~episode1 リスタート~ プロローグ
朝丘虹子16歳、高校2年生。帰宅部。これと言った目標も無いまま、大学受験が気になり出した5月の末日、たまたま見つけたかつての戦友の言葉が虹子の心を揺さぶり、突き動かした。
あたし、サッカーが好きだ。
プロローグ
全国ジュニアサッカー大会の決勝。朝丘虹子はフィールドで躍動した。小学生のチームで、男子に混じってプレーする女子選手は珍しくはない。しかし、虹子は都大会の決勝で名門の東京リトルブラザーズを破り、全国大会で快進撃を続ける城北ウイングの言うなればエースだ。
鹿児島市内の薩摩スタジアムで行われた清水エスドリームジュニアとの決勝戦。男子選手たちを翻弄する姿は応援席の父母たちだけでなく、目の肥えた地元の観客をも魅了した。
”相棒”の橙山華がセカンドボールを拾った瞬間、軽快なステップでマークを外して、浮き球のパスを右ワイドの位置でピタリとコントロール。利き足ではない左の甲でボールにインパクトを乗せる。
「おおっ」という驚きの観客の声が上がる中、まるで虹を描くような軌道のシュートが、キーパーが体一杯に伸ばす手の先を抜けてゴールネットに吸い込まれた。
アシストした華が真っ先に駆け寄って虹子に抱きつくと、男子の仲間たちも続き、虹子を歓喜の輪が包み込む。鳴り止まない歓声の中、仲間たちに揉みクシャにされながら、虹子は右の人さし指を天高く突き上げた。
もっともっと、どこまでも高く。手を伸ばした虹子の思いは遠い空の彼方へと突き抜けて行く。これは私にとって夢の始まりだ。だってあたしの夢は、世界一のサッカー選手になることだから。
そう思っていた。