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神聖騎セフィロマキナ  作者: ローリング蕎麦ット
第一話 アルベールvs黒い騎士
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アルベールvs黒騎士 前編






 昔むかし、あるところにアルベールという騎士がおりました。


 アルベールは強く優しくたくましい、騎士のお手本のような男でした。


 ある日の午前。


 アルベールは王様に呼び出され、王宮へと馬を走らせました。


 青いマントをたなびかせ、颯爽と謁見の間にやってきてはアルベールが王様の前にひざまずきました。


「陛下、アルベール参上いたしました!」


「アルベールよ、よくぞやってきてくれた。そなたを呼んだのは他でもない、ここ最近この国を荒らしている悪党がいる。騎士の鎧を継ぎ接ぎにした無法者なのだ」


「なんと陛下! 我ら騎士の鎧を継ぎ接ぎに?」


「うむ、そなたたちの騎士鎧は装着した者を超人と化す強力な兵装である。それゆえに、父と子と聖霊の御名において厳格に管理運用をせねばならぬ。しかしあろうことか、無念にも倒れた騎士たちの鎧をはぎ取り、使える部分を継ぎ接ぎして機動しては破壊と略奪を繰り返す不埒な者がいるようなのだ!」


「なんたる不遜! 騎士の象徴たる鎧をそのように冒涜し、悪行迄成すとは許しがたい所業!」


「それだけではないぞ。どうやら継ぎ接ぎ騎士は、我が国の騎士をも打破しているようなのだ」


「なんですと! 不完全な継ぎ接ぎの鎧で、我ら完全な鎧を纏う騎士を打破するとは、いかなる不思議でありましょうか!」


「うむ、故にアルベールよ。そなたは至急、継ぎ接ぎ騎士について調査をして、これを無力化するのだ!」


「陛下、よくぞ任せてくださいました! このアルベール、かつてない義憤で王命を賜らせていただく! 必ずや継ぎ接ぎ騎士の狼藉を治めてみせましょう!」


「うむ、頼んだぞ、アルベールよ!」


 アルベールは威風堂々、勇気に満ち溢れた声で王様へと一礼します。


 他の騎士たちも、アルベールならば安心だという顔で彼を送り出しました。


 こうしてアルベールは一部の隙も無い完全な騎士鎧で武装をして、愛馬に乗って旅立ちました。


 蒼を基調として、白で彩られた空のように爽やかな騎士の鎧はたいそう立派で、見送る誰もが感嘆の溜息を洩らします。


 愛馬トニトゥルスは美しい白毛で、ひときわ立派な体躯の見事な馬でした。


 蒼穹の騎士がまたがるとなんと雄壮で優美なことでしょう!


 こうしてアルベールは継ぎ接ぎ騎士の行方を追いかけて始めました。


 しかし継ぎ接ぎ騎士の足取りは掴みづらいものでした。


 今日は国の西に現れて教会を荒らしたたかと思うと。


 昨日は国の東に現れて牧場を襲ったり。


 一昨日は国の北に現れて商人を強盗したり。


「ううむ、この継ぎ接ぎ騎士、どれほど勤勉なのだ」


 あまりにも目撃情報の位置と移動の速度が不可解なため、アルベールはもっと詳細な情報を集めました。


 アルベールは地図を広げて、厳しい顔つきで次に狙われそうな場所を考えました。


 まだ継ぎ接ぎ騎士が現れておらず、襲って実入りの良さそうな場所です。


 アルベールは熟考の末に、国の南が襲われる可能性が高いと確信をしました!


 そして良く富んでいる、略奪されそうな村をいくつかピックアップして出発しました。


 野を越え山を越えて、目的にした村のいくつかに近づいたところでアルベールは大きな音を耳にします。


 それはまるで戦争の音でした。


 しかし規模はまったく戦争の大きさに及びません。


 近くの丘に馬を走らせて周囲を見渡すと、丘のふもとで集団と集団のぶつかり合いをしているではありませんか!


 方やみんながきちんと槍を持って隊列も整然としており、方や武器もばらばらの烏合の衆でした。


 きちんとしている方は三十人。


 烏合の衆は十五人に満たない数です。


 どうも烏合の衆の方は、野盗の群れのようでした。


「ゆけ! 取り囲め!」


 きちんとしている集団の先頭には、馬に乗って指揮をしている大柄で精悍な若者がいました。


 率先して槍でびしばしと野盗たちを叩き伏せています。


 素人ではあるけれどなかなか良い指揮、良い槍腕だとアルベールは丘の上から感心して見下ろしていました。


 どうやらどこかの村の自警団のようです。


 村を襲おうとしていた野盗たちを、村人たちが撃退しているところなのでしょう。


 たちまち烏合の衆は整然とした隊列に取り囲まれて、次々と突き倒されていきます。


 もはや勝敗は明らかです。


 野盗たちも次々と降参をしているではありませんか。


 しかしなんということでしょう!


 突然、野盗のひとりが剣を無茶苦茶に振り回して暴れ、しゃにむに包囲を突破してしまったではありませんか!


 その先には違う方向を見ており、咄嗟に反応ができないでいる指揮者の若者がいるではありませんか!


「いかん!」


 丘の上のアルベールが、急いで剣を引き抜いて、気合と共に振り下ろしました。


 するとどうでしょう!


 蒼いマナが鋭く撃ち出されて、剣の軌跡をなぞった斬撃が野盗の凶刃を弾き飛ばしてしまいました!


 一拍遅れて、驚き顔の指揮者が突っ込んできた野盗を叩き伏せます。


 そして丘の上のアルベールを見上げました。


 アルベールはゆっくりと頷き、丘を下りてゆきます。


 指揮者と声が通じ合う距離になった頃には、野盗を完全に鎮圧していました。


「騎士様、助かりました」


 若者が馬から下りてアルベールに礼をします。


 アルベールもまた馬から下りて完全兜を脱いで微笑みかけました。


「私の名はアルベール。フランクの騎士である。どこかの村の自警団とお見受けする。見事な戦いぶりに感心していた」


「へ、へへ! 騎士様に褒められるなんて!」


 若者が飛び跳ねんばかりに赤面して、どきどきした様子で顔を緩めました。


 それからしゃきんと背筋を伸ばして、


「俺はバンっていいます。俺たちはこの先にあるウィリデの村の自警団なんです。こうして何度も、野党の類を追い返してるんですよ!」


 たいしたものでしょうと、胸を張るバンにアルベールはにっこりと頷きます。


「それは感心だ。しかし騎士の取り締まりが行き届いていない証左でもあるか。まったく心苦しいものだ」


「そんな風におっしゃらないでください!? そもそも悪いのは平穏を乱す野盗どもではありませぬか!」


 若者の言葉に、アルベールはたいへんに好感を覚えました。


「バンよ、ウィリデの村と言ったな。私はその村にも用があってやってきたのだ。というのも、この近隣には富んだ村が多く、ウィリデの村も豊かである。故に昨今この国を乱す強力な無法者がやってくるのではないかと私は睨んでいるのだ」


「強力な無法者? この野盗どものことでしょうか?」


「もっと凶悪な悪党である。その無法者というのは、倒れた騎士の鎧を拾い集め、使える部分を継ぎ接ぎにして悪行を重ねているという輩なのだ」


「騎士様の鎧を!?」


 バンが目を見開き、ごくりと喉を鳴らします。


「アルベール様、是非とも村にお越しください。俺はこの野盗どもを領主様に引き渡しますので、案内に人を出しましょう」


「いや、私もまずはこちらの領主殿に挨拶に向かおう。それに道行、もっと少し君と話をしていたいな」


「俺もです!」


 こうしてアルベールは、ウィリデの村の自警団と共に領主様のお城へと馬を進めました。


 道行、アルベールはバンの槍の技について話を聞きました。


 なんでも遍歴の騎士に教わり、以来鍛えているのだといいます。


 今では村どころか、領内でもたいへんな腕前をだと評判なのだと自警団の者たちも囃し立てました。


 他にもバンと兵法の話をしたり、野盗の被害について熱心に話しました。


 バンの視野はまだまだ狭く、経験も浅くはありましたが、時折アルベールもはっとさせられる鋭いものを含んでいました。


 そしてバンはアルベールの奥深い見識に何度も感動を覚えました。


 領主様のお城に辿り着く頃にはすっかり意気投合して、ふたりはお互いに尊敬の念を覚えていました。


「おお、バンよ。またも野盗の群れを退治したとは、あっぱれである!」


 お城に訪れると、領主様が直々に出迎えてバンの両手を握りました。


「後の処理は任せるがよい。さぁ、今宵はたっぷりと美味いものを食い、英気を養うがよい!」


 領主様の部下たちが野盗たちを引き取れば、もうすっかり夜も更けた時刻になっていました。


 お城の広場が解放されて、自警団の者たちには豪勢な料理やお酒が振舞われます。


「へへ、野盗を退治した後はこれが楽しみなんですよ」


 バンがとてもいい笑顔でお肉をほおばります。


「バンよ、いつもすまぬな。おぬしはまことにこの領の宝である」


 やがて宴席に領主様がやってきて、バンを労いました。


「領主殿」


 そこへ、アルベールが領主様に話かけます。


「領主殿。私はアルベール。フランクの騎士でござる」


「アルベールですと? 王宮の騎士ではござらぬか!」


「まさしく。このたび国を乱す継ぎ接ぎ騎士を誅伐するためやって参りました。継ぎ接ぎ騎士の出没情報を精査するに、次はこの付近に現れるのではないかと睨んでいるのです」


「継ぎ接ぎ騎士!」


 領主様が飛び上がらんばかりに声を荒げました。


「アルベール殿、まさにその継ぎ接ぎ騎士が昨日、この近隣に出没しましたぞ!」


「なんですって!」


「残念ながら取り逃がしてしまい、しかも城の騎士も何人かやられてしまい……」


「むむむ!」


 やはり騎士がやられているとは!


 アルベールは眉間に深いしわを刻んで唸りました。


「継ぎ接ぎ騎士と戦うため、この近隣について詳しくお聞かせ願いたい」


「もちろんです、アルベール殿。地図なども用意いたしましょう! ああ、供になる者なども誰かつけましょうか」


「そうだ領主殿、誰か生き残っている者はいないのでしょうか? 可能ならば話を聞きたいのです」


「ひとりだけ生き延びた者がいます。しかし昏睡状態に陥っており……嗚呼! 今夜にも天に召されるかどうかといったありさまで」


「是非、診せていただきたい」


 アルベールに促され、領主様が城の一室へと案内しました。


 そこには片腕を失い、顔面に幾重もの切り傷をつけた死にかけの騎士がベッドで眠っていました。


 服の下にも悲惨な傷がたくさんもあるというありさま。


 肌の色は蒼白で、今にもその命の灯火が尽きてしまいそうではありませんか。


「これはいかん」


 アルベールは慎重に脈を計り、呼吸を確かめました。


「領主殿、私はこの騎士の治癒を試みましょう」


「なんと、助かるのですか!?」


「分りませぬ。しかし傷を見ればこの騎士がいかに勇敢に戦ったかがありありと伝わります。そんな男をこのまま見殺しにはできませぬ!」


 こうしてアルベールは天の神に祈りを捧げ、そして己のマナを死にかけの騎士に注ぎ始めました。


 それはアルベールの命を注ぎこむことに等しい行いです。


 しかし無作為に注ぎ込めばいいものではありません。


 死にかけの騎士の呼吸を読み、鼓動を読み、精密で繊細な注意が必要です。


 アルベールはたいへんな集中力で、一晩中つきっきりで死にかけの騎士にマナを注ぎ続けました。


 やがて夜が明けて、太陽が顔を出す頃。


「アルベール様、俺たちは一足先に村に戻ります」


 バンがおずおずと入室して、挨拶にやってきました。


 宴席の一晩を過ごして、そのまま城に泊まっていたのです。


 まだ仕事を続けているアルベールに、先に帰る後ろめたさを感じているようでした。


 そんなバンにアルベールがにっこりと微笑みます。


「私もこの騎士の治癒を終えたらすぐに向かおう。君は早く帰って、村の者たちを安心させてあげなさい」


「はい、アルベール様。村でお待ちしています」


「……ああ、そうだ、バン。待ちたまえ。これを持っていきなさい」


 アルベールがふと思いついたように、懐からロザリオを取り出してバンに手渡しました。


 手渡す寸前に両手でロザリオを包み込み、アルベールが祈りを捧げます。


 するとどうでしょう!


 ロザリオはアルベールの掌から滲む蒼いマナを吸い込んでしまいました。


「継ぎ接ぎ騎士は既に領に入り込んでいるという。このロザリオはお守りだ。もしも……もしも継ぎ接ぎ騎士に出会ってしまった時に、祈りを捧げながら槍を振るいなさい。君の槍を助けるだろう。狙いは兜だ。兜を弾き飛ばしなさい」


「は、はぁ。分かりました、アルベール様」


「君に神のご加護があらんことを」


 お互いに十字を切り、バンが部屋を出て行きました。


 それから太陽が天の一番高いところにさしかかる頃。


 アルベールの治癒を受け続けていた騎士が、弱々しいうめき声と共にうっすらと目を覚ましました。


「おお! 目を覚ましたか!」


「あなたは……?」


「私の名はアルベール。フランクの騎士である」


「アルベール……王宮騎士……の……?」


「王命を賜り、継ぎ接ぎ騎士を誅伐するためにこの領に参った。貴公は継ぎ接ぎ騎士と戦って生き延びたと聞いている、是非とも詳しい話を……」


 アルベールの言葉の途中、死にかけていた騎士ががばりと起き上がって肩を掴みんできたではありませんか!


 掴んでくる力は弱いものでしたが、その必死さはたいへんなものです!


「お、落ち着くのだ貴公! まずは体を休めて……」


「違う、違うのだアルベール殿! 継ぎ接ぎ騎士ではない……本当に恐ろしいのは……!」


 それからアルベールは、死にかけていた騎士から恐ろしい体験談を聞くのです!


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