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神獣の愛子



 シュラウド様に促されるままに、私はフレデリク様、そしてロクト様やヴィヴィアナ様と共に大広間の中央を真っ直ぐに進んで、玉座のある壇上へと向かった。

 玉座の前に、フレデリク様とシュラウド様に挟まれて私は立った。

 皆の視線が、私たちに注がれている。


 この場所からは大広間の全体を見渡すことができる。

 お父様、エドアルド・オルステットの姿も、妹のシェイリスの姿も、見当たらない。


「皆、聞け。大切な話がある」


 フレデリク様のよく通る声が、大広間に響いた。


「ここにいるアミティ・ハイルロジアは──神獣コルトアトルの愛子である」


 神獣の、愛子──?

 私は驚いて、目を見開いた。

 フレデリク様は一体何をおっしゃっているのだろう。

 疑問が頭の中に溢れたけれど、皆の前で高々とフレデリク様にそう宣言されてしまえば、何も言うことができない。


「皆も知っていろだろう。その者は、聖峰で神獣を守っている聖獣たちの声を聞き、荒ぶる聖獣たちを従えて、神獣コルトアトルの元へと我らを導く。王国に神獣の愛子が現れるとき、我らに平和と安寧が齎されるだろう」


 大広間にいる貴族の方々が騒めく。

 うまく状況が飲み込めないまま、私は両手を握り締めた。

 シュラウド様はロクト様と、何度か話し合いをしていた。

 私はてっきり、私のお父様のことについて話していると思っていたのだけれど、私のことだったのだろうか。

 今日この日に、フレデリク様が皆に私を──神獣の愛子だと告げることを、知っていたのだろうか。


「聖峰のあるハイルロジアの古い言い伝えにも、同じ伝承がある。その者は、幸運の白い妖精と呼ばれる。神獣の元に我らを導く存在である。美しい白い肌に、白い髪、金の目を持つアミティは、アウルムフェアリーそのものだ」


 シュラウド様が、フレデリク様に続けて言う。

 低い声が、朗々と大広間に響いた。


「アミティ・ハイルロジアは、聖獣の声を聞くという。皆にみせてあげなさい」


 ロクト様に言われて、シュラウド様は「オルテア」と呼んだ。

 私たちの前に、まるで元からそこにいたかのように、オルテアさんが現れる。

 虎と兎を混ぜたような愛らしい顔立ちだけれど、どの動物にも似ていないし、とても、大きい。

 突然現れたオルテアさんの姿に、貴族の女性たちから悲鳴があがった。

 どよめきが、満ちる。


「これは、聖峰より来たりし、聖獣オルテアである。人を見れば襲うと言われている聖獣だが、アミティと言葉を交わすことができる。アミティ、オルテアはなんと言っている?」


「オルテアさん……」


 先ほどまでのシュラウド様とは、まるで別人みたいだ。

 シュラウド様は有無を言わさないような雰囲気で、私を見据えている。

 けれど、私の背中に置かれた手は優しく、温かい。

 これは──必要なことなのかもしれない。

 私にはわからないことばかりだけれど、私は、シュラウド様を信じている。

 何があっても、あなたを愛していると、私はシュラウド様に告げたのだから。


『とんだ茶番だ。しかし、我の言葉をそのまま伝えるのはやめろ。アミティ、お前からはどこか懐かしい気配がする。だが、まだ何かが足りないのだ』


 私はオルテアさんのふわふわした毛並みに手を置いて、小さく頷いた。


『しかし、我は、お前を気に入っている、アミティ。我の声を聞くことができるお前はきっと、特別なのだろう』


「……オルテアさんは、私を特別だと、言ってくれています」


「聞いたか、皆! 神獣コルトアトルの愛し子が我が国に現れたのだ! 喜べ、今日は、奇跡の日だ!」


 フレデリク様の声と共に、拍手が湧き上がる。

 私はびくりと震えると、オルテアさんのふわふわした毛を、ぎゅっと掴んだ。

 オルテアさんが気遣うような視線を私に向けている。


 私は、ただオルテアさんとお話ができるだけだ。

 何かを成したわけでもないし、誰かの役に立ったわけでもない。

 それなのに、歓声と拍手に包まれるのは、何かが違うような気がする。


「お前たちは騙されている!」


 大きな声が、歓声と拍手を打ち消した。

 ばたばたと、大きな音と共に入り口から大勢の人たちが雪崩れ込んでくる。

 剣のぶつかり合う音や、怒声が、お城の入り口から響いている。

 声を上げたのは、大勢の黒い服を着た、警備兵とは違う兵士たちと共にゆっくりと大広間に入ってきた、エドアルドお父様だった。

 お父様は、美しいドレスを着たシェイリスを連れている。

 シェイリスは得意気に、肩にかけていた輝くショールを取り払った。

 ドレスからのぞくその右胸の上には、四枚の翼のある蛇に似た動物の紋様が描かれていた。



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