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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
28/83

心と意志






 運命や占いは信じない。

 奇跡はただの偶然の連続である。


 世界は誰かの采配で回っていて、私達歯車は無意識に動かされてる。

 その回す側の人と会う事は、私はこれが初めての経験だったが。


「二人組……二人組……」


 先程出会った謎の占い師。

 強く、読めず、そして佇まいもどこか気品があった。

 そして私に何かをさせようとしていた。

 今はその手がかりを探して歩き回っている。


「……もう二十分経つじゃない」


 しかしその手がかりはほぼ無いにも等しかった。

 男女二人組なんてそこらにいるし、そこから先が絞りきれない。

 ため息と共に時計を見れば、女の言う約束の時間まで後少し。

 もしや動いたら駄目だったのかと、一瞬過って頭を振った。


「はぁ……面倒臭いわね……」


 私は今から会う奴らが占い師とグルだと確信している。

 故に合わせたい奴が居るのなら直接そう言えと思わないでもない。


 そんな事を考えながら、私は一人街をさまよった。

 そうしてかれこれ二十分丁度。私はいつの間にか自然公園まで来ていた。


「…………」


 宛も無くさ迷うのにも疲れ、どうせならここで待ってみようかと思った。

 足を踏み入れるとここは相変わらず良い景色で、木々と芝生が快く出迎えてくれた。

 しかし思った以上に人が居なくて、私は取り敢えず遊具のある奥の方へ進んだ。


「?」


 そして奥に行く程違和感に包まれる。

 人ひとり居ない何てことが、今まで一度でもあっただろうかと。


「……何か、変」


 この時点で薄々私はもしかするとここで正解なのかと思った。

 気付かない内に誘われている。そんな経験を前にも一度している。


 そして遂に最奥まで踏み入って、しかし誰もいなくて私は拍子抜けした。

 一度、強く風が吹いて、少し激しめに草木を揺らす。


 わたしはそれに軽く目を瞑り、乱れた髪を手で押える。

 そして、再び目を開けた。

 そこには二人の男女が立っていた。





「……アンタだったのね」

「……久しぶり」



 風と共に現れた二人組の、男の方には少し見覚えがあった。

 この男は以前、私に会いに来た奴だ。

 勇者と宣う、コソコソ覗く変な奴。


 前回確か、スプレンドーレとの協定がどうとか言っていた気がする。

 そして私は突っぱねた筈で、しかし今度は女を二人連れ込んできた。


「今すぐぶっ飛ばしても良いんだけど……」


 しかし今日はそこそこ機嫌がよくて、多少なら話を聞いてやろうと思った。

 代わりに今日こそ逃がしはしないが。

 溜まったストレスをコイツで発散させてもらおう。


 とは言えコイツは多分強い。

 前も私の初撃を躱してのけた。

 でも、だからこそ多少は楽しめると思った。

 しかし男はただ、少し困ったような顔をする。


「シーラ」


 それを不思議に思って眉を寄せれば、男ではなく女が私に声をかけた。

 刀を持った長い黒髪の女。

 当然の如く私には見覚えが無かった。


 しかしその女に視線をさっと向ければ、私は驚きで開いた口が塞がらなかった。

 今までで一番驚いたと断言出来た。

 あまりにも、気が練りあがり過ぎていたのだ。

 

「……アンタ何者?」

「……む」


 女は軽く手を挙げていて、しかし私の言葉でピタリと止まった。

 そして少し困ったような顔をして、しかしそんな顔を向けられる言われは無かった。


 何か二人と私の間に強い温度差を感じて、漂う変な空気に寒気がした。

 しかしはっきりしないのは面倒なだけだ。

 私はそんな意思を込めて女を睨んだ。


「もう一度聞くわね。アンタは何者?」


「私はネメシス……シーラの親友」

「………………はぁ?」


 その突拍子もない回答に、しかし驚いたのは何故か私だけじゃなかった。

 男もそれにはなぜか慌てていて、対して女は堂々と佇んでいる。


 しかしそれはただの虚言でしか無く、下手な詐欺でももう少しまともだと思った。

 親友どころか友達すら、私には今まで一人も出来たことがない。


「なわけ無いでしょ」

「嘘じゃない。私は──」

「ちょちょ、大丈夫かそれ?」


 ネメシスとやらが何か話そうとしたのを、男が慌てて遮った。

 口裏合わせならそれこそ裏でやれと思う。

 私はこの時点で手助けをしてやる気は無くなっていた。


「大丈夫、ユーロ」

「え……?」

「私に任せて。自信がある」


 結局ネメシスは男の肩を叩いて、強制的に黙らせた。

 そして私にズカズカと近付いてきて、急な動きに思わず一歩あとずさる。

 男は不安そうにこちらを眺めていて、しかしそれ以上は止めようとしなかった。

 

「私と勝負して」

「は…………?」


 そして目の前に迫った異質な女に、掛けられた言葉は果たし合いだった。



「私が勝ったら仲間になって。負けたら二度と目の前には現れない」


 そんな好戦的な提案は分かりやすくて結構好きではある。

 しかし私にもそれなりの立場があって、一存でその辺は決められ無かった。

 それにそもそも呑む義理もなく、デメリットに対してメリットも弱すぎた。


 私は戦わない理由を積み上げて、そして最後自らそれを叩き壊した。


「追加。私が勝ったら私の質問に嘘偽りなく答えて」

「シーラ、そもそも俺たちはそのつも──」

「モチのロン」


 男はまた私の名前を呼んで、しかし女に遮られため息をついた。

 占い師は彼女持ちとか言っていたが、付き合っているのはこの二人の事だろうか。

 あまりそういった雰囲気は感じられないが、私は互いに趣味が悪いと思った。

 むしろその点がお似合いという事だろう。ともかく、賭けは成立した。


 因みに仲間になるつもりは微塵も無い。

 賭けや博打に必要なのは思い切りである。 

 勝てばいいのだ。負けた後を考える奴は、そもそも賭けに手を出すべきじゃない。


「丁度人も居ないし……さっさとやるわよ」

「うん」


 私は近すぎる距離を一度離して、軽く関節を解しながら様子を見る。

 相手は一刀の刀使い。

 リーチは不利だが、経験がない訳では無い。


 伊達に勇者候補と煽てられてはいなく、そこそこの戦闘経験は積まされている。

 その上私は今の所、師匠以外には一度だって負けた事が無かった。


 だからこそ、次に女がとった行動は、私には一度も経験がなかった。

 女は男に刀をを渡して、素手のままで私に向き直った。


「よし、やろう」

「……いやいや、待ちなさいよ。アンタ剣士じゃないの?」


 佇まいや雰囲気からして私は間違いなく剣士だと思っていた。

 ある程度武を極めたものなら、癖というものはどうしたって出てくる。

 だから私はそれに困惑して、まさかと思っても思考がそれを否定した。


「そうだよ。けどこっちの方が良いかなって」



 私が手加減をされるだなんて、そんな事人生で一度だって無かったから。



「良い、度胸じゃないの……」


 私はふつふつと怒りが湧いて、対して女は平然と佇んでいた。

 それが逆に余裕を感じさせて、私は怒りで腕が震える。

 勝ちたいのか負けたいのか、説得したいのかしたくないのか。

 訳の分からない阿呆な集団に、私は震える拳を強く握った。


「ユーロ、合図」

「はぁ……いい所で止めるからな」


 男が歩いて真ん中に立つ。

 そして真っ直ぐ手を挙げ私たちを見た。

 その手が振り下ろされれば開始の合図だろう。

 私は気を練って神経を研ぎ澄ませた。


 最初は様子見、それとも奇襲をかけるか。

 やはり先ずはその余裕を剥がしてやりたかった。

 だから初手は、その顔に軽い一撃を見舞う。

 そして剣を使わせて、その上で真っ向から叩き潰す。


「始め!!」


 私は強く大地を蹴りあげ一瞬で女に肉薄する。

 しかし女は未だ微動だにせず、私はそれに心中落胆した。

 最速で放った左手が、吸い込まれるように顔に真っ直ぐ向かう。

 私は少し可愛そうになって、寸止めに切りかえ勢いを消した。




 次の瞬間、私は地面に倒れていた。


「…………え……」


 まるで、時間が飛んだような感覚。

 仰向けで寝て、空が視界に広がっていた。

 もしかして夢だったのかと錯覚して、しかし身体を起こせばお腹が痛かった。


「……ぃっ……」


 そして目線をあげれば、女がいた。

 彼女の目は落胆を抱えている様にすら見えた。

 私は何故か罪悪感すら覚え、逆になった立場に体が震えた。


「今手加減した?」

「……何、よ……」

「次は本気で来て」


 それは本来私が言いたい事だった。

 しかし薄々私は気付き始めていた。

 こいつと私には実力に差があって、それに気づいているのは女の方だった。


 鼻先をかすめるその瞬間まで、確かに女は動いてなかった。

 つまりそのほんの一瞬の間で、女は私の動きを凌駕した。


 次は、正真正銘本気で行く。

 私は頬を叩いて思考を切り替えた。

 痛みも屈辱も全部無視して、私は二本の足で立ち上がる。

 


 そして次の瞬間、私と女の拳と拳がぶつかった。


「──くっ……!」

「まだまだ……!」


 振り切る気持ちで放った拳は、しかしすぐに競り負け弾き飛ばされた。

 地面を抉りながら数メートル下がって、しかし女はすぐに距離を詰めて来る。


 試すような拳が数発飛んできて、しかし私はそれに防戦一方だった。

 このまま押し負ける未来が簡単に見えて、私は次だと気を足に集中させた。


「…………ッ!」

「むっ」


 大振りの拳を即座に見極め、逸らすと同時に私は横へと飛んだ。

 不意を付く形で回り込んで、そして後頭部に蹴りを叩き込む。


 しかし当然のようにそれは空振って、気付けば私の頬に拳が打ち付けられていた。


「がっ………ッ!」

「……こんなの?」


 一方的。しかしまだまだ体は動く。

 私はすぐに、一度距離をとった。


 口から流れた血を拭って、汗をかきながら私は前を見た。

 油断したわけでは決してなかったが、しかし集中が切れたのも確かだった。


 気付けばすぐそこに女が居て、私は思わず肺から息を漏らした。

 防御も回避も間に合わない。

 出来るのはせいぜい覚悟くらいのものだった。


「やっ」

「…………ぅごっ………」


 気の抜けた掛け声で放たれた拳。

 それは明らかに手加減したものだった。

 しかし与えられたダメージは計り知れず、私は面白いくらいに吹き飛ばされた。


 地面を跳ねて転がって、やがて止まればしかし追撃はなかった。

 草が頬を撫でて擽ったくて、ズキズキとした痛みを誤魔化してくれた。


「これは修行が必要」

「……ネメシスが強すぎるだけだよ」


 強すぎる。

 これには流石に勝てない。

 私は心まで既に屈しかけていた。

 速さ、力、反応、駆け引き、何一つ勝てている部分が無かった。


 ましてや、気まで負けている気がした。

 それは私のアイデンティティですらあったのに。

 私は悔しくてじわりと涙が浮かんで、でも出来ることはもう何も無かった。


『シーラ、良いかい』


「………………パパ」



 師匠の顔が何でか浮かんだ。

 こんな姿、とてもじゃないが見せられない。

 私は私が負けただけじゃなくて、誇りまで負けた気がして悔しかった。


「もう、終わり?」

「………………」


 突き詰めれば、まだ技は出してない。

 けど、出した所で届く気はしなかった。

 賭けに負けた。唯一の武で負けた。

 私はこの程度なんだと、もう良いかと思った。


「立って、シーラ」

「え……?」


 しかし私の背中を叩いたのは、他でもない目の前の女だった。

 私はすぐ傍に立つ女を見て……その目には、何故か期待が宿っていた。


「大事なのは心と意志」

「……ぇ…………」


 そして不意にかけられたその言葉は、私の心に深く染み付いたものだった。

 何で、どうして。私は分からなくて、倒れながら不格好に女を見た。


『気を扱う上で、大事なのは心と意志だよ』


 それは、父の言葉だった。








『それと、もうひとつあるんだ、シーラは何かわかるかい』

『……たんれん?』

『はは、そうだね。でもね、もっと大事なものが有るんだ』



 父との記憶。受け継いだもの。

 最近は蓋をして取り出していなかった。

 どれだけ大切なものでも風化はする。

 時間が経てば、初心は消える。


 もうひとつ。

 心と意志と、あとひとつ必要な大切なもの。

 それはちゃんと、覚えてる。

 他でもない、父から貰ったものだから。


「それと……」


「「守りたい人」」


 女の声とかぶさった。

 なぜ、女がそれを知っているのかは分からない。


 守りたい人。それに連なる心と意志。

 思えば、随分足踏みをしていた気がする。


「もう一回だけ言う。立──」

「──調子乗ってんじゃないわよ……」


 私は全ての痛みを無視して、無理やり身体を叩き起した。

 痛みで足が震えたけど、そんな事は気には関係ない。

 守りたい人。しかし私には居ない。

 けれど、そこは少し考え方を変える。

 負けたくない理由は確かにあった。

 私はこの力に誇りを持っていたから。


『シーラ、好きに生きて』


 その言葉の通り好きに行きた結果、私は父の様に武の道を選んだ。

 だから私は負けられない。

 誇りに、思い出に、そう簡単に土をつける訳にはいかない。


「…………」

「…………」


 互いにもう会話は一切無い。

 ただ両者本気で拳を構えた。

 私は当然、次に全てをかける。

 そして女も……ネメシスも、私に答えて本気で構えた。



 腰を落として重心を前に。

 意識するのは回転。そして流れ。

 鏡写しのような同じ構え。

 そして動き出したのも、同じタイミングだった。


 流転無手気功術──


「「威智阿」」




 拳と拳が重なって、瞬間私の手に痛みが走った。

 研鑽を重ねたはずの拳は、ぽっと出の女に容易く砕かれかけた。

 今引かなければ拳は砕ける。

 それでも、それでも私は止まる訳にはいかなかった。


「ぁぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛───!!」


 一子相伝が漏れた経緯は分からない。

 それでも、正統な血筋は私という誇りがあった。

 だから、絶対に負けられない。

 仮にここで死んだとしても、同じ技で負ける訳にはいかなかった。


 だから、私は更に一歩前に進んだ。

 衝撃波が周りの木々を揺らしてる。

 もっと、もっと必要だった。

 ネメシスを倒すには、まだ後一歩足りなかった。


 だから、更に私はもう一歩前へ。

 そして────



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