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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
第一話 アルベールvs黒い騎士
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アルベールvs黒騎士 インターミッション


 むかしむかし、あるところにアルベールという騎士がおりました。


 黒騎士と、そして四十騎の継ぎ接ぎ騎士との戦いを終えてアルベールはぎりぎりのマナ残量で領主様のお城へ辿り着きました。


 まさにお城に到着した時点で、アルベールの騎士鎧は動作を停止してしまいました。


 それから領主様に事情を話して、森で倒れている鉄鬼党の者たちを連行する人を出してもらいました。


 ちょうどその時、バンたちウィリデの村の自警団の者たちもお城に何人かいたので一緒に来てくれました。


 現場に戻ってくると、大半の鉄鬼党の者たちはまだ気絶していました。


 目覚めていても、宝石炉を壊されて身動きができずにいる者ばかりです。


 こうしてアルベールは騎士鎧を継ぎ接ぎして悪行を成す無法者たちを、一網打尽にしたのでした。


 それから一日だけ休んで、アルベールは王様のお城へ帰っていきました。


 帰り際に、バンも見送りに来てくれました。


「アルベール様、おさらばです」


「バンよ、君の素養は目を見張るものがある。もしも国を護る志があれば共に来ないか?」


 アルベールの言葉に、バンは驚いたり照れたり、ころころと表情を変えて、


「アルベール様」


 そして最後に、バンは凛と答えます。


「俺はまだ……あの村から離れられません。俺自身の槍と、自警団の強さや……両親の面倒もあります」


 アルベールを真正面から見据えた言葉でした。


 だからこそ、アルベールには「だけど」という言葉をバンがぐっと飲み込んだのを悟ります。


「……そうか。では、待っている。神の思し召しがあり、君が君の道を往けるようになった時を。いつか君が王宮を訪れてくれる時をな」


「は、はい!」


 こうしてアルベールは王宮に帰路につきました。


 速やかに王様へと謁見して、今回の一件を報告し終えました。


「アルベールよ、天晴な働きである。まさか調査で済むと思っていた任務で、敵を壊滅させてしまうとは! そなたほどの豪傑はこの国におるまい!」


「いいえ、陛下。今回の一件は非常になりゆきに流れることが多くございました。特に鉄鬼党こそ壊滅させましたが、新たなる脅威が見えてきました」


「ふーむ、黒騎士ロイか。アルベールよ、そなたほどの騎士と渡り合う者がおるとは。次こそ黒騎士を見事に打破する働きを期待する!」


「はっ!」


「さてアルベールよ、今回の働きに報いる褒賞を与えよう。なんなりと望みを言うがよい」


「それでは陛下、是非ウィリデの村の被害を、手厚く補っていただきたく存じます」


「なに? 村の?」


「はっ!」


「ううむ、自分ではなく他者へ施す精神。アルベールよ、まさに騎士の鑑よ! しかし本当にそれだけでよいのか?」


「……でしたらばもうひとつ、陛下には請い願いたく存じます」


「なんなりと申すがよい」


「ウィリデの村のバンへ最上の槍を与えてくださいませ」


立て続けに、あくまで誰かに褒美を譲るアルベールにさしもの王様も苦笑します。


「さきほどの報告にあった自警団の勇敢なる若者だな。あいわかった。それでは、村の援助とバンへの槍、このふたつでよいのだな?」


「はっ!」


「うむ、ではそのように手配せよ」


 王様が隣にいる書記官にそう言えば、蝋板にアルベールへの褒美をきちんと書き記してさっそく手配しに行きました。


「まったく頑迷な男よ」


「申し訳ありません」


「よい、だからこそそなたを信頼しておる。ではアルベールよ、このたびはご苦労であった。騎士鎧の修理が完了するまで、ゆっくりと養生するがよい」


 謁見の間を後にしたアルベールは、次に格納庫へと赴きました。


 既に騎士鎧を搬入してもらっており、そこでダメージを見てもらっているのでした。


 格納庫へ近づくと鉄を打つ音や、職人たちの怒鳴り声が聞こえてきます。


 格納庫は鍛冶場と併設されており、製造された武具を即座に鎧にあわせることができるのです。


 足を踏み入れると、仕上がった鎧とこれから修理する鎧が分けて並んでいます。


 緊急度やダメージの深刻さごとに分けられており、中程度の列に自分のものを見つけました。


「親方、私の騎士鎧はどうか?」


 必要な部品の勘定をしていた鍛冶場の棟梁にアルベールが声をかけます。


「おう、アルベール」


 熊と格闘できそうな筋骨隆々の男が応じました。


 もうすっかり老境ですが、はち切れんばかりの活力に満ちた、かくしゃくとしたおじいちゃんでした。


 王宮で騎士鎧全般の整備を任された親方です。


「聞いたぜ、四十騎を相手にしたんだってな? それでこの程度の損傷は軽過ぎだ。たいしたもんよ」


「相手をしたのは四十騎の半分であった」


「ああ、例の黒騎士との共闘ね。おう、」


 がしっと親方がアルベールの肩に腕を回します。


「どんなもんだった、黒騎士の騎士鎧ってのは?」


「素体はひと世代前のものだった。改造騎だ」


「ふーん、エクソドゥスに毛が生えた程度ってか?」


「いや、出力はクルクスを越えていた。おそらく宝石炉は新型だったのだろう」


「クルクス以上の出力だと? それでひと世代前の騎士鎧を走らせるなんてそりゃ無茶だ。鎧の骨格が歪むぞ」


 エクソドゥスというのは、第二世代の騎士鎧でした。


 クルクスは第三世代の騎士鎧でした。


 アルベールの騎士鎧はクルクスです。


 第二世代と第三世代には、明確な性能差の隔たりがありました。


 しかし黒騎士はその隔たりを無茶な改造で補い、操縦で埋めきったのです!


 親方の驚きも無理なからぬものでした。


「歪んでいたかもしれぬな。しかし最後の一撃は一点の曇りのないものであった」


「お前さんと互角だったってな? この国にまだそんな奴がいやがるとはなぁ」


「あの腕前、是非とも国のために欲しい」


 アルベールの真剣な言葉に、親方がすっかり白くなった眉毛をひそめます。


「相手は筋金入りの悪魔教だろう?」


「そうだな」


「それが回心なんてするもんかよ」


「それを回心させてこそ、真の騎士であろう」


 親方が肩をすくめます。


「まぁ、俺はお前の装備を完璧に仕上げるだけだ。後はそっちが根性を見せな」


「修理にどれほどかかる?」


「こんなもん、一週間ありゃ直せる。だが、そのまま直せって話にゃなるめぇ?」


「話が早いな」


 アルベールがにやりと笑います。


「対策が必要なんだろ、黒騎士を倒すための?」


「まさしく!」


「それで、どうする? 装甲を厚くするか?」


「いや、これ以上重くしては操作性が悪くなる。貴公には盾を鍛えてもらいたいのだ」


「盾だぁ?」


「そうだ。私はおそらく黒騎士の最大の一撃を見た。巨人すら斬り殺せるであろう極大の閃紅である。今回は直撃しなかったが、あれを防ぎきれずに奴を制することはできぬと断言できる」


 熱っぽく語るアルベールに、親方が腕を組んで悩みます。


「……今以上の盾か」


「そう難しく考えなくていい。規格のものに宝石炉をひとつ載せてくれ」


「なんだとぉ!?」


 親方がすっとんきょうな声を上げました。


 宝石炉とは、その名前の通り宝石を使った小さな機関でした。


 騎士鎧の中に巡るマナの循環回路における要穴なのです。


 循環するマナを増幅させ、また蓄積させるための機関で、基本的に九つが搭載されています。


 しかしただ搭載すればいいというものではなく、騎士鎧の各所にバランスよく配置した方が出力を安定させられることが分かっています。


 兜の内側には、頭頂、左右のこめかみ。


 騎士鎧胸部の内側の、心臓、左右の肺。


 腰部内側の、丹田、左右の寛骨。


 あるいはこれらに近しい部分に配置されていました。


 このバランスを崩すと、流れるマナの運用が難しくなり、騎士鎧の駆動に支障をきたしかねません。


 これらは聖書に云われる生命の樹の構成を模したものでした。


 九つの宝石炉と、そして騎乗馬。


 馬を十個目の要穴として見立ててマナを巡らせ、疑似的な生命の樹を纏うのです。


 こうして知恵の果実を食べた者の末裔である人間は、超人的なパワーを手に入れるのです。


 この時、巡るマナに賦活され騎乗馬もまた超馬的なパワーを発揮します。


 ちなみに馬がいない場合、大地を十個目の要穴と見立てます。


 しかしやはり人馬一体となった時が最も威力を発揮できました。


 故に騎士は馬とひとつなのです。


 このマナの運用には、教会の教義に則った厳しい修業が不可欠でした。


 一方、悪魔教の騎士鎧には、邪悪の樹を模した宝石炉の構成が成されていました。


 そしてそのマナの運用には、悪魔教の教義による修業が必要なのでした。


 基本的には教会の教義どっぷりな者が悪魔教の騎士鎧を動かすことはできないし、その逆もまた然りです。


 つまりOSの違いみたいなものでした。


 教会と悪魔教の戦いは、Mac信者とWindows信者の仁義なき戦いのようなものなのかもしれません。


「左肺の宝石炉の回路を、盾の宝石炉と切り替えの仕掛けが欲しい」


 もしもこの仕掛けが上手く行けば、盾にマナを流して強固にするというプロセスではなく、盾からマナが噴き出んばかりに凝集されることになります。


 黒騎士の強力な攻撃も確実と防げるとアルベールは確信していました。


「おいおい、下手すりゃ騎士鎧の左腕が動かなくなるぜ」


 アルベールがにやりと笑います。


「仕掛けについては、貴公がやってくれるなら問題はないと心得ている。しかし貴公が難しいと言うなら、止めておこうか」


「カァー! 馬鹿野郎が!」


 親方が眼を釣り上げてにしてアルベールの胸を叩きました。


「任せろ馬鹿野郎!」


 親方が鼻息荒くそう言い切り、アルベールは微笑みました。




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