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ハゲの女神の紆余曲折(仮  作者: うまうま
第一章 辺境の地にて
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第32話 聖女(軟禁)に軟禁仲間が出来る③

ブクマ、評価ありがとうございます。励みになります。

 専門的な事になるとやはり難しい。特にこちらの技術の事など何も知らないので詰まってしまう。悔しいけれど、でもこうした会話が出来ること自体が嬉しくてついついにこにこしてしまう。


「すみませんって言う割には嬉しそうだな」


 おそらく私を困らせたかったのだと思われる男性は、笑ってしまう私に困惑していた。


「なかなかこういう話をする事が出来なかったので」

「まぁそりゃ女子供が話すような話じゃねぇしなぁ。あんた変わってるな」


 それはよく言われた。


「それより実際はどうやって飲用可能か判断するのですか?」

「今のところは『視る』加護頼りだな。貴族だけじゃなくて誰でも検査可能なようにしたいところだが、そこはまだまだだ」


 やはり難しいか。


「さっき言ってた『けんびきょう』ってのはどんな加護だ?」

「あ、いえ。顕微鏡は加護ではなく道具です」


 一瞬顕微鏡を生み出そうとして止まる。さすがにこの加護を目の前で見せては駄目だろう。外に出れないので土魔法で作る事も出来ない。


「辺境伯様がお持ちの道具で、小さなものを見るためのものです」

「小さなもの?」

「拡大鏡よりもさらによく見えるものです」

「拡大鏡より?」


 男性は「あぁん?」とよくわからないなという顔をして腕を組み、そして唐突に立ち上がると「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出ていった。


 待ってろと言われたので、そのまま暫く待っていると、なんと顕微鏡片手に戻ってきた。まさか辺境伯様から借りてくるとは……


「で、これでどうやって見るんだ?」

「あ、はい」


 あっけに取られていたら顕微鏡を押し付けられて、慌てて花瓶からまた葉を拝借してセットする。


「ここから覗くと見えます」

「……こっから見るのか?」

「はい」


 男性は風体に似合わず恐る恐るという様子で覗い。すると一度そこから目を離して横から顕微鏡をしげしげと眺めて、セットしている葉をじっと見てからもう一度覗き込んで葉を動かした。


「……どうなってんだ、これは」

「この筒の中に二つのレンズがあって、拡大して見えるようにしているんです」


 元々セットしてあったプレパラートを水魔法で洗浄してから、もう一度花瓶の水と魔法の水のプレパラートを作成する。


「もう少し拡大率を上げられますから、今度はこの花瓶の水と魔法の水を見比べてみてください」


 場所を代わってもらい、プレパラートをセットして拡大率を調整して見てもらう。

 男性は疑問顔だったが、魔法の水のプレパラートを見た後に花瓶の水を見ると「あっ」と声を上げた。


「ある意味『視る』の加護を誰でも見えるようにした形の一つがこの道具かもしれませんね」


 顔を上げた男性にそう言えば、はっとした顔になり眉間に皺を寄せて何事か考え始めた。


「………娘っ子、ちょっと来い」


 男性は顔を上げると、いきなり私の腕を掴んで部屋を出ようとした。それを即座に回り込んで止めたのはアデリーナさんだった。


「お待ちください。リーンスノー様をこの部屋からお連れする事は出来ません」

「ああ?」

「とても大切なお方なのです。お話はこの部屋でお願いいたします。それと手をお放しください」


 男性はちっと舌打ちをすると、私から手を離した。


「じゃあちょっと待ってろ、仲間を呼んでくる」

「は?」


 珍しく聞き返したアデリーナさんの脇をすり抜け部屋を出て行く男性。

 アデリーナさんは慌てて部屋の外に待機している騎士の人に何事か伝えるとドアを閉めた。


「……なんという方でしょう」


 全く礼儀がなってない。という様子のアデリーナさんだったが、私はそわそわしていた。


 仲間を呼んでくるという事は、ちゃんと相手してくれるという事だと思うのだがどうだろう。迷惑でないならとても嬉しいのだが。


 しばらくすると男性はひょろっとした背の高い同じぐらいの年代の男性と、まだ若い二十代前半ぐらいの青年を引っ張ってきた。二人ともヨレヨレの着古したシャツとトラウザーズをサスペンダーらしきもので止めている姿だ。どちらかというとこちらの姿が本来の姿と思われた。


 二人は青い顔をしていたが興奮している男性に顕微鏡を見せられて目を丸くした。それから今辺境伯領で考案されている上下水道の概要を教えてくれ、思っていたよりも単純なそれに下水の浄化はしないのかと質問したら、背の高い男性が喰い付いた。


 細い目をカッと見開いたかと思ったらギラついた目で何故浄化が必要か聞かれたので、自浄作用と環境汚染、大雨などの大量の水が降った場合の氾濫による伝染病蔓延の危険性を伝えたら、我が意を得たりとバシンバシン肩を叩かれた。


 他にも話は水の道をどう作るのかとか、そもそもこの上下水道の存在意義とか、そこから広がって普段の生活の衛生状況とか、今までずっと誰にも言わず我慢し続けてきていた事がポロポロと話題に出てきて、私も箍が外れた。

 覚えている限りの仕組みを言葉を選びながらひたすらしゃべり通し、それは何だどういう事だ、どういう構造だと突っ込んでくる彼らに必死に記憶を探って説明をした。

 

 で、いろいろと我を忘れて話し込んでいるといつの間にか辺境伯様や王弟殿下までいてびびった。

 いつの間に来たんだろう。完全に没頭していて気づかなかった。


 慌ててカーテシーしようとすると不要だと制され話を続けるように促されて、ちょっと気にしつつも再び会話に戻って、気が付いたらまた二人の存在を忘れていた。まぁもう私の素は見せていた様なものだし、今更だろう。


 何も情報残っていませんというところまで絞りつくしてようやく終わり、計画の練り直しだと言う彼らを見送って一息ついた。

 そして振り向いて、あぁまだ居たんだったと思い出してついでに渡しておこうと「少々お待ちいただけますか」と言って寝室の方にノートを取りに行った。


「お待たせいたしました。使い物になるかわかりませんが」

「これは?」


 ノートを手渡すと、そう聞きながら既に開いて中を見ている辺境伯様。

 説明する意味はあるのだろうか。見たままだが……と思いつつ、一応説明する。


「思いつく限りの加護の使い方と、いくつかの……まぁ兵法のようなものでしょうか」

「………君は本当に面白い事を思い付くね」


 ノートを閉じて、それからその表紙を撫でる辺境伯様。


「ところでこれは? 随分と質のいい紙のようだが」

「時間が惜しいので作りました。従来のものですとペン先が引っかかって止まってしまいますから」


 確かにそうだねと頷いて辺境伯様は王弟殿下にノートを渡すとこちらに向き直った。

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