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ハゲの女神の紆余曲折(仮  作者: うまうま
第二章 襲撃
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第78話 聖女(撒き餌)の王宮生活③

「またこれかぁ……」


 王妃襲来から二日後、体調が持ち直したのであの宰相殿にお目通りする事になったのだが、目の前にあるコルセットに溜息が出そうになる。


「諦めろって。型枠が無いだけ楽だぞ」


 クリノリンを使うってそれ最恐装備じゃないか。


「そりゃそれに比べればそうだけど、息苦しいんだよねぇ……」

「お前本当にコルセット嫌いだよな」

「だって苦しくない?」

「慣れたらそうでもないだろ」

「………」


 慣れる程してるんだよな。この兄。私の為に。しかも偽乳つけて。

 文句を言う立場ではないかと反省して身に着けていく。


「どの程度懐柔された事にしたらいい?」

「まだされてなくていい。ただ、俺には少し心を開いている素振りを見せてくれ」

「了解」


 ぐっとコルセットを絞められぐえっと出そうな声を殺す。

 着付けが終わり、兄の手で化粧を施され―—何故化粧が出来るのかとか聞かない。女装している時点でお察しである――しろーい化粧顔になって続きの間へと移動し待っていると、宰相がやってきた。


「久しぶりだな」


 うちの父に負けず劣らず狸体系の宰相は(でも父の方が背が高いから勝った)、狐のような細い目でニコニコと笑っていた。

 クラバットっぽいフリルたっぷりの装飾を首元にあしらい、全体的に黄色を中心としたロココな装いに作曲家バッハのようなカツラを装着した姿は、以前見た通りだ。


 震える手を握りしめるようにしてカーテシーをして、そのまま視線は上げない。


「ルージュ?」


 どういう事だとでも言いたげな宰相の声。


「恐れながら、まだ衝撃が強すぎるのですわ。いくら真実を明かしたとしてもあちらでも言い聞かされていたのでしょうからなかなか受け入れられないのです」


 どんな真実を明かされたのか、あちらで私が何を言い聞かされていたのか知らないが、兄は安心させるようにしゃがみ込んで私に微笑むと握りしめた手を包み込んだ。


 やっぱりでかいな、手。よくこれでバレないな。『惑わす』で誤魔化してるのか?

 っていうか、ルージュっていう偽名だったのか。そりゃ本名のドミニクとか使えないもんな。


 と考えつつ、不安そうに見えるように気をつけながら兄を見つめる。


「大丈夫ですよ聖女様。何も心配される事はありません。貴女はここで真実のお相手と結ばれるのですから」


 本当にそうであるかのように断言し、聞かせる相手の脳みそに沁み込ませてくるような声音に、この兄やべぇなと思う。詐欺師の才能があるんじゃないだろうか。


「ねぇブルーノ様、そうですわよね?」


 わぁ……ファーストネームで呼んでる。とっても親しい間柄って奴ですね。宰相って確か奥さんいた筈だけど、兄って愛人枠に入ってるって事?それとも愛人候補?

 いや候補か。入ってたら怖いわ。


 兄の流し目にやられて、脂下がった顔をした宰相は咳払いをして戻した。


 なんか、すまんね。それ男なんだよ。

 兄もほんとすまんね、こんなおっさんに。


「その力を見出していたにも関わらず、守り切れなかったのは私の責だ。深く詫びよう」


 宰相がはち切れそうな上着の金色ボタンにさらなる苦行を課して大仰な仕草で腰を折ると、頭にのっかっていたカツラが少し動いた。


 あぁ、やっぱり頭皮環境が良くないんだな……


 ちらりと見えた少ない地毛の姿に哀愁を感じてしまう。無理やり生やされて苦労してるな、地毛よ。生やしたの私だけども。


「だが今後は心配は要らない。万全の態勢で守り切る事を約束しよう」

「そうですわ。聖女様、安心なさってください。宰相様はとっても頼りになるんですのよ?」


 兄の言葉に、そうなの?と首を傾げれば力強く頷かれた。

 いや本当兄の演技すごいわ。これ母でも騙せるんじゃないか?


 兄は一旦宰相にこの場はこれで引くように誘導して一緒に部屋を出た。

 きっとこれからの流れを掌握しようと頑張ってくれているのだろう。


 ふぅと苦しい息を吐き、背もたれの無い椅子によっこいしょとクリノリンの部分を持ち上げて座る。


 座りにくいわ動きにくいわ、何がいいんだか……これが美の基準なんだろうけど。


カサッ


 不意に外に繋がるドアの下から折りたたまれた小さな紙が差し込まれた。

 クリノリンに邪魔されながらも、なんとか腰を折ってハンカチでつまんで広げると「偽物聖女に神罰を」と書かれていた。


 ……ふむ。


 紙の端っこに少しだけ切れ込みが入っていたので、これは嫌がらせではなく影さんからのお手紙だ。

 いくつかの符丁を辺境伯様に教えてもらっているので意味はわかる。


 ちゃんと見てるからまだ大人しくねって事か。


 手のひらでポッと燃やし風で灰を細切れにして散らす。

 ドアの向こうには見張りの人が居る筈なんだが、買収でもしたのかな?


 と、そこに兄が戻ってきた。


「何か燃やした?」


 ドアを閉めるなり潜めた声で言う兄に、防臭魔法使ってるんじゃないのかとちょっと驚く。


「辺境伯様のとこの影から手紙貰ったんだけど。ごめん、匂った?」


 手を合わせて謝ると、こつんと拳で頭を小突かれた。


「もみ消すなら土使えよ〜、せっかくそこにあるんだから」

「あ。なるほど。分解」


 兄は窓に近づくとガラスに手を当てて、なんとそのガラスに音もなく穴を開けた。そして風魔法でだろう、部屋の空気を入れ替えていく。


「なにそのやり方。ひょっとして土魔法?」

「おう。土を操作するのと同じだぞ」

「いや同じじゃないでしょ。砂や土と違ってガラスって固まってるのに」

「成せば成る」

「えー……」

「そもそもお前がガラスを作ってるのを見て思い付いたやり方だぞ。作れるなら動かせるなって」

「それって、もしかして子供の頃の話?」

「そ。拡大鏡作ってただろ」


 まじか……そんな頃からってこの兄、ひょっとして私より魔力もコントロールも相当上なんじゃないか?


 部屋の空気が一新されたところでガラスを元通りに直した兄は、さっさと脱ぎたいだろと言ってくれて脱ぐのを手伝ってくれた。



ブクマ、評価ありがとうございます。

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