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秘密シリーズ

化粧の下の秘密  ③

作者: あゆさん

秘密シリーズの第三になります。



第一、第二を見ていなくても分かりますが、同じ人が出ているので読んでいた方が楽しめるかなと思います。



ぜひ手術室のことを知ってもらえたらと思います。

手術室看護師は病棟看護師とは様々に違うところがある。

一つは患者対応。

手術室は患者が寝ている状態がほとんどだが、病棟では基本起きている。


次に医師対応。

医師は想像以上に忙しい。

手術や外来。患者の診察。様々なことをこなす必要がある。

病棟に医師がいることは患者が想像している以上に少ないのはそのためだ。

しかし、手術室は手術を進めるにあたってある程度の数の医師が必要になる。

そのため、病棟と異なり圧倒的に医師の数が多くなる。

だから、嫌でも医師対応を上手くこなさないと、大惨事につながることがある。


などなど多くのことが病棟と手術室では異なる。

その一つが看護師そのものだ。




真っ暗闇の中、スマホのスヌーズ音で目を覚ます。


はぁ・・・また1日が始まる。


日勤は8時30分からの勤務。

だから病院に8時30分につけばいいと言うわけではない。

私の病院は8時10分より前にナースステーションで仕事をしていたら師長から怒られる。

だから8時10分にナースステーションに着いて、今日担当する手術の患者の情報収集を行わなくてはいけない。

だから7時50分にロッカーについて、手術着に着替えなくてはいけない。

だから7時40分に病院について、自転車を置いてロッカーに向かわなくてはいけない。

だから7時15分に家を出なくてはいけない。

だから私は6時に起きて朝の支度を進める。

もう働き始めて11年。

他のことを考えながらでも体が勝手に動いて支度を進める。


現在朝6時12分。

家を出るまで1時間あるが、支度をする必要がある。

その一つに化粧がある。


手術室看護師と病棟看護師の違いの一つに化粧が濃さも上げられると思う。

働き始めて気づいたことの一つだ。

病棟看護師よりも手術室看護師は帽子を被り、マスクをつけ、圧倒的に出ていることが少ないのにも関わらずだ。

理由は私もわからない。

化粧をやめたら15分はゆっくり寝ることができる。

だがそれでも私はアイシャドウを塗り、マスカラを塗り、化粧を行い、仕事に向かう。




7時52分。

今日も遅れず病院のロッカーについて着替えていると、病院で1番綺麗と言われている女医の高杉先生が手術室のシャワー室から出てきた。


「おはようございます。先生当直明けですか?」

「おはよー。そうー。でも昨日は平和だったからねー。でももうこの年で当直をしたら肌が終わってるよね」

「確かに、私も夜勤明けは肌がボロボロですけど、先生いっつも綺麗ですし。今もピカピカですよー」


先生と話をしながら、でも朝の準備は遅れない。

先生と話をしていても、時間は有限。することは無限にある。

ナースステーションには8時10分には着きたい。

そんなことを考えながら高杉先生から声をかけられる。


「今日もちゃんと手術室看護師らしく綺麗に化粧してるし。肌も綺麗し。流石だよー」


「・・・え?綺麗に化粧って手術室看護師らしいですか?あー医師と顔を合わせる頻度が高いからとかですか?」


高杉先生から意外なことを言われた私はその時、準備のために一度止まらなかった手を止めて高杉先生の方を見る。


「いやいや。違うよー。そんなの言い出したら病棟看護師も外来看護師もしないといけないし。それこそ田代先生を見てみなよ」

「確かにそうですね。じゃあなんでですか?」

「私が若い時・・・研修医時代ね。その時に、手術室で主任をしていた看護師さんが言ってたんだけどね。手術室では患者さんが手術室にぱって入ってきてすぐに手術ってなるから、信頼関係もクソもないでしょ?」

「確かに。後輩には患者さんと信頼関係を構築ーとかかっこいいこと言ってますけど、あって5分10分の人と信頼関係作れるかって話ですもんね。そんなんで作れたら、離婚も不倫も無くなりますよねー」

「そうそう。でね。だからこそ患者が一瞬で信頼できる!って思うことが大切なんだって。そのためには、自信があるように見えることが大切になるんだってー」

「あー。だから化粧と。確かに自分に自信がある人で化粧薄い人よりも濃い人の方が多いですもんね。」

「そう。アイラインとかはっきりとね」

「それで手術室には濃い化粧の看護師が多いんですね。これは昔からってことで・・・。歴史なんですねー。でも今となってはそんな理由からの歴史というよりも、ただただ薄化粧にできなくなった結果どんどん化粧が濃くなってるってのもありそうですけどね」

「化粧ってねー。一旦濃くなり始めると引くに引けなくなっていくもんねー。恋愛と一緒よねー。引くに引けるうちにね」

「え?」


高杉先生の顔を見る。


「化粧の話。濃くなる前に止めないと、肌にも悪くなるし。手術室でも化粧の薄い看護師も多くなってるし。って話」

「先生!うるさいですよ!!私の化粧濃いですかー?」


私は心はバクバクしているが、それを悟られないように高杉先生と無駄話を続ける。


「では、先生お先ですー。当直お疲れ様でしたー」

「お疲れ様ー」


朝の準備が終わり、まだ洗面所の前で髪を乾かしている高杉先生を置いて私はロッカーを出ていく。



「おはようございますー」


ナースステーションにつき、夜勤明けの大山に声をかける。


「あれ?今日いつもより少し遅いですね。寝坊ですか?」


ナースステーションの時計を見ると、8時17分。


朝の7分の遅れは大きい。

私は大山と軽口をたたきながら仕事をどんどん進めていく。


いつもより時間がない。その焦りを化粧の下に隠しながら。

そして、高杉先生からの何気ない一言に、その焦りを化粧の下に隠しながら、手術室看護師は仕事を進めていくのだ。

安心してください。

こんな手術室看護師はなかなか滅多にいません。

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