ウチの裏の猫又の好物は、5年モノの自家製梅酒です
なろうラジオ大賞5参加作品です。
使用ワードは「5年」。
「めぐみちゃん、白菜ある?良かったら食べて〜」
縁側のほうでハツエさんの声がする。
「欲しいです!取りに行きますねー」
都会での忙しない仕事と不誠実な恋人に見切りをつけ、心機一転、鄙びた温泉地に移住を果たして半年。
ぐいぐいおすそ分けに来るご近所さんたちの好意に甘える事にも、絶妙に不便な生活にも少しは慣れてきた。
今の仕事は、ひと月に数回は本社に出勤しなければならないが、ほぼリモート。
ここでの暮らしは仕事に振り回される事が少なく、生活自体が主軸、という感じがして気に入っている。
(白菜かぁ。塩昆布とごま油で和えるか…ツナ缶あったし、餃子も捨てがたい…)
…単純に、美味しいものがあればご機嫌でいられる楽観的な性格が、田舎暮らしに向いていたのかもしれない。
果実酒作りも上手なハツエさんに貰ったお酒で一人呑みをするのが、今の私のささやかな贅沢だ。余談だが、春になったら苺ウイスキーを一緒に仕込む約束もしている。とても楽しみだ。
結局、2品ともソーダ割に合うから、と自分に言い訳をしつつ、手早く作っていそいそと夕飯兼晩酌をスタートした。
と、
なおぉん。
(あ、来た。)
声の主は、貫禄ボディの三毛猫である。
めぐみが晩酌をしていると決まって現れる猫だ。
どこからか上がり込んできて、居間にめぐみしかいないと見るや、
「ちょっと。アタシの酒を先に飲むんじゃないわよ。」
と言うと、座布団に座って2本の尾で畳をぱたぱたと叩いた。
そう。この猫、実は裏山に住む猫又なのだ。
「今日はユスラウメにしようかと…」
と、小さめのグラスに赤いお酒を注いで出した私に、
「あー、これねぇ。」
と言うと、瞬きの間に着物を着た人間の姿になって、グラスを手にとってひと口含み、
「これも良いけどアレはないの?」
と注文をつけてくる。
というのも、人間の作ったものは人間に振る舞われないと食べたり飲んだり出来ないらしいのだ。
ご所望のアレとは、ハツエさん特製の梅酒のこと。濃い飴色で、熟成5年ものの貴重品なので大切に飲んでいる。
「ダメです。あれは今やってる仕事がうまくいったらって決めてるので。」
「ケチねぇ。ちょっとくらいいいじゃないの。」
移住したての頃は、こんなふうに穏やかに誰かと晩酌することになるなんて思っていなかった。
(ちょっと変わったご近所さんだけど、こんな日がずっと続きますように。)
そう思いながら、お客さまの好きなつまみを作り足すために、私は台所へ立った。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!