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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
忘れた君への青春賛歌
17/83

スタート




 惨劇を作り出したルフレ魔術学園第一次侵攻。

 それは消えない爪痕を学園に残し、そして多くの生徒が犠牲になった。

 ある者は死に、ある者は学園を去って行く決断をした。

 そしてあるものは、目的の為に共に歩くことを諦めた。


 多くの生徒が心に傷を負って、それでも多くの生徒が立ち上がることを決めた。


 それから、一ヶ月の時が経った今。

 ルフレ魔獣学園は──とてつもない活気に溢れていた。




『祝! ルフレ魔術学園復活!!』




 時計塔に掛けられた横断幕が、バタバタと強い風に揺られていた。

 運動場付近では花火まで上がっていて、まるで祭りの様な雰囲気すら醸し出している。


 時は五月一日。

 生徒会により今日この日、正式に学園の復興完了が通達された。

 道行く人は皆笑顔を浮かべている。

 念願の学園生活が、これからやっと始まるのだと。



「──おい誰だ勝手に花火上げてる奴は!?」

「魔道科の天才だ! 昨晩何かしてたらしいぞ!!」


「はは……」


 二人組の風紀委員が目の前を通り過ぎて、その内容に俺は思わず引き笑いを浮かべた。

 ここは時計塔前の、教室のある校舎へ向かう道中。

 辺りには大勢の生徒がいて、皆が寮から続くこの道を歩いていた。

 

 平和な日常。取り戻した希望。

 つかの間の平穏だとしても、確かにこの時は俺に安心をくれた。

 この日常があるからこそ、俺はそれを守るために頑張れるのだ。

 平穏の中でこそ、その事実を再認識できる。


「──ちょっと」


 往来で立ち止まって、そんな風に感傷に浸っていると。

 突如後ろから声をかけられて、振り返るとそこには鬼がいた。

 俺は無意識に肩をビクつかせ、思わず謝る体勢を取ってしまう。

 しかし、直ぐに思い至った。俺はまだ何もしていないと。


「え……なんすか……」


 ライラ・エタンセル。

 そこに居たのは俺のこの世界での()()だった。

 彼女は不機嫌な顔を一切隠さずに、腕を組んで俺を睨みつけていた。


「何置いて行ってるのよ」

「…いや、別に約束も何も……」

「……それ本気で言ってる訳?」


 まるで排水溝に詰まったゴミでも見る目で俺を厳しく見つめるライラ。

 しかし俺にその手の趣味は無かった。

 ミラ保健委員長のファンとは凄く相性が良さそうだったが。


 ともかくライラにせっつかれ、そこからは二人並んで教室へと向かった。

 何か言ってもどうせ倍で帰ってくるので、俺は何も言い返さない。

 流石にライラは人前で腕を絡めたりはしてこないが、それでも距離が近い事は間違いなかった。


 悪態は付くが好きで居てくれている事はよく分かった。

 そんな俺たちの関係は既に噂され、俺は色んな意味で注目の的である。


「……一ヶ月って短いな」

「何ジジイみたいな事言ってんのよ」

「酷いって」


 本当に激動の一ヶ月だったと思う。

 俺を取り巻く環境も、類に見ない勢いで目まぐるしく変わってしまった。

 それがいい事か悪いことかはまだ分からない。

 それでも、今こうして何でもない話が出来ているのは少なくとも素晴らしい事だろう。


「いい天気だよな」


 学園の門出を祝福するように、太陽は光り輝き花火が上がっている。

 ルフレ魔術学園も大きく変わった。

 そしてこれからも、殆ど思い通りにはならないだろう。


 常にアドリブ。何時何が起こるか分からない。

 それでも、不思議と希望が沸いた。


「何ジジイみたいな事言ってんのよ」


 隣を歩く彼女は、少し俺に容赦が無いが。






















───────────────────────

────────────────────





 教室に辿り着いた俺は、人生最大の危機に陥っていた。

 それは下手すればベリアル戦以上の緊張。

 マモンがいつ来るか分からない以上の焦り。

 額を伝った汗が机に落ちた。周りから刺さる視線も酷く痛い。


 これが俺への罰だとしても、これだけは今はやめて欲しかった。


「…………」

「…………」


 おさらいをしよう。

 ルフレ魔術学園はひと月前の襲撃で、大きな打撃を受け大勢の生徒が命を散らす事となった。

 その結果、当然学生には欠員が出るわけだ。

 穴が空いた分、クラスは正編成される。



 なのに、何故か隣にはノノアが座っていた。

 どういう確率の奇跡だと思った。

 あの日泣きながら別れを告げて、そこからまともに話してないのだ。

 会う機会はあるにはあったが、しかし互いに気まずくて会話には至っていない。


「…………」

「…………」


 チラりと彼女の様子を伺う。

 すると、これまた何の因果かバッチリと目が合ってしまった。

 すると直ぐに彼女は目を逸らし、少し震えながらスカートを握りしめる。

 ノノアは俺と全く同じ表情をしていた。

 汗を走らせながら口を真一文字に閉ざしている。


「……なぁ、あの二人って付き合ってんだよな?」

「馬鹿、情報が遅せぇよ……今は第七王女と付き合ってるらしいぜ」

「え、何それウケる」

「やべえな……感性が違いすぎる」


 室内の声が全部聞こえてきた。

 むしろ聞こえるように言っているのではと思った。

 しかも俺の後ろの席にはライラが座っていて、先程から視線が飛んできているのだ。

 痛かった。俺に向けられる感情が痛い。

 どうにか噂に弁明しようにも、殆どただの事実だった。


「はーい席着いてー席着いてー」


 助け舟なのかは分からないが、皆の視線を遮るように教室に教員が入ってきた。

 黒い髪に眼鏡をかけた、前の世界でも俺の担任だった女性の教員。

 またこの人が担任なのかと思って、俺は目から光をなくした。


「──あ! 女の敵がいる! 囲め!」

「いきなり何ですか!?」


 まだ若い二十代前半の教員。レフィル・ミクスが入室するなり俺を煽って来る。

 文字通りまだ学生気分の抜けていない人で、隙を見せれば直ぐに弄り倒してくる様な人だった。


 この人は完全に距離感がバグっている。

 明らかに今の俺にとってミスマッチだと言えた。

 意図的なものを感じる采配に、俺は思わず頭を抱える。


「おいおい何だー? 入学式に女連れてきたと思ったらよー

……」

「…………」

「──ってお前新旧恋人に囲まれてんじゃん!! それ今どんな気持ちなの!?」


「………………ごふっ……」

「の、ノノア…………!?」


 俺に向けられた攻撃が跳弾してノノアにまで飛来した。

 この人は終始明るいだけだ。教師の癖に平気で生徒の地雷を踏み抜いてくる。

 ノノアが隣で死にかけていた。俺は声をかけていいものかと右往左往した。

 俺は女の敵だったが、レフィル教員は間違いなく人類の敵だった。


「はは、ねえねぇ、話聞かせてよー」

「……怒りますよ」

「えー、皆興味津々だよ?」

「……冥土の土産で良いのなら幾らでも」

「わー怖」


 くすくすと笑って、何一つ懲りていない馬鹿教師。

 俺はいつか魔力を込めて殴ってやると心の中で決意する。

 しかしなんと言うか、教室には異様な空気が漂っていた。

 確かに興味津々の様だった。それも怖いもの見たさと言った感じだが。


「まぁ、生徒弄りもさておいて」

「…………こいつ」


「──ようこそ、ルフレ魔術学園へ。大分遅くなったけど、皆入学おめでとう」


 レフィル教員は教室を見渡して、ここにいる百名の生徒全員に視線を配った。

 教室は所謂、階段教室だ。

 それが百名分となるとここは中々の広さになる。


 その一人一人にレフィル教員は目をやった。

 ちゃんと、どの命も大切だと言うように。


「今日は前出来なかったオリエンテーションの続き…なんだけど、その前に少し話をさせてねー」


 そして彼女は振り返り、後ろのホワイトボードに何かを書き始める。

 それは彼女の名前であり、最初はオーソドックスな自己紹介から始まった。


「レフィルちゃんでも、れーちゃんでも好きに呼んで。若そうなあだ名だと尚喜ぶよ」


 至極どうでもいい内容に、しかし俺以外の反応はそこまで悪くは無かった。

 この人は若い上に結構顔も良い。

 深く付き合わなければ十分に楽しい人だ。


「さて、それでなんだけどさ。とりあえず最初は振り返りをしようと思って」


 そう言って彼女は今度、ホワイトボードに数字を書き連ねて行った。

 多分、殆どの人には訳が分からない数字。

 けど俺は何度も会議に参加しているので、その数字に関しては嫌でも良く知っていた。


「入学式時点の生徒数が全学年5681人。一年生がぴったし2000人ね」


 ルフレ魔術学園はこれでも国内随一の大きさを誇っている。

 一学年二千人の定員だ。

 とは言え設備も増設していっている為、年々その数は増えている。


「で、今回亡くなったのが812人。内一年生は598人」


 マーカーがホワイトボードを走る音がここまでよく聞こえてきた。

 それくらいの静寂が教室を包んだ。

 あまりの空気の差に皆が戸惑っている。


 それでも、レフィル教員は止まらなかった。

 俺はその数字を聞く度に激しい後悔に苛まれる。

 何かもっとできた事があったのでは無いかと。

 その数だけの責任が俺の肩にのしかかった。


「後自主退学が206人……内一年生は128人っと。うん、こんな感じ」


 こんな真面目なレフィル教員は随分見てなかったと記憶している。

 途中の周回からは犠牲もだいぶ減ったから、殆ど俺をいじり倒してばかりだった。

 調子が狂うというかなんと言うか、やりづらいのは確かだった。

 それでも、きっと必要な事なのだろう。死人が出ている以上、当然覚悟が必要になってくる。


「大変な事になったね。それでなんだけどさ」


 そして、レフィル教員は振り返った。

 その顔は酷く真剣だった。



「皆、死ぬ覚悟って出来てるの?」



 その言葉に嫌でも緊張が走る。

 俺は既に覚悟が決まっている為、どちらかと言えば教員側の立ち位置だった。

 誰だって死にたくないのは当然だ。

 それでも、これからは確実に死が付きまとってくる。


「三年間はどこかしらの学園に通う義務はある。けどさ、一応ルフレはエタンセル随一の学園だし、しかも勇者候補もいるから一番の戦場になるかもね」


 退学を選んだ206名も、今頃別の学園に編入しているのだろう。

 それが国としての義務だから、才能のある者が魔術の道から離れる事は出来ない。

 それでも、確かにここに残るよりは生きる可能性は高かった。

 今行われているのは半分親切だった。レフィル教員が鋭く見渡す。


「欠員の募集も一応かけてるんだけどさー、どうも集まりが悪くって」


 ルフレ魔術学園はどの学園よりも設備や質は良いだろう。

 本来は大層人気な場所なのだ。

 それが集まらないのなら、そういう事だろう。


「今回何があったのか、まぁ皆新聞は見てくれてるよね。教科書にも乗るしテストにも出るから、そのうち授業でも触れることになるけど」


 目前に迫った魔王復活。そして悪魔という急に現れた謎の存在。

 勇者の誕生。それでも防げなかった惨劇。

 魔王も含めて残り七回この地獄が約束されているのだ。


「皆死ぬかもね……話を聞く限り、結構厳しいみたいだし。そこの所、丁度いいから忌憚ない意見を聞いてもいいかな?」


 先生の目が真っ直ぐ俺を見る。

 その事に、俺は少し返答に困った。

 事実厳しいのだ。そして先生はその答えを求めている様に見えた。

 迷っているものを去らせる為に、俺に背中を押させようとしている。


 けれど残念。人に希望を与えられないで何が勇者かと俺は思った。


「魔王は倒しますよ」

「お?」

「俺はその為に今まで生きてきました」


 正直何の根拠もない。けれど先生は驚いた後、ニヤリと笑顔をうかべた。

 明らかに彼女のお気に入りに入ってしまったようだ。

 これからしつこく付きまとわれるかもしれない。


「いーね。私もできる限りの事はするよ」

「…ですが、危険なのは確かです。俺の予想では、またこの学園は戦場になるので」


 これまたなんの根拠もない。

 けれど、可能性が高い事は間違いなかった。

 俺だって無闇に死人は出したくないのだ。

 それに、言い方はあれだが人数が居たところで経験上あまり意味は無い。


「成程! というわけでじゃん! 転入届け!」

「…………」

「心の傷とかもあるからさ。出来るだけ地方に移してあげる」


 ここまで優しくするのは、単に生徒を思っての事だけでは無い。

 本気で戦争が始まりそうだからこそ、足でまといは居るだけ邪魔なのだ。


 しかし、誰も動かない。

 これには俺も少し意外だった。

 そしてしばらく待った後、レフィル教員は勢いよく机を叩いた。

 そして、教室に響く声で告げる。


 いよいよここから始まるのだと。


「んじゃ、皆で張り切っていこーか! 世界を救うのは勇者だけじゃ無いからね!」


 ルフレ魔術学園は今日、再び狼煙を上げた。











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