表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情のソーサラー  作者: よるのとびうお
第一章 魔法の発現
25/26

勇気の魔法



 目の前で短剣を構えるフィンセントと奥で邪悪なオーラを放つエンシーレ。明確な敵意と大切な人に向けられた狂気、それらを相手に踏み出した勇気がソラの感情を強く揺さぶった。ソラから放たれる眩い輝きは辺り一体を包み込み礼拝堂を照らし出す……!!

 その光を正面から浴びたエンシーレの瞳孔は大きく開き、強烈なそれを全て受け止めるかの様に両手を広げる。


「あぁ……なんて美しい……!! 強く(たかぶ)ったその感情は魔法となって光り輝く!! この瞬間はいつ見ても(たま)らない! 今まさに……新しい魔法使いが誕生する!!」


 今すぐにでも奪い去りたい……そんな表情を浮かべこの瞬間に酔いしれる。ああ、もうすぐこれを僕の手で──


「──これが、魔法……!?」


 ソラは眩い光に気を取られたフィンセントをよそに握り締めた(てのひら)に力を込めると、踏み込んだ勢いをさらに加速させ駆け出していく……!!


(体は痛いし手も震えている。でも今、皆んなを守れるのはぼくしかいない……ぼくはもう、守られるだけのぼくじゃない! 怖がっちゃだめだ! 全てを振り絞れ──!!)


「く、眩しい……この光はまさか……!!」


 発せられた輝きがフィンセントの視界を奪い、刹那の反応を鈍せる。気がつけばソラがすぐ目の前に──


 ──踏み出した脚を止めるな! 握り締めたものを離すな! 何度だって剣を打ち込め!! いくら防がれてもいくら受け流されてもぼくが皆んなを守るんだ……!!


 反応が遅れた彼女は繰り出される斬撃をぎこちなく受け流す──が、(ふところ)に入り込まれ過ぎている……!! 上から、右から、左から、矢継ぎ早にくる剣を受け止める度に上半身が仰け反っていき斬り込まれた勢いが止まらない──


(自分の感情と向き合え! この一閃に全てを込めろ!!)


 ──ソラは勢い良く剣を振り下ろし受け流された剣に逆らう事なく体を(ひね)らせると、それを軸に全身を回転させて思いっきり斬り上げる!! この一撃にぼくの全てを込める……!!


(追撃が来る!! この体勢じゃ受けきれな──)


「もう誰も傷つけさせない!! これがぼくの魔法だ!!!」


 ソラの剣は光り輝き、閃光を纏った渾身の一撃がフィンセントを襲う!!


「「「勇気ある一閃(ブレイブ・セイフ)!!!」」」


 ──強烈な勢いのそれはフィンセントの右側面に大きな傷を負わせ、かろうじて滑り込ませた右腕からは大量の血が流れ出す!!


「うああああああ!!! うう腕がっ!! ああ、はっはっくっ、、」


 (焼ける様な痛みが全身を駆け巡り、身体中から力が抜ける……う、腕が、上がらない、、)


 ── 一瞬の隙を逃さなかったソラの斬撃は彼女に大きな傷を負わせ、その足元は(したた)った血液で覆われていく。フィンセントの涼しげな態度は一変し、苦痛の表情を浮かべながら身体の全てを震わせるほどの荒々しい息遣いを繰り返す。


「く、こ、こんなはずじゃ……でも私はまだこれから……」


 フィンセントは右腕を庇いながらも短剣を構え直そうとする。だが、それを握る力はもう残っておらず、短剣はその重さに身を任せながらゆっくりと足元に落ちていく。それは血溜まりの床とぶつかると軽い金属音が連続し、喧騒に包まれた礼拝堂の中に響き渡った。


 ── 一瞬の静寂が辺りを貫き、二人の衝突に口を挟まずご満悦の様子で眺めていたエンシーレも思い通りに動かない現実を見るや否や呆れた表情で口を開いた。


「やれやれ、何をしているんだい? 僕を差し置いたくせにそのざまか?」


 彼は大袈裟に肩を落とす仕草をすると、首を横に振りながら(うつむ)いた。


「……あの時、誰が君を助けた? ……君が存在する理由は? 誰がここまで育ててあげたと思ってるんだ? ……負けた君にはいったい何の価値がある?」


 エンシーレはそのまま誰にも届かない様な声で言葉を(こぼ)し続ける。


 「あの時何で隙を与えた、怯んだならすぐに距離を取るべきだったのに、そうしたらこんな無様に血を流すことも武器を離すこともなかったはずだ、ところで何で君は苦痛の表情を浮かべている、君の感情は恐怖や怒りじゃないだろう、何で僕の思い通りに動けないんだ何故(なぜ)だ何故だなぜ…………!!!」


 苛立ちの感情を(あら)わにさせながらぶつぶつと言葉を吐き出し、一呼吸でその全てを溢し切ると口角を上げながらゆっくりとフィンセントを見つめ、不気味な笑みを浮かべた。


「ははは。もういい。興醒めだよ」


「待って、これは違う! 私はまだこれから……!!」


 右腕を抱きなんとか体勢を保ちながら、彼女はエンシーレを見上げた。その表情はもはや痛みのことなど忘れ、恐怖の色に染まっていた。

 笑みを浮かべた彼の瞳は冷酷さを宿し、その指先が彼女を捉えると静かに魔法が放たれる。

 それはたちまちフィンセントの身体を通り過ぎると礼拝堂の床を吹き飛ばし、ソラの目には立ち込める煙の中でゆっくりと崩れ落ちる人影が映った──












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ