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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
22/83

襲来のノンデリカシー





 ノノアと仲直りした日の翌日。


 午前中の授業を終え、俺はまた食堂に昼食を食べに来ていた。

 いつもの人混みの中、いつもの様に列に並んで、いつもの様に席に座る。

 ただいつもと少し違うのが、ライラは対面では無く俺の隣に座っていた。


 そして俺の対面には、少し緊張した様子のノノアが座っている。その横には彼女の親友であるメイもいた。


「……………………」

「え、と……………」


 そして、ライラはそんなノノアをじっと見つめて、対してノノアは終始引きつった顔を浮かべていた。

 ライラは無表情で、しかし怒っていない事だけは分かっている。

 だからこそこの変な空気の出処が俺には分からなかった。


「……なんですか、その目」

「……別に?」


 ライラに対して何も言えないノノアの代わりに、メイがライラにくってかかる。

 しかしその口調は何処か緊張したもので、メイは勇者にはビビらないが王女にはビビっている様だった。


 俺は昨日ノノアと仲直りして、昼食に誘えば当然の様にメイも着いてきた。

 ノノアの居心地を考えれば感謝しかないが、喧嘩されるとなると話は少し変わってくる。


「ノノアちゃん、怖がってるんですけど…」

「何もしてないじゃない」

「いや、睨んでませんか?」

「目付きが悪いだけよ」


 自分で言うのかと思いはしたが、纏う雰囲気からそこまで機嫌が悪い訳では無いと思う。

 しかしノノアは罪悪感なのか何かは分からないが、そもそも少な目の食事を余計にちびちびと食べていた。

 特段食が細い印象はなかったので、ストレスで食欲が狭まってしまっているのだろう。

 俺はここはライラに大人になってもらうとして、軽くライラの肘を机の下で小突いた。


「……なによ」

「怒ってないんだろ?」

「当たり前でしょ?」

「じゃあ、もうちょっと優しくしてやってくれ」

「だから、何もしてないじゃない」


 そう言って、ライラは不服そうに俺を軽く睨みつけた。

 しかしひとつため息をついてから、彼女は手元の麺を勢い良く啜った。

 そしてそれ以降はノノアに視線を合わせないように、頬杖を付きながら窓の外を眺めだす。

 王女様にしては色々行儀が悪かったが、これ以上つつけば本気で機嫌を損ねかねないだろう。


「……あ、そういえばライラ」

「何よ」

「委員会ってどこ入るんだ?」


 俺は何とかこの空気を変えようとして、今日の午後の予定の事をライラに話した。

 本日午後、昼食後の予定は委員会の見学となっている。

 周りの生徒達も今はその話で持ち切りだった。


 生徒会

 風紀委員会

 新聞委員会

 飼育委員会

 保健委員会

 美化委員会

 図書委員会

 体育/文化委員会

 放送委員会


 ここルフレ魔術学園は生徒会及び八つの委員会で成り立っている。

 そして全生徒がどこかに所属する事が義務付けられており、今日はその新入生説明会の様な物が開催されるのだ。


 しかし、当然ライラにはその記憶がある。

 わざわざ見学しなくとも、既に彼女はどこに入るか決めていてもおかしくなかった。

 ノノアとメイに関しては既に保健委員で働いていて、故に今予想がつかないのはこの場でライラだけである。


 俺の記憶では、基本的にライラは図書委員会に入っていた筈だった。

 そしてその後は王女の名のもとに幽霊委員となるのだ。

 しかし彼女と過ごした世界線では、仲良くなるに当たって生徒会へと移籍してくる。


 因みに移籍は割と簡単だったりする。

 俺も最初は風紀委員に入って、今年の九月に生徒会に立候補する予定だ。

 生徒会に入る為にはそもそも募集が八月上旬から始まる為、それまでは俺も別の所に在籍しなければならなかった。


「アンタは風紀委員に入るんでしょ?」

「今の所な」

「じゃあ私もそこだから」


 そしてライラは一切表情を変えず、しかしこれ以上無くデレを見せて来た。

 それに俺ばっかりが思わず頬を赤くして、ライラはそれを見てしてやったりとニヤついて来る。

 しかし傷心のノノアが俺たちを見て、泣きそうな顔で箸を途中で置いた。

 メイはいい加減にしろと言外に俺とライラを交互に睨む。

 確かにこれはとても良くなかった。これ以上ノノアが悪化しては目も当てられない。



「の、ノノアは保健──」



 パシャリ。


 俺はどうにかノノアへのフォローをしようとして、しかしそれは唐突なシャッター音で遮られる。

 それは俺のすぐ真隣から聞こえてきて、そしてその音の心当たりは俺にはひとつしか無かった。


 そして、一瞬で思考が切り替わる。大丈夫だ、俺はまだ別に悪いことはしていないと。

 だから撮られたところでなんの問題もなかった。そう結論付けて、俺はその隣に現れた人物に抗議の目を向けた。



「……何ですか、コタ先輩」

「えっへっへー!」


 名前を呼べばカメラから顔を出し、コタは大層楽しそうに笑い声で俺に返事を返した。

 そして彼女はそのままライラ、ノノア、メイと順に見て、それぞれを許可なくそのカメラで激写していく。


「ちょっと、何勝手に撮ってるのよ」

「いゃあ! こんないい絵撮らない訳にはいかないでしょ!」


 コタは新聞委員会の委員長であり、その名に恥じぬメンタルと厚かましさを兼ね備えている。

 このひと月も俺は長い事付きまとわれて、この人のお陰で俺とライラの関係も公になってしまった。


 当然それを記事にする事に許可など一切出していなかった。

 週間の筈のルフレ通信のくせに、ここひと月で既に俺にまつわる号外をコタは六回も出している。


「許可を取れって言ってんのよ」

「写真だけに? わお! 第七王女が上手いこと──ぅぐぅ」


 厚かましくグルグルと周囲を回るコタに、先陣切って文句を言ったのはライラだった。

 客観的にというか何と言うか、コタとライラの相性の悪さは考えればすぐにわかった。


 そしてライラはウザ絡みするコタを正確に捉えて、一瞬その喉に親指をあてがった。

 コタはそのまま仰け反って地面に倒れ込み、カメラだけは死守した上で床の上で転げ回った。

 これは、ライラが動き出す事を決めてから僅か数秒の間の出来事である。

 コタは抵抗どころか指を当てられた直後まで、何をされたか気づけなかっただろう。


「ちょ、ライラ……」

「私は悪くない」


 少しやり過ぎな感じは否めなかったが、それでも溜飲が下がった事は確かだった。

 風紀委員志望としては本来見過ごせないが、今はまだと言うことでここは黙秘を選ばせてもらう。


「げッほ、王、ゲほ、勇じゃヴォ、ゲッ、かハッ……」

「だ、大丈夫か……?」


 ライラは一切瀕死のコタに視線を向けず、流石に俺は申し訳なく思って彼女にヒールをかける。

 するとコタは回復してから直ぐに立ち上がって、まるで何も無かったかのように俺の目の前へと指を突き出した。


「勇者くん! 君どこの委員会入るの!?」

「え? あ、そういう事か……」


 俺はそのコタのセリフで、ようやく彼女が何をしに来たのか理解した。

 写真を撮ったのはただの癖の様で、本題は勇者である俺が所属する場所を聞きに来たようだった。


 確かに彼女は気になるだろう。

 そもそも普段から俺を追いかけて、スクープを狙って居るような輩なのだ。

 なんでも俺が乗った記事は閲覧数が良いのだと、その本人である俺に嬉しそうに前語ってきた。


 しかしそれに関しては俺がコタに印象操作の記事を書かせた代償として、ある程度の事は目を瞑る事にしている。

 それでも度を超えたものも確かに存在する。真実とはいえ、真実だからこそ時には人を追い詰める。


 とまあ、それらの私情は今は別に関係なかった。


「一応、今のところは風紀委員に」

「え、あー、……それってもう決まってるの?」


 これに関しては嘘をつく必要も無いので、俺はさっさと答えてさっさと帰ってもらおうと思った。

 しかし、コタは俺の想像とは少し違って、メモするでもなく少し考える様な素振りを見せる。

 それには俺だけでなくライラも意外に感じた様で、訝しげな目を隠すことなくコタへと向けていた。


 しかし本当に今更な話ではあるのだが、コタは三年生でありなんならライラは会長にもタメ口だった気がする。

 しかしその事に態々言い返す人もいなく、実質ライラは態度だけなら既に学園のトップに君臨していた。


「俺がどこに入るか聞きに来たんじゃないんですか?」

「それもあるけどね。実は今日は勧誘に来たんだよ」


 そう言ってコタはカメラを机に置いて、ふんすと息を吐いてから俺に手を差し出してくる。

 小さな手は長年カメラを触ってきたからか、カメラに接触する部分が少し硬くなっていた。


「どう? 新聞委員会、入らない?」


 俺はその手を見て、コタを見て、そして隣に座るライラを見た。

 正直新聞委員会は全く想定していなかったし、そもそも俺の中では選択肢に一度も上がらなかった。

 しかしこう面と向かって言われると少し迷ってしまう。

 実際、生徒会に入れさえすればそれまでの籍はどこでも良かった。

 とはいえ、生徒に良い印象を与えられるという前提はどうしても着いてくる。

 そのため流石に図書委員のような、特定の場所に籠るような委員会は避けなければいけない。

 その点、新聞委員会はどうだろうか。俺は一度真剣に考えてみる。


「んー……新聞委員会かぁ」

「お? 即否定じゃないんだ! じゃあさじゃあさ、見学だけでもいいから一回来てよ!」


 委員会見学は、今日午後まるまる使って行われる。

 それぞれが好きな委員会に出向いて、日頃の業務の体験や軽い説明会等が行われる。

 それでも流石に時間的に考えて、じっくり見るなら半日では全ては回れない。

 だから生徒達は最初から大凡の目処は立てて、だいたい二つか三つに絞って回る。


 しかし、俺に関しては例外である。

 既に全ての委員会は見学したし、どんなことをしているのかは把握している。

 その上で、冷静に考える。

 新聞委員会に入るメリット、デメリット。生徒会移籍に及ぼす影響、勇者としての活動との両立。


 やはりネックになるのは、最後の勇者としての活動との両立だった。


「いや……やっぱり無いですかね」

「えーー! 思わせぶりぃーーー!!」


 バシャバシャとコタはせめてもの抵抗なのか、「思わせぶりな勇者の顔!」 と言って俺のジト目を激写していた。

 メリットは確かに存在する。

 しかし普通に、いつ悪魔が来るか分からないのに新聞を作っている場合では無かった。


 逆に、当然風紀委員会にもデメリットはある。

 治安維持で魔力を使えば、その隙に悪魔が来るとガス欠から戦いが始まる可能性がある。

 しかしその点に関して言えばひとまず問題は無かった。

 第二の悪魔には魔法が通じない為、そもそも俺の魔法はほぼ当てにならないからだ。


「入ってくれたら直ぐに一ページ担当させてあげる!」

「いや、それは別に……」

「勇者の事書いてもいいよ!むしろ歓迎!」


 そしてコタは俺の耳に口を寄せ、小声で「印象操作もお手のもの……」と囁いた。

 それは確かに大きなメリットだった。

 しかし勇者が書いた勇者の記事なんて、それは流石に信頼性が薄いだろう。


 それに彼女は基本嘘や誇張は描きたくないという、真実主義の珍しい質だ。

 前ライラと会長で記事の内容を考えた時も、コタは真実をそのまま伝えると一時間は暴れ回っていた。


「……そういうの、嫌いじゃなかったんですか?」


 あの時は大分手を焼いた。

 そこまで大きな嘘は着いついていないが、情報の取捨選択や都合のいい様に書き換えたのは確かだ。

 それを俺が持ちかけるならまだしも、コタから言ってくるのは普通に怪しかった。

 だから、この話はここでおしまい。

 俺はお引き取り願おうと思って、すると俺よりも先にコタが口を開いた。



「何さー、君が私の事汚したんでしょ?」



 ガタン! と隣でライラが立ち上がって、俺はそれよりも早く防御魔法を展開した。

 ノノアは俯いて膝を見つめて、メイは俺にひと月掃除しなかったフィルターでも見る目を向けてきた。


 流石、言葉を操る新聞委員会である。

 そして同時に、俺はコイツを絶対に許さない。


「待て、全員落ち着け」

「…………」

「あっはっは!」


 俺の言葉には誰も答えず、コタだけが高笑いしながらこの様子を写真に収めていた。

 不穏な空気に周りの視線を集めるが、そもそも色々手遅れなので俺は頭を抱えるだけで済んだ。


「ら、ライラはわかってくれるよな……?」


 ライラはヌラッ、と横で立っており、その顔も俯いていて俺からは見えなかった。

 賢い彼女ならコタの言う本当の意味がわかる筈だし、それに基本的には俺はずっとライラと一緒に居た。

 出かける時や誰かに会う時も、逐一報告は欠かさなかった。

 それこそ例外はノノアの時くらいだ。そもそもそれも、ライラの手の内だった。


「分かってるわよ」


 だから、彼女はわかってくれた。

 そしてわかっているなら、何故そんなに怒っているのかと思った。

 俺は魔法で守られているのに彼女の目が見れなくて、残念ながらメイもノノアも助けてはくれそうになかった。

 むしろこんな事にノノアを巻き込んで、申し訳ない気持ちでいっぱいである。



「修羅場は、売れる!」

「悪いのは、粉かけてるソイツよね」


「あはは! …………え?」



 覚悟の元に眉間に皺を寄せていた俺は、その言葉でようやくライラの目を見た。

 彼女はまっすぐと、コタだけを見つめていた。

 それは俺が何度も前の世界で見た、他の女と仲良くした(ライラ基準)時に俺に見せた軽蔑の目。


 それが俺以外に向けられているのは、割と新鮮で何故か感嘆の声が出た。

 そして同時に、少し先のコタの未来を思って、まあ自業自得かと俺は再び箸を動す。


「さっきからうっさいのよアンタ」

「えっ? ちょ──」


 ライラはコタの襟首を掴んで、そしてそのまま床に押し倒す。

 コタは決して運動能力は悪くないが、そもそも、ライラにフィジカルで対抗出来る人はこの学園にはそういない。


「アアアーーーッ! 私そんな悪い事したーー!?!?」

「これ以上ッ! 周りに女がいること事態ッ!不快なのよッ!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ーー!!」


 俺は隣で行われる処刑に一切の視線は向けず、ただ不安そうなノノアの皿にエビフライをひとつ乗せた。


 これは彼女の好物だった。

 これで許されるのかは分からないが、騒がしい昼食に誘った謝罪の意味を込めてそれを進呈する。

 ノノアは一瞬驚いた顔をして、数秒それを見つめてから口に運んだ。


 メイは終始ずっと機嫌が悪かったが、その時のノノアの顔を見て満足そうに笑顔を浮かべた。

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