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Night Owl4

「きゃああっ!!」


「なんだなんだ!? 何事だ!?」


ホテルの騒動が夜の空気を切り裂き、立体歩道の上は避難民でパニックになっていた。

悲鳴と怒声が交錯し、混乱の渦が広がっていく。


「……組員以外には力を使うなよ」


目の前の人垣に突入しながら、隣を並走する御法川に囁く。返事はないが、御法川の肩越しにちらりと見える横顔を見るに大丈夫そうだ。


突如走り込んできた僕らに驚いた群衆が道をあける。手を引く深夜の足が、まるで地に馴染んでいないようにふらついた。


地上に降りる階段が見え、その前には警備の男たちが構えている。


「《我儘マイ・マザー》ッ!!」


御法川が吠えた。


鉄砲玉のように飛び込んだ彼の拳が、構えかけた銃ごと警備員たちを叩き伏せていく。


圧倒的な暴力がその場を支配し、警備の男達が一瞬で倒される。



「……あったわよ!」


失栞が倒れた男のジャケットをまさぐり、南京錠に似た鍵を放ってよこす。

僕はそれを受け取り、地上に繋がるバリケードを解錠した。


ガチャッ、と金属の音が夜に溶ける。


その瞬間。


「お前らどけッ!! N.Oが紛れ込んでるぞ!!」


ホテルの入り口で怒号が響く。

スーツ姿の男たちが、銃を構えてこちらを睨んでいる。


「……行くぞ!!」


御法川が叫ぶ。


呼応するように全員が駆け出し、振り返ることなく階段を駆け下りる。


立体歩道から地上へ出ると、冷えた夜気が皮膚を刺すように襲ってきた。月は雲に隠れ、路地には陰が濃く漂う。


直線で逃げればすぐ撃たれる。


選ぶべきは回り道──錦町方面だ。


「よっしゃぁ!! ゾンビは任せろ! 片っ端からミンチにしてやるぜッ!」


御法川の雄叫びが夜空を揺らす。

拳をまわす彼の体から、目に見えぬエネルギーが弾けていた。“ニガヨモギ”の効能が全開になっている証拠だ。


バスロータリーを回り込み、錦町方面へ駆ける。脇道の死角から、呻き声とともにゾンビがにじみ出してきた。


「ヴァアアアッ!」


「《一激いちげき》」


エゴを呟いて瞬時に踏み込み、ゾンビの足を払うと、そのまま倒れた頭を踏み潰す。

頭蓋がひしゃげ、脳漿が靴裏にねっとりと絡む。


パスッ、パスッ!


「上から狙われてるわ!」


乾いた音が響いた。

視線を上げると、立体歩道の端から銃を構えた数人の組員たちがこちらを狙っている。


「御法川、地面を!!」


「おうよ!!」


御法川が吠え、拳を地に打ち下ろす。


バガァンッ!!


地面が裂け、灰煙が弾けるように立ち上った。土埃が煙幕となり、銃撃を遮断してくれる。


「深夜、手を離さないで!」


「う、うん!」


息も絶え絶えの深夜の手を握りしめ、土煙の中を駆ける。御法川は先頭でゾンビの群れを殴り飛ばし、失栞はしんがりで追撃を防いでいる。


その連携は、短い付き合いとは思えないほどに自然だった。


それでも、胸の奥で不安が渦巻く。


成功している。

なのに、なぜこんなに胸がざわつく?


──龍次が出てこない。


不安の正体が言葉になった瞬間、嫌なものが背筋を這い上がる。


「谷々! 右!」


失栞の声に反応し、飛びかかってきたゾンビを蹴り上げる。臭気が鼻腔を焼く。


「……っ! しっかりして! まだ油断するタイミングじゃないでしょ!」


後ろからの怒声が、意識を現実に引き戻す。


そうだ。ここで立ち止まれば、全部が無になる。


「……わかってる」


まだ、終わってない。


大通りを駆け、夜の闇にその身を沈めていく。

背後からは、いまだ乾かない銃声と呻きが追いすがっていた。

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