王都での支度
ヴィスパルで数日滞在して、それから王都へと向かった。
シュラウド様は相変わらず落ち着いていて、襲撃を受けそうになったあとだけれど、動揺した様子もなかった。
馬車での旅路はそれからは特に危険なこともなく、順調に王都へと到着した。
先に王都のハイルロジア邸に向かって準備をしてくれていたジャニスさんや侍女の方々が、私たちを迎え入れてくれた。
ジャニスさんたちの旅路は特に問題はなかったらしい。
護衛もつけていたし、寄り道も最小限で、目立たないように移動したのだと、シュラウド様が教えてくださった。
王都の邸宅で数日ゆったりと過ごして、準備をして馬車に乗って建国の式典へと向かう。
お城で行われる式典は、夕方から夜半過ぎまで行われる。
黒薔薇の眼帯に黒いマント、金の鎖がアクセントに使われていて、体格が良くて背の高いシュラウド様に、仕立て屋のコニーさんが作ってくれた衣服は、とてもよく似合っている。
長い髪を一つにまとめてすっきり縛ってあって、強い光を湛えた赤い瞳や意志の強そうな眉、余計なものを削ぎ落としたような頬がよりはっきり見ることができる。
「シュラウド様、今日も、とても素敵です。本当に、素敵。私の黒薔薇の騎士様……」
「ありがとう。アミティも、とても美しい。君の白い肌に、赤のドレスはよく映える」
私は本日何度目かの、感嘆のため息をついた。
シュラウド様も私の姿を褒めてくださる。
私は体のラインに沿って布が広がっている赤いドレスで、胸からスカートにかけて黒薔薇の飾りがあしらわれている。
シュラウド様とお揃いにして欲しいとコニーさんにお願いをして、作っていただいたドレスだ。
首にはシュラウド様に買っていただいた、夜光羊の首飾り。頭には、金の鳥を模した髪飾りをつけている。
「……何事も、おこらなければ良いが」
「シュラウド様?」
「いや、何でもない。何が起こっても、俺のそばから離れるな、アミティ」
「はい。離れません」
建国の式典には、お父様もくるのだろう。
不安はあるけれど、きっと大丈夫。
私のそばにはシュラウド様がいる。恐れることは、何もない。
それに、国王陛下がいらっしゃる前で、お父様が何か目立つようなことをするとは思えない。
きっと、大丈夫。
私はシュラウド様の手に、自分の手を重ねた。
「シュラウド様、私、何を言われても大丈夫です。シュラウド様がどのような目で見られても、私は、シュラウド様を愛しています。私は、シュラウド様が優しいこと、男らしくて快活で、素敵な方だと、知っていますから」
「あぁ、ありがとう、アミティ。とても心強いよ。俺に向けられる視線は心地よいものばかりではないからな」
「シュラウド様も、私のそばを離れないでくださいね」
「頼りにしている」
私が蔑まれて、傷ついたように。
シュラウド様だって、ひどいことを言われたら、怯えた視線を向けられたら、きっと傷つくはずだ。
貴族の方々はシュラウド様のことを、死神といって恐れている。
私はそれが素敵な呼び名だと思うけれど、貴族の方々の言う死神は、良い意味ではないのだろう。
シュラウド様は強いけれど、傷つかない人なんて、いないと思うから。
「はい! 私、シュラウド様のことが大好きです。何があっても、何を言われても、何が起こっても」
シュラウド様は私の手を引くと、手の甲に口付けてくれる。
それから、口元に笑みを浮かべた。
「アミティ、俺も君を愛している。……式典から帰るまでは、君を抱きしめられないのは辛いな。ドレスや髪が崩れると、君と共にいるようになってから、何度侍女たちに叱られたか。流石に、俺も学んだ」
「私は崩れても気にしません。ドレスよりもシュラウド様に抱きしめていただくことの方が、私にとっては大切です」
「それでは」
「でも、駄目です。今日は、駄目です、シュラウド様。せっかく美しい黒薔薇の騎士様の姿をしているのに、シュラウド様の衣服が乱れるのは勿体無いですから」
「俺のことなど気にしなくて良いのだがな」
シュラウド様は困ったように微笑んだ。
夕暮れ空の下に、いくつかの尖塔を連ねたようなお城が聳えている。
一番高い塔の上に、翼のある人の彫刻が飾られている。
風に靡く側には、翼のある獅子の紋章。
皆、建国の式典に向かっているのだろう。お城には、私たちの乗る馬車以外にも、続々と馬車が到着していた。
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