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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
29/83

弱い私が手放したモノ







「ヒール」


 回復魔法が掛けられる。

 みるみるうちに砕けた拳が治っていく。

 私は仰向けで倒れた状態で、コイツが回復系統だった事に驚いた。


 そんな、軽い現実逃避をしながら、ぼやけた目で数度瞬きする。

 結果、どうしようもないくらい完敗だった。

 地に伏せたのは、無様に私だけだった。


「はい、治った。……どうだ?」

「…………いい感じ」


 右手を空に突き出して、ぐっぱ、と感触を確かめる。

 身体中に気を回してみても、違和感もなくむしろ好調と言えた。


 私はそのまま上体だけ起こして、男とネメシスに視線を向ける。

 立ち上がる気分にはまだなれず、私はあぐらをかいて項垂れた。


「…………」


 色んな意味で悔しくて、父の顔が再度フラッシュバックした。

 私は誇りを守れなかった。それが、一番心にのしかかる。



「はぁぁぁあああ…………」


「でっかいため息。でも私の勝ち。ブイ」

「コラ」


 ネメシスは空気が読めないタイプ。

 私は心の中でそう確信した。

 男はそんなネメシスに注意して、しかし私は別に好きにすればいいと思った。


 敗者にとやかく言う筋合いは無く、好きな様に煽るなりしてくれていい。

 彼女には馬鹿にする権利がある。

 そして、負けた私には義務があった。


「……アタシ、アンタらの仲間になるのよね」


 私はそもそもの始まりを思い出して、そこははっきりさせて置かなければいけないと思った。

 今思うとだいぶ勢いに任せて、割とやばい約束をしてしまったと思う。

 私はこれでも公人で、それなり以上の立場に付いていた。

 それこそ付き人がいるくらいで、勝手な行動はまあ許されないのである。


「まぁ、その前にちゃんと説明はするよ」


 そう言って男は私の前に座って、倣うようにネメシスもその隣に座った。

 二人との距離は不思議なほど近くて、訳が分からないけど私への信頼を感じた。


「……そういえば、アンタ名前は?」

「え゛っ……い、言って無かったか……?」


 私の言葉に男は素っ頓狂な声を出して、目に見える形で狼狽した。

 その後何故か悲しそうな顔を浮かべて、けどすぐに名前は教えてくれた。


「ユーロ。ユーロ・リフレイン」

「私はネメシス・ブレイブ」

「……シーラ・ウィル。……知ってるのかも知れないけど」


 散々拳を交えた後で、遅すぎるくらいの自己紹介。

 私は目の前に差し出された二つの手に、気恥しさを感じながら両手で握手を交わした。


「──ちょっと、もういいわよね?」

「あ、ライラ」

「あって何よ」


 そんなタイミングで現れた、見覚えのある白黒の髪をした女。

 彼女は腰に手を当てジト目を浮かべ、ユーロとネメシスを軽く睨んでいた。

 今はフードも外されていて、その顔が惜しげも無く顕になっている。

 やっぱり彼らの仲間だったようだ。尚更あのワンクッションは何だったのかと若干思う。


「紹介するよ、ライラ・エタンセル」

「さっきの占い師よね?」

「違うわよ」

「……え?」

「なんの嘘だよ、もう良いだろ」


 ユーロとライラは軽口を叩いて、それをライラは至極楽しそうしていた。

 そして彼女はユーロのすぐ傍に座って、その距離の近さから色々察する。


「まぁ、色々聞きたいことはあると思うんだけど、何から話すべきか……」

「……一つ、どうしても先に聞いておきたいことがあるの」


 私はユーロの言葉を遮って、ライラとユーロをじっと見ていたネメシスに視線を向けた。

 彼女は私の視線にすぐに気づいて、しかし心当たりが無いのか首を傾げる。


「その……ネメシスの父親の名前は……」


 流転無手気功術は一子相伝である。

 父は母が亡くなってから死ぬ迄の十年間、片親かつ付きっきりで私を育ててくれた。

 私に気を使ったのかは知らないが、隠れて女にあっていたとなると少しショックである。

 それは亡き母を思っての事とかでは無い。

 どうして言ってくれなかったのと、幸せなら絶対に祝福したのにと。


「エレボス」

「えっ………違う」

「あー……大体察した。シーラが考えてる事は違うよ」


 しかしネメシスから出た名前は聞いたことがなく、ユーロからもはっきり否定された。

 それならそれで良いのだが、しかしじゃあなぜ技が使えるのか余計に謎である。


「じゃあ、何で……」

「ああ、全部説明する」



 そこからはユーロの雰囲気が変わって、私はゴクリと生唾を飲み込んだ。

 本来こんな大空の下で話す様な事では無いのかもしれない。

 でも、ここにはまるで人が居なくて、多分それすら作られた状況なんだと思った。



 私は緊張で背をただし彼の次の言葉に耳を傾けた。


 しかし、結局その口が開かれることは無かった。



「──ッ!」

「なっ!?」


 何処かから飛んできた一本のナイフ。

 それは真っ直ぐユーロに向かい、しかし横にいたライラが弾き飛ばした。


「誰!?」


 弾かれたナイフが宙を舞い、その一瞬の中で臨戦態勢を取る三人。

 しかし私だけはそのナイフに見覚えがあって、困惑と共に動けずにいた。



「──ここにいらしたんですね」

「アテル……」


 アテル・ハイト。

 国から与えられた私の付き人。

 スプレンドーレは勇者候補に、身の回りの世話をさせる付き人を与える。

 それは鍛錬に専念させるためとか、そういった理由が主である。

 今日私はいつもの様に、彼女を振り切ってここまで来ていた。


「他国の王族がシーラ様になんの用でしょうか」

「………ちっ」


 ライラはすぐにフードを被って、しかしもう意味をなさない事は私にも分かった。

 それよりライラにかけられた言葉に、私は理解が追いつかなくてただ呆ける。


 王女。ライラ・エタンセル。

 そういえば前も、ユーロはエタンセルがどうとか言っていた。

 私は自分の馬鹿さ加減に、流石にもう少し勉強しようと決意する。


「シーラ様も、これはスパイ疑惑を掛けられても文句は言えませんね」

「まって、アテル。一応これには事情が──」


「事情があっても許されない事は、この世に五万とあるものです」


 そう言ってアテルは一歩踏み出し、そして私は直感で不味いと思った。

 アテルは土系統で、かつ荒事にも長けている。

 目的の為ならば平気で人を殺すくらいには。


 魔法には性能上幾つかの、初見殺しと言えるものが存在する。

 地上かつ初対面のアテルの勝率は、ほぼ無敗だと私は知っていた。



「王女以外の方、さようなら」

「待っ──」


「スキュア」




 アテルは一度、強く地面を踏みしめ即座に魔法を詠唱した。

 私は慌ててユーロとネメシスを突き飛ばし、来る痛みに目を閉じた。


 しかし、何も起こらなかった。

 数秒待って、ようやく私は目を開ける。


「……何故ですか」


 同じ感想を抱いたアテルが、嫌そうに眉間に皺を寄せていた。


「………」


 スキュアは土系統の上級魔法。相手の足元の土を鋭利にとがらせ串刺しにする。

 範囲を広げれば基本避けようがないし、出も速いから殺すのに特化した魔法である。


 それが何故か不発で終わり、私はライラかネメシスが土系統なのだと思った。

 それも詠唱を聞いてから即座に動いて、スキュアに逆行して操作出来るほどの手練である。


「話を聞いてくれる気は無いか?」

「……不法入国。勇者候補との密会。そして許可無き戦闘行為。是非、鉄格子を挟んでお話頂きたく存じます」


 しかしアテルはそれでも一歩も引かず、裾の中からナイフを取り出した。

 アテルは私が出会って来た中でも、最も融通が効かないタイプである。

 そして一歩進むアテルに対し、迷ったように佇むユーロ。

 結局彼は一度深く息を吐いて、申し訳なさそうな顔でライラとネメシスを見た。


「悪い……危ない橋渡る」

「今更」

「いいよ」


 二人の即答に彼は嬉しそうに頷いて、私には何となくそれが羨ましく映った。

 そしてユーロは右手を軽く振って、次の瞬間遠くでアテルが仰け反っていた。


「………え?」


 アテルはいつの間にか攻撃を食らって、いつの間にか地べたに倒れていた。

 何をしたのか、近くにいた私でも分からなかった。

 本当の初見殺しを見て、場違いながら武者震いする。


「サラウンド・ロック」


 そして次の詠唱で地面が隆起して、彼女の体をあっという間に拘束した。

 私は色々呆気に取られすぎて、付き人が拘束されるのをただぼーっと眺めていた。



「………ッ、……ッ!」

「悪いようにはしない。話を聞いて欲しいだけだ」


 地面が海のように波打って、倒れ身動きの取れないアテルをこちらに運ぶ。

 アテルは怒りと屈辱に顔を染めていて、そして最後に棒立ちの私を見た。

 裏切ったのかと。なぜ助けないのかと。そう言われている気がして、私は今更心臓が跳ねた。

 彼らがしているのは国への敵対行為である。私は今すぐ彼らを制さなければならなかった。

 けど、


「端的に言うぞ。じきに悪魔が責めてくる。これは魔王の配下で、普通じゃまず勝てない。必要な戦力はシーラとウチのネメシス。その協力を仰ぐ為にここに来た」


 ユーロの有無を言わさぬ声音に、その迫力に気圧され黙ってしまう。

 そこまで聞くと私も何となく、前もそんな事を言っていたと思い出す。


 しかしだからといって信じられる筈もなく、まず何で私なのかと強く思った。

 国より私個人が必要と言われても、先程私はネメシスにぼろ負けしたばかりである。


「上の判断を待つだけじゃ遅い可能性がある。今はこの場の五人で協定を結びたい。悪いようには絶対しない。悪魔の被害に関してのみ、互いに助け合うだけの関係だ」


 目や口調から真剣さが伝わるものの、信じたいと思っても流石に信じられない。

 しかし賭けに負け約束した立場も有り、板挟みにされて私は肩が縮こまっていた。


 そしてユーロは私を、次にアテルを見て、最後にアテルの口の拘束を外した。

 土系統の彼女を土で拘束するなんて、そもそも常人の発想と力量では無い。


「取り敢えずこちらの要望は、緊急時にシーラを借りる事」

「……対価は何でしょうか」


「そうだな……じゃあ手始めに、サーシャも交えてお茶でもどうだ?」


 この場にいるほぼ全員が、そのユーロの言葉に首を傾げた。

 しかしアテルだけはその言葉に目を見開いて、ユーロを見て口をぽかんと開けていた。

 そんな顔は一度も見たことがなく、どんな感情なのかも分からなかった。

 サーシャとやらが誰かは分からないが、アテルにとっての大事な人なのだろうか。


「意味が、わかりませんね……」

「ただのおまけだ。本質はただピンチに助け合おうってだけ。もう少し詳しく聞いてくれるなら、すぐにでもその拘束を解く」


 その言葉にアテルは熟考して、やがてゆっくり目を見て頷いた。

 ユーロはそれを見て笑顔を浮かべ、悩むことなくアテルの拘束を直ぐに解く。


「あまちゃん」

「良いだろ。信頼の第一歩は自分から、だ」


 ライラは厳しい目を向けて、しかしユーロは小言を受け流す。

 アテルは立ち上がり体の感触を確かめて、そしてコホン、と一度咳払いをした。


 それから彼女は周囲を見回し、私を見て、ユーロを見て、二人を見てから手を挙げる。

 全員がその動作にハテナを浮かべ、しかし一秒先に光が飛来した。



「─────ッ!!」


 バキン、と何かの金属音が鳴って、半透明な板が散らばった。

 赤い鮮血がわずかに舞って、見ればユーロがネメシスを押し倒していた。


「えっ」


 ネメシスとユーロが倒れ込み、そしてその前にライラが立って構える。

 その顔には見たこともない程の怒りと、気に酷く類似した殺意が込められていた。


「あまちゃんでしたね」


「──屑が!!」


 私は急な事態に今度こそ、流石に動かなければと焦燥に突き動かされる。

 その結果私は無意識に、ユーロ達の元へと駆け寄った。


「動くな!!」

「動かないでください!!」


「…………ッ!」


 しかしライラとアテルに静止され、私は魔法にかかったみたいに動きを止めてしまう。

 無意識にアテルに視線を向ければ、心底失望したような目を向けられた。


「っ……、ヒール……!」

「すまない」


 ユーロとネメシスは直ぐに立った。しかしネメシスがユーロに肩を貸している。

 怪我を負ったのはどうやらユーロの様で、それはネメシスを庇った結果だろう。


 そこに再び銃弾が飛んできて、しかし今度はシールドと激しく拮抗した。

 結果銃弾は宙で停止して、その間にユーロの傷も完治する。


「──ライラ! 」

「殺す……!」

「……ぐ……かっ……」


「駄目だ、戻れ!!」


 目まぐるしい事態に翻弄されて、私はいつしか涙まで浮かべていた。

 今度は名を呼ばれたライラの方を見れば、彼女はアテルの首に手をかけていた。

 アテルの顔には血管が浮いていて、後数秒あれば首の骨が折れると思った。

 宙に浮いたアテルは必死にもがき、私はそれを見て脳死で飛び込んだ。


「……やめてッ!!」

「……………ちっ!」


 私は不格好にライラに飛びかかり、彼女は避けるようにアテルを放り投げる。

 あのアテルが簡単に転がって、私は息を切らしながらアテルを庇う様に立つ。


「はぁ……っ、はぁ…………っ!」


 何で、どうしてこうなってしまったのだろう。

 アテルが悪い気もするし、そもそももっと他に無かったのかと思う。

 せっかく初めて友達になれそうなくらい、気のいい人達だと思えたのに。



「──グランド・タイタンッ!」

「……アテル!?」


 しかし背後でアテルが詠唱し、私を押しのけながら地面が盛り上がる。

 あれだけされてアテルはまだやる気があった。

 私は土の巨人に後方に押しやられる。


 巨人と銃撃隊がユーロ達を囲んで、もう四方八方何処にも逃げ場は無い。

 しかし押しているのは一見こちらに見えて、一割も勝ち目はないと私は確信していた。

 

 彼らはライラの暴走以外、一貫してこちらを攻撃して来ていない。

 ここまでされて手を出さない時点で、やっぱり彼らが悪者には思えなかった。




「フライ」


 そしてユーロの背中に翼が生えて、私は何となく事態の終わりを悟った。

 彼は二人の腰に手を回し、空に立つことでこの包囲を抜けようとしている。

 

「逃がしませんッ!!」


 アテルは挙げた手を振り下ろし、倣うように巨人も腕を振るった。

 その間も絶え間なく銃撃が浴びせられ、最早捕虜どころか明らかに殺す気の攻撃である。


 衝撃、轟音、爆発みたいな、その震源にユーロ達が飲み込まれる。

 土煙と強風に煽られて、私は手で顔を隠しながら唇を噛み締めた。



 私のどこが、勇者候補だと。

 今まで単に調子に乗っていただけだった。


 彼らは目的の為、そしてアテルは国を守る為に。

 それがいいか悪いかは置いといて、私は今戦場に立つことさえ出来ていなかった。






「───無傷、ですか」

「………………」


 結局最初の一撃以降、何一つシールドを超えることは出来なかった。

 ユーロは最後に悲しげな目を私に向けて、何も言わずに空へと飛んでいった。



「…………何、で」



 最後に私を見たユーロの顔の、その表情の意味が私には分からなかった。

 私は力なく地面にへたりこんで、見上げれば遠くの空にはまだ姿が見えた。


 何が正しくて何が間違っていて、それとも私は一体どうしたかったのか。

 分からないけど、どの道全部遅かった。

 彼らとの距離は、もう決して手が届くものでは無かった。




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