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ハゲの女神の紆余曲折(仮  作者: うまうま
第一章 辺境の地にて
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第13話 ハゲの女神(笑)は聖女(軟禁)となる②

 再び目が覚めた時、傍らにぼっこぼこに顔を張らした幼馴染が居てびびった。


「リーン!」


 目が合うとがばっと寝ている私に抱き着いて来て、ぎゅうぎゅうと締め技かと思うぐらいに締められる。

 とても苦しいし、なんなら痛い。やめろと言いたいが潰されて声が蚊ほども出ないし、抵抗する力もない。


 あ、これ絞め落とされる。


「グレイグ!」


 危機を感じた瞬間、誰かがグレイグを引っぺがしてくれた。

 けほけほと、生理的な咳が出てそれだけでまた目が回るような感覚に囚われぎゅっと目をつむる。


「大丈夫か?」

「……たす、かりました」


 こちらを案ずる声に目を閉じたまま答え、ぐるぐるする感覚が少し治まってから薄目を開けるとベッドの横に蒼穹のような瞳とプラチナブロンドの髪を短く刈った偉丈夫が居た。


 目鼻立ちがすっきりとした彫像のような綺麗な男性が、その透き通るような青の目でこちらを見ている。しかも見下ろさないように配慮してくれたのか、椅子に座ってこちらに視線を合わせてくれている。


 ぶっちゃけると、私は日本人の感性がかなり強く残っているので西欧風のこの国の男性の顔は一律に濃いと認識してしまう。なので学生時代も同期の子たちが格好いいと言う相手を見ても、「あー……(たぶん)恰好いい(のか?)ね」と言う感じで今一乗り切れなかった。

 その私から見ても、文句なしの美形だと言えるご尊顔だった。あと体格からして緑の騎士服の下はかなり鍛えられていると見た。

 思わぬ眼福に反射的に拝みたくなったが、幸いにして身体がいうことを聞かず奇行は見せずに済んだ。


「グレイグ、退室」

「え!?」


 低い滑らかな声が端的な言葉を発すると、後ろで片膝ついて起き上がっていたグレイグが目を見開いた。


「退室」


 男性が再度グレイグに視線を向けていうと、びくっとグレイグは身体を震わせ、部屋に居たらしいメイドさんに連れられてすごすごとした様子で部屋を出て行った。

 その際、こちらを振り返る顔が捨てられた犬のそれなのがまたなんとも……事情はわからないが、相変わらずの性格なのだろう。少しは学習して欲しい。本当に。今のは絞殺されるかと思ったぞ。


「臥せっている者に対し部下が申し訳ない。謝罪したいと言うので同席を許可したのだが……」

「いえ、大丈夫です。いつもの事なので」

「いつも……聞いていないのだが、グレイグは婚約者なのか?」


 あぁ、いきなり抱き着いてきたから接触=婚約者と思われたのか。


「いいえ。ただの幼馴染です」

「幼馴染………こほん。少し話をさせてもらってもいいだろうか」


 幼馴染でも接触はしないものなのだが、どうやらスルーしてくれたようだ。ありがたい。グレイグは本当、昔からあの調子だからなぁ……


「はい、大丈夫です」


 私も確認したい事があるので了承すると、部屋に戻ってきたメイドさんがまた私の背にクッションを入れようとしてくれたのだが、申し訳ないが断った。


「すみません、今頭を起こすと貧血みたいに眩暈がするので……不格好で申し訳ないのですがこのままでもいいでしょうか」

「構わない」


 男性がメイドさんに視線を送ると、メイドさんは頭を下げて部屋の隅に控えた。


「私はリシャール・エモニエ・フォン・レリレウス。

 まずは貴女に感謝を。この腕がここにあるのは貴女のおかげだ」


 目の前に出された大きな右手を見て、やっと私は気づいた。


 この人、あの腕が無かった人だ!


「っ! て、手は動きますか!?」


 思わずその手首を掴んで一番気になっている事を聞けば、一瞬驚いた顔をされたが「動く」と言って一本ずつ指を折って見せてくれた。その動きに不自然さが無いと確認出来てほっとして、いやまだだと仰ぎ見る。


「感染症……いや、熱は?」

「熱? いや、ない」

「出血しやすいとかは?」

「いや、そう言った事はない。毒の事なら解毒している」

「体調は? どこか違和感は?」

「大丈夫だ。どこにも違和感はない」


 良かった。


 ……本当、良かった。


 生えたところまでは見届ける事が出来たが、神経が繋がっているかとか感染症で敗血症を引き起こさないかとか、そこまで確認する事が出来なかったのだ。手を出してしまったのだから、最後までちゃんと責任を取るつもりだったのに出来てなくて、それが気がかりだった。


 ほっとしたら力が抜けて手が滑り落ち軽く上げていた頭もぼすりと枕に落ちた。

 動かないと思っていたが、火事場の馬鹿力的な奴だと動いたようだ。

 遅れて頭がシェイクされたようにぐるぐる回ってきてきつく目を閉じる。


「大丈夫か?」

「……はい。すみません、気になっていたので思わず」


 目を閉じていると、不意にすっと回る感覚が引いた。あまりにあっさりと回転する感覚が消えたので目を開ければ、手を翳されていた。


「楽になったか?」

「あ、はい」


 治療系の加護なんだろうか?


「整えただけだから無理はするな」


 よくわからないが頷いて、ちょっと落ち着いたところで、ん?と思う。


 そういえばさっきこの人、フォン・レリレウスとか言わなかっただろうか。


 それが名前につくという事はつまり、このレリレウス王国の王族という事なのだが……あと、リシャールと言ったら今の王の弟、だったよう…な…


「お、王弟殿下!? も、申し訳ございません」


 咄嗟に身体を起こそうとしたらその大きな手で遠慮がちに肩を押さえられた。


「だから無理をするな。そのままで。

 無体を強いたいわけではないのだ。本来ならばもっと回復してから話をするべきところ、急ぎ確認しなければならず無理を言って通してもらった」

「は、はぁ……」

「貴女を返還するように王都から使者が来ている」


 王都から………ここ王都じゃないという事か?


「貴女の力を考えればそれは当然の事だと思うのだが、どうにも状況がおかしい気がしたのだ」

「状況……」

「貴女は下位の官吏服を着ていた。あれだけの力を持っている者が下位の官吏に遇せられる筈がないのにだ。貴女は王立騎士団ではなく、内務省に務めているそうだな?」


 真剣な青の瞳に見つめられ、気圧されながらも私は小さく頷いた。


「え……と、はい」

「加護の事は誰にも言っていないという理解でよいのか?」

「あ、いえ、その……やむに已まれぬ事情があってとある方はご存知です」

「それは誰だ?」

「えーと……宰相閣下と同僚です」


 どうせ腕一本生やしてしまった後だ。隠す必要も無いなと思って言えば王弟殿下の秀麗な眉間に皺が寄った。眉間に皺寄せても美しさを失わないとかすごいなとアホな事が頭を過った。


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