○○しないと出られない部屋
「仲直りしろ屑男! こんないい子泣かせるなんて絶対許さないから!!」
「……ぐっ…………」
扉の奥から怒気を含んだ叱咤が飛んでくる。
俺はその罵声に、しかし言い返す言葉が上手く纏められずにいた。
目の前には俺が泣かせた少女、ノノアが小さく椅子に座っている。
その瞳は弱々しく揺れていて、それを見るだけで俺の心は激しく揺らいだ。
ノノア・エレノイト。
勇気を出して自ら俺を忘れようとしてくれた、そして俺も自らの意思で切り捨てた少女。
しかしその別れは決して間違ったものではなく、互いが前に進む為に必要な事だと俺は思っていた。
仲直り。メイは簡単に言ってくれるが、俺とノノアの関係はそんなケンカした程度のものでは無いのだ。
メイのお節介の気持ちは痛い程分かる。
彼女はノノアの言葉ではなく心に耳を傾けて、寄り添って、そしてそれは俺が出来なかった事だった。
けれど今、それが逆にノノアを追い詰めていた。
彼女は今も尚立ち上がれずにいて、しかしそれは互いが何処か覚悟していた事でもある。
あの過程を経た上で彼女に今更手を伸ばすなんて、それは彼女の勇気を笑う行為ですらあった。
「め、メイちゃん、何で……」
現にノノアは戸惑いを隠せない様子で、扉の先にいるメイへと声をかけていた。
彼女は明らかにこの状況を望んでいなかった。俺も、ノノアも苦々しい顔をしている。
彼女はこの一ヶ月、ずっと俺を避けていた。
俺を忘れようと必死になって、だからこれは彼女を傷付けるだけだと理解する。
俺はもう、ライラを選んでいたから。
そしてそれを、当然ノノアだって知っている筈だった。
俺だって、今の彼女の弱った姿がいいものだとは思わない。
だからこそ俺はメイの存在に感謝したのであり、故に何処か裏切られた様な気分ですらあった。
「……ごめんね、ノノアちゃん」
「わ、私……、こんなの……っ」
ノノアは怒りとも悲しみとも取れる顔をして、俺を視界に入れないように扉を見つめていた。
その様子に、まだ普通に話すだけでも時間が必要なんだと理解する。
俺だって出来るなら、ノノアとは友達として普通に話したいのだ。
でも、
「…………っ!」
一瞬だけ、ノノアと目が合った。
するとノノアはびくりと震えて、そして目を固く瞑って両手で耳を塞いだ。
何も聞きたくないと、何も言う気もないと。もうそっとしておいて欲しいと、明確に見える形で俺を拒絶した。
「…………」
そして当然、俺にはその塞いだ手を剥がす資格が無かった。
彼女が仲直りを、友達として接する事を望まないのならもう俺には何も出来る事はなかった。
あの決意をした彼女を尊敬しているからこそ、無闇に近づくことは出来ない。
変に期待をさせるだけなら、俺はもう関わるべきでは無いのだと思う。
魔力の事も、そもそも俺が聞くべきでは無いと今分かった。
俺はもうここまでだと思って、扉の鍵に手をかけて魔法でそれをぐちゃぐちゃに潰した。
「………………」
「…………えっ」
扉がガラガラと音を立てて開く。
まさか開くとは思っていなかったのか、メイは扉の先で間抜けな顔を浮かべていた。
やってくれたなと俺は軽くメイを睨んで、しかしメイは直ぐに俺をきつく睨み返した。
先程までの穏やかな彼女は、既に何処かへと消えてしまったようだった。
彼女は白い目どころか、今俺に明確な殺意をむけている。
俺への避難は受け入れる。しかしノノアを追い詰めるのはお門違いだった。
「なんで出て来てるの!!」
「……中を見てから言え」
メイは俺の胸ぐらに掴みかかってきて、しかし俺はそれを無視して後ろに視線をやった。
メイは怒りながら、しかしノノアを見て、そこには椅子の上で蹲って子供のように泣くノノアが居た。
それを見たメイは俺を突き飛ばし、慌ててノノアに駆け寄った。
しかし戸惑ったように声をかけられずにいる。
これは、俺とメイの罪だった。判断を誤って、距離の詰め方を間違えたのだ。
「の、ノノアちゃん………………」
「ぅぅ…………っ」
心の傷は簡単には癒えない。
荒治療も場合によっては良いが、まだ経験の浅いメイには善し悪しの判断が付かなかったようだ。
俺は襟を正して二人に向き直った。
出来るだけ冷静に、数秒息を吐いて感情を沈める。
「……俺だってノノアを幸せにしたい」
「……っ、……何を……」
「けど、もうその資格がないんだ。彼女もそれを望んでない」
それが全てだった。
最初はノノアと付き合う事が、言い方は悪いが魔王討伐の障害になってしまうと思っていた。
しかし今の彼女は今までと違う。
魔力も俺より高いし、固有能力にまで今回目覚めた。
だから最初掲げていた彼女を遠ざける大義名分は通用しなくなっていた。
だから突き詰めれば、俺は都合がいいから振ったのだ。
そんな男が、どんな顔をして彼女と今後一緒に居られるというのか。
「じゃあな…………ノノアを頼む」
俺はそれだけ言って、踵を返して医務室を後にした。
仲直りは、相互理解の元成り立つものだ。
どちらか一方の願いは叶えられない。それは恋愛でも同じ事だ。
ノノアの恋心を俺は拒否した。そのノノアが俺の友愛を否定するのも、また自然の摂理。
だから俺は部屋を後にして、その事自体に後悔は無かった。
そう考えて去った俺の後頭部に、異様に硬い何かが叩きつけられた。
「ガッ………………っ!?」
「──馬鹿たれぇッッ!!」
俺はその衝撃の元に倒れ込んで、そしてそのまま顔面から地面にぶつかった。
俺が倒れると同時にぶつけられた物体が横に転がって、朦朧とした目で見るとそれは俺が運んでいた医療品だった。
俺はフラフラと立ち上がり、頭から血を流しながらその下手人を睨みつける。
──やってくれやがったな、この野郎と。
俺は勇者だ何だと持て囃されて来たが、ケンカする時は女でも容赦はしない。
「馬鹿! ばーか!」
「度を越しすぎだ! ノノアだって嫌がってるだろうが!」
「だからってこのままで良い訳無いじゃん! 何平気な顔でどっか行こうとしてるの!?」
メイは俺へと飛びかかって、再び俺の胸ぐらを掴みあげようとしてくる。
しかし俺はその手を逆に掴み返して、そしてそのまま背中に回して固定する。
「いいい゛っ!?」
背後をとって、もう片手も掴んで背中で腕をしばりあげる。
回復系統の彼女にこれを解く術は無いだろう。俺は少し頭に血が上っていて、この後どうしてやろうかと考えた。
「平気な訳あるかッ! お前はノノアを傷つけたいのか!?」
「傷付けたのは君でしょっ!?」
俺とメイの発言は少し時間軸が異なった。
俺は今現在のノノアの事を言っていて、メイは今日に至るまでの事を言っている。
しかしその台詞で俺は確信する。メイは俺とノノアが別れた経緯を知らないのだろう。
知っていれば、こんな暴挙に出るとも思えない。
人を助ける彼女が、その辺の機微を悟れないとも思えない。
「俺とノノアは一度ちゃんと話した! その結果がこれ何なんだ!!」
「──知ってるよ!!」
けど、メイは知っていると声を荒らげて叫んだ。
そしてついにメイは涙を流し始めて、抵抗も無意味と悟ったのか力なく俺の手の中で項垂れる。
俺はそれを見て、混乱もあってこれ以上はやり過ぎだと力を弛めた。
軽く彼女の背中を押して距離を離して、メイは数歩よろけながら歩いた後俺に向き直った。
「……全部、ノノアちゃんに聞いた……」
「……なら、尚更何でこんな事……」
それは、俺には分からない思考だった。
もしそれでノノアが喜ぶと思っていたのなら、脳内お花畑と言う他ない。
人の心はそう単純に出来ていないのだ。
だからこそ、俺は今こうして悩んでいる。
「……ノノアちゃん、いっつも影で泣いてる」
けど、それを聞いて俺の心臓が少し跳ねる。
しかし直ぐに、それは覚悟していたことだと頭を降った。
傷付けることは、傷ついていることはわかっていた。
それがノノアの覚悟で、俺の罪で一生抱えて行くものだった。
「今日も、ずっと目で追ってた………口では大丈夫って言うけど、どう見たってそんな訳無かった」
「でも」
「でもも何も無いじゃん……いい加減にしてよ……っ」
メイは地面に経たり混んで、両手で顔を覆い隠した。
俺はどうするべきか、どうすれば納得してもらえるのか、そんな事ばかりを考えていた。
俺はあの選択を間違っているとは今でも思っていなかったからだ。
けれど、なぜ、いつから、俺はその選択が正しいと思い込んで居たのだろうか。
「…………ノノアちゃん、適応障害なの」
「…………え」
「他にも……いろいろ、併発してる」
俺はそれを聞いて、体から力が抜けた。
頭が一瞬真っ白になって、自分が立っているのかどうかすら分からなくなった。
精神病。今までの彼女を思い返せば思い返す程、それは納得のいくひとつの答えだった。
俺はいつから、辛い思いだけで済むと勘違いしていたんだろう。
彼女はもう、取り返しのつかない所に足を踏み入れかけていた。
「君のせいだよ」
その言葉に俺は強く頭を揺さぶられる。
視界が揺れて、いよいよ立っていられなくなって俺は近くの壁によりかかった。
先程受けた額の傷がズキズキと痛み出して、けど俺はヒールをかける余裕すら無かった。
「……ずっと一緒にいたから、分かるの……日に日に弱って行って……ノノアちゃんの場合は、きっと時間は解決してくれない」
細かい対処法等は俺には分からない。
けど、今はそれが正しいんだと強く納得がいった。
だからこそ、メイはここまでの強行に至ったのだろう。
「だから、もっかいだけ言うね」
「仲直りして……ノノアちゃんを、たすけて」
俺は、座り込むメイの目を見た。
それは先程から俺に向けていたものと同じ目だったが、話を聞いてからは感じる印象はまた違ったものだった。
彼女は今ノノアの友達として、そして医者としてここに居るのだと分かった。
本当に、荒治療だと俺は思う。
俺は、頭の治療も今は置いて、メイを置いてノノアの元へと歩き出した。
都合のいい話かもしれないが、俺はそこまで彼女を追い詰めるつもりは無かった。
彼女の勇気の眩さに、その先に待つものを見ることが叶わなかった。
違う、俺が見ようとしなかった。
これは間違いなく、俺の選択の結末だった。
「ノノア……」
扉に手をかけて、医務室の中を覗き見る。
ノノアはまだ、そこに居るはずだった。
まだ泣いてるのか、耳を塞いでいるのかどうかは分からない。
それでも、俺は彼女に謝らなければならなかった。
どの面下げてと強く思う。
それでも俺は、その衝動に駆られていた。
今は他の事も何も頭に入らないでいる。
そして扉の先にいたノノアは、窓に手をかけて今にも飛び立とうとしていた。
「ノノ──」
消えた。
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空は嫌味ったらしく青かった。
鬱な気分の時は雨と相場が決まっているのに。
そして、解決した途端に都合よく雨が止むのだ。
なのに、空は何処までも最初から青かった。
雲ひとつなくて、こんな日に死ねるならそれは大層気分が良いだろう。
「…………なん、で」
先に痺れを切らしたのはノノアだった。
彼女は涙で顔をくしゃくしゃにして、俺の胸に顔を埋めて静かに泣いていた。
何とか、間一髪間に合った。
俺は三階から飛び降りた彼女を抱いて、そして今は外の地面に寝転がっていた。
空中で彼女を抱きとめて、けれど頭が痛くて上手く魔法が唱えられなかった。
殆ど地面スレスレで魔法を使って、何とか即死は免れた。
俺はつくづくメイを恨む。彼女がこんなに暴力的だとは露ほどもしならなかった。
けど、今はそんな事はどうでも良かった。
今大事なのは、俺の手の中にいる彼女だった。
「……やっぱり、つらいか?」
俺は、ノノアの髪を出来るだけ優しく撫でた。
何度もこうした事を覚えていて、そしてもう二度とする事は無いと思っていた。
今ここに居ないライラには、心から申し訳なく思う。
けど今は、今だけはノノアを見てあげたかった。
つらいか。
そんなのつらいに決まってる。
けど前回は、ノノアは大丈夫だと言った。
──けど、今のノノアは黙って小さく頷いた。
顔は見えないけど、僅かな身動ぎで頷いた事が分かった。
それは今に始まった事ではなく、ずっと彼女の心は泣いていた。
俺は気づいた上で、無視することを選んでいた。
「ごめん……今まで、ちゃんと話せなかった」
一ヶ月。
俺とノノアはあの別れた日から、顔は合わせた事はあっても一度も直接話していなかった。
お互いが第一の悪魔との戦いの中心に居たから、会議で顔を合わせる機会はあった。
居ると分かっていて、それでも互いが避けていた。それで良いと勝手に決めつけていた。
少なくとも俺から近づく資格はないと、そう決めつけてもう一歩その先の事まで考えられていなかった。
「………………邪魔したくない…………だから…………ユーロは悪くない…………」
絞り出したように、掠れた声で、ノノアは前言ったことを繰り返した。
そして、前回俺はそれを受け取ったのだ。
受け取った結果が、まさに今だった。
ノノアの勇気は間違っていたのだろうか。
俺の選択は間違っていたのだろうか。
メイの決意は間違っているのだろうか。
今なら分かる。
世界はそんなに簡単に出来ていないのだと。
見方を少し変えるだけで、きっと全部が間違いにも正解にもなってしまう。
だから必要なのは、一歩踏み出す勇気だった。
今更ながら、俺はそれを理解した。
「友達になろう」
「………………」
友達。俺はライラを選んだ以上、俺はもうその手を絶対に離さないと決めた。
だから、どう足掻いても本当の彼女の願いはもう叶えられない。
どれだけ望まれても、それだけは覆す訳にはいかなかった。
だから、友達。
言ってて自分が情けなくて、どうしようもない程に泣きたくなる。
ノノアは一瞬身体を震わせて、そしてその後何も言わなかった。
顔を隠して、小さく震えて、しかし喜んでいるわけでは無いことだけは分かった。
けど、これで無理なら俺は本当にノノアからは手を引くしかなかった。
皆を選ぶなんて器用で不誠実な事は俺には出来ない。
そしてこの選択が、またノノアを傷つけてしまう不安もある。
けど、今のままでは少なくとも駄目だとわかったから。
俺は願うなら、ノノアが笑ってる世界で魔王を倒したい。
「普通に話して、相談があれば乗って、暇な日は出かけて……それで、納得がいくのかは分からないけど」
「…………」
「別れたからって、恋人としては居られないからって、もう二度と話さないって言うのはすごく寂しい」
互いに認めあって、笑い合える、そんな関係。
これでも、一歩間違えればこれはライラまで傷つけかねない。
それでも、これ以上ノノアが壊れたら俺はそれこそ悔やんでも悔やみきれなかった。
彼女はもう充分過ぎるほど、俺を傷付けた罰は受けている。
「………………」
「ずっとは一緒に居られないけど……でも、俺はまたノノアと話したい」
ノノアは終始黙って俺の話を聞いていた。
ちゃんと届いているのかは分からなかった。
それでも、俺は口を動かした。聞いてなくても、届くまで届けようと思った。
溺ろげな目で空を見上げれば、窓からメイが俺たちを見下ろしていた。
その不安そうな彼女と俺は目が合って、今は任せて欲しいと彼女に笑いかけた。
「……邪魔に、なっちゃう」
ノノアは俺の服をシワになるくらい強く掴んで、震えた声でそう言った。
絞り出したその言葉は、俺を否定しているようで、何処か縋っている様でもあった。
彼女はあれからずっと自分の心を殺している。抱えて、抑えて、その結果自分を苦しめ抜いている。
だから俺はもう、ノノアに休ませてあげたかった。
これ以上、自分を追い詰める必要は無いのだと言ってあげたかった。
「……勇者の責務は優先する。だから邪魔にはならない」
それは、ライラだって変わらない。
ライラもその事は理解してくれている。
ライラがノノアとの関係を許してくれるか分からないけど、そこは俺自身が頼み込むしかない。
「……また、話しても良いの……?」
「ああ。友達だからな」
「……勉強教えてくれる……?」
「ああ、友達だからな」
「……一緒に、出掛けてもいい……?」
「ああ、友達だから」
そうして言葉を交わす度に、段々とノノアが俺を抱きしめる力が強くなっていく。
今ノノアは、ようやく蓋をしていた心を開き始めていた。
俺はそれがまた閉じてしまわないよう、優しく丁寧に言葉をかける。
開けるからには、必ず責任が付きまとう。
その覚悟を俺は今確かに決めた。
「……たまになら、手を繋いでもいい……?」
「ああ……ん……聞いてみるか……」
ノノアが、俺の身体を強く抱きしめた。
無言の抗議。けれど結局口には出さなかった。
彼女も、きっと本音はその資格が無いと思っているのだろう。
望みと罪の意識の間で、彼女は今激しく揺れている。
「……何処までが、浮気……?」
「えー、あー」
それも、ひとまずライラに聞いてみないと分からない。
少なくとも俺よりは狭き門であり、考えれば考えるほど結構厳しそうな気もする。
でも、それもまた皆で話し合おうと思った。
前はノノアの勇気に甘えてしまって、だからそ今度は俺が勇気を出す番だ。
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「別に良いわよ」
「え」
俺は今ライラの前で正座していた。
場所は俺の自室。ライラはベッドに座って、俺は床の上に膝を着いている。
ノノアは今彼女の自室にいて、きっとそわそわと不安に駆られていることだろう。
そして俺は、まるで浮気の自首をするかのように、一連の騒動をこと細かくライラに話していた。
そして、
「……なに、聞こえなかったの?」
「え、いや、なんて言うか……」
以外だった。それは口にしなくても、ライラに伝わって彼女は心外だと腕を組んだ。
対する俺はその態度に何処か納得がいかなくて、そもそも彼女は俺を独占する事に重きを置いていた筈だった。
「そもそも全部知ってたし」
「え?」
そう言って一つため息を着いたライラから、全ての裏を引いていたフィクサーが語られる。
俺とノノアの席を隣にしたのは、レフィルに金を積んだライラの仕業だった。
ノノアの事で悩んでいたメイに、今回の話をもちかけたのもライラだった。
彼女は風紀委員に今日俺が行けないとまで伝えてくれていて、俺は今聞いて風紀委員の事を思い出した。
しかし今はそんな事はどうでもいいと頭を振った。
おかしい。全てが矛盾しているように思えた。
彼女の口からそれらが語られるほど、目の前にいるのがライラでは無い様に思えてくる。
「……考えたのよ」
「な、何を……?」
ライラは自分の髪をいじって、少し目を伏せて俺に視線を合わせようとはしなかった。
相当熟考して、それでもその結論に迷いがある時の様な雰囲気を彼女は醸し出していた。
「もし、逆の立場だったらって」
俺に選ばれなかったことで、自分で自分を追い詰める。
その姿に有り得た未来の自分を重ねたのだと、少し重たい雰囲気でライラは言った。
それを聞いて、けどやっぱり少しらしくないとは思う。
でもそれはきっと、記憶がもたらした良い変化なのだと俺は思う事にした。
「でも、浮気は許さないから!」
「……仰せのままに」
俺はライラに頭を垂れて、ライラはそれを見て薄く笑った。
本当なら、あの日の時点でこうなればよかった。
ここに至るまでに、大分遠回りをしてしまった。
それでも、これからを考えたら俺は少し楽しみになった。
まだまだ大変な事は山程残っていて、それでもひとつの大きなしこりが取れた様な気分だった。
関係が変わって、また新たな問題が出るのかもしれない。
でもその時は、また皆で話し合えばきっと解決する。




