっと可能性と視野を広げるべきで、だからこの惨劇はある種俺の責任である。


 最後にパスカルに感謝を伝えて、名残惜しさを振り切って通話を切った。

 ようやく脳の容量が半分空いて、片手間で構築していた魔法作成に集中する。



「………回復………と、…光……」



 一から魔法を作る時のコツ。

 それははっきりいってノリと勢いである。

 細かい精査は後で行うのが良くて、何故ならいきなり完璧なものは絶対に作れないから。


「ここは…………で、もっと威力を…………」


 何故こんなことをしてるかと言うと、この場に適した魔法が無かったから。

 だから作る。ただそれだけの話である。

 時間は掛かるがリターンは大きかった。


 構想、仮定、構築、判定。

 追加、変更、構築、判定。

 

 どの道マモン相手に役に立てないから、ありたっけの魔力を詰め込んだ。



「もっとだ」



 マモンの襲来。本来は十二月の聖夜。

 しかし奴はその時魔獣は一切連れてこない。


 奴も記憶から敗因を学んでいて、色々と準備をかさねてきたのだろう。

 しかしその内容が内容であり、俺は眉を顰めるしか出来なかった。



「もう、居るんだな────アスモデウス」



 地を張って人を襲う、本来マモンとは関わりの無い筈の魔獣達。

 その体に浮かぶ紋様は、第四の悪魔アスモデウスの強化の証だった。


 そうなれば、話はだいぶ変わって来た。

 悪魔は既に身を潜めた上で協力を始めている。

 多分本人はここには来ないだろうが、やはり受動的ではこれから先生きられないだろう。



「罪は償ってもらう……マモンも、アスモデウスも」



 俺の手の中の魔法陣がギュルギュルと回転を始める。

 そして最後のピースがカチリと、何とか上手くハマった気がした。

 即席かつ無茶な構築を重ねたが、一回きりなら上手く働いてくれるだろう。



「出来た」



 完成した途端バチバチと、余波だけで空気がひりついた。

 そして俺自身にまで牙を向きだして、抱える手が爛れては直ぐに回復する。

 


 深夜テンションで作り上げたものが、思わず最高傑作になった時みたいな高揚感。

 もし魔法コンペなんてものがあったなら、堂々の殿堂入りかつ出禁間違い無しだろう。




 そうだな、名前はどうしようか。

 何て、今はそんな事は後でいい。

 俺は手の内で暴れる光の本流を、流れ出るままにすぐ解き放った。





「──全部、ひっくり返せ───!!」





 光が世界を包み込む。

 それは際限なく大地に広がり続けた。

 それに触れた魔獣は消滅し、逆に人は欠損程度なら回復していく。


 無機物には一切干渉せず、透けるように建物の中まで入り込む。

 光系統と回復系統を掛け合わせた、敵を滅ぼし味方を癒す魔法。



 スプレンドーレを包み込んだそれは、まるで朝日の様な輝きを放っていた。


 それでも、まだ地獄は終わらない。

 本当の夜明けはまだ来ない。





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