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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
25/83

パスカル




 翌日の放課後、俺は魔道科の施設に来ていた。

 目的はパスカルに会う為。

 しかし私用では無く、今後の為に必要な事である。


 故にライラには快く送り出してもらい(?)、そして彼女は今王城に一人で居る。

 俺もライラも、そしてパスカルも、来る第二の悪魔に向けて色々と動いていた。


「おーい、パスカルー」


 機材を運び込む為の異様に大きい扉を開けて、俺は中に足を踏み入れ居るはずの彼女に声をかけた。

 このひと月も何度かここに来ていたが、一人で来たのは何気に初めてな気がする。


 パスカルは天才故に既に一室与えられていて、かつ良く爆発する為建物の隅の方へと追いやられていた。

 そんな室内は綺麗と汚いを混ぜ合わせたような、整頓された散らかり方が視界いっぱいに広がった。


「───」

「……?」


 出迎えはなく、しかし何処かから声が聞こえた。

 しかし何を言っているかまでは分から無くて、俺はひとまず持って来た差し入れを机の上に置いた。

 そして再度室内に目をやると、まず目に付いたのは中央に鎮座している巨大な無機物。

 車だ。

 それは見た目は装甲車であり、そしてこれは今ここにあるべきものでは無かった。


「おいおい……」


 俺は色々と嫌な予感がして、それに近付くと中から声が三人分聞こえて来た。

 俺は額に青筋を立てて、その車の扉を勢いよく開ける。

 すると中に居た三人と目が合って、そしてそこにいたのは予想通りの人物達だった。

 パスカル、ルドウィン、サーシャの三人。馬鹿と天才の間を定期的に反復横跳びしている狂った連中である。


「「「あ」」」

「あじゃねーよ」


 中に居た馬鹿三人組は、工具を持って煤まみれになっていた。

 パスカルは相変わらずタンクトップで、その素肌を黒くしながら両手にレンチを持っている。

 ルドウィンは何かの機材を手で押え、サーシャはペンライトを持ってパスカルの手元を照らしていた。

 そして俺を見て声を上げ固まっている以上、多少の罪の意識はあるんだろうと思った。


「……依頼はどうした?」

「待て、待て落ち着け勇者」

「あわわ……」

「そうだよユーロ。冷静かつ寛容な判断を頼む」


 ルドウィンは壊されてはたまらないと、慌てて機材を置いて飛び出した。

 それに続いてパスカルも出てくる。

 そして汚れた手で俺の肩を叩いて、サーシャは素知らぬ顔で中から扉を閉めた。


 俺は以前、生徒会を通して正式に、魔道科全体へととあるものを依頼していた。

 しかしそれは無骨な装甲車等では無く、堂々とサボっていた面々に俺はため息をついた。


「何遊んでんだよ……」

「遊びじゃないさ。見覚えがあるだろう? これは物理装甲車十二号。以前の十一号に少し手を加え、まさに兵器と呼ぶにふさわしい──」

「誰が兵器作れって言ったよ」


 聞けばパスカルは楽しそうに語りだし、俺は白い目を向けてその額に軽く手刀を叩き込んだ。

 あまりにツッコミどころが多過ぎて、しかしこれこそがパスカルだと少し嬉しくなっている自分にも腹が立つ。


「……魔獣避けの進捗は?」


 俺がここに来た目的、魔道科に出した依頼はそれ。

 ベリアル戦でパスカルが作り上げた、魔獣が嫌う匂いを放つ魔道具だ。

 それは次来る予定の第二の悪魔と言うよりかは、第四の悪魔対策である。

 依頼は魔道科全体に出したが、その中でもパスカル達のノルマは実力を鑑みて他より多い。

 

 そして、俺はそれらの進捗を聞くと同時に、差し入れと手伝いを買って出ようとここに来たのだ。

 それが何故かこうなっていて、しかもパスカルが言った通りこれは見覚えのあるものだった。


 若干細部は異なっているが、これは俺が大まかな設計をした、対マモン様の物理装甲車である。

 しかしあまり役に立たった記憶は無く、パスカルがいつ頃の世界から来たのか予想がついただけだった。


「あ、それなら終わったよ」

「は?」


 しかしパスカルの口から語られたそれは、ハッキリ言って予想外なものだった。

 三週間程前から既に依頼していたものの、量が量なので誰も終わるとは予想していない。

 しかしパスカルの表情を見てみれば、嘘を言ってない事くらいは俺にも分かった。

 けどそうなると、また新たな問題が出てきて俺は眉を顰めて文句を言った。


「ま、マジか…… いやでも、ならそう言ってくれないと」


 報連相は大事である。

 それはどこの国でも同じ事だと思う。

 俺は頭をかきながら、もう今言っても詮無いことを口にする。

 しかしパスカルはキョトンとした顔を浮かべて、数秒考えた後車の方を振り返った。


「ん? 私はサーシャに伝言を頼んだ筈だが」

「え? いや聞いてないけど……」


 パスカルは数度首を傾げて、そして魔道車の扉を開けて中に居たサーシャに声をかける。

 と思ったのだが、しかし中には誰も居らず。俺とパスカルは更に揃って首を傾げた。

 理解不能な神隠しに、しかしそんなわけが無いと何となく辺りを見渡す。

 すると部屋の扉付近にサーシャがいて、彼女は忍び足で外へと足を運んでいた。


「……何で逃げる?」

「ぅえっ!?」


 サーシャは魔道科の一年だ。

 多分、一年生の中では一番腕が良いと思われる。

 パスカルは学園外でも有名であり、サーシャは彼女を追ってルフレに来た生粋の魔道具好きである。


 しかしそんな彼女の様子が明らかにおかしくて、俺が肩に手を置けば不自然なまでにビクついた。

 話の流れからさては伝言をボイコットしたのだと、俺は取り敢えず回り込んで扉の鍵を閉めた。


「何かパスカルに頼まれたりしなかったか?」

「え、ええと……いや、何も……?」

「…………」

「いや……有ったかな……? 無かったかな……?」


 必死に俺から見を逸らして、ダラダラと汗を流し逃げようとするサーシャ。

 彼女とはそこまで関わりは無く、この子の事は深くまで俺は知らない。

 しかし思っていたより自由奔放な子なのかも知れないと思った。

 一先ずパスカルの元まで背中を押して、サーシャはパスカルの顔を見ると白旗を上げた。


「うぅ……ごめんなさい……」


 そして、俺たちはまだ何も言っていないのに、自ら正座して涙を貯めながら事の次第を語り出す。

 その目は虚ろで、何故か被害者的ですらあった。

 俺とパスカルが見下ろす中で、ルドウィンだけが我知らずと椅子に座って茶を飲んでいる。


「……その、パスカルさんに伝言を頼まれて、あの日生徒会室に向かったんです……」

「そうなのか?」

「はい……なんですけど、その……急にスコールが降ってきて、滑って転んで泥まみれになって……」

「…………」

「一回寮に帰って、シャワーを浴びたら何でか水しか出なくて、タオルも丁度干してて全部駄目になってて……」

「…………」

「鼻水垂らしながらもう明日でいっかなー何て……思ってたら、今の今まで忘れてました……あ、あはは、ははっ……」


 話を聞いて行く内に、そういえば何か不幸体質な子がいた様な気がしてきた。

 その様子からも嘘を言っているとは思えず、俺はどうしようかとパスカルと一度目を見合わせた。

 一応素直に話したし、別に直接納期に遅れた訳でもないのだ。

 そこまで怒ることでも無いと、むしろ話も聞かず皆を責めようとした俺が悪いまである。


「もういいよ、怒ってないから」

「ほ、ほんとですか……?」

「ああ。俺こそ悪い。上手くいってるなら問題ない……っていうか、なら何でパスカルとルドウィンは俺が来て焦ったんだ?」


 パスカルはサーシャに伝言を伝えたのなら、何もやましい事は無いはずだった。

 しかし俺が車のドアを開けた時は、サーシャはともかく二人もどうも慌てた様子を見せていた。


「いや……それはほら」

「……え、何?」

「こう……さ、予算というか、必要経費と言うか……」


 基本快活な性格のパスカルが、言い淀む等ろくな事しか思いつかなかった。

 俺は聞くのが怖くなって、しかし聞かない訳にもいかない立場である。


「というかライラはどうしたんだい?」

「今実家に帰ってる。そして話を逸らすな」


 往生際の悪いパスカルをじっと見つめれば、段々と彼女の動きが固くなっていく。

 サーシャは相変わらず正座しながら、そしてルドウィンは我知らずと新聞を読んでいた。


 結局、あの手この手でパスカルは誤魔化そうとして、やがて俺の無言の圧に彼女は耐えかねた。

 パスカルもサーシャの隣に正座して、その時点で俺はいけない事をしたのだと察する。


「予算の前借りを」

「え?」

「そう、あくまで前借り。だからこれは横領でも泥棒でもない」


 そして、彼女の口から語られたのはこんなものだ。


 未来というか過去と言うか、パスカルは今年の九月頃に魔道大会で賞を取る。

 それは当然記憶を持つパスカルも覚えており、なんなら俺は彼女が負けたところを見たことがない程だった。


 そして、話はここからである。その賞金と同額を、どうも生徒会の金庫から盗み出したらしかった。

 どうやって、と言うと金庫はパスカルのお手製である。

 魔が差したと最後にパスカルは笑って言った。


「お、おま……っ、それは流石に駄目だろ……!?」

「前借り! 前借りなんだ!」


 俺はかつて愛した人が、闇に手を染めていた事に涙を流す。

 パスカルは必死に何度も同じ事を訴えて、俺の服を子供のように引っ張った。


「自首しよう、パスカル」

「待て待て! 必要なことだ! 見てくれこれを!」


 そう言ってパスカルが指さすのは、先程からそこにあった例の装甲車だった。

 魔道具も含めた魔法を全て無効化するマモンに向けた、魔法を一切使わない装甲車。

 確かに無いよりはまだ良い代物だが、犯罪に手を染めてまでやる事ではない気もする。

 そして俺の意思が硬いことを悟ったのか、パスカルは立ち上がり机へと走って、そして何かを取って帰ってきた。


「さっき言ったろう? これは十二号だ」

「だからって……」


 パスカルは俺に何かの紙を渡し、俺はその圧に押されそれをとって内容を見る。

 それは十二号とやらの設計図であり、いつの間にこんなものを用意したのかと思った。

 しかしそれを見たところで気が変わるはずもなく、一応ざっとだけ大まかに目を通す。

 そして、俺はもう一度目を通す。

 無意識にもう一周して、今度は細部までじっくりと目を通していた。


「これ……!」

「面白いと思わないかい?」


 俺はいつの間にか笑顔を浮かべていて、パスカルの指摘には勝手に頭が頷いていた。

 確かにこれは、面白い。

 どこまで役に立つかは分からないが、少なくとも俺の設計と似ている部分は外観だけと言えた。


「でも泥棒はな……」

「仕方が無かったんだ。復興に予算を割いてばかりでお話しにならない」


 確かにそういう話は聞いていた。

 苦い思いは多分、他も大勢している事だと思う。

 とは言え泥棒は駄目な事であり、しかしこの設計図を見れば不思議と口をつぐんでしまう。

 この周回は最後なのだ。なりふり構っている暇があるのかと、俺は悩む。


「はい」

「……なに」


 様々な立場の目線で葛藤していると、目の前に見慣れた工具が差し出される。

 なんのつもりかと手渡すパスカルを見れば、彼女は怪しい笑みを浮かべていた。

 それは油の染み付いた、傷が所々に着いているスパナ。

 パスカルは俺の手を取って、無理やりそれを俺の手のひらの上に置いて握らせた。


「誤解も解けたようだし、手伝ってくれ」

「え……」

「待てパスカル」


 呆けた声を出す俺を置いて、意外にも俺より先にルドウィンがパスカルに反論した。

 俺としても意味がわからなかったので、ここは先輩の言葉を傾聴する。

 この中でも腕はパスカルが一番だが、一応名目上のリーダーは彼である。


「素人が口挟む事じゃねぇだろ」

「心配ない。少なくとも君より腕は良いよ」

「……アァ!?」


 しかしパスカルは一歩も引かず、ルドウィンを無視して俺の手を引いた。

 俺は手に持つ懐かしい感触と、そのパスカルの強引さにされるままに引っ張られる。

 そして、装甲車の前に立った。

 パスカルはフロント部分に先程の設計図を広げる。

 俺は色々と言いたいことがあって、けれど最後に口から出たのは結局肯定の言葉だった。


「……久しぶりだから。大目に見てくれよ」

「いいや。私は妥協はしない」

「……そうだったな」


 俺は笑って、パスカルと拳を付き合わせた。

 もういっそ最高のものを作って、成果を出して生徒会に許してもらうしかない。

 果たしてあの会長に話が通じるのかは分からないが、必要な事だと俺が言えばまだ可能性はあるかもしれない。


 俺は腕をまくって、手袋を借りて、懐かしい記憶を引っ張り出した。

 そこからは、時間はあっという間に過ぎていった。

 意外と身体は覚えているものだと感心した。



「十六のソケット──」

「はい」

「ありがと」


 パスカルが工具を渡してくれる。

 逆に、パスカルが求めればすぐに渡す。


「なぁ、ここギア比合ってるか?」

「ん? どこだい?」


 疑問に思った事はすぐに聞いた。

 そしてパスカルは肩が触れる距離で説明してくれた。


「ツーストなのか」

「取り敢えずだよ。もう少し予算があるなら是非四ストにしたい」

「厳しいな……」


 趣味、趣向、考え方。

 そもそも俺とパスカルは相性が良かった。

 思い出す程楽しくなってきて、それはパスカルも同じだと手に取る様に分かった。


「いいね。鈍ってない」

「流石にそれは無いって」


 パスカルは知らないだろうが、俺達は随分長い事一緒にいた。

 それこそいつの間にか家族の様に思ってしまうくらいには長いと言えた。

 息のあった作業はこれ以上ない程心地よくて、自然と懐かしいものが込み上げてくる。

 十分、三十分、一時間、二時間。

 気付かない内に腰が痛くなっていて、気づかない内に身体が油で汚れていた。


 楽しい。

 俺は心からそう思って、パスカルと時間も忘れて作業に没頭した。


「パスカル、そろそろ休憩しよう」

「あー、待って、これ最後」


 パスカルは両手にレンチを持って、器用にナットを締め付けていた。

 俺は片方手伝おうかと近付いて、すると横から強い視線を二人分感じる。

 当然、ルドウィンとサーシャである。

 彼らも途中から色々と手伝ってくれていた。

 そして今はキラキラとした目で、油で汚れた俺を真っ直ぐ見ていた。


「すっ、凄いです! パスカルさんにまともについていけるなんて……!」

「お前すぐ移籍してこい! 魔術科に居るなんて持ったいねぇよ!」


 その歓迎の声は、俺に余計に懐かしいものを感じさせてくれた。

 パスカルと並んで取った数々の賞。

 あの時はルフレから逃げて、常に罪の意識に苛まれていた。

 しかし、思い返せば何だかんだで、パスカルとは結構青春できていた気がする。


「まぁ、歴が長いからな」

「え、そうなんですか?」

「ああ。はっきり覚えてないけど、千は超えるんじゃないか?」

「千? 日ですか? 独特な言い回しですね」


 当然、年である。

 実際は下手すればもっと行っているかもしれないだろう。

 別にパスカルの仲間に隠す必要もないが、態々ひけらかす内容でもない。

 それに、そんな事はどうでもいいのだ。

 まだこの手はあの日々を覚えていた。

 ただそれだけが重要であり、俺は手の中でスパナを慣れたようにクルクルと回した。




 そして、何気なく時計を見た。

 俺は一気に血管が早くなるのを感じた。



「──八時前!?!?」


「な、なんだどうした?」

「やっばい殺される!!」


 今日、ライラは一日実家、つまり王城へと顔を出しに行っている。

 早朝俺が魔法で送り届けて、そして帰りも俺が迎えに行く約束をしていた。

 その約束の時間は、何と八時である。

 それまで後六分程しかなく、俺はとにかく慌てて慌てながら慌てた。


「パスカル! ごめん俺行くから!!」

「あー、また来──」


 俺は慌てて部屋を飛び出して、再度心の中でもパスカルに謝った。

 手袋も借りたままだし手も洗えていない。

 油まみれで迎えに行けばそれはそれで怒られそうだった。


 しかし、それらの身なりは飛びながら水魔法でどうにでもなるだろう。

 結局、俺はできるだけ長く、ライラに会う直前まで手に染み付いた油の感触の余韻に浸っていた。





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