第34話 聖女(軟禁)に軟禁仲間が出来る⑤
ブクマ、評価ありがとうございます。励みになります。
さらにもう一本花を引き抜いて、今度は無言で出来るか試してみる。
そして狙い通りにいき、良し!と密かに拳を握る。
実はこの国では魔法も加護も何と言うか、呪文のようなものを口にするのが一般的なのだ。魔法の場合は『猛き炎の~』とか『原初の灯火~』とか。加護は千差万別なので決まったものはないのだが、個人的にはその言葉がどうにもこっぱずかしくて苦手なのだ。ドロワーズ姿で走れと言われた方が万倍もマシなぐらいである。
イメージを補強するためだと理屈はわかるのだ。だが、自分魔法使ってます!と言わんばかりのその行程がどうにも前世で姪っ子が好きだった魔法少女だとか、甥っ子が好きだったアニメだとかを連想させて……私の場合下手をすればそのせいでイメージが崩れる事もある(実際学園の実技では詠唱がデフォルトなので失敗する事が多かった)。
学園で共に加護の使い方を模索していた友人達は私の無言でやる方式が気に入ったのか、途中から無言に切り替えていたがそれは少数派だ。
「その手……」
不意に声を掛けられ、視線を向けると王弟殿下が私の手を見ていた。
「婚姻の証は……」
「あぁ、水魔法で隠しています。手袋をしていると煩わしいですし」
軽く手を振って魔力を霧散させるとすぐにあの模様が現れた。
「その魔法、教えてもらってもいいだろうか?」
そう言う王弟殿下は白い手袋をしている。
王弟殿下も煩わしいのだろう。
「構いません。これは霞の魔法を基本としています。霧状の水に皮膚の色に似せるよう着色して狙った部分に纏わりつかせ霧状の水を互いに結合させて土魔法の固定化の応用で張り付けるんです」
「………もう一度説明してもらえるだろうか」
もちろん構わないですと応じ、自分の左手を出して、水魔法でまず霧を出すところ、そして着色したところ、さらに指に纏わりつかせて水を結合させるところ、それから固定化させるところを段階的に見せた。
「ティルナが言っていたのはこういう事か………」
額を押さえて何事か呻く王弟殿下。
「君……いや、名前を呼んでもいいか?」
「どうぞ」
「……リーンスノー嬢は、魔法が得意なのだな」
得意……苦手ではないと思うが得意と言うほどでは無いと思う。
「もしや、部下が黒髪だったと言っていたのはその魔法か?」
何かに気づいたように私の頭を見る王弟殿下。
確かに髪色を黒にしていたのもこの魔法だ。頷いて髪の色を黒に染めてみると目を丸くされた。
「眠っている状態でも維持出来るのですが、あの時は完全に魔力が無くなってしまってそのせいで解けてしまったようです。こちらでは既に見られた後でしたから黒く染める必要もないかとそのままにしておりました」
「いや、あぁ、元のままで問題ない」
大丈夫だと言われたので髪の色を戻す。
「……一つ聞きたいのだが、魔法で何か見え方を偽る事は出来るのだろうか」
「見え方を偽る? と、言うと……幻のような?」
「幻……そうだな。そういうもので」
幻か……出来なくはないが結構な確率で見破られると思う。髪色を変えたりとか皮膚を装ったりとかは単一色に近いから制御もそう難しくないが……
「『彩る』の加護の方か魔法が上手な方であれば可能かと思いますが、そうでなければ出来たとしてもすぐに見破られる程度のものしか出来ないと思います」
ちょっと試しに目の前の花瓶を、水魔法の霞を基本として着色して隣に出してみるが、やはりぼやけた感じでまがい物である事がハッキリとわかってしまう。火魔法から派生する光のみの魔法だとしても、やはり色の識別が難しくSF映画のような幻は出せなかった。
「やっぱり駄目ですね。もっと上手な人でないと」
「そうか……出来ないのか」
「お力になれず申し訳ありません」
「あ、いや……大丈夫だ。大した事ではない。それより魔法省に行きたいとは思わなかったのか? それだけの腕があれば行けただろう」
「特には」
魔法省に行っても衛生環境を改善出来ないからなぁ。まさか糞尿を肥料に変えたりだとか燃やしたりだとかそんな仕事をさせてもらえるとも思えない。
「内務省に入ったのは何か理由が?」
「あそこに入れば治水も担当しますから。そうすれば上下水道を作って衛生改善できるかと思ったんです」
「……だからさっき、あれ程熱中していたのか」
あー……そうだ。技術者の人達と熱中するあまり辺境伯様と王弟殿下が来ている事にも気づかなかったんだ。
「先ほどは失礼致しました。ずっと夢見ていましたので思わずと言いますか……」
「随分熱心に話していると思っていたが、あれが夢とは……変わっているな」
言われます。でも、やっぱりあの都市部の衛生環境はあり得ないと思うわけですよ。戦国時代の籠城戦(糞尿も立派な武器)が都市部で毎日のように起きているとか悪夢ですか。
それに風呂とは言わないがシャワーの文化は根付いて欲しい。匂いが本当に辛い。慣れてしまうという見方もあるが、正直それに慣れたくない。
そういえばこちらの人はきつい香油の匂いをさせている人は居ない。
考えてみれば防臭の守りを発動しないで生活するのは実家以来初めてじゃないだろうか。
「……上下水道は、父の夢だったそうだ」
父。というと、先代陛下か?
その時代に上下水道をと考えていたって……まじか。
「あの伝染病が無ければ今頃は王都にも導入されていただろうな……」
王弟殿下の微妙に合わない視線は私の向こう側、誰か別の人を見ているようだ。
「……そうでしたか」
生きておられたら、違う文化があったのかもしれない。本当に、本当に、惜しい。
「個人的にはその世界で生まれて見たかったですね」
きっと普通に水浴びも許されていたんじゃないだろうか。糞尿も飛び交ってないと思うし、匂いを誤魔化すためにきつい香油も使ってないと思う。頭皮環境は……どうだろうな。薄毛は遺伝だったりするし、気にする人はカツラ被るだろうから結局悪循環な気もする。
「私も……父とは言葉を交わしてみたかった」
小さく呟く王弟殿下。
そうか……伝染病が広がって避難させられたから。当時おそらく赤ん坊とかそのぐらいなのかもしれない。




