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億回死せるは、偽勇者〜バッドエンドの集束地点〜  作者: つきらゆ
バッドエンドの集束地点
13/83

勇者の軌跡



 ルフレ魔術学園の権力者達が一同に会する会議室。

 襲撃の後で仕方の無い事だが、全員がピリついていて目に見えそうな位緊張が走っていた。

 そしてコの字型に並ぶ長机とその前に座る重役達は、俺が名前を把握している人達ばかり。


 今ここに居るのは俺含めて全部で十九名。

 生徒会五名。

 風紀委員会三名。

 俺、ライラ、パスカルと、後は各委員会の委員長達が七名。

 教師も一人参加していて、その全員の視線が俺に浴びせられた。


 この会議にライラやパスカル、後フーコが居るのは恐らく事件の中心に居たからだろう。

 そうなるとノノアが居てもおかしくは無いので、どうやら彼女はまだ起きていないみたいだった。

 それよりも、むしろノノアより重症なネメシスが今ここに居るのがおかしかった。

 彼女は包帯でぐるぐる巻きにされ、ミイラみたいな様相で何故か眉をしかめている。


 それは兎も角。

 俺はまず第一印象からだと、元気な挨拶をしようと息を吸った。

 俺はほぼ全員を知っているが、ほぼ全員が俺を知らないのだ。


「初めま──」

「──君すんごいねぇ!!」


 そしてそれを遮るように室内にシャッター音が響いた。

 正直俺はそう来るのではと内心思っていた。

 席を立ち俺の目の前に現れたのは、新聞委員会委員長のコタ・アニュー。

 台詞から察するにこの人はまた性懲りも無く、遠くから事件を()()()()のだと思った。


「見てたよ見てたよあの激戦! よっ、ピンチに駆けつけた男前! 超級魔法の大安売り! あ、目線ちょうだい! そういえば君首席の子だよね!? 隣にいたあの子は彼女!? ああ駄目、君情報量多すぎて困るよ!」


 困ると言った割にはとてつもない笑顔を浮かべながら、パシャパシャと許可なく俺の姿を激写するコタ。

 それに対して俺が取るのは何も言わぬ待ちの姿勢だ。

 仮に跳ね除けて彼女に嫌われたら、後日あらぬ事を記事に書かれる。

 しかしここで乗っかれば多分会長に怒られるのだ。

 まともに相手にしない方がいい人物。この人は素で快楽で生きているような人なのだ。

 しかし気に入られれば今後、俺の会長就任に大きな力を貸してくれるのは確かだった。


「アニュー、座れ」

「待って! 駄目! 情報はしんせ──」

「座れ」

「はい」


 会長の目が鋭く光って、コタは冷や汗を走らせカメラを下ろす。

 会長はループ無しでこの代を纏めていたのだから、その事には本当に頭が上がらない。


「家畜がよ……死んでたんだ……全部……」

「まぁ……でしょうね……」


 今話したのは飼育委員長のシャックル・ブロウ。

 そして保健委員長のミラ・メットだ。

 シャックルは気だるげに椅子にもたれかかって、家畜が全滅した事を憂いていた。


 そして、完全に忘れていた。ここで家畜を救えれば、彼の好感度は冗談みたいにうなぎ登りだったのだ。

 夏に海に誘われた時は本気でびっくりした。

 学園で一番目のクマの酷いダウナー男の癖に、趣味はサーフィンという意外性の男だった。


「……魔獣を」

「駄目に決まってるでしょ」

「まだ何も言ってねぇだろ……」


 ミラ委員長はノノアが所属する事になる保健委員の委員長だ。

 その腕はノノアの上位互換と言った感じで、目つきは悪いが驚く程にこの人はモテる。

 彼女目的でわざと怪我して治療を受けに来る男もいる程だった。

 そして、その馬鹿な男に帰れと言って彼女は傷口に唾を吹きかけるのだ。

 そしてそれが原因で余計に男が群がる悪循環。

 はっきり言って彼女の周りはニッチでフェチな変態の巣窟だった。

 何度か相談された事はあったが、俺は半分くらいは自業自得だと思っている。


「──おい!何時まで余計な話をしている!! 」


 そろそろ会長から咳払いのひとつでも入るかと思えば、先に声を発したのは風紀委員会・副委員長であるバルト・ベアだった。


 彼はなんと言うか、色んな人に舐められている人だ。

 生徒会長と同じ髪色で、同じ雷系統で、あらゆる面が似ていてかつあらゆる面で劣っている。

 付いたあだ名が劣化版会長。又は劣化版ネイル。

 しかし一度でもその名で呼べば影でしつこく嫌がらせを受けることになる。


「バルトうるさい……」

「なっ!? す、すいません委員長……」

「でもそうね。確かに時間は惜しいわ」


 隣で叫んだバルトの声に、ネメシスは眉を顰めて彼を非難した。

 バルトはネメシスには驚く程従順だ。

 しかし珍しくバルトに賛同する者もいて、それはこの場にいる唯一の教員だった。


「ネイル君、この事態の全てを説明出来る男の子が居ると聞いてきたのだけれど」


 そう言って鋭く会長と俺を交互に見る緑髪で眼鏡の女性教員。

 そもそも何故この緊急事態を大人が先導しないのか。

 それには大きく二つの理由があった。


 一つは、魔力は平均十八歳をピークに下がる一方だということ。

 教員を務めるルフレ魔術学園の大人達はそれにより戦場に出る事が叶わない。

 作戦指揮を取ることは出来る。

 しかしそもそも優秀な会長ややり直しで最適解を出す俺のせいで彼等の活躍は基本見た事がない。

 

 二つ目は、この学園には学長や理事長と言った責任を取る立場の人が在籍していないのだ。

 資金を潤沢に投資する為、学長はこの国の国王、つまりライラの父親名義になっている。

 要は名ばかりの責任者であり、学園に在中するのは授業を教える平教師しか居ないといったイメージだ。


 故に、この学園の統治は基本生徒が行っている。

 権限で言えば、数十人いる教師全員と生徒会五人でギリ釣り合っている感じだ。

 今ここにいる教師も他の教師の代表として居るだけで、恐らく会長の采配や決定に口を挟むことも無いのだろう。


「ああ、そうだな」


 その一言で長々と続いた前座は終わり、会長はようやく俺の目をまっすぐと見た。

 それだけでコタが破った緊迫した空気がこの場に戻り、そして再びここに居る全員が俺の事を見た。


 新聞委員長のコタ・アニュー。

 飼育委員長のシャックル・ブロウ。

 保健委員長のミラ・メット。

 美化委員長のフラウ・ブライト。

 図書委員長のカミル・スコッチ。

 体育/文化委員長のホモロ・デイ。

 放送委員長のレター・スコール。

 風紀委員長のネメシス・ブレイブ。

 風紀委員副委員長のバルト・ベア。


 生徒会長のネイル・アクスター

 副会長のミュタ・ロイゼス。

 会計のリグ・バレット。

 書記のネム・ベイト。

 庶務のヨール・フール。

 緑髪の教師。


 そして、

 風紀委員会のフーコ。

 王女であるライラ・エタンセル。

 魔道科の天才、パスカル・ブライト。


 その殆どが俺が名前を把握している人物だった。

 これだけの人物が一同に会するなど当然だがそう滅多にあることでは無い。

 その視線を一身に受け、俺はいよいよかと緊張と共に身構えた。


「ユーロ・リフレイン。今回の襲撃。そして記憶の事」

「記憶?」


 ミラ保健委員長が訝しげな声を上げる。

 記憶という単語に心当たりが無いのだろう。しかし、会長はそれに何も返さなかった。

 それを語るのは、確かに俺の役目だろう。


「知っている事、今ここで全て話して貰う」


 何を話して何を話さぬべきか。

 ずっとその事を考えていた。


 信じてもらえるのか、余計に混乱させやしないか。

 当然それらを危惧したが、しかしそれ以上に今回の事には色々と反省があった。

 ひとつ確かな事は、会長やネメシス達の頑張りが無ければ既にこの世界は終わっていたという事。

 だから俺は全て話すべきだと思った。

 伝えなかった事で起こる悲劇に、俺はもうこれ以上責任をとる事が出来ないのだ。


「分かりました。全て話します」


 神様は果たしてどこまでを想定しているのだろうか。

 わからない。けど少なくとも一つ目の試練を乗り越えた事は素直に喜んでくれた事だろう。

 その神様の事も話の流れで触れる事になる。

 信じて貰えるかは分からないが、今は信じて貰えるよう誠実に話すしかない。


 その為に必要な話術の経験は、確かに俺に蓄積している筈だった。

 彼等の性格も俺は知っている、

 俺は覚悟を決めて、全員を一瞥してから静かになった会議室で口を開いた。


「初めまして、ユーロ・リフレインです」


















─────────────────────

──────────────────

 






「まず前提から。この世界は何度もループしているんです」


 これから話す内容は大まかに三つ。

 やり直し。

 今回の事件の全貌。

 後は今後の動き方についてが主な話の要点になる。


 そしてやり直しは全ての事柄に大きく関与し、まず前提として共有するべきだと思った。

 しかし周囲の反応は想像通りあまり良くなく、シラケた視線が俺に刺さった。


「解散解散」

「チッ、こっちは治療も途中で抜けてきてるのよ」

「あっはははは!」

「ちょ、ネムちゃん……!」

「ギャグとしても点数低いわ」


 取り尽く島も無いとはこういう事を言うのだろうか。

 しかしこの程度で俺がめげる筈もなかった。

 前提と言ったように、こればっかりは信じてもらわなければ始まらないのだ。

 そして今までならこのまま解散の流れだったろうが、今ここには信じるしかない人達が少なくとも四人もいる。


「会長、ネメシス、ライラ、パスカル、後ここに居ないけどノノア。この五人は──」

「──おい貴様! 何を気安く委員長を呼び捨てにしている!!」

「いい」

「ほら委員長もこう……! こう……え……?」

「……今は聞いて下さい。この五人には、一度この学園で過ごした記憶があります。……ですよね?」


 その言葉に、会議室にいる面々の視線が俺から離れて彼らを見た。

 その目は俺の世迷言に乗るのかという疑惑の籠った視線。

 しかしネメシスも会長も、一切表情を変えず俺の言葉に頷いてくれた。

 ライラとパスカルは何も言わないが、今の空気では黙れば肯定と見ていいだろう。


「ああ……俺の記憶では今年の十二月。第二の悪魔の襲撃によってルフレ魔術学園は滅亡した」

「か、会長……?」

「おいおい、マジかよ……」


 会長の言葉に一番の戸惑いを見せたのはミュタ副会長だった。

 彼女なら会長の冗談を言わない質は痛いほど分かるだろう。

 そして俺は会長の言葉で第二の悪魔に滅ぼされた世界から来た事がわかった。

 やり直しとしてはまだ比較的最初の方と言えるだろう。


 記憶を語る会長の顔は重苦しく、嫌な事を思い出していると直ぐに分かった。

 それもそうだ。そもそも俺がやり直したということは、それ即ち全滅を意味しているのだから。


「ライラは多分、来年の夏だよな?」

「…………そうよ」


 ライラは何故かずっと機嫌が悪かった。

 まるでこの会議事態どうでもいいみたいな雰囲気をどこか纏っている。

 そうは言っても必要な事だと理解はしている様で、別に特別何かする様子もない。

 ただじっと、俺をゴミでも見るような目で見つめてくるだけだった。


「……待て、同じ記憶では無いのか?」

「恐らくそうです。少なくとも俺は既に何度かマモンは倒しています」

「な……ッ!?」

「おい待て待て、分かる奴だけで進めるな」


 放送委員長のレターの言葉に、俺は一言謝ってから出来るだけ掻い摘んで話した。

 最初に言ったように、この世界は何度もやり直している事。

 それは魔王を倒す為のループであり、そしてその過程でいくつも世界が滅んだ事。

 そして今ここにいる四人は、その滅んだ世界の記憶を受け継いでいること。


「えぇーー、でも会長冗談言わねぇしなァ……」

「それが本当だとして何故その四人なの?」

「それは俺にも分かりません。そもそもこんな事は初めてなので」


 各々の眉間のシワはまだ取れないが、それでも段々と雰囲気は変わりつつあった。

 会長やネメシスと言った普段から冗談効かない二人の後押しがやはり大きい。


「それと、なんで貴方がそんな事を知っているのよ」

「そうそう! そもそも君何者!? 一年が超級魔法使える時点で大分おかしーよね!」


「順に説明しますね。魔王復活と勇者の存在は皆さん伝承で知ってますよね」

「ええ。その為に今国は施策を進めているから」


 これに一番に反応したのはここに居る唯一の先生だった。

 確かに政治的な事には流石に教師が一番詳しいだろう。


 魔王復活とそれに伴い現れる勇者の存在は、伝承より隣国も含めて周知の事実とされている。

 故に魔王復活の大凡の時期に合わせる様に、十数年前から国は出産数を上げる為に多くの資金を動かしている。

 それは少しでも数を産んで、エタンセル国に勇者を誕生させるためだ。

 そして同時に多くの兵士を産む為でもある。

 人道的とはあまり言えないが、別に無理に結婚させている訳でもないのでとやかく言うことでも無いとは思う。


「俺がその勇者です」

「…………」


 しかしややこしい事に、生まれたらはいこの子が勇者、みたいな分かり易いものでも無いのだ。

 俺はあの白い世界で神様に直接言われたから分かるが、それを共有する術は用意して貰えなかった。

 だから今までの周回でも功績を作って周囲に認められる事で、今年の十月にようやく国に認められる事になる。


「……信じ難いわ」

「だが事実だ」

「えー?」

「ユーロは確かに勇者だよ」

「委員長まで!?」

「ふ、ファーストネームで呼び捨て、だと……!?」


 追い打ちをかけるように会長とネメシスが賛同してくれた。

 ここに居る会長が十二月まで生き延びた存在なら、彼は俺の勇者認定式に出席している。

 ネメシスの記憶はまだハッキリしないが、彼女の強さを見る限り割と最近の周回でもおかしくは無い。

 バルトは距離の近いネメシスの発言に一人勝手にショックを受けていた。


「俺は魔王を倒す為に何度もこの世界をやり直しているんです。それが勇者としての俺の力()()()

「その度に女を取っかえ引っ変えしてた事は言わない訳?」

「ちょ、ライラやめて」


 真面目な話の最中に急に刺されてびっくりした。

 俺は無意識に汗が吹きでて、主に女性陣から冷めた視線を向けられる。

 流石というかなんというか、俺を追い詰める意志を決めた時の彼女の言葉は的確に心臓をえぐってくる。

 

「ゴホンッ!……前提が共有出来た所で、次は今回の襲撃の犯人についてです」

「犯人?」

「悪魔です。奴らについては伝承には書かれてません。ですが事実、魔王が現れるまでに七体の悪魔が攻めて来ます」

「まぁ……」

「今回の襲撃。それは第一の悪魔、傲慢のベリアルに寄るものです」


 第一の悪魔、傲慢のベリアル

 第二の悪魔、強欲のマモン

 第三の悪魔、嫉妬のレヴィアタン

 第四の悪魔、色欲のアスモデウス

 第五の悪魔、憤怒のサタン

 第六の悪魔、暴食のベルゼブブ

 第七の悪魔、怠惰のベルフェゴール


 俺は置かれていたホワイトボードにその名前を書き連ねていった。

 会長は第二までしか知らない。

 ライラは第四までしか知らない。


「パスカルは、その……」

「何時だと思う?」

「……多分、第五だよな?」

「正解」


 内心冷や汗をかきながら答えると、どうやら当たった様でパスカルは笑ってウインクをして来た。

 しかしその横に居たライラは目に見えて不機嫌が限界突破した。

 俺は何も見ていない振りをして、その悪魔達の横に日付と、そしてあるものを書き足していく。


 第一の悪魔、傲慢のベリアル──1850年五月

 第二の悪魔、強欲のマモン──十二月

 第三の悪魔、嫉妬のレヴィアタン──1851年六月

 第四の悪魔、色欲のアスモデウス──八月

 第五の悪魔、憤怒のサタン──1852年六月

 第六の悪魔、暴食のベルゼブブ──十月

 第七の悪魔、怠惰のベルフェゴール──1853年三月


 魔王──1853年六月


「魔王……!?」

「これが、俺の知る記憶です」


 今日が1850年の四月一日。

 俺はそれらを書き終えて、マーカーに蓋をしてペンを置いた。

 再度見返して、間違いが無いことを確認する。


「魔王は三年後に来るのか……!?」

「とんでもないスクープじゃん……!」

「前回のループまではの話ですけどね……」


 そう言って、ベリアルの五月の部分を俺は消した。

 ここまで言えばここに居る人は流石に全員分かるだろう。


「ここに来て異常が発生しました。何人かが記憶を持ってこの世界に現れたんです」

「会長達か」

「本来それは勇者である俺だけの特権でした。先程も言いましたがそれが崩れた理由は分かりません」


「そして最悪なのが、ベリアルも記憶を継承していたと言うこと。それがベリアルがこの入学初日に来た理由です」


 記憶のない者にはまだ実感は湧かないだろうが、逆に知る者にはこれ以上無い位の危機を理解して貰えた筈だ。

 そもそも悪魔と人間は全くもって釣り合っていない。

 記憶を保持して強化されたネメシスでさえ、結果第一の悪魔に遅れを取ったのだ。


「これ以降の悪魔も記憶が有ると見た方が良い筈です」

「ま、待って!? じゃあ今来る可能性もあるって事!?」

「すいません。無いとは言いきれません」


 一番の問題点と言えばまさしくそれだった。

 次の襲撃までにどれ程の猶予が残されているのか。

 それ次第で取れる対応も変わってくるし、人類の勝利に大きく影響する。


「ですが、少なくとも全部がいきなり来る事は無いと言えます」

「そうなのか?」

「悪魔も魔王同様封印されているからです。とは言え俺は今まで復活してすぐ攻めてきてたと思ってたんですけど……今ベリアルが来たってことはどうもそうでは無いみたいで」


 とは言え、第六や第七はまず間違いなく封印中と言って良かった。

 あいつらは本気でヤバくて、その気になれば数分で世界を破滅に追いやってくる。

 ルフレ魔術学園では無く、世界をだ。

 本当に、やり直しありきの化け物達だった。

 しかしだからこそ、もっと早く復活していたならもっと早く来ていたと断言出来る。

 その事も一応全部話しておく。


「ですが、今回は比較的まだ()()ベリアル一体に後手に回り続けました。必要なのは次への早期の対策。そして皆さんの信用と協力です」

「…………」


 協力したところで無理だと言われれば、正直俺には何も言い返せない。

 それでも、今は手を取り合うしかなかった。

 それすら出来なければスタートラインにすら立てず、ただこの世界が魔王に呑まれるのを待つだけになってしまう。


「……因みに他に、記憶があるって人居ませんか?」

「「…………」」


 返答、沈黙。嘘をつく理由は……ないとは思うけど、人の気持ちの奥底なんてその人にしか分からない。

 最初は俺に近しい人が記憶を持っているのかと思った。

 けど別に会長と男同士の愛に芽生えた事は無いし、条件が分からないのでそこはなんとも言えない。

 俺は一先ずここには居ないものと結論付けて、そして俺にとっては最も重要なそれを告げた。


「それと、イレギュラーは記憶だけじゃありません。このループは今回で最後になります」

「最後?」

「はい。俺のやり直しは神様に貰った力です。そしてその神様に次で最後だと言われました」

「…………」


 これには流石に若干疑惑の目を向けられた。

 まだ救いだったのはここに啓蒙な信徒が居なかった事だろうか。

 しかし記憶のある四人はその言葉に重苦しい雰囲気を纏って、事態の悪さに口をとざす。

 要は、勇者としての力が失われた様なものだ。

 対して悪魔は敗北を知って成長している。


「今まではいくらでもやり直しが効きました。でも、もうこれ以上死んだ人は生き返らない」

「それは……こっちからしたら当たり前だけど……」


 それはそうだ。

 しかしその感覚は、俺と俺以外とで大きく異なる。

 俺の中では、最後には誰一人死なず魔王を倒す結果だけは用意されていたのだ。

 それが失われた。その喪失感は馬鹿にならないほど大きかった。

 言っても仕方ない事だとは分かっているが、これは考える度に鬱な気分になる。


「俺からはこれくらいです」

「……俺たちは、どうするべきだ」


 会長は難しい顔でそう言った。

 そんなものは正直俺にだって分からない。

 けど、出来ることは消去法で限られてきた。

 その先にあるのがハッピーエンドである保証はもう誰もしてはくれないが。


「今は出来ることをしていきましょう。ハッキリ言って、今から悪魔が来るようなら出来る事は何も有りません」

「何……?」

「第二の悪魔を倒すには隣国、スプレンドーレに居る仲間の協力が必須です。今日はもう遅いですし、焦った所で何も出来ません」


 仮に本当に来たらどうするか。

 ライフコンバートを使ったとして勝てるとは正直思えなかった。

 第二の悪魔、マモンには一切の魔法が通じない。

 ネメシスも今はミイラ状態だ。


「……質疑応答でもしましょうか?」

「はいはいはいはい!!」


 その言葉にいの一番に立ち上がったのはなんの意外性も無くコタ新聞委員長だった。

 しかしそこに待ったをかけたのは他でもないネイル生徒会長。


「神様について詳しく! ループについて詳しく! 悪魔について! 魔王について! 勇者! 神様! 女性関係!」

「待てアニュー、一度休憩を挟む。問題は無いか“勇者”」

「はい。何なら一番重要なのは休養ですから」

「なら一度各々の持ち場に戻って二時間後再び集まろう。その間に各自夕食もとれ」

「了解ー」


 会長の言葉で一気に解散ムードが広がった。

 それを見て、しかし情報に否定的な雰囲気は消えている気がして俺は大きく息をついた。

 出来ることを考えれば、しばらくはこうやって話し合いが続くのではと思われる。

 同時に校舎の修繕も進めて、少しでも次に備えるのだ。


 今はただ、祈るしかない。



 窓から空を見上げれば、雲ひとつ無くて月がよく見えた。

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