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ハゲの女神の紆余曲折(仮  作者: うまうま
第一章 辺境の地にて
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第15話 ハゲの女神(笑)は聖女(軟禁)となる⑤

 ここがどこだか……いや知らない振りをするのは無理があるか。グレイグが辺境伯領の騎士団に所属している事を考えれば十中八九辺境伯領のどこかだろう。王弟殿下が団長をしているとは知らなかったが、そんな身分の人がいるとなると領内でも領都のどこかという事になる。


 そして、この人達は私を返すつもりならさっさと返していると思うのだ。

 過去の伝染病の時の経緯、母の話が本当ならばおそらく辺境伯家と宰相のミルネスト侯爵家は仲が良くない。そんな中で面倒な事になりそうな私という存在を抱え込んでいるのは得策ではない。

 それをしていないという事は何らかの思惑がこの人達にもあるという事だと思われるという事で。

 それこそ聖女云々あたりが関係していそうだ。


 が、そうなると宰相に対して敵対的な行動ともとれるわけだが……

 しかし王都からの使者となると普通は陛下の意向に沿っている筈なので、その辺の采配はどうなっているのだろうかという疑問も……単純に宰相が実務が取り仕切っているから表向きは王都からの使者という扱いになっているのだろうか……それとも陛下も宰相側という事なのか……普通に考えればそうだろうが、しかしそうなると辺境伯家の行為は純然たる反逆にあたるわけで……


 いや、そういう裏の話を考えなくても私の回答は一択しかないか。

 何しろ帰ったら絶対何をしていたんだって話になる。そうなったら芋づる式に腕生やした事も暴露する事になり、王弟殿下の言葉通りの未来が待っている可能性がとても高いというわけで。


 パンダに加えて子供産みますマシーンとかどんな役満だろうか。いくらなんでも私達の世代でも、女性をそんな風に扱う思想を持っている者は少数派だ。


「……いいえ」


 が、こちらに居たとしても果たしてどうなるのか。

 貴族の娘など軽く扱える駒の一つという意識が男性陣には根深くあるので、結局こちらでも似たような事になる可能性もある。


「わかった。貴女の身柄は私の名において保護しよう。嫌がる者を渡しはしないから安心するといい」


 とても真面目な表情で宣言する王弟殿下。

 今はその言葉を信じるより他にないので、私は「ご温情恐れ入ります」と返した。


 顔だけ見ている分にはいいのだが……

 綺麗な顔だが、何をその裏で考えているのかは一般人には想像もつかない。やはり庶民感覚の私はグレイグぐらい単純な方が気が楽だな……


「ところで、貴女の加護を視た者は誰なのだ?」

「父です。簡易の『見る』加護を持っておりますので」


 精霊の加護がどういったものかを調べるのは『見る』系統の中でも一点集中型の『視る』という加護持ちだ。昔は『視る』という加護持ちがこの国で一番信仰されている精霊教の神父さん的立ち位置を兼ねていたらしいのだが、加護の詐称により精霊教会の腐敗が進んだとかなんとかで現在は伝手を使って『視る』加護持ちに直接お願いする形になっている。


 ただこの『視る』という加護持ち。今はその人数が少なく、お願いして視てもらうためにはとてもお金を積まなければいけない。

 腐敗の防止で精霊教会から手を離れた筈が、結果的に大手を振って吹っ掛ける事が出来るようになってしまったという残念具合だ。

 貧乏貴族にはそれが結構大変なので、『視る』ではなくまだ数多いが精度が劣る『見る』加護持ちに少額で依頼するのだ。うちは幸い父が『見る』の加護持ちだったので私や兄、ついでに日頃の感謝を込めてお隣の領のご子息達を調べた。


 王弟殿下は「なるほど」と呟いてから私に養生するように言って部屋を出ていった。何がなるほどなのかはさっぱりである。


 その後、朝夕の初老の男性の先生(珍しい『診る』の加護持ちだった)の診察が日課となり、二日程食事などをメイドさんに手伝ってもらい眠る事を繰り返すと身体を起こしても平気になってきた。

 ちなみに満足に動けない私のために食事はサイドテーブルに用意され、トイレの度にメイドさんに支えられ続きの間の専用の場所へと行き(なんときちんと決まったトイレがあった。しかも魔法でだけど水洗! さらに排泄物も定期的に城外の決まったところへ運んで廃棄しているという。王都の職場ですら鍵つきの小部屋でおまるでポーン、又は庭で直接だったのに! ちなみに私は実家同様勝手に土掘って分解処理していた。ありがとうファンタジー魔法。これがなければ学園にも通えなかった)、そしてお湯を張った盥で身体を清めさせてもらい(ここではそれほど水に対して恐怖心がないらしい。やはりこちらは過去の事実を知っているから、なのだろうか?)、至れり尽くせりな環境で過ごさせていただいた。


 ここまでくると、もう裏があってもいいのでは?などと思うようになっていた私はちょろい人間である。


 そんな折、ようよう一人で歩けるようになったところで思いがけない来訪者がやってきた。


「リーンスノー様、御学友がお見舞いにお越しです」


 お世話をしてくれているアデリーナさん(あの年配のメイドさんだ)の言葉に首を傾げた。


 御学友とは、はて?

 とりあえず羽織ケープを肩に掛けて貰って、寝室に入ってもらうと小さな緑のマントをつけた二人の女性騎士で、なんと少し前まで共に学園で学んでいた友人達だった。


「リーン、調子はどうですか?」

「無茶し過ぎですよ」


 輝くような金髪が美しい背の高い宝塚のような派手顔の美人がティルナで、背が低く柔らかな蜂蜜色のふわふわとした髪の垂れ目ぷるぷる唇美人がレティーナだ。


「お久しぶりです二人とも」


 アデリーナさんがベッドの横に椅子を用意してくれて、二人は椅子に腰かける。


「覚えていないかもしれないけれど私もリーンがグレイグ先輩に連れてこられた時、部隊に居たのよ」


 ティルナがそう言いながら、左手で耳に髪をかけ笑った。

 

 おや?と思って、魔法を使える人間が無意識に纏っている魔力を、ティルナのそれと同調させるように一部開く。


〝聞こえる?

 久しぶりね。状況がわかっていないと思ったからリーンを探るように言われたのを利用してここに来たの〟


 副音声が聞こえた。これはあれだ。ティルナの『伝える』の加護だ。

 通常なら音を伝える事に特化していると言われている加護だが、いろいろ試した結果、音でなくとも伝える事が出来ると判明したとんでもない加護の一つだ。

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