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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
30/83

選択の結果






「失敗したァ〜〜……!!」


 顔を覆って喚き散らす。

 ガタガタと椅子を震わせながら後悔の炎に焼かれる。

 昨日の取り返しのつかない選択の結果、俺は震えて嘆くロボットの様になっていた。


 そこそこの声量は薄壁を超えて、たまたま外を歩いていたフーコが肩を跳ねさせていた。

 俺は溜息をつきながら項垂れて、背もたれに深く体重を預ける。


「くっそ…………」



 昨日、二度目のシーラの説得を試み、見事アテルの慧眼に阻まれた。

 人避けの幻覚魔法を超えて来た時点で正直あの場は詰んでいたと思う。

 なら直ぐに逃げれば良かったのかと考えて、でもどの道同じ事だと思い至る。

 ライラの顔を見られた時点で部の悪い賭けでもあの場はああするしか無かった。


「キレてんねぇ」

「ネムちゃん、しっ」


「…………」


 俺もあの時アテルの拘束を外してしまい、向こうの強行を予想出来なかった。

 結果無様に賭けに負けて、シーラを仲間にするどころか国事態を敵に回す結果となった。


「……全く、やってくれたな」

「…………会長」


 会長が部屋に入ってきて、そう開口一番お小言を頂いた。

 今いるここはルフレの生徒会室。

 俺以外は生徒会メンバーと、後ネメシスとライラがいた。


 俺たち三人は学園に帰ってきて、ここに寄ってから実はまだ一度も部屋を出ていない。

 そうしなければいけない理由があって、俺たちは絶賛頭を抱えていた。


「おい」

「あ、はい」


 会長は部屋に入ってきて早々、眉間に皺を寄せながら雑に俺を呼んだ。

 現状を理解した上で匿ってくれている生徒会には本当に頭が上がらない。


「これは……」

「読め」


 会長は手に持っていた書類を俺に突き出し、俺はそれを丁重に受け取った。

 自席に戻る会長を見送って、冷や汗をかきながら半目でそれを見る。

 この状況で渡されるのもの等どう考えたってろくなものでは無いだろう。

 怯えながら恐る恐る三つ折りを開いて、いざ中を読もうとすると急に背中に衝撃を感じた。


「うっ゛」

「やー、なにそれなにそれ? 逮捕状?」

「……縁起でもないことを……」


 ネムが気安く背中に乗ってきて、肩に顎を置いて書類を覗き込んで来る。

 その距離の近さには脱帽するが、しかしライラにこんな光景は見せられない。

 顔をおしのけ引き剥がし、リグに視線を向けて暴れるネムを回収してもらった。

 引きつった笑みを浮かべ動いてくれるリグ。俺は懐かしい光景に少し平静を取り戻す。


「……さて」


 陽気なピエロがなりを潜め、俺はようやく書類に目を通す。

 差出人はエタンセル国外交官。宛名はルフレの生徒会室。


 ざっと要約するとこんな事が書かれていた。

 一、ライラ・エタンセル及び当事者二名の引渡し。

 二、学園側がどこまで把握していたか、事情聴取の為会長も出頭する事。

 三、出迎えは本日、五月十二日午後三時ちょうど。

 四、従わなかった場合、いかなる制裁も我々は辞さない。


「ぬぐ……」


 俺はライラの父の顔を思い出し、次に側近のいけ好かないジジイ達を思い出す。

 そして外交担当のタヌキジジイらしい文に、俺は自分を棚に上げて子供のように苛立たった。


「どうする」

「……………………」


 多分この紙に書かれている内容は、スプレンドーレがエタンセルに向けたものと同じ筈。

 応じれば恐らく国で尋問を受けた後、対面を保つためライラ以外はスプレンドーレに引き渡される。



 そして会長の立場からすれば、普通に俺を捉えて国に突き出すだけである。

 しかし現状彼は匿ってくれていて、今俺に意見まで委ねてくれていた。

 もしその事がバレれば生徒会諸共、間違いなく俺たちと同レベルの罪に問われる。

 だからこそ彼らにこれ以上迷惑はかけられない。

 俺は必死で最前の手を考えた。


「次……次の手……」


 あの時どうとか、あれはこうだとか。

 たらればの後悔は掘らなくても無限に湧いてでた。

 しかし今は決してそんな場合ではなく、早急な対応と解決策が求められる。


 ライラの立場。今後の会長の役回り。ネメシスと俺には後ろ盾が無い事実。

 学園の意向。そして国の認識、対応。スプレンドーレが抱く本件の最終目的。


 俺は様々な要素をパズルのように組み合わせ、俺にしかない手札を元に今後の行動を構築する。

 一度派手に失敗し皆を巻き込んだからこそ、もうこれ以上同じ鉄は踏まないと決意する。

 


「……ふむ」

「………………ぐぅ」


「………………」



 そんな中隣にいるネメシスに視線を向ければ、彼女は悦な顔で剣の手入れをしていた。

 ライラを見れば三人がけのソファを一人で陣取り、アイマスクをつけ完全に寝入る体勢に入っている。


 危機的状況に自覚がないのか、大物なのかもしくはその両方なのか。

 多分そうだろうと俺は頭を抱えて、ひとまず頭を働かせる為にコーヒサーバーに近寄った。


「ふーんなるほどなるほど」


 ネムがその間書類を覗き見て、リグも会長に確認をとってから一緒に見ていた。

 フールは常に我関せず静かにしていて、ミュタは会長に判断を委ね自席で普通に仕事をしている。

 俺は全員分のコップを用意して、足りない分は客用の紙コップを取り出した。

 これが最後のお茶会になるかもしれないので、俺はなるべく丁寧に準備する。


「ね。これって出頭したらどうなるの?」

「……ライラ以外は尋問されて、俺とネメシスはその後スプレンドーレに引渡し、が王道かなぁ……」


 ネムの質問にそう答えると、彼女はふーん、とつまらなそうに鼻を鳴らした。

 その程度の事は彼女にも分かるだろう。

 しかしその先の事は考えても分からない。

 むしろスプレンドーレ側からすれば、この件を取っ掛りに国に優位に動こうとするかもしれない。

 故にエタンセルはライラを監禁して、俺とネメシスは存在事消しに来る可能性もある。


「あ、私やろうか?」

「いえ、大丈夫ですよリグ先輩」


 そんな悪い思考は取りあえず振り切って、俺は全員にコーヒーを配って回った。

 するとライラも匂いにつられて起き上がり寝ぼけ眼で口をゆすぎに行く。

 そんなライラを横目に見ながら、先に一口飲んで心を落ち着かせる。

 出来は良い。けどあまり味を感じない。俺はようやく緊張していることを自覚した。


 ……多分、取れる選択肢はそう多くない。

 とりあえず今は逃げるか応じるか隠れるか。

 しかしどれにもリスクもメリットもある。

 言葉を選ばなければ重要なのは運と言ってしまえた。


「引渡しに応じます」

「………………」


 俺は黒い水面を眺めながら、皆に聞こえる位の声量で呟いた。

 会長はただ腕を組んで数秒俺を見た。他も、誰も何も言わなかった。


 ネムは珍しく心配そうな顔をしていた。

 リグは緊張した顔で皆の顔を見渡している。

 ネメシスは剣からようやく顔を上げて、ライラは席に座ってコーヒーを口にした。


「熱」

「…………」


「最悪死ぬぞ」


 会長は厳しい顔をして、重たい空気の中俺にそう言った。

 それ程の危険と理解した上で、俺達のことをこうして庇ってくれている。

 しかしそもそもこの件に関して会長が責任を感じる必要は全くない。

 シーラの二度目の説得は、必要な事とはいえ俺とネメシスの独断によるものだ。


 だから当然、自分が生み出した責任は可能な限り自分でケリをつける。

 しかし、ただ成り行きに任せる訳では無い。最低限のリスクで対応する。



「「応じるのは俺だけです」」



 しかし俺の言葉が被せられ、俺は驚きとともにライラを見る。

 彼女は馬鹿でも見るような目で、それこそそんな馬鹿の考えはお見通しだった。


「私は行くわよ。必要なことだから」

「でも……」

「大丈夫よ。アンタは自分の心配をしなさい」


 その言葉に俺は今日一番迷う。

 確かに彼女はスプレンドーレに身柄が渡されることは決してない。

 しかしだからといって、下手すれば今後一切の自由を失う。

 迷う。迷っていると、肩に誰かの手が置かれた。


「何で仲間外れ?」


 若干状況を理解しきっていないネメシスが、首を傾げながら眉を寄せていた。

 しかし彼女には直近で役割があるし出来ることならライラ共々残ってもらいたい。


「俺には幻影魔法がある。二人の存在はまだ誤魔化せる」


「だから何よ」

「……どういう事?」


 その言葉にガクリと項垂れて、俺は額に手を置いてため息を着いた。

 もっと慎重に、最悪のケースを想定するべきだ。少なくともそれが分からないライラでは無い。


「…………はぁ」


 しかし今までの学びを思い返すと、俺は一人でやると何も上手くいかない事も確かである。

 俺はこんな時でも離れない仲間の存在に、つい嬉しくなって笑顔を手で隠した。

















──────────────────────────

───────────────────────






 夢を見ていた。

 けどどんな夢かは覚えてない。


 夢があった。

 けどどんな夢かは覚えてない。

 いつからかずっと胸に燻っている、何か大切なものを失った様な嫌な感覚。


 分からない。

 何も思い出せない。

 と言うよりも、この世界にその答えは無いような気がした。

 漠然とした不安に包まれ怯えている。

 世界一不幸な訳でもないのに、何故か世界一不幸だと錯覚してしまう。


「…………」


 ──コンコンコン、と扉がノックされた。

 私は気を手繰って扉の先にいる人物に当たりをつける。

 その人とはもうしばらく口を聞いていなかった。

 というか私はあれから一度も部屋を出ていない。


「シーラ様、朝食をお持ちしました」

「…………」


 こんな状況でもいつも通りのアテルの声音を聞いて、コイツはこう言う奴だと鼻を鳴らす。

 しかししばらく黙って放っておけば、直ぐに彼女は別の仕事に行くだろう。

 私は窓の縁に腰掛けて、この狭い部屋から外に目を向けた。

 見える景色も狭かった。囚われの姫何て、自分をよく見すぎだろうか。


「シーラ様、本日一時的に謹慎処分が解かれます」

「…………は?」


 しかしその言葉に耳を疑って、私は扉の先に目をやった。

 アテルは冗談を言わない。それこそ堅苦しくて息が詰まりそうになるくらいには。


「本日、午後七時からエタンセル大使館に顔を出して頂きます」

「…………」


 告げられた訳の分からない内容に、私は何も言えず今は聞きに徹した。

 エタンセルと言う名前は流石に覚えた。

 思いつくのは、やはり彼らの顔である。


 アテルは結局それだけ言い放って、扉の前から静かに去っていった。

 私は数分待ってから扉を開けて、アテルが運んだ朝食を中へと入れる。

 その際行儀悪く足で扉を閉めて、朝食を机に置いてから席に座った。

 サンドイッチと暖かいスープ。屋台の串焼きの味が恋しかった。


「…………はぁ」


 こんな生活が一週間続いて、正直気が滅入って食指は下がる一方である。

 故に出れると言うなら有難い限りだが、予想もしていなかった事態に頭が混乱する。

 私は頭が良くないし、けど大使館が外交施設という事位は知っている。

 詳しい事情は分からないが、行けと言われればとにかく行くしかない。


「……ほんと、何でこうなったんだろ」


 私の謹慎の理由は多分、エタンセルの要人と密会していた事。

 そして裏切り、もといスパイを疑われ、私も当日に尋問を受けていた。

 あの時どうすれば良かったのか、何も分からなくて、取り敢えず全てを正直に話した。

 それからは実質無期限の謹慎処分。外の事は何も分からないしアテルに聞く気にもなれなかった。


「…………」


 間違ってるのは私の方。

 それがどうしても未だに納得がいかなかった。

 あの時アテルは皆を騙して、その結果悪者は私と皆になった。


 そんなに簡単では無い事は分かる。

 国にはルールが合って、私は大人に逆らう子供。

 それでももっといい未来があったんじゃないかと、今笑えてない事実に辟易する。



 そして、私は気が乗らないながらも暖かい朝食に手を伸ばす。

 これがまた美味しいもので、逆に今はそれに腹が立った。

 私はこうしてアテル達、仕切る側の采配で今も生かされている。

 まるでそれが無ければ生きられない、飼われた籠の中の鳥の様だった。













─────────────────────────

──────────────────────









 午後六時。約束の時間まで後一時間。

 私はアテルとスプレンドーレの街を歩いていた。

 日が沈み行くスプレンドーレの街並みの中、久々の外の空気はただ気まずさしか感じなかった。


 隣を歩くアテルも私も揃って、まるでその機能を失ったかのように何も言わない。

 ケンカ以前にそこまで仲は良くないが、あの日の互いの選択はお互いに大きな確執を残した。


「…………」

「…………」


 横からの視線は時々感じる。

 しかしその一切に私は応じない。

 どうせ彼女は内心上から目線で私の事を子供だと思っているだろう。


 たった一つしか違わないのに、立場が彼女を大人びて見えさせる。

 そう私が自覚してしまっている時点で、どこか負けた気がして心底不快に感じた。



 鬱な気分は堂々巡りで、思考の檻から中々抜け出せない。

 兎に角私は嫌な思考を振り切って、出来るだけ何も考えない様務めて只管歩いた。

 それからしばらく黙って歩いて、すると段々と見慣れた景色に入る。

 そこでふと漂ってきた匂いにつられて、私は無意識のうちに足を止めていた。


「あ……」


 香ばしい肉が焼ける匂い。

 視線を向ければそこそこの人だかりができていた。

 多分夕飯に買って帰る主婦層が多くて、とてもじゃないけど並んでる時間は無さそうだった。


「……シーラ様?」

「…………」


 ふと自由について考える。

 今は、好きな時に好きな物も食べられない環境。

 私には何か夢があったような気がする。

 今となっては思い出せなくて、本当にあった確証さえ朧気になりつつある。


 一体、これから私はどうなるのだろうか。

 今までに戻れたとしてもそこまで魅力も感じなかった。

 もっと辛い人が居るなんて言われても、そんな事は私の知ったことでは無い。


「……行きますよ」

「………うん」


 ……うん、そうだ。意外とそれもありなのかもしれない。

 少なくとも今の私の心は、彼らともう一度会う事に傾いている。

 勇者候補としての役割なんて、そもそも私にとっては重要じゃなかった。


 自由について考えた。

 何となく答えは出た気がした。



「行こう」



 私が小さくそう呟くと、アテルから静かな視線が突き刺さる。

 言葉に含んだ別の意味を探り、腹の奥を探る大人の目。

 でも別にいい。今まともに戦ったとしても、アテルくらいなら負ける気はしなかった。


 私は少し先にいるアテルに駆け足で近寄って、近寄りながら夕暮れの空を一度見上げた。


「…………?」


 すると空高くに何か、黒い点の様なものが浮いていた。



「……何あれ──」




 しかし、私の声はそこで途切れる事となった。

 そしてスプレンドーレに長い夜が訪れる。


 地獄の様な一日が確かにこの時始まった。

 始まりは、黒い光が空を覆い尽くした。




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