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【修正版】Fランクギルドと馬鹿にされていますが、違います。そのギルドには最強がいますよ。〜日々暗躍する6人のギルドメンバーをまとめるのは食えない至宝でした〜

作者: 犬三郎

 ギルドメンバー File.1


 リアン・アルーコ




「た。たすけ、助けてくれ! 誰か、だれかあああァァァ!」

 ダンジョン、5階層。岩窟と言うのかはたまた蟻の巣と言うべきか。四方八方に穴が開き、広ければ8メートルの横幅。狭ければ2メートルの横幅。5階層から10階層まで続く広大で、迷走するであろう場所。そこに似つかわしくないモンスター、マンティス。螳螂のような見た目だが、体長は2メートル、前足2本の鎌はダンジョン壁を豆腐のように切り裂く。真っ黒な体と、青い目。光源を失えば見えなくなるような色。そう、今のように。

「くるなっ! 来るんじゃねぇっ! くそっ、聞いてねぇぞ! あんなモンスターがいるなんて!」

 5階層〜10階層には所々に、光る苔が生えている。眩しくもなく、温かみを感じられる光源。20センチの苔でも7メートル程の範囲を照らし、5階層〜10階層では目が暗転することはないが、それにも例外がある。光る苔はモンスター達の食料であり、所々暗い場所がある。モンスターが食べても一定時間経てばまた生えてくるが、 どうやらこの階層では飽食出来ないマンティスがいるらしい。

 耳が生えた犬耳族の男性が瞠目する。道を曲がった先、そこは真っ暗で後ろにはガサガサとモンスターの音。青ざめ振り向くと、6メートル弱のマンティスが立っていた。呆気に取られた冒険者は、双眸を歪めてギリギリの所でマンティスの脚の鎌を避けた。

 背後から爆発音。マンティスの攻撃が、背後の壁までも壊したと確信した。後は血眼になりながら暗闇へ遁走し、現在にいたる。彼の『ステージ』の桁では暗闇にまだ目が慣れることはない。


『ギビィ!!』


 背後から、振り下ろされる鎌。音もなく接近したマンティス。間違いなく緊急事態(イレギュラー)な状況。男は死ぬはずだった。

「男が、ギャーギャーと泣きべそをかくな」

 カンッと火花が散る。火花が冷えて、光を失う時、胸がざわつくような誘惑ある腰つきが瞬きと一緒に男性の瞳に映る。まるで女は暗闇の中でマンティスが見えてるかのように、大剣を振るう。無闇矢鱈ではない。その大剣はマンティスの体を真っ二つにする。モンスターの心臓、魔石が砕かれ黒色の灰となる。灰は舞うことも無く地面に落ちる。

「た、助かったぁ……」

 音だけでも自分が助かったと安堵する男は、慌てて腰を上げて明かりがある場所へ歩むが、もうそこには人の気配はなかった。



「いきなり依頼が入るなんてな。マスターも人使いがあらいっつーの」

 たわわな双丘の胸が顕になっている、赤色のビキニアーマー、腕と脚には銀色の防具、腰にはスカート型の防具を装着している。冒険者とは思えない軽装備だが、”水”から出てくる彼女の背中には170センチ弱の黒色の大剣が担がれていた。青色の乱雑に纏めた髪と、燃えるような炎色の瞳。

 ダンジョンの出口からは昼間でも沢山の人が出てきている。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、亜人、憂い顔や厚顔やしたり顔。どんな成果を持ち帰ってたか表情を一瞥するだけで酒の肴になると、谷間から度数が高いお酒が入ったスキットルの蓋を開け、グビっと傾ける。

「くは〜! 一仕事終わったあとの酒はうめぇーな」

 水から出て、彼女は空を見上げる。ここは深いクレーターの底に湖が出来たような不可思議な構造。岩壁には螺旋状の坂が出来上がり、数々のお店が連なっている。武器屋、冒険者ギルド、治療所など。ダンジョンで疲れた冒険者が無料で使用できるシャワーや、娯楽スペースもある。彼女はお酒の旨みに頬を吊り上げながら、石畳の坂を上った頂上に辿り着くゼイウスの街並みが広がる。ダンジョンを中心に出来上がった迷宮都市、ゼイウス。彼女の小麦色の肌と露出はアマゾネスという種族を思い浮かべる。下劣な冒険者が彼女の肌と胸と偶に現れる股下を凝視し通り過ぎる。彼女は慣れた目と感じる。

「リアン」

「お? ルイ? ひっさしぶりだなぁ! 何週間ダンジョン潜ってんだよ? 到達階層は増やした……って顔ではないな」

 豪傑な笑顔から一点、ダンジョンの穴の縁。綺麗な花や木や水が流れている広場で、酒仲間に会い、怪訝そうな表情になる。

 リアンはとりま座って話すかと、広場の椅子に座る。

「酷い顔だ。どれくらい眠てぇねぇんだ?」

「3日ぐらいだ」

 ヒューマンの彼はステージ5の第2級冒険者。ステージとは人物の力を表す一種の表記。ダンジョンでは強力なモンスターを倒すほど、経験値得て、それぞれのステージが上がっていく。ステージ3から一端の冒険者といわれ、ステージ7になれば第1級と呼ばれ、名が世界に知れ渡たるほどの力ある冒険者だ。

「単刀直入にいう、何があった?」

「……闇ギルドに襲われた。仲間がゼイウスのどこかで助けを待ってるんだ。だけど……」

「誰にも言うな……か」

「ああ。どうしたらいいか分からなくて。その時、リアンがいて……」

 銀髪のウルフヘアが風で靡き、金色の双眸を歪める。凶暴そうな相貌だが、大人しめな彼は頭を抱え、今まで悩みを解き放たれたなかった苦しさから解放される。

「ルイのギルドは相当な実力なのに、相手は?」

「……ユラだ」

「ユラ……【滅殺の魔女】かぁ。そりゃあ運が悪かったな」

 リアンは口を開けて哄笑する。そして、胸からスキットルを出して、これでも飲めってと酒を勧める。ルイは大のお酒好きで、この悩みを打ち消したいとありがとうとスキットルをあおった。

「リアンに打ち明けても意味がないって知ってるけど……君の笑顔を見たら心が軽くなったよ」

「そうだろ、そうだろ? 今は酒で忘れろ」

 ルイの背中を豪快に叩き、眦に涙を貯めるルイはこくっと顔をリアンの胸に埋める。

「寝てな。起きたら全部終わってるから」

 リアンはそっとルイをベンチに寝か、ベンチから立ち上がる。

「まずはユラが何処にいるかだよなぁ〜。まっユラの仲間に聞くのが1番いいだろ」

 リアンは身を翻し、何かを掴む。それはルイに狙撃された長弓の矢。リアンはひひひと不敵に笑い、狙撃されたポイント、鐘が備わる時計台の上。リアンはスキットルのお酒を飲み、体全体を使って投擲する。

「ふっ!」

 猛速の矢は時計台の手すりにいた狙撃手の肩を抉る。確かな手応いを感じたリアンは、酒に酔いつつ時計台へ向かった。



「おーい、目ー覚ませ。痛いのはわかるけどよぉ〜」

 肩に矢が刺さり、壁へ矢の半分以上がめり込み抜け出せなくなった女性の頬をペチペチと叩く。あまりの痛さに気絶していた、黒髪のショートカットの女性が朧気に意識を覚ます。

「だ、誰……お前!」

「おーおー、そんな人を殺しそうな顔すんな。リアンちょー怖くなっちゃった」

「くっ! 私を馬鹿にするな! 早くこの紐を外せ!」

「やなこった」

 口角を上げて、リアンは女性の髪の毛を掴む。瞳と瞳がくっつくように女性の顔を凝視し、リアンはぶふっと笑う。

「ステージ5かよ。闇ギルドは相当力付けてるな」

「っ!? なぜ、私のステージが分かる!? 貴様のような愚者が!?」

「まあまあ、そんなこといいからよ。酒でも飲んで、愉快になろうぜ?」

 リアンは彼女の髪の毛引っ張り、顔を仰がせ、スキットルの酒を流し込む。

「ぶっは!? ……さ……け? 貴様! 何をしている!?」

「うるせぇーよー。っでユラはどこだ?」

「……誰がユラ様の場所——!」

 彼女の後頭部を石壁に打ち付けて、リアンは目尻を上げる。人を痛めることに躊躇しないリアン。

「ひひひひ、再度聞くぞ? ユラはどこだ?」

 人を殺す、喋らなきゃダメだと彼女の中で脅迫観念が生まれ、女性は呂律が回らない中で言葉を喋る。

「B-1043にい……る」

「よくいった。ありがとな」

 リアンは髪の毛から手を離し、頻りに手を拭う。踵を返して、リアンは大剣の柄を握る。スキットルのお酒を飲み込み、大剣を一閃。

 女性の首がころんと、床に転がった。



「ふむ、いい酒だ。まるで妾に似合うような、香しい匂い」

 桃色に怪しげに光る部屋。長椅子に座り生脚を出す、シスター服を着る漆黒色の腰まである長髪の女性。瞳は血の色のようにどす黒い、色をしている。つり目なその瞳と高い鼻。人目見たら脳裏にこびりつく美麗な顔立ち。

 30メートルほどあるこの部屋には、7人のパンイチの逞しい男共がユラを囲む。ユラの周りはむせ返るほどの甘い匂いが漂っている。男共の1人がユラに「きなさい」と誘われ、ユラの隣に座る。生脚を絡ませあれやこれやと男は息を荒くする。

「ふふふ、可愛いのう」

 ユラはくすぐったようにはにかんだ。

「———?」

 ユラはその足を止めて、上空を仰ぐ。どしんどしんと、振動で埃が落下してくる。顔を傾げるユラ、そして貫かれる天井。部屋のど真ん中に瓦礫と一緒に着地するのは、緑色の装束と狐の仮面を被った人物。ユラは唇を曲げて、薄笑いを浮かべる。

「敵襲とは久しぶりじゃのう。妾を誰か分かっているのか、貴様は」

「ひひひ、知ってるよ。滅殺の……うんこ。違う違う。おばちゃんのコロッケ……うん? 昔ながらの肉じゃがか。……いや、違うな。醜悪なブス……?」

「……殺れ。今すぐあの女狐を殺れッッ!」

 軽装な男共、6人が堕ちた表情でリアンへ走る。リアンはスキットルのお酒を傾け、2口飲み込む。

 背中にかけていた漆黒の大剣を両手で掴み、姿勢を低くする。

「そやつらはステージ4以上の狂犬よ。貴様に倒せるものか」

「こうもステージ4越えが出てるくるのか。ヤミは寝てんのかよ」

 狐の仮面が揺れ、リアンは大剣を豪快に振る。6人の男共の距離は約8メートル。胴体を真っ二つにされた、男共6人。部屋の壁が切り裂かれ、土埃が舞う。リアンは余裕っしょと大剣の矛先を地面につける。瞠目するユラは慌てて立ち上がり、傍においてあったステッキを掴む。

「【滅びよ 滅びよ 彼方に逝く 滅びの賛歌】」

 慢心。闇ギルド、第9師団を纏める彼女の本来の立ち位置は本来後衛。魔法が主の立ち位置。前衛で事足りると侮った、ユラの腕が疾走したリアンによって無様に殺られる。

「【賛歌とは鼓舞する力 鼓舞する力は涙なにしには語れない】」

 止まらない。腕を切り落としたユラが砂のように散っていく。リアンはチッと舌打ちをして、周囲を見渡すが、ガクッと体が斜めに傾く。頭がガンガンと打ち付けるように鈍痛して、鼻がいかれそうだ。

「この匂い……毒か」

 この部屋に充満してた匂い。鼻が曲がりそうな匂いは毒だった。

「【涙の横には 賛歌の横には 滅びの横には 美女が必要だ そうだ魔女はどうだろう 醜悪な貴様に寄り添う 馨しい魔女は さあ 滅びの賛歌を】」

 リアンはスキットルを飲んで、魔法に耐える。

「【滅びの揺らめき(ペリア・ミオワッチ)】」

 一瞬の静寂。次にくる猛風。床が、壁が、天井が、照明がボロボロと砂になっていく。2秒経った後か、ダンジョン都市、ゼイウスの一部の地面が崩れた。

「妾を侮辱した報いだ。名も無き女狐が」

 ふふふっと地上の、民家の屋根上に避難したユラが口を隠しながら、お淑やかに笑う。いい男を失ったショックはデカいがまた探せばいいと身を翻し、目の前にいたのが女狐。

「よっ、激臭のババア」

 瞼が痙攣し、リアンはステッキを構える。

「何故、貴様が生きてる……? 生きられるはずがなかろう! 確実に手応えは感じたはず」

「落ち着けよ、おばさん。私の方が若いんだから。まー若げの覇気? みたいな」

 ユラは仮面越しでもリアンが笑っているのが分かる。ユラは魔法の詠唱に入ろうとするが、視界が真反対になる。

「魔法使いがこの距離で近接に勝つわけないだろ」

 頭がボトッと地に落ちる。ユラの体が糸が切れたように脱力し、死んでいく。

「もぉ〜わちゃしの人使いがあらいよ〜。急に呼び出すなんて」

「悪い悪い。流石に私も1人で突っ込む馬鹿じゃないからよ」

 よいしょっと、家の壁を登ってくる幼女。金髪のツインテールに黒装束ゴスロリと呼ばれ衣装をまとっている。

 外見は美形な幼女と名称してもいいぐらいだが、緑色の蛙のお面を被っている。

「しっかしよ〜、私の労働半端ないだろ。あと1人ぐらい仲間が欲しいな〜」

「なーにいってるの。ヤミとマリアなんてもっと大変なんだから。でも、そういう私も手が回ってないのよね〜」

 いちいち動きが可愛らしい、幼女はユラの武器とアイテム品を手に取る。

「じゃあ、わちゃしはこれを渡してくるわね。お疲れ様、リアン」

「こっちこそありがとな、助かったよ。ミラー」

 フワッと喧騒溢れる街へ、下りっていったミラーを見送り、ユラは頻りに手を払う。スキットルの中身を飲もうとしたら、酒がないもんで、

「行くか! 酒場に!」

 語気を強め、鼻歌交じりに路地裏へ下りた。



「知ってるか? あの岩盤が崩れた真相の話?」

 程よく汚く、男や女の冒険者が気持ちよく飲んだくれている酒場。いい酒、いい料理、そして安い。低級冒険者には人気ある酒場。広さ10メートルある酒場で、丸机を囲んで飲んでいる男2人が話し始める。

「ありゃあ、岩盤が緩かったってギルドは言ってるけどよ。魔力の残滓があったとさ」

「なに? じゃあ、抗争があったってか?」

「ああ。俺は闇ギルドの住処があったと睨んでるんだよ」

 ジョッキに入っているこの酒場特有のお酒、辛酒を意気揚々と喋る男は飲み込み、赤く火照った頬を弛ます。

「その相手が噂の仮面集団じゃねぇかって話だよ」

「仮面集団? あんなの御伽噺のようなものだろ?」

「ホントか? 噂によれば、1000人を超える人を抱えるとか、ステージ6以上がゴロゴロいるとか、はたまた3人の至宝と同等の人物がいるとか……な」

「あははははは! 夢見がちだろお前!」

「……そりゃそうか! あははは!」

 男2人は良い噂の肴を元に、酒をガブガブと飲み出す。その時、カランカランと酒場の扉が開き、銀髪のウルフヘアの人物が入ってきた。

 ルイはカウンターで肉料理を肴に辛酒を飲んでいる、人物の隣に座る。

「やあ、リアン」

「お? ルイ! 元気そうだな! 解決したのか?」

「ああ。起きたら、仲間が戻ってきて。皆無傷だったよ。不思議だよ」

「あぁ? あの話、本当だったのか? ルイが寝ちまったから、嘘だと思ってさ」

 辛酒が入ったジョッキを飲みきり、店主、酒をと注文する。

「……だよな。もしかしたらリアンが助けてくれたと思ってさ」

「あん? 有り得ねぇだろ? 万年第3級冒険者の私だぞ? 酒が飲めればいいんだよ。それでその話、詳しく聞かせてくれよ。肴にしたいんだ。店主、こいつにも酒を」

 にひひっと微笑むリアンに、ルイはいいぞと笑う。


 このゼイウスには、ゼイウスを均衡に保たせる存在がいる。

 1人は冒険者を

 1人は情報を

 1人は闇ギルドを

 1人はゼイウスを

 1人は彼女を

 1人は信念を

 1人は人々を

 彼等を認識しているのはごく一部の人物。知己してる人物は彼らをこういう

平和の象徴(オリーブ)】と




【平和の象徴】 ギルドメンバー File.2


 ミラー・グランド



「は〜」

「お? ミラーちゃん、空なんて見てどうしたんだ?」

「うーん、恋ってやつかな」

「こ、恋!? おいおい、ミラーちゃんにも遂に春が来たのか!?」

 迷宮都市 ゼイウス。今日も今日とて、平和な日。ある所では花屋で恋を実らせている、花娘や、

「お父さん見てー! お父さんの似顔絵描いてみたー!」

「あははは、ミラーの絵は上手だが。……お父さんはまだフサフサだよ」

 ある家庭はのんびりと休日を過ごし、

「デュフフ。ミラーいいではないか、いいではないか」

「だーめ。もうちょっとお金がないと」

 ある遊楽では娼婦と金持ちを男が寝そべをする。ゼイウスには1000人弱のミラーという名前の少女や女性がいる。総人口20万人のゼイウスではちっぽけかもしれないが、その裏には本当のミラーがいる。

「どの情報が欲しいの?」

「……この3人の男がどこにいるか……教えて欲しい」

「300万ゼイウス……ってとこかしら」

「……し、知ってるのか!? こいつらを!?」

「知ってるわよ。3人とも何をしているか、どこに住んでいるのか、どんな人と暮らしているか。全部」

 ゼイウスの闇市。ある建物、その中の地下へ通ずる階段を下りると、そこは市場となっている。ある所では猛毒が、ある所では麻薬が、ある所では情報が蠢いている。

 その闇市でも一際人気を博している、情報屋がいる。情報館【ヒア二ティ】。認識阻害がされている薄い布切れ越しでも分かる、ボッキュボンの体格。紫の衣装、胸が強調され、リアンのガサツな色気ではない。大人の色気を醸し出す。部屋は紫の光が怪しげに光り、6畳ほどの部屋の天井や壁には目を疑うような絵が施されている。

「教えて欲しい。300万ゼイウスならここにある……頼む。頼む」

 懇願し、下げた頭をボリボリと掻く、茶髪短髪の男性。目は虚ろで、貧乏揺すりが激しい。服装は質素であるが、床に置いてある紙袋から大金がちらりと伺える。

「……いや。やっぱり気が変わった。お前の情報を対価に情報を教えてやる」

「お……れの? いいぞ、なんでもいい。あいつら3人の情報を教えてくれるなら俺は何でもくれてやる」

 男はくしゃくしゃに笑いながら、ミラーに今までにあったことを話す。祖父が冒険者で大成されていたが、モンスターの呪いによって、産まれてくる子供が病弱な家庭になった。彼も病弱だが、祖父が冒険者時代に稼いだお金を使って、高度な回復薬を使い一命を取り留めた。その後は事業が成功し、順風満帆な生活を送っていたが、彼の子供も呪いのせいで危篤な状態なった。男は大金を教会へ持ち運ぼうとした時、3人の男が現れた。街中でありながら、盗みを働き、護衛の第3級冒険者を殺害し、逃げ去った。

 お金を失った男は、お金を集める目処が経たずに、娘は死んで行った。母親は娘を失ったショックで自殺をしてしまった。

「それは悲しかったな。他にもいいことを聞けた。3人の男はこの場所だ。何をしようとも勝手だが、死ぬぞ?」

「あははは。いいんだよ。死んでも。俺が絶対、何としても……あの3人を殺す」

「ならばいい提案がある」

「いい……ていあん?」

「ああ。この要件を受け入れてくれならば、私が明朝、彼ら3人の首を持っていこう」

 男は一瞬、怪訝そうな顔を浮かべる。情報屋は仏頂面で、

「そのかわり私の知り合いをお前の秘書にして欲しい。事業の大半を教え、お前のビジネスパートナーになる人だ」

「……それ…………だけか?」

「ああ。怪しい、物申しだろうが。闇市1番の情報屋として書類も書こう」

 情報屋は腕を動かし、書類に器用に契約内容を書いていく。20秒後、男に情報屋は契約内容を出し、男にどうだろうか? と優美な声色で話す。

「……いい。やってくれ、やって欲しい」

「契約完了だ。では、今夜、お前の家へパートナーが首を持っていこう」

 男は片眉を上げて、感謝をしながら出ていった。

「さあ、次の方。入れ」




「ふんふふーん」

「およよ? ミラーちゃん、出勤?」

「うん! まーたいい顧客先手にいれちゃった。ゼイウスで7店も果物屋を経営している、大金持ち。これで美味しい果物食べ放題だよ」

「そりゃあ、いいネ! 僕も美味しい果物、待ち遠しいな。あぁ、アレやってよ。東の国の食べ物で、お餅って物に果物を包むの。誰だっけかな〜、東の国の出身の人貰ったんだけどちょー美味しいの」

 リビングのような空間で、ソファーに寝そべる、男性。黒髪をポニーテールにし、細身、2メートル弱の身長で、弓なりのような紫紺の瞳。黒色の作業着のような服装で、煎餅をボリボリと食べている。ゴスロリ姿のミラーは、頷き、黄金色の瞳を煌めて、金髪のツインテールを揺らし、行ってきまーすとリビングを出ていく。

「今日も今日とて皆、良く働いてるねぇ〜。ちょーいいネ!」



「あれ? ミラーちゃん、どうしたの? 夜空なんて見ちゃって?」

 閉店した花屋。この時期は百合の花が人気。明日からフェアーを開催するこの花屋で、百合の花をせっせっと店内へ運ぶ、花に似つかわしくない筋骨隆々。半袖の上にジャージのエプロンを着て、ミラーを心配する。

「店長はいつからこのお店を開いてるんですか?」

「……あー。6年前かな。冒険者から足を洗って、開いた店でね。2年前に経営難に陥ったけど、よく保ち続けてるよ。お得意様も出来て。今日のおばちゃんにここの花が一番綺麗って言われるとやっぱり嬉しいもんだよね」

 店主はそれで? とミラーに話を投げかける。ミラーは、金髪の長髪を靡かせながら振り向く。

「ある人から聞いたんですけど、2年前。ある有名な果物屋の社長からお金を奪う事件が発生しましたよね。あっ、そういえば経営難が解決したのもその時期ですね。その時の借金は150万ゼイウス……とかでしたか?」

「———ミラーちゃん、どうしてその話を?」

「3人の配分は3対1対6。店長は300万ゼイウスを貰ったとか? 不思議ですよね〜。怖いですよね」

 ニコリと邪気のある頬笑みを浮かべる。店長は全身の汗腺が開き、汗が流れる。ミラーはこつこつと靴底を鳴らし、店長へ近づき、店長はジリジリと後ろへ後退していく。

「知っていますか? 襲った男性のお金の使い道を?」

「……し、知ってるよ。あの金は闇ギルドへの支払い金だったんだろ? 俺は悪いことはしてない、あの金は人を不幸にするお金なんだ!」

 店長は語気を強め、机の上に置いてあった花鋏を掴む。内心、バクバクな彼の心は、彼の思考の正しい道を逸れていく。

「あら、知らないんですか? そのお金は娘を助けるためのお金だったんですよ?」

「——う、嘘をつけ! そんな出鱈目を俺は信じねぇ!」

 震える右手を左手で押え、あぁぁぁぁ! と上擦った叫び声で、ミラーの胸を刺す。

「俺は……俺は。ここで花屋を辞めるわけにはいかないんだ! 冒険者時代の……死んだ相棒の信念を継いでるんだよ!」

 頬が痙攣し、双眸の光をなくしていく店主。ミラーは店主の震える手を撫でるように触る。

「これは糾弾するまでもない。貴方は今もこれからも罪を犯していく。そんな人はこの世に要らない」

 ボトッとミラーの腕と足が黒の液体になって、崩れていく。床に散布した黒の水。店主はうわぁぁぁ!? と瞠目し、腰が崩れる。

「何が……何が起こったんだ」

「なーにが、起こったのかしらねぇ〜」

「だ、誰だ——!?」

「可愛いわちゃしよ」

 男の首が180度に反転させられ、グギィッと音が静寂な花屋で残響する。蛙の仮面を被った、ミラーがため息混じりに、首を引きちぎる。この人は道を間違えた。刺さなければ、罪を懺悔すれば、道に戻ればよかったのに。運命を間違えた。

「【産まれろ】」

 ブクブクブクと床に零れた黒の液体が集結し、またミラーが産まれる。

「君はこの店を継いで、生きてくれ。いいね?」

「はい、姉さん」




「ミラー……?」

「あ、お父さん」

「その手記を見たのかい?」

 書斎の灯りをつけた父親。青髪のオールバックにベージュのスーツを着こなせ、体が震えている。

 養子で引き取ったミラーと、使用人が跋扈する屋敷で誰も入れない場所。ミラーが居なくなったと喧騒に包まれた、屋敷で父親はまさかと書斎を訪れると、ミラーは父親の手記を拝見していた。

 そこには懺悔と過去の過ちがツラツラ書き綴っていたもの。

「お父さん……これって……」

 ミラーの瞳に写り返してくる、自分の姿は哀れだった。皮肉なものだと、父親はミラーへ歩み、腰を落とす。

「ミラー、昔話をしよう」

 父親はミラーに恥じぬように、顔を苦渋に歪めながらも昔話をする。

「僕には愛する妻がいたんだ。妻は病弱でね。病床に寝たきりだった。薬を飲み続けていたんだけど、彼女は薬を受け付けない体でね。どんどんと衰退していったんだよ」

 父親は遠い昔でもなく、今、この時でもその瞬間を頭の中で再現出来ていた。時計の秒針がカチカチと鳴る、この部屋で父親は娘の手を不格好に握る。

「その時、いい話が舞い込んできてね。病気が治せると特効薬が出来たと聞いて、僕はその話に飛びついたんだ。だけど、その薬には先約者がいてね。その手記の通り、彼の交渉を妨害したんだ」

 父親は僕は計画者で直接手を加えた訳では無いのだけどと、 口を曲げる。ミラーは父親の言葉を真摯に受け止める。

「でも、その時にはもう遅くて、妻は亡くなったんだ。悲しかったよ、絶望に打ちひしがれたよ。そんな時に君に出会ったんだ。僕にはミラーが輝いて見えたよ」

 父親はミラーを乱雑に抱きつき、頭を懇篤撫でる。一時の静寂が訪れ、父親は力を入れる。

「罪を償ってくるよ。もう逃げるのは疲れたんだ。ミラーはこんなに大きくなって、こんなに可愛くなった。僕の幸せの貯水室はいっぱいだ」

 父親は頬を釣りあげて、目尻を下げて優しい笑顔をになる。ミラーと父親はは滂沱の涙が止まらなかった。

「ごうかーく」

 屋敷の屋根上。ミラーは瞼を開けて、快活な声でいった。蛙の仮面を揺らし、屋根上から忽然と消えた。



「デュフフ、夜ももう終わりか」

 下着を履き、一張羅に着替え始める、小太りのおじさん。肌蹴ている、金髪でボブカットのミラーは着替えているおじさんを後ろから抱擁する。おじさんは鼻下を伸ばし、まだまだやるぞとズボンを脱ぎ出した時、ミラーが誘惑する。

「ワシン様、小耳に挟んだのですが。昔、悪いことをしたとか」

「……悪いこと? 私は悪いことをしすぎてねぇ〜。どのことかいってくれないと分からないよ」

「強盗。1人は計画者、1人は腕利きの元冒険者、1人はそこまでの準備をしたワシン様」

「デュフ。ミラーちゃん、いいことを教えてあげよう。それには語弊がある。私は何も関わってない。証拠もない。それ以上戯言を続けてみろ、君は私のお気に入りではなくなるぞ?」

 目を見開き、黒色の瞳を大きくさせる。腰をなぞり、肩をなぞり、腕をへし折る。ボギィッと音がなり、ミラーは腕を押えて、床に崩れる。

「私は超お得位様だ。脅そうと考えない方がいい。今日はこれぐらいの贖罪で許してやる。次、私に変なことを言ってみろ。どうなるか、考えなくても分かるだろう?」

「……お得意様ねぇ〜。それで何をやってもいいと思ってる。ただの傲慢じゃない?」

 後ろから幼女の声が聞こえた。傾聴しなくても、耳に入ってくる声に、ワシンは背後を振り向く。お日様が城壁を貫き、灯りを超過し光を纏った、ゴスロリの幼女。ワシンは瞠目し、傍にあった鞭を掴む。

「仮面集団……本当にいるとは思わなかったよ。私の前に現れるということは君たちのご法度を破ってしまったのかな?」

 ワシンは鼻息を荒くすると、ミラーは窓淵からコツンと下りる。

「貴方、ステージ4。相当な腕前ね〜」

「ははは! 情報を認知しているのなら話はやい。私は幼女をいたぶる趣味はないし、犯す趣味もない。君のような貧相な体つきは、興奮もしない」

「あら、わちゃしの魅力が分からないのは勿体ないわ。いいよ、来て」

 ワシンはベロっと唇を一周して、鞭をしならせる。蛇の牙の如く直進する、鞭にミラーの肩へ。物凄い音がしたあと、痛くない。と言葉を吐き漏らし、男の首が落下する。

「こういう男が大っ嫌い。もっと華奢で、初心な子がいいな〜」

 血が散漫する部屋で、蛙の仮面を被ったミラーは、腕を折られたミラーの腕を撫でる。すると腕があっという間に治り、もう1人のミラーは笑顔で会釈した。




「こんこん、ごめんくだ〜い」

「はい」

 ガチャリと扉が開く。憔悴しきった男が現れるが、男は誰も見当たらないと視線を落とす。そこには端麗な少女が、ゴスロリの姿で立ち尽くし、袋を背負っていた。

「今日からここの秘書を務めます、ミラー・グランデです」

 ニコリと笑う少女を男に、男は頬を釣り糸に引っ張られているように上げて、少女を押し倒して、袋を奪う。

 きたきたきたきたと大声で叫び散らかし、家の中へ。思い出深い、リビングの机の上に袋を置いて、1つ1つ首を持ち上げる。

 これは俺達を襲った屈強な男、今でも覚えている。ここの頬の傷を。本物だ、夢にまでみた復讐が遂にかなったと、もう1人、醜い脂肪の塊のような男を確認する。こいつが情報屋の館で見た、今回の元凶、こいつのせいでとと、机の上に乱雑にされていたペンをとって、目をくり抜く。

 後1人、後1人は袋を自分の顔を入れるぐらいにめり込ませるがない。

「どこだどこだどこだ! もう1つはッ!?」

「すみません。そのことなんですけど、取り消しということで」

 廊下から土足のままは侵入してきた少女は、男の背後から可愛らし気に体を動かす。

「……あ?」

「仮借して頂いてもいいですか?」

「あり……えない」

 男はペンを握りしめ、怒気を滲ませながら、男は絶叫する。

「やれぇっ! 早く、持ってこい! そうしないと、お前を今ッ! 殺してやるッッ!!」

「えー、それは困っちゃいます。その前に私の言い分を聞いて貰ってもいいですか?」

「戯言を言うな!! 早く……早く持ってこないとぉぉぉおおおおおお!」

 男はペンを握りしめ、怒りに任せてミラーに突進する。ミラーは嘆息を吐き、瞼を落とす。また期待した私が馬鹿だった。怒りに任せて、こんな行動をする人はどうせ、また人を殺そうとする。

 そんな危険分子を蔓延らせる訳にはいかない。ミラーは懐から蛙の仮面を取りだし、顔へはめ込む。

「さようなら」




 ゼイウスには絶世の情報屋が居る。その情報屋には、様々な憶測が飛び交っている。関わったら殺される、情報は正しいが死人が出る。

「次の方、入れ」

 それは諸刃の剣と呼ばれる。情報屋もまた、こちらの情報を欲している。彼らが悪人がどうかを。

 もし、彼女の尺度に合わなかった、あなたは終わりでしょう。

「本日はどんなに情報を?」

【平和の象徴】の戦闘員兼諜報員。彼女は世界の情報を知り尽くしている。


【平和の象徴】ギルドメンバー File.3


 ヤミ・アーム


「何故ですか!? 何故アイツをそんなに贔屓するのですか!?」

「ガーデ。ならば、ヤミに勝って見せろ。1人で一師団と同じ実力を持つ、暴れ馬を」

 闇ギルド、緊急集会。第9師団のユラが殺られ、10ある師団のトップが集まる中、1人だけ居ない人物がいた。

 それは第0師団といわれ、師団員は1人しかいない特級師団。彼一人で他の師団と遜色がないと言われる、最強の師団。

「ユラが殺られたのですよ! あの忌まわしき仮面集団に! 今すぐに仮面集団の正体を暴いて全員で押しかけるべきではないですか!? なのにこんなに大事な集会なのにヤミは来ていない!」

「そんなにヤミを贔屓する理由が分からないのか、ガーデ?」

 背筋をなぞる凍る声音で女は、ガーデを静める。闇ギルド最強といわれるギルドマスター。ニアは白の衣装と、煌びやかな宝石を身につけ。薄い下着のドレスのような服装。チラチラと見える谷間と太ももは、脇は誘惑そのもの。ユラに引けを取らない、美貌で長いテーブルに置いてあった、葡萄をもぎり、パクッと1口。

 ガーデは冷や汗が止まらなくなり、首が1周、薄く切れ、赤い血の輪っかが出来る。

「よし、静かになった。ユラの変わりは私が探そう。私達の目的は元よりダンジョンの解放だ。仮面集団ではない。では、解散」



「クソ喰らえだ!」

 岩壁にめり込む、ガーデの右手。ヒビが当たりを埋めつくし、彼の握力の強さを物語っている。

 身長3メートル。スキンヘッドで髭を蓄えた、無骨な印象。黒の修道服を身につけている。第4師団を纏める、云わば4番手となる実力者。ステージ6。

 ステージとは云わば、その人物の強さの値。例えるならダンジョンでモンスターと邂逅し、倒すまで、どの武器を使い、どの技を使い、どんな戦い方をしたか。その中で培われた経験が、器の水を満たす。ステージが上がるほど器は大きくなり、平均的な身体能力は高く、そして各々突出した力を積んでいく。ステージの上がり方は、器から水が漏れ出すほどの経験を積み、”何か”を成し遂げたなら器は昇華する。ガーデの能力の特徴はこの握力。2メートルに及ぶ巨躯な腕を伸ばし、人やモンスターを掴めばそこで勝利は確実になる。他にも魔法や武器の扱い方、ステージが高ければ高いほど何かしら自分の武器を持っている。

「ヤミ……。どうもアイツはきな臭い。神出鬼没であり、アイツが現れると必ず師団員を殺す。許されているのはそれ相応の仕事をしているから。だが、違うだろ。師団員を殺すあの目付きは、私怨でしかなかった。ギルドマスターは……何故あいつを!」

 ガーデは自分の首をなぞり、唾を吐き捨てる。

「殺してやる。ギルドマスターの寵愛を受けるのは私なんだ……!」




「おっ? ヤミ、得物の修理か?」

「ああ。頼むよ、ミルク」

 庭の工房。肌が焦げるように熱い工房。石造りの工房の壁にはハンマー、炉、鞴、金床な、山積みの石炭。入口付近には樽の中に乱雑に置かれた失敗作。

「……これが失敗なんて、ミルクは凄いね」

 白の包帯のようなものを顔に巻き付き、鋭い目付きしか顕になっていない相貌。華奢な体つきで、163センチほどの身長と白の動きやすそうな長袖、長ズボンの服装。暗殺者をイメージする、服装に似合う、青色の長刀をミルクに差し出す。

「1本100万ゼイウスで売っても遜色はないよ」

「あははは、それを売る気はないな。武器ってもんは使用者を守るためにいる。使用者を最後まで味方してくれるのは武器だ。武器は裏切らない。だから、俺は武器が一生最強の味方でいてくれるような武器を作る。ヤミのようにメンテナスにしょっちゅう来てくれる奴がいると嬉しいよ。こいつは必要にされてるって、職人冥利に尽きるよ」

 ミルクは腰に下げてあった布を頭に巻く。茶髪の短髪が隠れ、優しい目付きが垣間見る。ミルクは「今日も見てくか?」とはにかみながら言うと、ヤミはああ見てくよと出口付近の丸椅子に腰をかける。ミルクは棚に置いてあった砥石を取りだし、置く。一呼吸、双眸を刃に集中させ、押す。工房が眩く光り、ミルクは額に大量の汗をかく。

「一刀入魂。1回研ぐだけで、常軌を逸するほどの気迫が伝わる。本当に凄いよ。って……もう聞こえてないか」

 ミルクの集中が、世界と自分を断絶させる。黒の瞳に瞼が閉じることはなく、呼吸も浅い。死に際と隣り合わせ、目の前の得物に全神経を注ぐ。1回、1回、1回と数を重ねる毎に、ヤミの相棒が輝く。血を吸いすぎ、人を殺し、ボロボロだった刀が息を吹き返す。ヤミも呼吸を忘れ、その至高の領域を目を奪われる。

「…………出来たぁぁぁぁぁぁぁ」

 ミルクは、椅子から崩れ落ちて、寝そべりかえる。ヤミはすかさず腰にかけていた水筒をミルクに渡す。ありがとうと快活のいい返事で水を一気飲みする。

「お疲れ様。ありがとう」

「どうってことねぇよ。この刀は思いれ深いからな。俺の至高の作品の一つだ。扱いも難しいし、手入れも難しい。その分、俺の腕も上がり、自信もつく。一石三鳥だよ」

 人を寄せつけるような笑顔で、応える。ヤミは刀を柄を掴む。刀身をなぞるように見て、刀を軽く振る。

「試し斬りするか?」

「大丈夫。これから人を殺すから」

「たっは。物騒だな本当に」

 ミルクはよっとと体を起こす。

「ヤミ。俺は武器を作る奴には覚悟と矜持がいると思っている。武器を作るなら俺が間接的に人を殺し、人を痛める物を作っている。ヤミと同じくらい俺も罪を犯している。まあ、なんつーか。毎度いっているが……」

「僕の正義を振りかざせ……だろ?」

「信頼しているヤミの正義で人が死ぬなら、俺はまだ俺を保てる」

 ミルクはにひっと白い歯を顕にし、ヤミも優しく微笑んだ。



 ピタっと雫が垂れる。岩窟に靴底が擦れる音が残響する。ゼイウスの地下深く。ヤミは包帯を顔にまきつけ、その秀英な相貌を隠している。目の光を失い、まるで無願と思わさせる雰囲気。

 ヤミが岩窟の角を間がろうとした、身を翻した時。顔を覆うどてかい手。

「死ねええええええええええええ!」

 静かに、ボトボトと”2本”の指が落ちる。次に2、3と青い刀を振り、青い流星の様にガーデの横を過ぎる。

 ガーデは瞠目もせず、踵を踏み込み腕を後ろへ。

「ヤミぃ!」

「ガーデ……どうした? その私怨塗れの瞳は?」

 切れ落ちた指がブクブクと治り始め、ヤミの刀が指に挟まれる。ヤミは舌打ちをしながら、手を離し回し蹴りをガーデの顎横に入れる。全く効いていない。彼の体が硬すぎる。

「殺しに来たんだよ! 分かるだろ、俺の気持ちが!?」

「分からないな。君の気持ちなんて」

 ヤミは横へ走り、岩壁を蹴り、ガーデの頭に踵落とす。ガーデは顔を醜く歪ませ、ヒヒヒっと笑い出す。

 岩窟に響くその声色は、背筋が凍るようなもの。ポトっとガーデの鼻に雫がこぼれ落ち、歯茎が顕になるほどに哄笑する。

 ガーデの指が掠った、ヤミの太ももの肉はクレーターのように肉が取れる。足から頭へとピギッと痺れる痛み。

「寵愛、お前だけがニア様の寵愛を受けている! お前が1番特別だ! 欲しい欲しい欲しい欲しい! 俺もニア様の!」

「ただの嫉妬か。嫉妬ほど、醜悪なものはない。はっ、笑えるな」解れた包帯から薄笑いを浮かべ、ガーデの耳朶を震わす。

「武器の力だけで成り上がった、矮小な奴が……。私を叱咤する気か!?」

 怒りが沸点に達しているガーデは岩肌を掴み、ヤミの足元までヒビを入れる。ヤミの足元が揺れ、体勢が崩れ、手を地面につける。瞼を閉じて、開けると長い腕がムチのようにしなりヤミの肩を握る。

 体がメキメキと悲鳴とも呼べる、警鐘を鳴らす。ガーデの握力は化け物だ。掴まれたら逃げることは不可能。ヤミは2メートル先にある刀に目をくべる。

「相棒を馬鹿にされてとてつもなくウザいよ。僕は」

 ヤミはガーデの腕を強く握る。メキメキ、ブチブチ、ガーデの額に冷や汗が滲む。

 ヤミはすまし顔でガーデの右腕を投げ捨てる。

「僕達の正義は全員捻曲っている。世間一般からしたら正義とはいえないかもしれない。僕の正義は友達を傷つけた人に鉄槌を下すことだ」

「ぐうっ! 何をごちゃごちゃと! 腕が無くなったとしても私は負け——」

 ヤミは懐から仮面を取る。黒に染められた仮面。目の部分が穴が空き、それ以外は全て真っ黒。仮面を被ると、青の瞳が陽炎のようにゆらゆらと揺れる。グラグラと空間が揺れ、ヤミは詠唱を始める。

「【闇を纏え 光を喰らえ 希望を喰らえ】」

 ヤミは人差し指と中指を立たせ。

「【闇深(オプスキュリテ)】」

 ヤミを中心とし、爆発をしたかのように闇が周りを埋め尽くす。光明などを消し去る。

「ははははは! あはははは! お前が、お前が仮面集団の1人だったのか! いいぞいいぞ! これを知らせたら、私は寵愛を! 希望の世代ともいわれるお前を俺は——」

「減らず口は死ぬまで減らなかったね」

 迷宮都市(ゼイウス)には至宝と呼ばれる誰も敵わない、存在が4人いる。1人は大派閥の冒険者ギルドに、1人は最弱冒険者ギルドに、1人は孤独に、1人は流浪に。その4人の後を追う、希望の世代。天上天下唯我独尊の至宝を狙い、追いつき、時代に名を刻もうとする最強の世代。今宵、1人の希望の世代はまた名を刻む。

 ヤミは青い刀についた血を、垂らし。仮面を脱ぎ、包帯を巻く。自分の相貌を誰にも見せたくないから。自分が——

 女だとは知られたくないから。

 まだ夜は長い。【平和の象徴】戦闘員のヤミは闇に身を包み、消えていった。



【平和の象徴】ギルドメンバー File.4 File.5

 ソンジュ・エグジル・エーバー

 マリア・テレサ


「………………暇」

 長い時。それは永遠のように感じるような長い刻を、彼女は生きてきた。ゼイウスが出来上がったのは約500年前。彼女は300年前に産まれた。

 近年のエルフは遺伝子的に進化してきた。昔はエルフの平均寿命200歳であり、段々と歳を重ねていった。しかし、500年前。ダンジョンから溢れだすモンスターに対抗して、エルフの生態は変わった。産まれたあとの肉体の最盛期の時点で体が止まる。その分、寿命が縮み、平均寿命が80歳となった。

 300年前に産まれ、今でも生きているソンジュは現存しているエルフの中で、最古の生命体である。

「……あれ? もう13時。ご飯を食べなければ」

 冒険者組合、忘れられた部署。情報整理部署。ソンジュは書き綴っていたペンを止めて、机の横にある紙袋からお弁当を机へ広げる。風呂敷を広げ、お弁当の蓋を開けたら、あっと気の抜けた声が漏れる。

「そういえば30分前にご飯を食べたばっかでした。いけないいけない」

 ソンジュはお弁当の蓋を閉めて、紙袋へまた入れ直す。本を開き、また文字を綴っていく。機械のように動く手と、綺麗な文字。誰もが読める世界共通語を書き続け、30分後。またお弁当をとりだし、また同じことを繰り返す。銀髪の腰まである髪を優雅に揺らし、エルフの特徴的な耳。細めで瞳を露わにすることはない。華奢な体と、白の服に身を包む。端麗な慈願であり、美しい人なのだが、ソンジュはボケ初めている。

「暇だわー! かーえーりーたーいー! 本を読みたいたいわ、英雄譚、喜劇譚、恋愛、推理。こんな雑務、もう200年続けてるんだからー! いいでしょー! マーリーアー!」

「ダメよ、ダメ。机に齧り付いて、生きていきなさい。おばあちゃん」

「おばあちゃんって……ふん。そっちこそおばあちゃん臭いでしょ、お煎餅ばっかり食べて〜」

「好きなんだもの。仕方ないじゃない」

 ボリボリとシスター服を着て、お煎餅を食べている女性。日光が入ってくる、執務室のような小さい空間で2人は和気あいあい? と過ごしている。

「私ね、夢があるの」

「まーたその話? もう飽き飽きしてるのだけれども」

「私ねー、王子様にこの窮屈した生活から助け出してもらいたいの」

「はい、始まった」

 ソンジュは話を止めない。王子様がどんな姿なのか、王子様がどんな局面で現れるのか。そんなの全部、夢物語、なるはずのない夢。話して、話して、話し続けてボーンボーンと時計の鐘が鳴る。

「あら、もうこんな時間。ふー! やっと仕事が終わったわ。帰りましょ、マリア? ……マリア?」

 鼻風船だし、寝ていたマリアが目を覚ます。紫紺の瞳がキラリとひかり、背筋を伸ばす。

「ふあ〜、帰るわ」

「うん! そうしましょ」

 爽やかな笑顔で、ソンジュは立ち上がり紙袋を持ち上げる。マリアは眠たげな目を擦りながら”重厚な鉄の扉に真っ白な手を当て”詠唱を開始する。

「【神様はいつも平等に不平等をあたえる】」

 長いまつ毛が彼女の瞳を際立たせ、薄笑いを浮かべる。

「【解錠(ウヴィア)】」

 古代文字が重厚な鉄の扉を埋めつくし、弾け飛び、細かな結晶のように床にゆらゆらと落下する。マリアは扉を鷹揚に開き、一直線の廊下を眺める。誰もいないと胸を撫で下ろし、煎餅をガリガリいわせながら廊下を歩いてく。

「帰ったら、一緒にお酒飲まない? 皆も一緒に」

「嫌よ。ソンジュ酒癖悪いもの」

「えぇー! いいじゃない! 今日は飲みたい日なの! リアンも誘って」

「リアンー? あんなのと飲んだら明日、二日酔いよ。絶対に嫌だわ」

 ソンジュ達は閑散とした廊下を歩き、扉を開ける。そこはストリート。亜人、エルフ、ドワーフが行き交うような活気ある道。夕日が散々と街を黄金色に照らし、彼らたちの表情も明るくする。マリアは頻りに周囲を見渡し、傍から見たらただの一般の建物から2人は出ていく。ソンジュは行き交う人達の顔色を見て、ふふふっと白い歯を出して笑う。

 彼女は人間観察が趣味なのだ。

「はぁ〜。楽しそうでいいわね。私は毎日毎日、貴方の護衛で心臓が飛び出しそうなのに」

「あら? マリアは私といて楽しくないの?」

「楽しくないわよ」

「えー、それは悲しいわー」

 悪戯な笑む、相貌は道行く人の双眸を釘付けにする。妖精のように儚い仕草と、体の動き、対して、マリアの容姿もこの上なく素晴らしい。美しい、白い肌と蕩けるような翠色の視線。煎餅をボリボリ食べているところも、ギャップもある。

 2人はいざこざと言い合いながら、帰路を進む。そんな時、ソンジュは歩みを止める。耳朶が震えた。

「……泣いている。女の子が泣いてるわ。あっちで、女の子が」

「……はぁ〜。今日は普通に帰れると思ったのに……! っで距離は? どんな状況? それは助ける()()があるの?」

「方角は南西、3キロ奥の裏路地。悪い男に連れ去られてる、多分ギルドの勧誘と銘を打って、拉致られ、強姦ね。価値……はある。彼女はいずれ大きくなる。大樹のように。今はまだ土からさえも芽が出てないけど。あるキッカケで大きくなる。この大天才の私が保証するわ」

 マリアは呆れて、肩を落とす。ソンジュが言うならば仕方がない。危険に晒したくはないが、彼女の意思に沿うのが私の正義だと。

「なら、行くわよ。怪我したくなかったらちゃんと掴みなさい」

 マリアの背中が熱く、熱く熱が収斂する。ブフォンとストリートに熱がこもり、マリアは飛ぶ。初速は誰も視認できず、正に消えた。神の所業、誰もが思った。


「助けて!! 誰か! 助けて! ニール……ニール!」

「へへへ、助けを呼んでも誰も来ないぜ嬢ちゃん」

 毛が濃い、大男2人。両者ともステージ2。十分に冒険者として稼げるほどの強さを誇る2人は、まだ幼い赤髪の少女を襲っている。白のノースリーブの服に、茶色い短パン。ピンクの花の髪留めをして、抵抗はしているが、彼女のステージは1。倍以上も離れている、彼らは正に雲の上の存在。

 彼女が勝てる理由はない。男たちは睥睨する少女の服を裂破する。少女が目を瞑り、もう諦めたその時、背後が強く光る。眩い光、現れるのは、兎の仮面を被ったシスター服のマリアと、可愛らしい龍の仮面を被ったソンジュ。

 男達は瞠目し、ひひひぃぃぃ! っと叫ぶ。あれは巷で、いいやゼイウスで話題の種。仮面集団だと。

「この子が大きな木になる? そうはみえないけど」

「あら、私の予想が外れたことがある?」

「憎らしいことにないわね。憎らしいことに」

「もぉー! 2回も言わないでよ! 失礼ー! 失礼!」

 男達は歯をガチガチいわせながら、遁走する。彼女達の噂はまるで山のようにある。実力社会と言われる程、ステージが重要視されるこの世界で、ステージの差が関係ないほどに強い。そんな仮面集団を人質を取っても勝てるわけがないと逃げていく。

 そして、兎と龍の仮面に会った男は死にものぐるいで逃げなければ自分の所業を生涯後悔するという。

「逃げたよ、マリア」

「知ってるわよ」

 マリアの右腕が熱くなり、消える。ソンジュはコツコツと靴底を鳴らし、上着を少女にかぶす。

「もう安心して。私たちが来たから」

 少女は感じた。龍の仮面越しでも、彼女が優しい笑みをしていることが。少女は不自然な笑顔を纏い、気を失う。極度の安堵が傷ついた体を、思い出させたからだ。

 ソンジュは痛憤しながらも、こんな時にでも笑う彼女はやっぱり大物になる。ただし、冒険者嫌いになるかもだけどと。

「まあ、あの男2人も運がいいわね。マリアなら玉が取られるだけだもの。ミラーとヤミとリアンなら殺されてたから」

 路地の奥。男たちの悲鳴が木霊した。ソンジュは呆れ顔をして、マリアは手をフリフリと汚いものを落とすかのように振りながら、ソンジュの所へ戻ってくる。

「さすが、神に認められた女性はやることが違うわー」

「なにそれ、嫌味? 私も玉とりなんてやりたくないのよ」

 マリアは嘆息を吐きながら、少女を一瞥して。神に祈りを捧げる。まるで彼女の成長を願っているように。ソンジュはふふふっと声を漏らし、マリアは「なによ」と怒りがこもった声色で、仮面越しにふてぶてしい視線を送る。

「いーや。そこら辺はやっぱり、聖痕が現れた人だと思ってさ」

「うっさいわ。早く帰りましょ。この子はもう大丈夫よ」

「分かりましった!」

 ソンジュは服についた土埃を払い、靴底を鳴らし裏路地を出ていく。去り際、少女は意識を取り戻す。視界に映るのは華麗な女性2人、仮面を脱ぎ、横顔が微かながら一瞥できた。

 少女は上擦った声で、「ありがとうございました!」っと張りのある声で言った。2人は仮面を取ってしまったとそそくさとその場を光で埋めつくし、居なくなった。



「っで、2度目のお誘いだけど。今日お酒飲まない?」

「……1杯だけならいいわ」

「あっれー、さっきまであんだけ嫌って言ってたのに。ありがとうを聞いたから、健気の少女を助けて気分が良くなった? それとも玉をもぎとってこうふ——うううっ! うんっ!?」

「その減らず口を閉じなきゃ、一生喋れなくするわよ」

 2人は仲良く? 歩み、1軒の家に着いた。看板には【平和の象徴(オリーブ)】と書いてある、Fランク冒険者ギルド。世間からは最弱の冒険者ギルド。しょっちゅう、周りから弱すぎて嘲笑されるギルド。仕事もしないし、依頼も受けない。ただの美女が入り浸る、家と認識されている。このギルドハウスにはギルドメンバーしか入れない。7人が住むには随分小さすぎると感じる、この家でも玄関を開けると外見とはかけ離れた大きな玄関が待ち受けている。そこにはまるで待っていたかのように、可憐な金髪のメイド服の女性が立っていた。

「おかえりなさいませ。ソンジュ様、マリア様」

「ただいま、ミラー1号さん。あっ、ギルドメンバーに今日はマリアが飲むと伝達してくださいな」

「承知致しました。因みにマスターはあと8秒後にここへ、リアン様もうそろそろお帰りに、ヤミ様は19時にご帰宅、ミルク様は庭の工房で武器を作っておられ、ミラー様はお仕事に。夕飯は20時を予定しております」

「ありがとう、ミラー1号」

 ソンジュはミラーの頭を撫で、土足のまま家を歩く。まるで豪華な宮殿のような作りで、玄関すぐには大きな階段がある。その上からかっこつけながら、おりてくる黒髪の男。

「マスター、ただいま〜」

「ソンジュちゃん、お帰り〜。僕の顔を眺めて、どったの? もしかして僕かっこよすぎた? こりゃあ今日は夜を共にしないとね」

 キランと歯を剥き出しにし、ウィンクをする。ソンジュはおえ〜と舌を出し、マリアは気持ち悪いと悪辣ない言い方を。

「その対応いいね! マゾとしては僕気持ちいいね〜。それで、今日も問題なく?」

「うん! マリアがちゃっかり護ってくれました」

「そりゃあね。希望の世代の中で1番、僕に近い存在なんだから。神の業を使える聖痕者、そしてそんな女性が守るのが——」

 男は指をソンジュに指し、

「世界で最も死んではならない。人類の生命線! ソンジュちゃん! いや〜いいコンビだね。マリアちゃん、寿命まで頑張ろうね」

「ほんとに嫌だわ。このギルド」

 ソンジュ・エグジル・エーバー。彼女は世界で最も死んではならない人物。彼女の存在自体が世界の宝。彼女はダンジョン都市で、永遠という刻を過ごさなければならない。そして、彼女の歴代の護衛者は全員強者揃いだった。ソンジュの要望により1人の護衛者がいいとなり、至宝に最も近い存在達が護衛を任せれてきた。

 マリア・テレサ、彼女は希望の世代の中で頭1つ抜き出ている、聖職者。神に認められ、背中に聖痕が現れ、神の業を使用出来る、稀代の聖女といわれる。神の業を使える者でさえ目の前の”男”には敵わない。

「ってかさ、今日は皆でお酒飲むんでしょ? いいね! ヤミちゃんをべろんべろんにさせようぜ」

 ヘナヘナな男はケラケラと不気味な音を出し、マリアに舌打ちされた。このギルドはまだまだ謎が深い。どうして、仮面集団があるのか、どうしてこんなに強いメンバーが属しているのか。謎だらけのギルドで【平和の象徴】戦闘員兼回復者 マリア・テレサと観察者 ソンジュ・エグジル・エーバーは今日も仲良く生きていく。


【平和の象徴】キルドメンバー File.6

 ミルク・ダッス


 嘲笑いが第4階層を渦巻いている。ツルハシを手に持ち、4階層の赤い熱のこもった岩窟の壁を壊している。

 1〜4階層の岩窟は広く、暑い。全ての壁に40度以上の熱がこもり、2分も動けば汗だくになる。

 重厚な鎧は熱がこもり、気を失い、体力を奪われる。ステージ2以上にいかなければ耐えられない暑さが続くこの岩窟で馬鹿のように壁を掘り、砕けた赤色の岩を1メートル弱の背嚢に詰めていく。見た目より多く入るマジックバックではあるが重さは積み重なるはず。

「おい、ミルクさんよ。まーた岩集めか? よくやるねぇ。なんも価値のない岩を集めてよぉ!」

「やめてやれって。馬鹿が本当に馬鹿になっちまうじゃねぇか!」

 1つのパーティーがまたうざったい笑顔を纏ってミルクの横を通り過ぎた。万年Fランクギルド。そこへ所属しているミルクはそんな奴らに目も配らず、せっせと岩を砕く。


『ギィ……!』


 だが、ここはダンジョン。人の意志も希望も全てを折る、絶望が詰まった神秘な場所。赤色の毛を纏った、1メートル弱の狼。レッドウルフが喉を鳴らしミルクを標的に選んだ。岩壁に擬態し、不意をつくのが好きなモンスター。レッドウルフは残念だ。戦えない鍛冶師のミルクを守るのは1人の至宝だから。

「リーエ。手加減しろよ」

「んっ。なるべく努力する」

 ミルクの傍。ミルクの友人から貰ったどんな壁でも同一の見た目になるカモフラージュ用品。擬態布(カーフ)から抜け出し、切れ味はないに等しい、木で作られた大剣を構える。刃渡り1.5メートル、横幅50センチの自身の身長に届きそうな大剣を構える。

 モンスターは人を殺すために動く。そんなモンスターの瞳が震える。リーエは本当に軽く、大剣を振る。距離は7メートル。崩れる岩窟。轟音が4階層を響き渡らさせ、ミルクは舌打ちをする。

「ったく! 早く逃げるぞ」

 ミルクは耳を塞ぎ、背嚢をリーエに担がせ驀進した。


「……ごめん」

 リーエは顔を苦渋に歪め、ダンジョンへの外。クレーターの中層のベンチでアイスをべろべろと舐める。ミルクは反省しているかしてないか分からない仕草だなとはにかんでしまう。

「まあ、いいよ。お陰で素材はたんまりだ。これで武器1個作れそうだ」

「こんなにあるに、武器1個? 大変だね」

 ベンチの横に、パンパンな背嚢に瞳を移して、リーエは柳眉をピクっと動かし、また無表情でアイスを舐めてる。

 風が靡き、彼女の黄金色のミディアムヘアーが揺れる。絵本の中の、お姫様を切り取ったような神々しさの顔のパーツに、翠色の宝石を彷彿とさせる瞳と、白の戦闘衣服。幻想、という言葉が似合う彼女にミルクは見蕩れながらゴホンっと咳き込む。

「リーエの新しい武器を作るにはまだまだ素材は必要だが、今日はこれぐらいでいいだろ」

「ん。じゃあ、私ダンジョンに行ってくる」

「まてまてまて! まだ依頼は終わりじゃない!」

「終わりじゃない? まだ……なにかある?」

「ああ、あるよ。今日は1日暇してろ。ダンジョンに行くな。いいな?」

「……やだ」

「やだじゃねぇ!」

 ミルクはリーエの頭を掴み、横へ揺らす。周りに行き交う人は、至宝になんてことをやっているんだと瞠目せざる負えない。

「リーエはダンジョンに行きすぎだ。ちょっとは休むことを覚えろ」

「……休むことなんて知らない。リアンやミラーやソンジュに散々言われたけど。全部楽しくなかった」

「この死をかけた戦いが大好きな生の実感変態野郎が。いいから散策するかとか、なんでもいいからなにかしろ!」

「でもダンジョン行かないと強くならないよ?」

「……じゃあ武器を作らないぞ? お前の武器を作るのにどれくらい心労するとお、も、って、る、ん、だ!」

 ミルクはリーエの眉間に指を突き刺し、リーエはイラついた双眸を浮かべる。

「じゃあ、3時間だけ」

「無理だ」

「2時間?」

「どうして少なくなるんだ! 1日だ、1日! 1日ぐらい休め本当に」

 ミルクはこいつは……と気疲れしたように肩をすくめる。リーエは頬を膨らませ、「分かった」とアイスを頬張り、ベンチから立った。

「やっと休んだか……なんか変な言葉だな。っておおい! このバック持っててく——!」

 ミルクの呼び声虚しく、リーエは空へ跳躍した。突風が周囲を渦巻き、ミルクの茶髪の短髪が激しく揺れる。規格外すぎる行動にミルクは「さすが至宝だなぁ」と後ろにあるバックをどうしようかと、途方に暮れるのであった。

 ミルク・ダッス。彼は戦えない鍛冶屋。彼が守るのは自分の信念だけ。人も助けず、人も殺しも出来ないほどに弱い。

 だが、彼のサポートと鍛冶の技量は一流だ。



 サポーター。冒険者をダンジョンでサポートする役職。サポーターは魔石やドロップアイテムやモンスターの解剖、荷物の持ち運びがメインの仕事である。サポーターを本業とする冒険者は少なく、重宝されやすい。死の瀬戸際のダンジョンで雑用を全てやってくれる冒険者は大切な存在だ。

 ミルク・ダッス。彼は名サポーターである。

「そこを左だ」

 月に1回の強化合宿。リアンとマリアとミルクは”変装”をして、16階層にいる。15階層〜20階層。雫の階層(ロゼ)と呼ばれる階層。岩窟の天井から雫がひたひたと垂れ、雨のような状況が続いている。時には毒や麻痺や熱湯になるなどその場に応じて、専用の衣に変えなければ生死を左右する階層。

 サポーター冥利に尽きる、階層で化け物たちは食料庫(ビール)まで来ていた。モンスター達の活動源である、食べ物があるルーム。この階層では甘ったるい汁が80メートルほどある大きなルームの天井から垂れてくる。糖度で固まった鍾乳洞のようなものが天井に覆われ、モンスター達が飽食すべく大移動してくる。

 デスアント、ハーピー、トレントなど一般の冒険者ではこの大群に遭遇したら余裕で死ねる。そのはずなのにリアンとマリアとミルクは擬態布を被り安全にルームの中央に来た。

「ひひひ、行くぞ。死ぬなよ2人とも」

「誰に言ってるのかしら」

「サポートは任せろよ。キツくなったら直ぐにマリアが転移を使う指示を出す」

「試合開始だ!」


 マリアの右手に熱が収斂する。リアンがスキットルのお酒を大きく仰ぐ。ミルクは背負っていたバックパックから、赤色のポーションを投擲する。

「【神の制裁(ドゥー・サンクション)】」

「おらああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ルームを照らす光の5つの柱。天井を貫き、大穴を開ける。モンスターは灰も残さずに死んでいく。無詠唱なはずなのに、その力は正に神の所業。

 対してリアンの大剣の横薙ぎは多くのモンスターの体を切断していく。リアンは疾走し、赤色のポーションを手に取る。

 流れるように大剣を振り、四方八方から迫り来るモンスターを相手していく。その姿は狂犬。1体に深く噛み、2体目に移動する。傷ついた体にポーションをかけて、大剣を振り回す。

「【神の手(ラメイン・ドゥー)】」

 マリアも止まらない。マリアの拳が光だし、殴打、殴打、殴打、殴打! モンスターの目が飛び出し、自身に血を纏う。

 モンスター達の表情は一変し、苦笑いでもしそうだ。そんな時、リアンの大剣が切れなくなってきた。

「【変われ 武器よ】」

刃こぼれ、そんな時はミルクがサポートする。

「【武器交換(チェージ)】」

リアンの大剣が泡のように消え、黄色の模様が描かれた大剣が。

「おらおらぁ! 雷だぞ!」

 ビリビリと大剣を地面にぶっ刺し、モンスター達が動けなくなる。スキットルのお酒をガブッとのみ、発狂しながらモンスターへ薙ぐ。

 炯々と2人はモンスター達に睨みをきかせ、倒し倒していく。

「こいつら人間じゃねぇよ」

 約20分の戦闘。2人は何百体のモンスターを倒したか、分からない。呼吸が荒くなり、肺が突き刺さるように痛い。

 ミルクは2人の状態を確認して、笛を鳴らす。

「まだいけるわよ」

「そうだ! まだ私はいけるぞー!」

「戦いたかったら戦え。1番弱い俺が死ぬけどな」

「「ちっ!」」

「舌打ち結構! 早く退散だ!」

 名サポーター、ミルク。彼は武器を自由自在に入れ替え、戦況判断を迅速に見切りをつける天才。

 マリアは魔法を発動し、ミルク達はこの階層から消えた。誰かはいうミルクは弱い。サポーターはおまけ程度だと。いや違う。サポーターは誰よりも周りを俯瞰し、戦況を動かす指揮官なのである。

 ミルクはパーティーでの指揮能力はピカイチ。

 ギルドメンバーは彼を信頼している。

「私はまだ戦えたわ。本当に最悪の判断よ」

「なー! 私もまだ元気いっぱいなのに。この矮小男がよ!」

「そんな言い方あるかよ〜」

  だが、信頼はしているが不満はたっぷりのようだ。【平和の象徴】鍛冶師兼サポーターのミルク・ダッスは今日も仲間を守る。




「グレイ様」

「おん、どったの。ミラーちゃん」

強制冒険者依頼(クエスト)です」

「……久しぶりだね」


 ギルドメンバー File.7

【ギルドマスター】グレイ・エアー


「ってことで今日から1週間暇な人! 手ーあげてー!」

「私は暇だぞ!」

「わちゃしは忙しいからパスー」

「僕も始末しないといけない人がいる」

「私は無理ね。ソンジュを守らないといけないもの」

「私はそもそもダンジョンに入れないから無理。でも、私も行きたいー!」

「寄り道していいなら俺は行ってもいいぜ」

 食卓。長く太いテーブルに並ぶ豪勢な食事。1人は手づかみ、1人は手づかみ品よくと涎がでそうな食事を貪っていく。

 グレイは「そうか、2人だけか」と考え込む仕草をする。

「でも、無敗の僕がいるし大丈夫でしょー」

 とけらけらと笑い、葡萄酒を傾ける。リアンが葡萄酒の瓶を覗き込み、ミラー酒ねぇぞーと大声を出す。

 給仕のミラーが葡萄酒を渡し、ごくごくと水のように葡萄酒を飲む。

「えらい簡単にいうけど、今回の依頼は簡単なの?」

「んー、強化種の魔石の確保だね。普通は別の冒険者ギルドに依頼すると思うけど、不思議だよね〜。それほど強いってことか、何か訳ありなのか、はたまた僕達を出動させるぐらいにその魔石が特別なのか。まー、クソほどどうでもいいけどね」

「まー私がいるしな! 火力は任せろよ!」

 ソンジュの心配を他所に、グレイはステーキを噛じる。

「ソンジュは何か心配事があるの? ソンジュの勘はよく当たるからわちゃし怖くなっちゃう」

「いや……胸騒ぎがするだけ。ただの胸騒ぎ」

 ソンジュは胸を抑え、瞼を落とすと、リアンは胸焼けじゃねぇか?とデリカシーの無い言葉をなげかけ、違うわよ! ソンジュは声を大にして怒る。

「……グレイやリアンやミルクが死ぬのは想像しづらい。あるとしたら、僕達以外じゃないかな?」

「ヤミはいつも優しいね。リアンなんてただの酒飲みよ、酒飲み!」

 騒がしい食卓。グレイはソンジュの胸騒ぎに色々なことを錯綜するが、分からない。1週間足らずにゼイウスが大きく変わるはずがない。そうさせないために僕達がいる。

 グレイは眉を顰めて、やっぱり分からないとミラーにダンジョンへ入るための準備をお願いする。


「今日も引き分けだ」

「……まただ」

 裏庭。荒い息のリーエと平然としているグレイ。リーエはグレイに水筒を貰いごくごくとの飲み込んでいく。グレイは芝生に座り込み、寝そべる。

「今日は機嫌がいいね」

「ん……。今、私は機嫌がいいの?」

「僕はそうみえるよ」

 恒例と化した今日の模擬戦。グレイの双眸にはリーエの変わらない表情が、いつもより明るい気がしていた。

「面白い男の子と会ったから……かな」

「面白い……男の子? くくく、あははは! リーエから男の話を聞くなんて思ってなかったよ」

 グレイは大きく哄笑し、その男の子に興味が湧く。目前の芝生だった土地を、こんなにも荒れるように崩し壊した、化け物が面白いという男の子を。

「その子はよく笑って、よく照れて、よく落ち込んで。私にないものを持ってる」

「喜怒哀楽が激しいのか。確かにリーエにはもってないね」

 グレイは蒼穹を仰ぎ、目尻を和らげる。

「また会えばいい。暇な時に」

「……ん。会ってもいいのかな? こんな私が」

「会えばいいさ。リーエを縛れるのは誰もいないよ。いるとすれば自分さ」

 リーエは思い詰めた顔を、頭から水をかけてブルブルと顔を振って気分を紛らわす。

「自信出た。また会う」

「うん。その方がいいよ」



 至宝とは誰が決めたのか。それは誰もが分からない。ただ、いつの間にか言われようになっていた。

 4人の至宝の中で2人は世間に周知され、2人は未知数。知っているのは情報通な人物か、一緒に共闘した猛者どもだろう。

 グレイ・エアー。通称【無敗の至宝】。生涯で戦いに負けたことがない、最強の男。

 ダンジョン32階層。寄り道をし、辿り着いた戦地。25階層〜35階層までの階層を植物の迷宮(プラント・ダンジョン)と呼ぶ。1階層よりも広く、硬い、岩窟に緑色、赤色、紫色と蔦がびっしりと貼り付いている。突然、植物が生えたり、枯れたり、ずっと生えていたりと植物の宝庫。ここではモンスターではない、植物がモンスターのサポートをする。常に危険に晒され、モンスターのレベルも高いのだが。

「はっ!」

 リアンが大剣を一閃。3メートル弱のハチのモンスター。ハニービーを切り伏せる。流れ作業のように疾走し、2匹目3匹目と本来、巨体ながらも素早い動きで相手を翻弄するのだが、リアンには対して意味は無いようだ。

「さすがだね〜。僕の出番ないよ。でも、いいね! 股下とかめちゃいいね!」

「グレイさん、そんなこと口走らないでくださいよ。それでリアンどうだその武器は?」

「使いやしぃーな。軽くて、しかも斬った側から燃える。ここの階層だったら丁度いいし、さすが名サポーターだな! 私が褒めてつかわす」

 冒険者組合からの依頼ならば、32階層に強化種はいると情報が入っている。移動している可能性も十分にあるが、グレイは双眸を煌めかす。

「リアンくるぞ」

「ひひひひ、やっとかよ。ミルク、直ぐに武器を私によこせよ」

 “階層”が揺れている。そう錯覚するように一体のモンスターは現れた。厄災ではないかと思うほどにそのモンスターの威圧はすごい。

 それは見方によっては不細工な花。細い裸体の体に、頭には1輪の赤の薔薇。1弁に目があり、牙があり、体からは細い蔦が何本もクネクネとしている。希少種(レアモンスター)に分類され、本来は薔薇の花が青いはず。モンスターの心臓であり魔石を貪り、強くなった証。ただそのモンスターは強さに飢餓している気がする。

「いい殺意だ。ゾクゾクするよ」

 グレイはポケットに手を入れたまま、何も武器を持たず、何も防具を着衣せずに歩む。

「リアンに任せていたら体が訛ってだめだね。僕がやるよ」

「けー! せっかく私がここまで頑張ってきたのに、最後は良いとこどりかよー! ミルク、酒!」

「やけ酒はやめろ。もう顔が赤いだろ?」

「うっせーな! のーまーせーろーよー!」

「ダメだ。もう酒に飲まれてる」

 後ろで2人がガヤガヤしている最中、グレイはローズと対峙する。ローズは無数ある蔦をグレイに、しなるように打つ。音速などを超えるように、目で追えない。なのに——グレイに当たらない。

 蔦がグレイの横を通り過ぎる。地面を削り、壁を削り、土埃が舞う。グレイに擦過すらもしない。ローズは有り余る瞳で瞠目する。

 相手は他の奴らと違うと。

「いや〜いい攻撃だ。掠っただけで死にそうだよ。あ〜いいね」

 ローズは更に速度を上げるが、当たらない。ローズは生まれて初めて畏怖した。今までモンスターと戦い、冒険者と戦い、全てに圧勝し、矜恃を育ててきたのに、これほどまでに、高い壁の前に立ったことがない。

「お、蔦を増やしたね。攻撃も鋭くなった。だが、まだ、僕には届かない」

 なんだコイツ、なんだお前はとローズの思考が錯綜し、怖いという概念がないのに関わらず後退していく。

「まだ、まだまだ君なら出来るよモンスターくん。まだ強くなれる、まだ僕を傷つけれるかもしれない。さあ、早く早く。僕に痛みを与えてくれ」

 グレイの瞳の奥の色を知ってしまった。焦燥が混じり、自分の弱さにうちしがれる。


『ホオオオオオオオオォォォォォォォォ!』


 生まれて初めての咆哮、自分を鼓舞するための咆哮。そして、グレイに勝てないことを確信する。他の冒険者と違う、明らかに違う。例えるなら山。何をしても変わらない山と戦っているような感覚。

 勝てるビジョンが見えない。強さを追い求めても、この男には敵わない。

「ひえ〜、さすが至宝だな。私なら30回は当たってるな。ほらもうそろそろだ。ミルク、くれ」

 リアンはミルクから紫色の大刀渡され、握る。胸の谷間からスキットルを出し、大きく仰ぐ。ローズは蔦を動かすのをやめ、恐怖に瞳を塗らし、遁走する。

「あれ? 逃げるの? はは……逃がすわけないでしょ」

 ビシッ。蔦と体が動かない。ローズは力一杯に蔦を動かす。逡巡している間に首が横に落ちる。視界が横へ、斬られた? この硬い体を? そんな冒険者がいるわけない。1つの瞳が写したのは派手な女性が、紫色の大刀振っている姿だった。

「はい、終わりー。魔石を回収して急いで地上に戻ろっか。ちょっと嫌な予感がするんだよね〜」

「嫌な予感、ですか?」

「うん。弱すぎるんだよねこのモンスター。僕達が出向くまでもないほどに」

「考えすぎじゃねぇか? この私が強すぎたってこともあるだろ」

「……考えすぎだったら……いいんだけどね」



平和の象徴(オリーブ)】とは。


 ギルドメンバー7人が各々の正義を振りかざす、中立ギルド。どこの派閥にも属さず、人1人の正義を信じてゼイウスを平和にし、均衡を保つギルド。顔も誰にも割れてもいけない。

 オリーブのギルドマスター、グレイ・エアーは無敗の男。今まで勝ったことも負けたことも無い。正に無敗。

 そんな彼はダンジョンから出た時、思いかげない、耳を疑うような話が入ってくる。


『至宝』が死んだ


【孤独の至宝】リーエが死んだ。


 この時、ゼイウスは怒涛の渦に変わる。


 そんなお話はまた今度

一気で読める短編にして、若干修正したものです。

才能という文字が入っていたら報告していただけると嬉しいです。

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