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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
19/83

忘れた君






 これは二週間前の出来事だ。



 俺は一人でエタンセルの隣国、魔道国家スプレンドーレに来ていた。


 空を飛び交う魔道船に、地面を走る高そうな魔道車。

 都会はエタンセル以上に賑わっていて、人の往来も目まぐるしかった。

 エタンセルにない魔道の技術が、不法入国者の俺を出迎えてくれる。

 俺は長時間のフライで固まった身体を解しながら、見慣れない、しかし懐かしい景色を眺めていた。



 魔道国家スプレンドーレ。

 名の通り、魔道具に重きを置いた技術者の多い特色の国である。

 今のところ大陸一の国力はエタンセルだが、それでもこの国はじわじわと追いついてきている。


 魔力は大人になる頃には消える為、そう考えれば魔道具に重きを置くのは当然の帰結である。

 魔王さえ倒せばエタンセルも魔道の道を行く事だろう。

 ルフレ魔術学園の魔道科も年々規模は大きくなっている。


「おし」


 俺は路地裏に忍び込んで、姿を消していたミラージュアサインを解除した。

 そして何食わぬ顔で表通りに出て、道行く人の間を縫う様に歩く。


 今日ここに来たのはシーラに会う為だった。

 何度か手紙を出したのだが、残念ながら返事が返ってこなかったのだ。

 第二の悪魔戦には彼女が必要な為、俺はどうしても急ぎで彼女とコンタクトが取りたかった。



「にしてもなぁ」



 シーラが記憶を持っていたとして。彼女がどうなっているのか全く予想がつかなかった。

 ノノアで大変な事件が起きた。

 ライラは独占欲が爆発している。

 俺の兼ねた周回の中でも、一番魔王に届いたのは彼女と過ごした世界だった。

 それに、前回の記憶が蘇る。

 俺は性懲りも無く幸せにすると約束していた。


「怖い……」


 ここに来る前、ライラに顔面ゼロ距離で釘を刺されたばかりだった。

 一人で行くことを許してやる代わりに、何か変な事して来たらお前を切り落とすと。

 何を切り落とすかは流石に怖くて聞けなかったが、不法入国する為どうしても一人が動き易かった。

 いちいち手続きをしている時間も惜しい為、潜入という結論に至ったからだ。


「──アレ見た? 悪魔がどうとか」



「おっと」


 俺はなるべく自然に方向転換する。

 そして悪魔の話をしていた二人組の女の人の後をつけた。

 変な気を起こした訳では無い。ここには情報収集も兼ねて来ているだけだ。

 常にミラージュアサインをかけられればいいのだが、それこそ出来るなら魔力は節約したかった。


「嘘くさいよね。何かの陰謀とか?」

「でも一番大きい学園が襲われたとか、そんなの言っても別にいい事無くない?」


 この二人をそのままスプレンドーレの総意にする訳には行かないが、それでも一つの意見にはなる。

 信じ難い。けど少しの不安はある。

 だいたい予想通りだと判断して、またUターンして目的地へと足を向けた。


「あ」


 と、そこでいい匂いと共に懐かしいものを感じた。

 視線を向けると、そこには串焼きの屋台があった。

 シーラとよく食べた。言わば彼女の故郷の味の様なものだ。

 俺はいい事を思いついたと言うように、屋台に寄ってそれを二つ買った。


「まいど!」

「ありがと」


 久しぶりの再会。酒は無いけど、肴があれば尚いいものになるだろう。

 俺は段々会うのが楽しみになって来て、串焼きの袋片手にまた歩き出した。


 シーラは多分、この時間スプレンドーレの学園に居るだろう。

 ルフレが復興中なだけで普通に今は授業をしている時間帯だ。

 当たり前だがこの時期のシーラにあったことは一度もない。

 俺は手に持つそれのいい匂いに刺激されながら、会うまでの我慢と少し足を早めた。


























────────────────────────

─────────────────────






 シーラがいるスプレンドーレの学園。

 シュトラール魔道学園。

 そもそも魔道に精通した国、学園だが、シーラは魔道はからっきしの癖にこの学園に在籍していた。


「(ここか……)」


 学園の敷地内に潜入して数十分。

 学園外ならまだ良かったが、学園内は流石に服装でバレてしまう。

 故に常にミラージュアサインで身を隠して、うろ覚えの道を通ってシーラの姿を探していた。


 そして、特に問題なく見つけるまでは至った。

 のだが、普通に当たり前の問題にぶち当たる。


「(どうやって接触するか……)」


 幾らシーラに話を合わせて貰えるとしても、白昼堂々飛び出す訳にもいかなかった。

 しかし今も魔力はゴリゴリ削れて、そう考えている時間も無いのは確かである。


 俺はとりあえず魔法を解除して、窓の外の木に腰掛けた。

 木々がいい感じにカモフラージュしてくれて、俺はなるべく気配を隠して中を覗き見る。


 シーラは退屈そうに頬杖を付いていて、多分今は魔導回路の授業の様だった。

 見るからにそれは聞き流している様子で、彼女の成績がふと心配になる。


「(相変わらずだな……)」


 そんな様子を見て、俺はしかし心が暖かくなった。

 前回の恋人だ。皆には悪いが、やっぱり気持ちは一番大きかった。

 俺は早く話しがしたくて、ひとまず今は授業が終わるのを待った。


 時刻は午前の十二時手前。

 もう少しで昼休憩に入るのでは無いだろうか。

 最初の邂逅。第一声はどうするべきか。


 やっぱり、あの約束から触れるべきだろうか。


「……でも、また約束破ることになるよな……」


 シーラとの約束は叶えたい。

 けど、ライラの顔が思い浮かんだ。

 ノノアとの道は別れた。パスカルはどこまでも大人だった。

 シーラとライラ。

 もし二人共が譲らないのなら、俺の意思でどちらかを選ぶなど出来るはずが無かった。


「───────」

「あ」


 教室の内側の声はここまでは聞こえて来ない。

 けど、雰囲気からして授業が終わったことがなんとなく分かった。

 シーラはその瞬間立ち上がり、元気になった様子を見せてそれを教師に咎められている。

 らしい。初めてこっちでの授業の様子を見たが、実にシーラらしいと思って俺は笑った。


 けど、それに違和感を感じる。

 あの記憶を継承して、ここまで普通というのは逆にらしく無い様にも思った。


「…………よし」


 廊下の奥に消えていったシーラを見失わないように、迂回して彼女の元へと急いだ。

 あまり距離を離してしまうと土地勘が無い為、普通に再度見つける事は難しくなる。


 しかし、シーラは気を辿る。

 あまり近付き過ぎてはバレてしまうだろう。


 そこまで考えて、逆に思いついた。

 むしろそうすればシーラだけに気づいて貰えるのではないかと。


 前は急げとシーラの背中に近づく。

 すると彼女は直ぐに反応した。


「──────! ……………??」


 バッ、と勢いよく振り返り、しかしシーラは誰もいない事に不思議そうな顔を浮かべていた。

 気付きはした。しかし俺がいるとはまだ分かっていない。

 その時点で、俺は薄々気付き始めていた。


 何故シーラが俺の気配を分からないのか。

 その可能性が頭をよぎって、俺は気づけば無意識に串焼きの袋を握りしめていた。

 どうしてその可能性を勝手に捨てていたのか。

 考えれば、普通に有り得る話だった。


「…………」

「!? こ、この匂い……!」


 俺は串焼きを袋から取り出して、シーラの前でプラプラとそれを掲げる。

 シーラは目ざとく反応して、俺はおびき寄せるように少しずつ彼女から離れた。


「く、くし……駄目、完全に肉の舌になった……!」

「……(可愛い)」


 ヨダレを垂らしながらフラフラと俺についてくるシーラ。

 俺は校舎の外までおびき寄せて、しかしあまりにちょろ過ぎる彼女が心配になった。


 そして、ここならいいだろうと振り返る。

 ここは他より死角が多く、どうやら中庭の庭園の様だった。


「シーラ」

「……っ、誰!?」


 姿を見せる前に声をかける。

 声で分からない時点で俺はもうそうなんだろうと思った。

 記憶継承の条件は未だ不明である。

 なのにいつしかそれはただの願望となって、当たり前だと俺を信じ込ませていた。


「…………」

「え、ホントに誰よ……」


 姿を現して、そしてその双眸が俺に向けられる。

 俺は泣きたくなるのを我慢して、必死で口をきつく結んだ。


 しかしそんな場合では当然無かった。

 俺は今不法侵入者なのだ。

 しかもシーラに弁解を手伝っても貰う算段も潰え、俺は一先ずやるべき事だけはやってしまおうと思った。


「俺はエタンセルからの使者です」

「エタ……ってなんだっけ……聞いた事ある様な……」


 思わず俺は頭を抱えた。

 しかし彼女にしてみれば有り得ない話でも無いだろう。

 兎も角、いきなり拳が飛んでこなかっただけマシだと思う事にした。

 俺は一度頭を降って冷静になる。


「エタンセルはスプレンドーレの隣国です」

「あー、あー……そうそう」

「今日はシーラさんに用があってきました」


 できるだけ丁寧に、堪え性のないシーラに説明する。

 彼女は気分屋故に、正直武闘祭で拳を混じえていない今話を聞いてもらえるか五分だった。


「アタシお腹すいたんだけど」

「すぐに説明します。後これは差し上げますよ」

「え、ホント!?」


 串焼きを渡し、彼女は何の疑いもなくそれを口にする。

 不用心極まりない。しかし腹下し程度なら彼女は気で何とかするだろう。

 気が一体何なのか、俺は何度聞いてもよく分からなかったが。

 しかし今浮かべている笑顔だけは、何度も俺が見たものだった。


「魔王の配下、悪魔がこの世に現れだしました」

「んぐんぐ」

「私は未来視の能力で、貴方の力が必要だと知ったんです」


 聞いているのか居ないのか分からない顔で、彼女は串焼きに夢中になっている。

 一緒に食べようと思っていた串は、俺が良いと言ったものの両方が彼女の手に握られていた。


「エタンセルとスプレンドーレで協定を結びたいんです」

「んぐ……それ、アタシに言うことじゃ無くない?」

「上とも交渉は進めてます。ですが一番欲しい戦力が貴方なので、直接挨拶に」


 シーラは串を食べ終わり、すると変な人を見る目で俺を見てきた。

 そんな目は、正直一度も向けられたことは無かった。

 俺はずっと緊張で汗が止まらなくて、後悲しさで少し冷静じゃなかった。


「話は終わり?」

「質問があれば何でも」


 彼女は串を手で弄んで、クルクルと器用に回している。

 そしてそれがピタリと止まって、次に俺に真っ直ぐ突きつけられた。


 俺はそれを見て、失敗したと理解させられた。


「信用ならない。得体がしれない。意味がわからない」

「……ですが──」

「あんたでしょ? 教室の外からずっと見てたの。他国の使者が女の子の覗き?」


 彼女の雰囲気がガラリと変わる。

 俺には知覚すら出来ない気を、しかし確かに纏っているのだと理解した。

 俺は無意識に、すぐに臨戦態勢に入る。

 そして冷静になってすぐにそれを解いた。


「待て、戦う意思は無い!」

「アタシコソコソする奴嫌いなのよね──」



 目の前に拳が飛んでくる。

 殺意とまではいかなくても、当たれば気絶は免れない。

 俺は間一髪それを避けて、なりふり構っていられないことを理解する。

 俺はすぐに距離をとって防御魔法を展開した。


「…………アンタ今、詠唱した……?」

「……拳を下ろしてくれたら全部説明する」


 しかし、彼女の目から戦闘の意思は消えない。

 敵を見る目だ。こうなれば彼女に容赦は無かった。

 俺はシーラの動きの癖を知っている為、今戦えばまず負けはしないだろう。

 しかし、同時に戦えばもう戻れない。


「……シーラ、今日は引く」

「はぁ!? 何よ変態! 気安く呼ばないでよ!」


 俺は心が砕けそうになるのを堪えながら、木の上に飛び乗って更にシーラから距離をとった。

 無詠唱でフライを自分にかけながら、最後にシーラに向けて言葉を投げた。


「俺は勇者だ」

「……、はぁ……??」


 シーラはスプレンドーレの勇者候補だ。その実力だって多分スプレンドーレ一だ。

 だからこそ第二の悪魔には必須だし、だからこそ俺の言葉が信用出来ないだろう。


「次期に悪魔が訪れる。それはスプレンドーレだって例外じゃない」

「…………」

「……また、会いに来るよ。じゃあ」


 それだけ言って、俺はスプレンドーレを後にした。

 シーラから離れて、緊張が解けて涙が溢れてくる。

 そこで、ようやく俺は思い知ったのだ。

 やり直しても覚えてもらっていると言うのは、思っていた以上に嬉しかったのだと。


 大事な人に忘れられる。

 その辛さを、俺は再び理解させられた。


「……さよなら」


 ごめん、さよなら、前の世界のシーラ。

 約束を守るどころか、君との約束は無かったことになってしまった。



















─────────────────────────

──────────────────────







「………………」

「…………はぁ」



 俺は寮の自室で膝を抱えて蹲っていた。

 隣には何故かライラがいて、彼女は俺に聞こえるように溜息を付いた。

 俺は今、思考の整理中だった。

 一人にしてと頼んでも、ライラはそれを良しとしなかった。



「…………何かあった訳?」

「………………」


 ライラは珍しく気遣う様に、俺にかける声は優しいものだった。

 あの後、スプレンドーレから帰ってくるなりライラは俺に詰め寄ってきた。

 けれど、俺の様子を見るなり彼女は躊躇うように言葉を隠した。


 俺は顔を上げて、ライラを見る。

 どう考えたって今の俺は女々しかった。

 しかも、それを引き摺って見せている相手がライラというのも救えない。

 俺を好いてくれていると知りながら、今失恋の傷を気遣わせてる。


「…………いや、もう大丈夫」

「な訳無いでしょ」


 俺は抱えていた膝を離して、そのままベッドに倒れ込む。

 するとライラも同じ様に倒れ込んだ来た。

 天上を見上げて、するとライラは俺の手を握って来た。

 この温かさを俺は裏切っては行けない。

 俺はやるべき事と言うべきことを考えた。


「シーラ、記憶がなかった」

「……! ……………ふぅん」


 ライラにとっては喜ばしい事だろうか。

 しかし、驚いた後彼女はまた言葉を選んでいる様だった。

 シーラ、ノノア、パスカル、ライラ。

 色々考えて、結局、それが一番収まりが良いのだと確信する。



「ライラ、付き合うか?」

「………………!」



 首だけをライラに向けて、すると俺とライラの目が合った。

 多分、俺から言わなくても彼女から言ってきたと思う。

 けれど、これもひとつの責任だと思った。


「……シーラに記憶があったらどうしてたの」

「ごめん、分からない」

「チッ」

「……怖いよ」


 それでも、ライラの握る手は段々強くなっていく。

 隣にいる彼女は、最後には優しげな笑みを浮かべた。

 この選択だって、色んなものに蓋をした結果だ。

 それでも、選んだからにはもう迷ってはいけない。


「そもそもその選択肢以外無いから」

「……そうだったな」

「……まぁ、私の所に帰ってきたから……許してあげる」


 これでよかったのか。

 そう考える時点で俺は間違っているんだと思う。

 これがいい。

 ライラがいい。

 俺は彼女を、この世界で幸せにすると決めた。


 ただ願うのなら、勿論恋人としてはもう無理だけど、パスカルも、ノノアも、シーラも。



「今度こそ幸せにするよ」

「……ふふ」



 ライラは、俺に優しい口付けをくれた。

 唇を離した彼女は、この世界でようやく満面の笑みを見せてくれた。

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