アルベールvs黒騎士 後編
「ひぃ!」
人知を越えた戦いの余波に、誰もが頭を抱えてうずくまりました。
一瞬の拮抗の後、反発するように二騎が後退しあいます。
「やるではないか、アルベール!」
「ここでは狭い。ついてきてもらおうか!」
着地の衝撃を殺すために馬が大きく膝を折り、それをバネとして再びかっ飛びました。
アルベールは背部ノズルから噴出するマナジェットの出力をさらに増し、黒騎士へとぶつかります。
それを涼し気に受けながらも、黒騎士が勢いに身を任せました。
こうして黒騎士を原野まで押し出して、二騎は弾けるように距離を取ります。
アルベールは背部ノズルから噴出されるマナジェットの出力を調整して、愛馬の疾駆を助けます。
黒騎士も同じように、マナジェットを噴かして馬の加速を助けました。
蒼と紅の光が尾を引いて走る二騎は、交差するごとに剣を打ち合わせます。
衝突する剣も高密のマナを纏っているため、打ち合いに巻き込まれた空気は容易にイオン化して景色が歪みました。
時に直線、時に曲線、時に直角、時に飛翔する如く。
両者は技巧を凝らして打ち合いますがなかなか決定打に届きません。
何合かの衝突を経て、二騎の距離が開きます。
アルベールがその距離を保ちながら、盾を背にマウントして左手を突き出しました。
ガシャンと腕の装甲の一部が、手首の甲辺りで翼を広げるように展開しました。
その形状は小弓です。
アルベールが黒騎士を指さしながら、展開した小弓にマナを充填。
立て続けに三発の蒼いマナの矢が撃ちだされ、黒騎士へと飛来します。
黒騎士はそれを二発まで剣で斬り落としますが、三発目が右肩部装甲を弾き飛ばしました!
「小癪な!」
大きく離れた距離のまま、黒騎士が剣を掲げて構えます。
その剣に宿る紅い光が、みるみる膨張していきます。
「いかん!」
アルベールはその威力を察して、急いで展開していた小弓をたたみます。
そして自らの盾にも蒼い光を凝集しながら馬を駆けさせました。
防御の準備はしますが、直撃は避けなければならぬ。
怖気にも似たそんな直感……いいえ、確信でトニトゥルスを走らせて───
(しまった!)
急停止!
そうです、もしも黒騎士が紅い光の斬撃を繰り出して、それを避けてしまえば村に被害が及ぶ位置だったのです!
既に村は遠く、何百メートルと離れています。
しかしそんな距離も容易に走り抜けてしまう威力であるのは一目瞭然!
生半可な凌ぎ方ではどれほどの被害が出るか。
遅まきながら気づいたアルベールは、直撃してでも防ぎきる覚悟で蒼い光を盾にありったけ注ぎました!
瞬間、黒騎士の剣から膨れ上がった紅い光が、臨界に達しました!
「チィッ!」
渾身の振り下ろしとともに放たれたのは、巨人すら切り裂く如き紅い極大の斬閃!
アルベールが予想したよりもさらに強力な光でした!
「ぬおおおおお……お?」
───それが盛大に逸れて、明後日の方向へと撃ち出されました。
彼方まで大地は抉れ、高エネルギーが通り過ぎた余波で空気が膨張して蜃気楼が生まれています。
完全兜の中で、アルベールはあっけにとられてしまいました。
「貴公まさか、村に被害が出ぬよう……?」
「黙れ。つまらん決着にしたくなかっただけだ。あんなくだらん村ごときのせいでな」
「貴公!」
アルベールはその言葉に深い親しみを覚えてしまいました!
そしてトニトゥルスを少しだけ走らせ、盾を構えます。
「貴公、もう一度さっきと同じ技を撃て! 今度こそ私の背後には何もない!」
「石頭の愚か者め! 戦いの機運が一度外れたのだ、後戻しなどできるものか!」
「気に入った!」
アルベールは喜色を隠せずに黒騎士へと馬を近づけました。
「貴公、その公平さ、その強さ! 騎士として深い尊敬を覚えたぞ! だが、だからこそ貴公ほどの男があのような愚劣な行為を生業にするなど我慢ができぬ! 悪辣で姑息な契約の強制など止めよ、黒騎士ロイ! この私と共にこの国を安んじるために、父と子と聖霊の御名において平和のためにこそ戦おうではないか! 清く正しく身を立てるのだ、黒騎士ロイよ!」
返答は渾身の力で振り下ろされる剣でした!
アルベールはそれを盾で防ぎますが、衝撃に歯を食いしばります。
「ここまで馬鹿な男とはな! この俺がそんな戯言に付き合うと思うか!」
「力づくでも付き合ってもらおう!」
再び激しい打ち合いが始まりました。
お互いに騎士としての技量を尽くした戦いは凄絶なものでした。
もつれあうように剣を打ち合ったと思えば、時に疾風のような一瞬の交差。
もはや二騎の盾は砕け、鎧もあちこちが弾け飛んでしまっています。
外装が破れ、露呈した内部機構からスパークを散らしながらも、鎧の破損にあわせて動きを修正し続けて、二騎は互いに最適解をぶつけ続けます。
致命傷をぎりぎりで凌ぎ続ける、薄氷の上を歩む……いいえ、薄氷の上を駆け抜けるような戦い!
伯仲した実力はまさに互角で、日が沈み始めても終わりが見えません。
やがて二騎は勢いのまま、森へ突入してしまいました。
木々を縫うように駆け、剣を交えてまた距離を作って機をうかがう、その繰り返しです。
「ぜええええええい!」
「ちぇりゃあああああ!」
そして日がまさに西の地平に落ちる一瞬と、木でお互いの姿が隠れた一瞬が重なります。
その瞬間。
二騎は剣に蒼と紅の光を纏わせて至高の突きを繰り出しあいました。
目隠しに使われた木は双つの方向から輝ける切っ先に挟まれ、その高威力・高圧力に分子が励起しつくされて爆散。
木っ端みじんと表現するのも生ぬるい、膨大な量の光の粒子となって二騎に降り注ぎます。
生まれた光に照らされて、二騎の切っ先と切っ先がお互いの完全兜を半壊させながらすれ違いあいました。
二騎は即座に馬首を返します。
が!
なんとアルベールが手綱を引いて、止まってしまいました!
そして黒騎士の馬もまた、止まっているのです!
いいえ、違いました。
黒騎士の馬は荒い呼吸で、片膝を折ってしまっているではありませんか!
そうです、これまでの攻防で騎士に未だ余力があれども、馬の体力が尽きてしまっていたのです。
「貴様! この俺に情けをかけるつもりか!」
手綱を乱暴に手繰り寄せ、無理やり馬を立ち上がらせながら黒騎士が激昂しました。
しかしそれをアルベールが手で制しました。
「貴公にではない。貴公の馬にだ」
「同じこと! 今の甘さ、後悔させてやるぞ!」
「だが待て!」
いきり立つ黒騎士にアルベールは掌を突き付けて制止しました。
そして天を指さします。
「もう夜で戦いにくい。それに先ほどは偶然にも貴公の馬が膝を折ったが、私の馬もいつへばっておかしくない。お互いに馬が潰れるのは本意ではあるまい?」
言うが早いか、アルベールがさっと馬を飛び降りました。
「それにロイよ。貴公とは少し話がしたい。続きは日が昇ってからにしようではないか」
黒騎士が逡巡する間、アルベールは剣を地面に突き立て、半壊した完全兜を外してしまいました。
こうなればアルベールの騎士鎧は、もはや補助回路による日常レベルの動作しかできません。
今、黒騎士が馬上からその脳天に剣を振り下ろせば、一撃で殺されてしまいかねません!
しかし黒騎士はそれをしませんでした。
「ふん! 朝日と共に即座に斬りかかってくれる。覚悟しておけ」
馬から降りて剣を地に突き立てると、こちらも半壊した完全兜を乱暴に脱いで地に放ります。
短い赤髪の、目つきの鋭い痩せた顔です。
どっかりと無造作に座り込みますが、その姿には騎士の気品が確かにありました。
アルベールもすぐ近くに座ります。
静かな泉の近く。
すっかり傷ついた鎧の騎士がふたり、休息に入ります。
ふたりのお馬さんたちも、ちゃぷちゃぷお水を飲んでめいめい休みはじめました。
「改めて自己紹介をしようか。フランクの騎士、アルベールである」
ロイは凄みのあるまなざしで、値踏みするようにぎらりとアルベールを睨みつけました。
適当な焚火をおこしてから、アルベールが切り出します。
「足を洗え、黒騎士ロイよ。貴公の強さは惜しい!」
「何を話したがると思えば。またそれか」
「貴公ほどの男、そうはおらぬ。貴公は国の乱れを増長させているようだが、裏を返せば貴公の強さは国を安んじる大きな力になる!」
熱っぽく語るアルベールに、ロイがずいと顔を近づけます。
アルベールは引かず、ふたりが額を打ち合いました。
「アルベールよ、貴様こそ我が軍門に降れ。この俺とこうまでに打ち合える男が、くだらん国で狗として果てるなど、無為の極みよ」
「くだらぬ国ではない。偉大なる国だ」
「偉大であった国の、その破片のような国ではないか」
「平行線だな。ではこうするのはどうだ、勝った方が敗けた者をつれてゆく。私が勝ったならば、貴公をまずは修道院に連れてゆき、正しい信仰と生き方をいちから学んでもらおう。私が敗ければ貴公の好きにするが良い」
「唾棄すべき信仰に凝った頭にしては上出来だ」
ふんとロイが鼻を鳴らします。
アルベールはトニトゥルスに積んでいた皮袋をひとつ、ロイへ投げて渡しました。
「葡萄酒だ」
「要らん」
ロイが乱暴に投げ返した皮袋を、アルベールが残念そうに受け取り、がぶりと一口。
「そうか。貴公と一献、共にしたかったのだがな」
「飲まぬとは言っておらぬ」
ロイもまた自身の黒馬に積んでいた皮袋を取り出して飲み始めました。
「私は貴公がやっていることは看過できぬが、どうも貴公を憎み切れんな」
「ほざいておれ。その余裕も、俺に敗けるまでだ」
「敗ければ貴公の軍門に降る、ということになるが……新たなるゴモラとやらの軍、か?」
皮袋から口を離し、ロイがにやりと笑いました。
「そうだ」
「新たなるゴモラとはなんだ」
「そう焦るな。貴様の持ちかけた賭けの通り、俺が勝利をして連れていってやる」
「どうやら、修道院で告解をしてもらうしかないようだ」
ふたりが示し合わせたように皮袋を煽ります。
「黒騎士ロイよ、貴公が騎士として立つ場所だ。つまらん徒党だと油断せぬぞ」
「好きに想像しているがいい。貴様の想像など及びもつかぬ絶望である」
「もしも貴公に並ぶ猛者がそろった騎士団などがあるのならば、脅威ではある」
「ふん、この俺に並ぶ者などいるものか」
「この私は?」
残念そうに尋ねるアルベールに、ロイが眉をひそめて黙り込んでしまいました。
その顔にアルベールが声を上げて笑い出しました。
「貴公、私を認めてくれて嬉しいぞ!」
「今すぐやりあいたいようだな」
いきり立つロイを、アルベールがなだめます。
「落ち着け、朝日が昇れば存分に相手をしてやる」
アルベールが皮袋の中身をさらに一口、ごくりと飲み込みます。
「貴公、どこからやって来た。フランク人ではあるまい」
「国から何かを探ろうとしても無駄だ」
「む、寂しいことを言う。純粋に知りたかったのだがな」
「ふん、当ててみるがいい」
ロイが意地悪く唇を釣り上げれば、皮袋を煽りました。
「はてさて。ブリテンか、ヒベルニアか……」
アルベールが呑気にうーむと唸っていた時です。
ふたりが自分の完全兜を掴んでかぶり、一斉に立ち上がっては同じ方向を睨みつけました。
やがてふたりの周囲に光が満ちたではありませんか!
昼のような明るさに、すっかりすやすやだったふたりの愛馬も跳び起きました。
見ればなんと、大人数に囲まれてたくさんの松明が灯されたのです。
なんとその人数は四十人を超えているではありませんか!
しかもその全員が継ぎ接ぎの騎士鎧を纏っているのです!
そうです、アルベールとロイを取り囲んでいるのは鉄鬼党の者たちでした!
ロイがじろりと視線を巡らせて、明らかに良いパーツをえりすぐって継ぎ接ぎしている者に焦点を結びました。
「鉄鬼党の全ての戦力を集めて、なんのつもりだ」
「黒騎士の旦那、騎士と一緒に仲良くおしゃべりたぁ、契約はどうなったんで? 契約は?」
音声を拡張補正していますが、鉄鬼党の頭目の声でした。
「決着は日が昇ってからだ」
「へェ、そうですかい。しかし旦那、随分とボロボロだ。旦那がよろしければなんですがねェ、その騎士を俺たちが仕留めましょうか?」
「黙れ」
ロイが立ち上がり、その満面に怒気を吹き出しました。
「この男との決着はこの私ひとりでつける。貴様らのような塵芥の助力など邪魔なだけだ。即刻に去ね」
頭目ははその迫力に気圧されますが、一歩引くだけでとどまりました。
そして声を引きつらせながら、二歩前に出ました。
「へ、へへ。黒騎士の旦那、勘違いしてもらっちゃ困る。俺たち鉄鬼党は、あんたを助けに来たんじゃねぇ。そっちの騎士も、ついでに掃除しておこうって話ですよぉ」
「なんだと?」
「旦那、俺たち鉄鬼党はね……旦那との契約を破棄しに来たんだよ!」
その言葉と共に、四十騎以上の継ぎ接ぎ騎士が一斉に抜剣しました。
「もうたくさんなんだよ、てめぇらの馬鹿馬鹿しい代価に振り回されるのはなぁ! へへ、てめぇがそんなにもずたぼろになってくれるなんて、本当に幸運だぜ……! くそったれな契約なんざもう知らねぇ! お前をぶっ殺しゃそれで綺麗におしまいだ!!」
「ふん、最も愚かな選択をしたな、鉄鬼党!」
ロイが地に突き立てていた剣を引き抜きました。
「貴公たち、私を仲間外れにして話を進めるのは寂しいではないか」
そしてアルベールもまた剣を手にして、前に出ます。
「どいておれアルベール。こやつらは契約を軽んじた。この手でその報いを降さねばならぬ」
「どかぬな。この私はそもそもこの国を乱す継ぎ接ぎ騎士という問題の解決にやってきた。これが鉄鬼党の全ての戦力というのならなたいへんに都合がいい」
二騎ともに、騎士鎧のダメージは深刻なものでした。
しかしどうしたことでしょう。
ぼろぼろの騎士鎧でありながら、並み居る継ぎ接ぎ騎士たちの誰よりも威風堂々とした立派なたたずまいです!
ロイに気圧されて、頭目は狂ったように叫びます!
「や、やれ! ちっちまえ! この騎士どもを、ぶっ殺さねぇと俺たちに明日はねぇ! やれぇえええ!!!」
ここにアルベールとロイの連合二騎と、継ぎ接ぎの鎧の盗賊たち四十騎の勝負が始まりました。
「クソ騎士どもがーーー!!」
「この数に勝てると思ってるのかーーー!!」
数を恃んで、継ぎ接ぎ騎士たちは吼え猛りながら二騎に襲い掛かります!
しかしアルベールとロイの動きは継ぎ接ぎ騎士とは段違いでした。
襲い来る剣を見事な身ごなしで躱して剣を返します。
一瞬でアルベールが継ぎ接ぎ騎士の鎧を砕きます。
しかし数は力です。
四方から攻められて、アルベールもその攻撃を全て躱し切ることはできません。
継ぎ接ぎ騎士の剣は拙いものですが、力任せの攻撃は鎧の中のアルベールたちにも響きました。
このままではまずいなと、アルベールが緊急退避。
背部ノズルからマナを噴かせて上空へ逃げました。
継ぎ接ぎ騎士たちも一斉にアルベールを追って夜空へと飛翔!
しかし騎士鎧の運用に一日の長があるアルベールには、空中で姿勢をぐらつかせる継ぎ接ぎ騎士たちなど隙だらけです。
巧みな空中機動で、継ぎ接ぎ騎士をひとり蹴り飛ばしてしまいました!
蹴られた継ぎ接ぎ騎士は、さらに他の継ぎ接ぎ騎士を巻き込んで地面に墜落!
それでメンテナンス不足な継ぎ接ぎ鎧のパーツは機能不全を起こしたり、爆発したりと大惨事です。
アルベールは危なげもなく着地。
が、着地のタイミングで兜の横っ面ををがつんと叩かれてしまいました。
なかなかの威力です。
バランスを崩して転がってしまいそうになるのを、各部バーニアから小刻みにマナを噴いてなんとか態勢を持ち直しました。
そこへまた別の継ぎ接ぎ騎士の剣が襲ってきます!
身を引きながらアルベールはその剣を鎧の肩部で受けました。
ガギーン!
肩アーマーにダメージを受けますが、その返礼の剣で相手の鎧の胸部アーマーを打ち砕きます。
正確には胸部アーマーに備わっている宝石炉を砕いたのです。
するとどうでしょう、たちまち継ぎ接ぎ鎧は動けなくなりました!
ウィリデの村で、継ぎ接ぎ騎士の完全兜を砕いた時と同じ要領です。
しかしその総数は四十騎。
まだまだアルベールに継ぎ接ぎ騎士たちが殺到してきます。
「継ぎ接ぎとて、数をそろえてはこうも脅威となるとはな!」
継ぎ接ぎ騎士たちの前のめりな攻撃を、後方に逃げながらアルベールが舌を巻きます。
「アルベール、この俺と互角に打ち合った貴様がこの程度で弱音など許さぬぞ」
その背にガツンと、ロイが背中を押し付けて棘のある一言。
背中をぶつけ合って、逃げ場を失ったと思った継ぎ接ぎ騎士たちがふたりへ突撃してきます!
瞬間、二騎がくるりと立ち位置を入れ替えて、襲い来る剣を華麗にスルー!
そして位置をスイッチした勢いで、継ぎ接ぎ騎士の一騎ずつへカウンターを叩きこみました!
「貴公、やはり悔い改めよ! 貴公と轡を並べれば、あらゆる悪を排せそうだ!」
アルベールが弾んだ声で叫びます。
戦場でこれほど息を合わせて戦える者なんてそういません。
「ほざけ!」
しかしロイの返答は怒号でした。
咄嗟にアルベールが大きくしゃがむと、その頭上を紅いマナを大きく伸ばした刃が通り過ぎたではありませんか!
継ぎ接ぎ騎士と一緒にアルベールまで巻き込む、紅いマナを延長させた一撃です。
伸びた紅いマナの刃が円弧を描き、幾騎もの継ぎ接ぎ騎士が両断されてしまいました!
「今の攻撃も、私が避けるであろという信頼を感じたぞ!」
今度は直に蹴られました。
そんな感じのつんけんした態度ですが、ロイもアルベールとの連携は加速度的に円滑になっていきました。
息の合った仕事というのは、お互いを何倍も活かします。
二騎の連携が精度を上げるたびに、攻撃のチャンスが大きくなり、被弾が少なくなっていきます。
それに比べると数を頼んだ継ぎ接ぎ騎士の連携は荒いもの。
夜が明ける頃、四十騎の継ぎ接ぎ騎士たちは全滅しておりました!
朝焼けの光の中、立っている者はアルベールとロイだけです。
二騎ともさらなる損傷をしていながら、なお雄々しく両の脚で大地を踏みしめていました。
「朝だ」
ロイが太陽を眺めながら言いました。
辺りが明るくなり、混戦から離れていたアルベールとロイの馬もそれぞれ戻ってきました。
ふたりが颯爽と愛馬にまたがります。
太陽が昇った今こそ、ふたりの決着の時でした。
「……黒騎士ロイよ、貴公のマナ残量はどれほどか?」
「この俺がそんな情報を敵にそれを教える馬鹿だと思うか?」
「そうか。私のマナ残量は既に一割をとうに切っている」
「本物の馬鹿だな、貴様は」
「さらに貴公を呆れさせてやろう。今から私が帰還するのに必要なマナは、残量の半分といったところだ」
「なるほど、貴様を適当に小突いていれば帰れなくなり、虜にできるというわけか」
「そして、貴公も似たような状態と察するが、どうか?」
ロイが沈黙をしました。
それはとても如実な沈黙でした。
アルベールが完全兜の中でロイに笑いかけました。
「貴公は分かりやすい男だな」
「黙れ。貴様の馬鹿さ加減にあきれていただけだ」
「一合だ」
アルベールが馬首を返して、ロイと正対しました。
そして剣へ、清廉なマナを纏わせます。
柄を握った拳を胸元に引き寄せて。
切っ先は天を指します。
ずたぼろの鎧だというのに、なんと堂々たる騎士の構えでしょうか!
「この一合をして、決着としようではないか」
「……よかろう」
ロイもまた、剣を抜き放ち紅の光を纏わせました。
静かな朝の森で、二騎が対峙します。
お互いを高め、馬との呼吸を合わせて。
そして太陽が地平線から離れてその姿を全て現した瞬間。
咆哮と共に二騎が全身全霊で駆け出しました。
マナジェットによる飛翔するが如き推進!
蒼と紅の流星が衝突するような迫力で、二騎が剣を振り下ろしました!
ガギーン!
世界が砕けたかと思うほどの音が響き渡りました!
あまりの威力に、二騎の剣がお互いに砕けてしまいました!
すれ違う二騎に、粉々に砕けた鉄の欠片が星屑のように降り注ぎます!
その結果に、ロイが大笑いしながら森を走り抜けて行ってしまいます。
「天晴だ、アルベールよ! 騎士の象徴たる剣を砕き合ったのだ。今日の決着は、勝負無し! だが覚えておけ、次こそは貴様を魔道に堕とすとな! また相まみえようぞ!」
アルベールは愛馬を止めて、馬首を返しては苦笑してその背を見送ります。
「黒騎士ロイか」
騎士として、その悪行を許すことはできません。
しかし戦士として、どうにもロイを惜しんでいるのを自覚します。
アルベールはその二律背反に、十字を切って神に祈ります。
この違えた道が、どうか上手く決着しますように、と。
「さて、では盗賊を一網打尽としよう」
そうしてアルベールは愛馬を撫でて、転がっている盗賊たちを連行する段取りを考えるのでした。